297: 加賀 :2021/07/24(土) 16:10:13 HOST:softbank126243101222.bbtec.net




 彼等はかつて非道の悪行をした。全ては日本のためとして。しかし彼等の死後、彼等は再びこの世を二度駆け抜けた。だがそれでも神は彼等を赦そうとはしなかった。そして彼等は再び目覚め始める。




やめろ……来るな……


男は夢を見ていた。


多くの屍が行進する光景を見せられていた。屍達は徐々に男の方へ向かって来る。




やめろ……俺は……俺は……



屍が此方を見る。笑ったかは分からないが男は直感した。笑っていると。そして屍達は男に行進を続ける。




来るな……俺は……俺はァァァァァ!!







「俺は日本国防海軍元帥大将 橋本信太郎だぞ!!」

 目を覚ました時、そこは軍艦の医務室だった。

「………あれ?」
「あ、橋本中尉起きましたね。いやぁ風邪で倒れた時は驚きましたが……まぁ二、三日で退院でしょう」
「……えっ?(このデジャブ感……)」

 そう、橋本信太郎は再び転生した。そして今度も橋本信太郎として憑依したのである。だがその憑依年数はまた繰り下がっていた。

「今度は1916年って……何でやねん……」

 今度は1916年になっていたのだ。しかも、橋本の経歴は今回は異なっていた。

「駆逐艦『榊』乗組……? って事は欧州行くじゃないか……」

 史実では『榊』は僚艦らと共に1916年秋から1917年初頭にかけてシンガポールに進出しその後は地中海に進出して船団護衛の任務に就く予定であった。

(歴史が少し変わっているが……恐らく今回も史実日本のようだし……皆……特に嶋田さんが来るまでやるしかないか)

 それまでは何とかするしかない。そう思う橋本だった。そして『榊』ら第二特務艦隊は翌1917年の2月にはシンガポールに向けて出撃した。なお、出撃に先立ち、『榊』ら駆逐艦は45サンチ連装魚雷発射管を2基とも取り除いてその空いたスペースに英国から供与された爆雷を可能な限り搭載したのである。
 そして5月4日、橋本はあの出来事に遭遇するのである。第11駆逐隊に『松』と共に所属していた『榊』は客船『トランシルヴァニア』をマルセイユからアレクサンドリアまで護衛する事になったので5月3日には出港していた。
 現場となったのはジェノバ湾ヴァード岬の南4キロの場所だった。

「左舷に魚雷(トーピード)!!」

 知らせたのは『松』の見張り員だった。

「おもぉーかぁーじ!!」

 『トランシルヴァニア』は回避しようとしたが魚雷は左舷機関室に命中した。


299: 加賀 :2021/07/24(土) 16:14:10 HOST:softbank126243101222.bbtec.net
「『トランシルヴァニア』に魚雷命中!!」
「『松』より発光信号!! 『我、救助活動ニ移行ス』」
「本艦は対潜戦闘に移行する。とぉーりかぁーじ!!」
「とぉーりかぁーじ!!」

 『榊』は下手人であるUボートーー『U-63』を駆逐するために潜水艦の推定位置に移動し爆雷を投下する。ちなみにこれが日本海軍初の爆雷使用である。

「おい、深度150に設定しろ!!」
「そこまでの設定はありませんよ橋本中尉!!」

 爆雷投下場で橋本が吠えるが爆雷員は首を振る。クソッと橋本は艦尾から海面を見張るがその時、反射したのがあった。素早く双眼鏡で確認すると潜望鏡だった。

「左後方300に潜望鏡!!」

 その報告は直ぐに上原艦長にも伝わった。

「回頭180度!! 去り際に爆雷を投下してやれ!!」
「やれる最大深度で設定しろ!!」

 『榊』は再度反転して去り際に爆雷を投下、次々と水柱が吹き上がる。そして海中から敵Uボート乗員の遺体らしき物や艦の破片、木片等が浮かび上がってきた。

「敵潜水艦撃沈!!」
「歴史が……変わった……」

 史実であれば『トランシルヴァニア』は更に二本目の魚雷を食らいこれが致命傷となり沈没する。だがその二本目が放たれる事は永遠に無くなったのだ。『トランシルヴァニア』は沈没する事なく、速度6ノットで何とか目的地のアレクサンドリアに滑り込む事に成功するのである。
 また、救助活動で先に海面に飛び込んだ兵士らを救助し自らの衣類や食料、寝所まで提供した『榊』『松』は英兵から大いに感謝された。なお、この行動に海軍大臣ウィンストン・チャーチルから深い謝意を表する電報が届けられた。後に両艦の艦長以下20数名に英国王ジョージ五世から勲章が授与される。その授与には橋本も含まれていた。授与理由は爆雷投下を指揮し見事敵潜水艦を撃沈する事に成功したからである。

「マジかよ….」

 なお、授与は合間を見てだったがそして6月9日、『榊』にとって運命の日が始まるのだった。
 この日、『榊』『松』はギリシャ領サロニカまでの護衛任務を終え根拠地であるマルタへの帰路についていた。11日1135にはミロス島を出港する。この日、天気は晴れで北風で波が立つが航行に支障は無かった。
 そして1332、『榊』の見張り員は叫ぶ。

「左舷から魚雷(トーピード)接近!!」
「機関全速!! おもぉーかぁーじ!!」

 しかし、『榊』は揺れた。艦尾にいた橋本も衝撃で床に叩きつけられた。魚雷は艦首の12サンチ砲直下に命中、砲弾の誘爆で艦首は吹き飛び、更に艦橋も破壊され上原艦長以下艦橋にいた全員は戦死した。(後に数名生存確認)

「機関後進!! 後部8サンチ砲は周囲へ威嚇射撃をしろ!!」

 橋本が素早く指示を出した事で『榊』はゆっくりと後進を取る。その間にも『松』が爆雷投下して制圧戦をしているが後部にいた見張り員が叫んだ。

「左800に潜望鏡!!」
「左砲撃戦用意!!」
「えっ!? 撃つのですか!?」
「此方がやられる。ならば撃つまでだ!!」
「準備良ろし!!」
「撃ちぃ方始めェッ!!」

 『榊』の後部8サンチ砲が潜望鏡に向かって砲撃を始めた。10数発を撃ち込むが海面は水柱だらけとなる。
 その時、潜水艦が浮上してきた。

「何で浮上を?」
「恐らく至近弾かなんかで浸水したのだろう。それなら浮上して砲戦するのが手だ」

 水兵の疑問を橋本が答える。そこへ『松』も砲撃に参加、あっという間に集中砲火を食らい敵潜水艦ーーオーストリアの『U-27』は艦尾から沈むように沈没したのである。

「敵兵の救助に掛かるぞ」
「救助するんですか?」
「戦闘は終わった。無駄な殺し合いは無しだ」

 斯くして『榊』『松』は敵潜水艦の乗員も救助し更に駆けつけた英駆逐艦『リブル』も『榊』の支援に乗り出し曳航が1534に実施され無事にスーダに到着するのは2330であった。

300: 加賀 :2021/07/24(土) 16:17:04 HOST:softbank126243101222.bbtec.net
改めて第一話を投下
やったね橋本!勲章を授与されるよ!(なお、二個な模様)
『トランシルヴァニア』はこの場面では生き残るが後に雷撃されて撃沈される模様

次回、勲章授与のためにイギリスに訪れた橋本。だがそこで橋本は運命的な出会いをするのである。
「余が『ネルソン』級戦艦一番艦のネルソンだ!! 慶良間諸島での艦隊決戦では世話になったな!!」

果たして『信濃』は間に合うのか

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最終更新:2021年07月28日 20:24