440: 陣龍 :2021/08/07(土) 13:27:09 HOST:124-241-072-201.pool.fctv.ne.jp
|д゚)
|д゚) えー先日に投下致しましたウマ娘vsサラブレット話の件に付いてですが(濁声)
|д゚) ……JRA様のホームページの馬名検索にて『ラストストーリー』の外にも作中内の競走馬名に実在馬(現役馬と2000年以降の登録抹消馬)被りが有りました()
|д゚) そう言う事なので馬名が被っていないように名前変更して再投下を実行します。wikiの管理人さんと194氏と弥次郎先生&トゥ!ヘァ!大権現様、
お許し下さい!(発破)
441: 陣龍 :2021/08/07(土) 13:28:24 HOST:124-241-072-201.pool.fctv.ne.jp
『JRA・URA共催 レジェンドホース杯ドリームマッチレース最終戦 長距離走部門』
「いやーははは……まさか私が選出されるとはねぇ……しかもマックイーンにセイウンスカイ、ライスシャワーさん、マヤノトップガンという
錚々たる面々とご一緒とは。こいつは驚き桃の木山椒の木、ってね」
「えー、ネイチャちゃん緊張してるー?でもさ、ネイチャちゃんだって一流のウマ娘なんだし、このレースに出れるのは当たり前だよー!」
「そ、そうだよ、ナイスネイチャさん。ら、ライスも…まさか、このレースに出れるとは思って無かったけど…えへへ……」
「まー気持ちは分からなくも無いけどね。まっ、緩ーく気を楽にして走っていこーよ」
「スカイさんが言うと、逆に気を引き締めて走らねばと言う思いで一杯になりますわね……術中に嵌められた時は、本当に恐ろしいですもの」
日本国は千葉県船橋市、中山競馬場。日本競馬に置ける一つの聖地とも言えるこの競馬場のパドックに、カラフルなドレスやジャケットを
着込んだ少女達が居た。この場は一般には解放されている場所ではないが、彼女らは決して迷い込んだ訳でも勝手に入り込んで来た訳でもない。
「私としては、少しでも注目されなければいいかなーと考えて居る次第なだけですよー」
「とは言うモノの、こっちの人達は私達が物珍しいのか、何処を向いても注目の的ですけどねぇー」
「マヤやマックイーンちゃんもだけど、ライスちゃんお目当てで凄い人だかりが出来てたもんねー!」
「う、うん…でも、何人か『私はお兄様お姉様だ』と言っていたのが、警備員さんに引っ張られて行ってたけど、あの人たち大丈夫なのかな…
ライスのせいで、悪い目に有って無いかな…」
「ライスさんが気にする事では有りませんよ。少しばかりお説教されるでしょうけど」
彼女たちの頭上には馬耳が、そして腰元には尾。つい先日、何故か自称神と名乗る輩によって呼び寄せられたウマ娘と呼ばれる、人の身に
馬の魂を宿した様な生き物が存在していた世界の者達であった。それも、全員揃って飛びっきりのレジェンドクラス揃いの。
442: 陣龍 :2021/08/07(土) 13:29:35 HOST:124-241-072-201.pool.fctv.ne.jp
「ライスさんの謎の兄と姉の増殖現象は置いといてだけどさー、正直競走馬とウマ娘との勝敗が最終戦まで縺れ込むとか
思わなかったでしょ?」
「置いとくな置いとくな。…まぁ、私もそう思うけどさ」
菊の京を青空に晴らせたウマ娘のぼやきに、帝王の背を追いかけ続けたウマ娘は同意する。相互の組織、そしてファンの
様々な思惑に比して、今回のレジェンドホース杯は全く持って予測不可能なレース展開の連続であった。
レジェンドホース杯ドリームマッチレースの開幕戦となった短距離走部門では、最高のスタートを切った史上最強のスプリンター、
サクラバクシンオーにトラップストラップ(馬)が必死に追走。後ろを気にせず自身の名前の通りに驀進し続けるバクシンオーによって
ペースが崩されつつもピコーペガサスやカレンチャン、その他サラブレッド勢が追撃。だが最終直線突入時に大外からあの
高松宮記念を彷彿とさせる驚異的な加速力でキングヘイローが馬群集団をパスし、最終的には6バ身差(ウマ娘計測)を着けて
他馬・バ全てを薙ぎ払って完勝する劇的な幕開けとなった。
次戦のダート走では、所謂『史実』知識によって半ば数合わせ要因かとネット界等極一部で侮られていたハルウララが躍動。
スマートファルコンとマルゼンスキーの頭を押さえる形で逃げるスピードフラッシュ(馬)とランアンドラン(馬)に加え馬群に
閉じ込められた形のタイキシャトルと言うレース展開だったが、最終コーナーから最後方に陣取っていたアグネスデジタル、
そして馬群の外に思い切って外れたハルウララが猛烈な勢いで加速し、無理やり馬群を抜け出たタイキシャトル、そして最後の
追い込みを仕掛けるランアンドランの脇をすり抜けてハルウララとアグネスデジタルが縺れ合う形でゴール。写真判定で
ハナ差にてハルウララが勝利した。ハルウララが勝利した事でメディアやらネットやらがその強烈なインパクトによりその日から
暫く話題になった事は言うまでもない。
二連勝で流れに乗ったかと思われたURA側であったが、三戦目のマイル戦ではサラブレッドの馬っ気を偶然かつ不幸にも
直視してしまった思春期真っ盛りウオッカがスタート直後に撃沈すると言う波乱過ぎる幕開けでスタート。何時もの通り全速で
駆ける異次元の逃亡者・サイレンススズカに対して真横に張り付き続け猛烈なプレッシャーを仕掛けたスピリットターフ(馬)によって
調子が完全に崩され、最終コーナー突入時にサイレンススズカが一気に失速。女帝・エアグルーヴと女傑・ヒシアマゾン、
アイドルホース・オグリキャップが追撃も、サイレンススズカを落とした事で勢い付いたゴーストウィニングの影を捕まえられずに終わった。
余談だが、この後オグリキャップのレース後恒例の食事では今レーススポンサー企業となっていた某ピエロが看板キャラの
バーガーショップが準備していた食材全てが全滅する珍事が起きていた。因みにウオッカは最下位だが何とか完走だけはするも、
同室の某ウマ娘の過失によってレース前日に無駄にカッコつけていた事が暴露され、顔を真っ赤にして二度目の撃沈をしている。
二勝一敗で迎えた中距離戦では、今まで先行策しか取って居なかったレッツゴーウィン(馬)がまさかの大逃げ作戦を展開した事で
レース諸共全てがぶち壊された。ほぼ一人旅状態で終始ターフを駆け抜けたレッツゴーウィンをグラスワンダーやシンボリルドルフ、
またスターライン(馬)、バーストフェアリー(馬)らも必死に追走したのだが、最終的に馬群を中央突破し猛追したグラスワンダーと
ナリタタイシンに7馬身差(サラブレッド判定)を着けてレッツゴーウィンが勝利し、二勝二敗の五分にて最終戦へと突入する運びと
なったのであった。尚スペシャルウィークは一枠一番での出走の為か、馬群集団を抜け出せずに埋没する余りにも不本意極まりない
レース展開となって半泣きとなりグラスワンダーに慰められたり、ゴールドシップが何時しかの凱旋門賞の如く好き勝手にファン
サービスしていたりと、通常の競馬では先ず見る事の無いレース後情景であった。因みにこの後ゴールドシップはJRAに
好き勝手していた事に関して『お小言』を喰らっていたりする。
443: 陣龍 :2021/08/07(土) 13:30:23 HOST:124-241-072-201.pool.fctv.ne.jp
「まー、終わっちゃったレースはどうしようもないけどねー……」
そう言って言葉を止めたウマ娘…セイウンスカイは、背後を振り返りながら改めて口を開く。
「……最後の最後に、よりにもよってなーんであんな飛んでも無い『生ける伝説』を繰り出してくるんだろうね、
こっちのJRAさんは」
嫉妬か、それとも羨望か。何物をも感じ取る事の出来ない声色と共に向けられた視線の先には、今レースで
共に走る…日本競馬、そして世界競馬切っての『至宝』が、ゆったりと、大人しく手綱を引かれてパドックに入って
来ていた。
「『ゴーストウィニング』かー……。誰にも期待されなかった、悪意無く単なる事実として『骨董品並の血統』とか
言われながら全戦無敗の世界最強馬に君臨するとか、此処まで主人公してる主人公ってこっちにも居るんだねー。
ホント、キラキラしてるわー」
お手上げな仕草をしながら何時もの口振りで感想を述べるナイスネイチャに対し、マヤノトップガンもメジロマックイーンも
突っ込まない。只今ナイスネイチャが述べた事は一分の違いも無く事実であり、多かれ少なかれ、似たような事を
感じていたからであった。
「ホープフルステークス、皐月賞、東京優駿、菊花賞、ジャパンカップ、有馬記念、大阪杯、天皇賞春、宝塚記念、
天皇賞秋、そして凱旋門賞、キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス……その全てに勝利した、今なお
無敗を誇る、史上唯一の競走馬……」
腕がなりますわね!と握り拳を作ったメジロマックイーンであったが、当人も自覚して居る通りに自らを奮い立たせるにしては
一部虚勢混じりな事は否めなかった。既にこれまでのレースにより、ウマ娘と競走馬との力量差は大して違わない事は
証明されていた。そんな中で、ウマ娘たちは夢にも思っていなかったであろう戦歴を現実に駆け抜けて居る馬が目の前に
居るのだ。彼女らも相応にレースを走って来ているが、そもそもがウマ娘なので精神的には少女なのである。緊張するのが
当たり前だろう。
「……えっ、あれ、ちょ、何で近付い……わ、わっわっ……」
「……ゴーストウィニングさんにこすり付けられて……ほうほう、ネイチャさんも隅に置けませんなー、初対面なのに伝説の
お馬さんに気に入られるとは」
「す、スカイ…後で覚えておきなさい……わぷっ」
そんな彼女らの心情を知ってか知らずか、ウマ娘たちの存在を確認したゴーストウィニングは、今まで大人しかったのが
嘘の様にズンズンとナイスネイチャの方へと口をもぐもぐ、舌をぺろぺろとさせながら寄って行った末、ナイスネイチャに
くっ付いてすりすりとしていた。因みに、この行為は馬による親愛の感情を示す行動である。
「……って、ちょっと、ネイチャはそっちだって…あわっ…」
「はー、吃驚した…おっ。なんだ、スカイさんもゴーストウィニングさんに気に入られてるじゃ無いですかー、隅に置けないですねー。
ゴーストウィニングさんや、もっと弄っても良いですぞー」
「ごっ、ゴメン、揶揄ったの謝るから……ふにゃ……」
「……もみくちゃにされてますわね、スカイさん」
「はわわー……」
「……マヤ達は、あんまり気にされなかったなー」
普段は勝手な行動は一切しないゴーストウィニングの珍し過ぎる行動に、騎手や誘導員らが頑張って本来のルートへ引き戻していった後には、
遠慮なしに舐められたり身体を擦り付けられた二人のウマ娘と、羨ましいのかそうじゃ無いのか何とも微妙な気持ちと共に眺める
仲間たちが残されていた。
444: 陣龍 :2021/08/07(土) 13:31:35 HOST:124-241-072-201.pool.fctv.ne.jp
「さーて……ちょっと変なハプニングで機先を制されたけど、いっちょ、やったりますか……!あ、やっぱり、
程ほどにしとこうかな……」
「お兄様…ライス、頑張るね……!」
「一着取って、トレーナーちゃんの所に行くのは、このマヤだからね……勝つから…!」
「メジロの名を背負う者として……恥ずかしい走りは出来ませんわ……!」
「緩ーく、とか言っちゃったけど……まぁ、初めから手を抜いて走る様なセイちゃんじゃ、無いですよーっと……」
二つのレースの世界、それぞれの『夢』を背負って走り抜くウマ娘と競走馬達。
『さぁJRA・URA共催 レジェンドホース杯ドリームマッチレース最終戦 長距離走部門。現在ゲートインを嫌っている
9番・サクラフブキが誘導員によってゲートに誘導されています。ウマ娘達は既に全員ゲートイン完了し、スタートを
待つばかりであります』
きっとそれは、競馬を愛した誰もが夢見た、夢想の奇跡。
『ウマ娘側、競走馬側、共に二勝二敗で進んだ今レジェンドホース杯。一番人気ゴーストウィニングに次いで二位から
六位まで独占しているメジロマックイーン以下ウマ娘勢は、一体どのようなレース展開を見せてくれるのでしょうか』
最後に笑うのは、伝説のウマ娘か、それとも令和のサラブレッド達か。
『サクラフブキ、今ゲートイン完了。全員の出走準備が整いました。レジェンドホース杯ドリームマッチレース最終戦……!』
係員が、ゲートから離れる。
『……今、スタート!!各馬一斉に駆け出していく!』
ゲートが開き、神話が始まった。
出走表
中山競馬場 芝2500m 右
1番 セイウンスカイ(逃げ)
2番 マヤノトップガン(逃げ)
3番 ゴーストウィニング(先行)(馬)
4番 ライスシャワー(先行)
5番 ターフラッシュ(差し)(馬)
6番 スカイダイバー(先行)(馬)
7番 スターダイヤモンド(追い込み)(馬)
8番 メジロマックイーン(先行)
9番 サクラフブキ(追い込み)(馬)
10番 ナイスネイチャ(差し)
445: 陣龍 :2021/08/07(土) 13:34:03 HOST:124-241-072-201.pool.fctv.ne.jp
『 21世紀の生ける神話 』
「いっけーネイチャーー!!ターボが出れなかった分しっかり走れー!!」
「スタートは上々の立ち上がりですね。他馬も出遅れていないですけど…」
「第一関門はクリアしました。後は道中でどれだけ自分のペースを維持出来るかです」
宇宙人が日本と固い友情の握手を交わしたり第二次世界大戦の英霊や軍艦が『島』と共に出現したりして最近の歴史や
社会の教科書に書かれる内容が激変し続けて久しい日本国。その国にまた一つ、新しい伝説が生れ落ちようとしている中山
競馬場。そのスタンド席には、ただ単に容姿端麗なウマ娘を見に来たミーハーな者、長年の競馬好きが万難を排し入場した者、
最近になって競馬に興味を持ち始めた新米等様々な老若男女のみならず、その中には最近は良く日本の各地で見かけるようになった
宇宙の彼方出身の人、そして馬の耳と尻尾を生やした少女達も多数居た。現在話題沸騰のトレセン学園所属のウマ娘である。
「先の四戦だけでも興味深いデータが沢山だった…今回のレースでも、どのようなデータが取れるか楽しみだね。そうは思わないかい
カフェ!デジタル君!」
「レースが楽しみだとは思いますが……」
「ひょえぇぇぇー……ウマ娘ちゃんと馬が一緒のレースをこんなに近くで、レースするだけじゃ無くてスタンドからも見れるなんて……
はっ、ハイ!デジたんもそう思います!!」
何処ぞの馬鹿数名が独善の常軌を逸した自称正義を掲げてトレセン学園に放火未遂したり、廃屋の白アリの如く何処かから
湧いてきた自称動物愛護団体を名乗る連中が『ウマ娘の保護』等と放言しつつぞの実自分達に都合の良い利権とバイオトロフィー化を
目論んでトレセン学園の理事長に一蹴され世間から袋叩きにされたり等の、一般人や良識ある人間が頭痛で倒れそうな事件が何度も
発生していたが、全力のレースを行えるように死力を尽くした官僚や競馬関係者らの奮闘によって、彼女らウマ娘の精神肉体両面の
安全と健康は保たれていた。人的損害についても、事態収拾に当たった日本国側の競馬関係者や官僚、自治体公務員がストレスや過労を
原因として若干名が倒れた程度である。
446: 陣龍 :2021/08/07(土) 13:35:45 HOST:124-241-072-201.pool.fctv.ne.jp
「(もごもごもごもご)」
「(ずぞぞぞぞぞぞぞ)」
「(ぱくぱくぱくぱく)」
「スぺちゃん……レース展開がふがいなさ過ぎたからってあんまり食べると、また体重が大変な事に……」
「スズカさん、こうなったスぺちゃんは止まりませんから、後でトレーニングして痩せて貰うのが良いですよ」
「グラスちゃん……そうね。良かったらその時は、一緒に走りましょ?」
「……骨は拾いますデース、スぺちゃん」
「オグリ、一体いつまで食べる気なんや、全く……」
「はいはい、オグリちゃん、御代わり持って来ましたよー」
「…って、これに更に食べさせるんか!?そこは止めてやれや!!」
「……フードファイトしてる訳でも無いのだから、食べるのも程々が良いんだが」
「久しぶりの提督とのデートです。赤城さんの気分も高揚しているのでしょう」
「そういう加賀も両手に焼きそばとタコ焼き山盛りにしてるから他人事でも無いと思うぞ」
……一部ではレース観戦しに来たのか中山競馬場のグルメ旅に来たのか分からなくなる様な状態のウマ娘と
艦娘が居たりしたが、恐ろしい勢いで山積みにされる空のパックと売店が必死の形相で焼きそばやらたこ焼きやらを
作り続けているのと某日本総大将に厳しい減量トレーニングが施される未来が確定した以外に大した変化は無いの
でさておき。
「……レース展開は、事前の下馬評通りかな」
「そうですね、会長。……ブライアン、何時まで拗ねてるつもりだ。見っともないぞ」
「……五月蠅い。拗ねて等無い」
「ねぇー、よそ見してる暇有ったらレース見ようよ!あ、マックイーン!ネイチャー!頑張れー!」
スタートしてからの馬とウマ娘達の流れは、事前に予想されていた通りに、セイウンスカイが先頭に立ち、マヤノトップガンが
その背後を追走。三番手、四番手にライスシャワーとメジロマックイーンが並び、直後にゴーストウィニング、スカイダイバー。
大外10番のナイスネイチャが馬群集団脇を走り、どん尻にサクラフブキとスターダイヤモンドが走る展開である。一見すると
ゴーストウィニングがウマ娘四人に頭を押さえられている様に見えなくも無いが、実態はそう単純な話ではない。
「セイウンスカイを先頭にしてウマ娘達がレース展開を主導して居る様に見えるが、実態は違う」
「どうした急に」
「ゴーストウィニングは、自分の前を走るウマ娘達の動きに動揺どころか反応すら殆どしていない。自分の走りに絶対的な自信が有る証拠だ」
「……マックイーンさん」
「大丈夫だよ……マックイーンさんなら、きっと」
447: 陣龍 :2021/08/07(土) 13:39:03 HOST:124-241-072-201.pool.fctv.ne.jp
――――やり難いったら有りはしませんわ、本当に
自分の熱烈なファンであるウマ娘の思いを知ってか知らずか、心の中で一人愚痴る葦毛の名優。
思わず抱いた愚痴の向け先は、複数回レースする機会が有り、ある程度動きを予測可能なウマ娘の
事では無く、自分の直ぐ背後を走るサラブレッド…ゴーストウィニングに向けられていた。
――――プレッシャーは感じない……自分の走りをしているだけなんだ、ゴーストウィニングさん……
このレースを走る者として最も警戒すべき相手として当然一番に名が上げられ、レース映像を研究した
ウマ娘側であったが、この前代未聞の功績を打ち立てた21世紀の神馬は徹頭徹尾『レース中は三番から
六番手で待機』『最終コーナー突入直前に馬群から外ラチ側へ外れ、他馬のいない直線をゴールまで
疾走』と言うやり方で勝ち続けていた。例え大逃げが何頭居ようと、他馬にどれ程プレッシャーを掛けられようとも、
メイクデビュー…新馬戦から愚直なまでにこの戦い方を貫き続けていた。日本でも、海外でも、お構いなしに。
――――どんな相手でも関係無いよっ、マヤが勝って、こっちでもキラキラするんだからっ…!
とは言え、戦法が一つだけとなると逆にレースに熟練したウマ娘側に取ってはやり易いとも言えた。サラブレッドと
ウマ娘とは体格差、馬体の差が大きい為前を塞ぐ様なやり方は危険な上仮に実行してもサラブレッドに簡単に
弾き飛ばされるだけに終わるのが目に見えているのでブロック等出来ないが、プレッシャーを掛ける事は出来る。
第一このレースに参加しているウマ娘は全員G1の大舞台にて激闘を繰り広げてきた駿メであるので、進路妨害と
判定されかねない行為はする気も無かったが。
『さぁ第一コーナーから二コーナー、セイウンスカイ先頭変わらずマヤノトップガンからメジロマックイーン、
ライスシャワー。ゴーストウィニング未だ五番手変わらず馬群も、えー全体で一〇馬身有るかどうかと言う所で
あります。最後方スターダイヤモンド少しペースが速いか、ターフラッシュやや遅れている様子ですが十分
巻き返せる位置です。しかし全体的にかなり速いレース展開となっており追い込みや差し馬は判断の難しい
状況です』
早くもレースは最終コーナー手前の直線に入る。馬群後方では多少の入れ替わりは有るも団子状態であり、
誰が抜け出すかは未だ予測が着かない段階で有った。
『サクラフブキ、スピードを上げて仕掛けに入るが前の馬が壁になっているか、ナイスネイチャ馬群中央からやや
外側に出て来た。スカイダイバーはどうか、少しずつ遅れて来ている。セイウンスカイ変わらず先頭。さぁ最終
コーナーに入るか、何時ものゴーストウィニングによる、外に寄れての弾丸特急は何時炸裂するのか』
固唾を飲む者も居れば、何かしらの声を出す者も居る。スタンドには十人十色の、好き勝手に予想した勝利の流れが
証明されるのを今か今かと待ち望まれていた。
『第三コーナーに突入しマヤノトップガン加速するがセイウンスカイも先頭を譲る気配は無い、ライスシャワーと
メジロマックイーンもそれに続き、ゴーストウィニングは何時もの様に外ラチへ…』
そして最終コーナー突入時に、ゴーストウィニングの行動が大波乱を引き起こす。
448: 陣龍 :2021/08/07(土) 13:42:08 HOST:124-241-072-201.pool.fctv.ne.jp
――――なっ?!
――――嘘っ…
――――うぇえ?!
『外ラチに、行かない!ゴーストウィニングが内ラチに突入!セイウンスカイとマヤノトップガンに割って入る!
マヤノトップガン遅れる!メジロマックイーンとライスシャワーは伸びない!スカイダイバーも失速!いやこれは
ターフゴーストが凄い勢いで加速しているだけだ!?』
これまで一度足りとて行っていなかったある種のタブー…最終コーナー突入時に外ラチに逃げる【ルール】を破り、
ゴーストウィニングが敢えて内ラチのまま突進。ターフゴーストを警戒し、尚且つコーナーでやや外に膨らみ僅かに
速度を落としたマヤノトップガンの右脇に突っ込み、今までの速度を全く殺す事無く最終コーナーを抜け出そうとしていた。
「ヤベェな、このまま速度維持し続けたら皆置いて行かれるぞ」
「あぁあぁあああどうすんだよどうすんだよコレ!このままだとマックイーンさん負けちまうぞ!」
「落ち着きなさいウオッカ!今アンタが慌てて何になるって言うのよ!!」
名優の後輩二人の動揺とその名優の友人(の一言では不十分だが)の一言はこの中山競馬場の観客が等しく
感じたものだったが、『神話』の出来がこんな三文芝居程度で終わる筈が無い。
『ウマ娘三頭とスカイダイバー失速するもセイウンスカイ内側で粘る粘る粘る!馬群を突き破ったゴーストウィニングに
僅かながら先頭を未だ譲っていない!』
黄金世代の一角と謳われながら、才気溢れる同期の輝きに目を焼かれ心を砕かれ、それでも尚自らの武器である
『思考』を巡らせて『無敗の最強馬』相手に本気で勝利をもぎ取りに来た、菊花の青空。
『そして大外から、ナイスネイチャだ!ナイスネイチャがゴーストウィニングのお株を奪う様な加速力で猛然と追撃!
彼女の目の前は誰も塞ぐ者は居ない!』
才能有りと謳われても、間の悪さが、時代の主人公の存在がブロンズコレクターと言う一番を欲するものに取って
屈辱的な称号を与えられ、卑屈になってしまい、だがそれでも【主人公】になる事を諦め切れなかった、ターフの優駿。
『中山競馬場が揺れています!中山が今、怒号の大歓声に揺れています!!全戦無敗のゴーストウィニングに初めて
土を着けんとセイウンスカイとナイスネイチャが疾走しています!!最後の直線に入って三頭横一線に並んで最早
理屈無しの意地と覚悟のぶつかり合い!此方からでは誰が一着か全く分からないデッドヒート!』
誰も予想だにしなかったレース展開。誰もが聞けば夢想と笑ったであろう組み合わせ。
『坂を駆け上がって来て尚横一線のまま!ナイスネイチャか!?セイウンスカイか!?ターフゴーストか!?亡霊が、
青空が、名駿が未だ横一線!横一線!横一線のまま三頭今ゴールイン!!』
――――競馬に、『絶対』など存在しない。
449: 陣龍 :2021/08/07(土) 13:43:20 HOST:124-241-072-201.pool.fctv.ne.jp
|д゚) ……と言う事にて修正版に御座いました。流石に2000年以前の登録抹消馬等までは調べる気力蒸発なので赦してヒヤシンス(マルゼン並感)
最終更新:2021年08月12日 18:49