490: 陣龍 :2021/07/12(月) 23:38:18 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp
『 21世紀の生ける神話 』
「いっけーネイチャーー!!ターボが出れなかった分しっかり走れー!!」
「スタートは上々の立ち上がりですね。他馬も出遅れていないですけど…」
「第一関門はクリアしました。後は道中でどれだけ自分のペースを維持出来るかです」
宇宙人が日本と固い友情の握手を交わしたり第二次世界大戦の英霊や軍艦が『島』と共に出現したりして
最近の歴史や社会の教科書に書かれる内容が激変し続けて久しい平成日本。その国にまた一つ、新しい伝説が
生れ落ちようとしている中山競馬場。そのスタンド席には、ただ単に容姿端麗なウマ娘を見に来たミーハーな者、
長年の競馬好きが万難を排し入場した者、最近になって競馬に興味を持ち始めた新米等様々な老若男女のみならず、
その中には最近は良く日本の各地で見かけるようになった宇宙の彼方出身の人、そして馬の耳と尻尾を生やした
少女達も多数居た。現在話題沸騰のトレセン学園所属のウマ娘である。
「先の四戦だけでも興味深いデータが沢山だった…今回のレースでも、どのようなデータが取れるか楽しみだね。
そうは思わないかいカフェ!デジタル君!」
「レースが楽しみだとは思いますが……」
「ひょえぇぇぇー……ウマ娘ちゃんと馬が一緒のレースをこんなに近くで、レースするだけじゃ無くてスタンドからも
見れるなんて……はっ、ハイ!デジたんもそう思います!!」
何処ぞの馬鹿数名が独善の常軌を逸した自称正義を掲げてトレセン学園に放火未遂したり、廃屋の白アリの如く
何処かから湧いてきた自称動物愛護団体を名乗る連中が『ウマ娘の保護』等と放言しつつぞの実自分達に都合の良い
利権とバイオトロフィー化を目論んでトレセン学園の理事長に一蹴され世間から袋叩きにされたり等の、一般人や
良識ある人間が頭痛で倒れそうな事件が何度も発生していたが、全力のレースを行えるように死力を尽くした官僚や
競馬関係者らの奮闘によって、彼女らウマ娘の精神肉体両面の安全と健康は保たれていた。人的損害についても、
事態収拾に当たった日本国側の競馬関係者や官僚、自治体公務員がストレスや過労を原因として若干名が倒れた
程度である。
491: 陣龍 :2021/07/12(月) 23:39:47 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp
「(もごもごもごもご)」
「(ずぞぞぞぞぞぞぞ)」
「(ぱくぱくぱくぱく)」
「スぺちゃん……あんまり食べると、また体重が大変な事に……」
「スズカさん、こうなったスぺちゃんは止まりませんから、後でトレーニングして痩せて貰うのが良いですよ」
「グラスちゃん……そうね。良かったらその時は、一緒に走りましょ?」
「……骨は拾いますデース、スぺちゃん」
「オグリ、一体いつまで食べる気なんや、全く……」
「はいはい、オグリちゃん、御代わり持って来ましたよー」
「…って、これに更に食べさせるんか!?そこは止めてやれや!!」
「……フードファイトしてる訳でも無いのだから、食べるのも程々が良いんだが」
「久しぶりの提督とのデートです。赤城さんの気分も高揚しているのでしょう」
「そういう加賀も両手に焼きそばとタコ焼き山盛りにしてるから他人事でも無いと思うぞ」
……一部ではレース観戦しに来たのか中山競馬場のグルメ旅に来たのか分からなくなる様な状態のウマ娘と
艦娘が居たりしたが、恐ろしい勢いで山積みにされる空のパックと売店が必死の形相で焼きそばやらたこ焼きやらを
作り続けているのと某日本総大将に厳しい減量トレーニングが施される未来が確定した以外に大した変化は無いのでさておき。
「……レース展開は、事前の下馬評通りかな」
「そうですね、会長。……ブライアン、何時まで拗ねてるつもりだ。見っともないぞ」
「……五月蠅い。拗ねて等無い」
「ねぇー、よそ見してる暇有ったらレース見ようよ!あ、マックイーン!ネイチャー!頑張れー!」
スタートしてからの馬とウマ娘達の流れは、事前に予想されていた通りに、セイウンスカイが先頭に立ち、マヤノトップガンが
その背後を追走。三番手、四番手にライスシャワーとメジロマックイーンが並び、直後にラストストーリー、スカイダンサー。
大外10番のナイスネイチャが馬群集団脇を走り、どん尻にサクラフブキとダイヤモンドスターが走る展開である。一見すると
ラストストーリーがウマ娘四人に頭を押さえられている様に見えなくも無いが、実態は違う。
「セイウンスカイを先頭にしてウマ娘達がレース展開を主導して居る様に見えるが、実態は違う」
「どうした急に」
「ラストストーリーは、自分の前を走るウマ娘達の動きに動揺どころか反応すら殆どしていない。自分の走りに絶対的な自信が有る
証拠だ」
「……マックイーンさん」
「大丈夫だよ……マックイーンさんなら、きっと」
492: 陣龍 :2021/07/12(月) 23:41:33 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp
――――やり難いったら有りはしませんわ、本当に
自分の熱烈なファンであるウマ娘の思いを知ってか知らずか、心の中で一人愚痴る葦毛の名優。
思わず抱いた愚痴の向け先は、複数回レースする機会が有り、ある程度動きを予測可能な
ウマ娘の事では無く、自分の直ぐ背後を走るサラブレッド…ラストストーリーに向けられていた。
――――プレッシャーは感じない……自分の走りをしているだけなんだ、ラストストーリーさん
このレースを走る者として最も警戒すべき相手として当然一番に名が上げられ、レース映像を研究した
ウマ娘側であったが、この前代未聞の功績を打ち立てた21世紀の神馬は徹頭徹尾『レース中は三番から
六番手で待機』『最終コーナー突入直前に馬群から外ラチ側へ外れ、他馬のいない直線をゴールまで
疾走』と言うやり方で勝ち続けていた。例え大逃げが何頭居ようと、他馬にどれ程プレッシャーを掛けられようとも、
メイクデビュー…新馬戦から愚直なまでにこの戦い方を貫き続けていた。日本でも、海外でも、お構いなしに。
――――どんな相手でも関係無いよっ、マヤが勝って、こっちでもキラキラするんだから…!
とは言え、戦法が一つだけとなると逆にレースに熟練したウマ娘側に取ってはやり易いとも言えた。サラブレッドと
ウマ娘とは体格差、馬体の差が大きい為前を塞ぐ様なやり方は危険な上仮に実行してもサラブレッドに簡単に
弾き飛ばされるだけに終わるのが目に見えているのでブロック等出来ないが、プレッシャーを掛ける事は出来る。
第一このレースに参加しているウマ娘は全員G1の大舞台にて激闘を繰り広げてきた駿メであるので、進路妨害と
判定されかねない行為はする気も無かったが。
『さぁ第一コーナーから二コーナー、セイウンスカイ先頭変わらずマヤノトップガンからメジロマックイーン、ライスシャワー。
ラストストーリー未だ五番手変わらず馬群も、えー全体で一〇馬身有るかどうかと言う所であります。最後方ダイヤモンドスター
少しペースが速いか、ターフラッシュやや遅れている様子ですが十分巻き返せる位置です』
早くもレースは最終コーナー手前の直線に入る。馬群後方では多少の入れ替わりは有るも団子状態であり、
誰が抜け出すかは未だ予測が着かない段階で有った。
『サクラフブキ、スピードを上げて仕掛けに入るが前の馬が壁になっているか、ナイスネイチャ馬群中央からやや
外側に出て来た。スカイダンサーはどうか、少しずつ遅れて来ている。セイウンスカイ変わらず先頭。さぁ最終
コーナーに入るか、何時ものラストストーリーによる、外に寄れての弾丸特急は何時炸裂するのか』
固唾を飲む者も居れば、何かしらの声を出す者も居る。スタンドには十人十色の、好き勝手に予想した勝利の流れが
証明されるのを今か今かと待ち望まれていた。
『第三コーナーに突入しマヤノトップガン加速するがセイウンスカイも先頭を譲る気配は無い、ライスシャワーと
メジロマックイーンもそれに続き、ラストストーリーは何時もの様に外ラチへ…』
そして最終コーナー突入時に、ラストストーリーの行動が大波乱を引き起こす。
493: 陣龍 :2021/07/12(月) 23:43:10 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp
――――なっ?!
――――嘘っ…
――――うぇえ?!
『外ラチに、行かない!ラストストーリーが内ラチに突入!セイウンスカイとマヤノトップガンに割って入る!
マヤノトップガン遅れる!メジロマックイーンとライスシャワーは伸びない!スカイダンサーも失速!』
これまで一度足りとて行っていなかったある種のタブー…最終コーナー突入時に外ラチに逃げる【ルール】を
破り、ラストストーリーが敢えて内ラチのまま突進。ラストストーリーを警戒し、尚且つコーナーでやや外に
膨らみ僅かに速度を落としたマヤノトップガンの右脇に突っ込み、今までの速度を全く殺す事無く最終コーナーを
抜け出そうとしていた。
「ヤベェな、このまま速度維持し続けたら皆置いて行かれるぞ」
「あぁあぁあああどうすんだよどうすんだよコレ!このままだとマックイーンさん負けちまうぞ!」
「落ち着きなさいウオッカ!今アンタが慌てて何になるって言うのよ!!」
名優の後輩二人の動揺とその名優の友人(の一言では不十分だが)の一言はこの中山競馬場の観客が等しく
感じたものだったが、『神話』の出来がこんな三文芝居程度で終わる筈が無い。
『ウマ娘三頭とスカイダンサー失速するもセイウンスカイ内側で粘る粘る粘る!ラストストーリーに僅かながら
先頭を未だ譲っていない!』
黄金世代の一角と謳われながら、才気溢れる同期の輝きに目を焼かれ心を砕かれ、それでも尚自らの武器である
『思考』を巡らせて『無敗の最強馬』相手に本気で勝利をもぎ取りに来た、菊花の青空。
『そして大外から、ナイスネイチャだ!ナイスネイチャがラストストーリーのお株を奪う様な加速力で猛然と追撃!
目の前は誰も塞ぐ者は居ない!』
才能有りと謳われても、間の悪さが、時代の主人公の存在がブロンズコレクターと言う一番を欲するものに取って
屈辱的な称号を与えられ、卑屈になってしまい、だがそれでも【主人公】になる事を諦め切れなかった、ターフの優駿。
『中山競馬場が揺れています!中山が今、歓声に包まれています!!ラストストーリーに初めて土を着けんと
セイウンスカイとナイスネイチャが疾走しています!!三頭横一線に並んで最早理屈無しの意地と覚悟のぶつかり合い!
此方からでは誰が一着か全く分からないデッドヒート!』
誰も予想だにしなかったレース展開。誰もが聞けば夢想と笑ったであろう組み合わせ。
『ナイスネイチャか!?セイウンスカイか!?ラストストーリーか!?未だ横一線!横一線!横一線のまま三頭今ゴールイン!!』
――――競馬に、『絶対』など存在しない。
494: 陣龍 :2021/07/12(月) 23:48:56 HOST:124-241-072-147.pool.fctv.ne.jp
|д゚) と言う訳で、最終的なレース結果による決着はキリも良い感じなので次回へ(オイ)
|д゚) 実際ラストストーリー(架空馬)にウマ娘が追走する事と競馬実況的なモノは兎も角こんな流れになるとは思わんかった(小並感)
|д゚ ) それでは次回、一着から三着まで確定します。馬券は確定するまで捨てないようお願いします(コラ)
最終更新:2021年07月13日 12:39