240: 弥次郎 :2021/07/18(日) 22:56:49 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW 融合惑星 パトレイバー世界編SS「WXⅢ」9-3
- C.E.世界 融合惑星 γ世界 マーシャル諸島 クェゼリン島 米軍基地
怪物が現れた、との報告を受けてからマイケル・パッケンジー大佐は基地からの脱出を急いでいた。このまま基地を枕に死ぬつもりなど毛頭なかったのだ。
自身の野望のため、自身の考える未来のために、こんなところで終わってたまるものではない。
最低限の資料とサンプルなどを大急ぎでかき集め、逃げ出す用意を選んだのはその思いからだった。
しかし、大佐自身もこれが無謀な計画の逃避行ということには薄々と感づいていた。
そも、このクェゼリンから島外へ出るための方法として存在するのは航空機か船舶で、本国に逃げるとしても飛行機しかない。
そしてその飛行機にしても、わずかな定期便しか存在しておらず、この非常事態で飛ぶかどうかもわからない状態だ。
(イバイ島のどこかに潜伏するか……)
いや、連合が自分を追っているならこの島をはじめとしてこのマーシャル諸島の徹底的なあぶり出しを行うだろうという予測がある。
このマーシャル諸島の島々があまりにも狭いことも問題だ。人口も多いとは言えないし、隠れるにしても限界がある。
ともあれ、このままではあの怪物たちに襲われてしまうという予感があり、準備を急いでいた。
「よし……」
大急ぎで資料などを詰め込んだスーツケースを閉め、部屋を飛び出す。
左右を確認し、耳をすませば、まだ戦闘の音が遠くから聞こえる程度だ。基地内部は未だに軍人たちが忙しげに動き回っているだけのようだった。
「大佐、こちらです」
心得ている部下が武器を手にして手を振っていた。
そうだ、ここで終われない。ユージアという国家がいずれ自分たちの祖国に牙をむくことは確実なのだ。
そのためにこそ力が必要だ。他を圧倒できるような力が。協定などおちおち守っている暇などない。
(そのためにも……)
廊下を走りながらも、彼の思考は止まらない。
自分が、自分達こそが、祖国のためになるのだという意識が、どんどん膨れ上がる。
緊急事態故のハイな気分なのか、思考はぐるぐるとめぐっていく。その使命感、愛国心、忠誠が盛り上がっていく。
(ここで終わるわけに……は……?)
その時、マイケル大佐は世界がぐるぐると回っていることに気が付いた。
それは、比喩ではない。物理的にも、世界が回転している。
自分の体が、平衡感覚を失って倒れているのだ。そして、廊下でごろごろと転がり、壁にぶつかって止まる。
不思議と、痛みはない。いや、違和感はあるのだが、どこか遠いところにあるような、そんな不思議な感覚に包まれている。
そして、自分の意識もぐるぐるとしている。まるで現実感がない。ふわふわとしたような、意識だけが浮かんでいるような奇妙な感覚に支配されている。
(こ、れ……は?)
現実感がない。まるで、アルコールに酔った時のような、非現実的な世界を感じる。
自分だけでない、と気が付いたのはだいぶ経ってからだ。部下たちも、情けない恰好で廊下に倒れ伏している。
やがて、自分の顔をだれかが持ち上げる。武骨なマスクで顔を覆い、まるで感情を見せないロボットのようなそれが人間だと気が付いたのは自分の手が拘束されてからだった。
『目標を確保した、HQに通達を』
『了解』
そして、自分の体が担がれて運ばれていくのを、どこか遠くの出来事のように感じる。
(ああ、そうか……)
ここでようやっと、何が自分の体を襲ったかがわかる。
ペンタゴンの方で研究されているという、人を殺傷せずに無力化する兵器によく似ているではないか。
つまり、自分は最初から踊らされていたわけで----そこまで考えて、鎮圧用の薬剤を多量に吸い込んだことにより完全に意識を失った。
241: 弥次郎 :2021/07/18(日) 22:58:03 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
マイケル大佐の身柄を確保したという情報を受け取ったHQは、速やかに作戦を次の段階に進ませる。
時間を稼がせ、陽動を担当させていたB.O.W.を下げつつ、歩兵部隊を表立って投下していくのだ。歩兵だけでなく、それを援護するPSやヘリも同様に、だ。
ここでようやく、現地の米軍兵たちは自分たちは怪物ではなくて人を相手にしていたことに気が付いた。
怪物たちが突然現れたものではなく、制御された兵器だということにも、ようやくさとるものが現れた。
そして、同時にヘリのスピーカーから投降を呼びかけ始める。
兵士たちは困惑したことだろう。まさかまさかの自国の軍の偉い人からの投稿命令が流され始めたのだから。
ともあれ、そんなことを命じられれば、混乱しつつも従うしかない。
次々と吐き出されていく基地関係者と入れ替わるように、連合の兵士たちは内部に突入していく。彼らの仕事はB.O.W.の捜索と実態調査だ。
ここにB.O.W.が持ち込まれているかどうかさえ怪しいので、まずはそれを確かめる必要がある。あるいは、それがあるとしてどう管理されているかも、だ。
存在していない、あるいは存在していても厳密に管理されているならばそれでよい。だが、もしもずさんな管理がされているならば話は違ってくる。
具体的に言えば、どの程度影響が拡散しているのかを調べ、適切に処理しなくてはならない。それこそ、MAアプサラスで島ごと吹き飛ばすことも選択肢に入っていた。
そして、歩兵たちとB.O.W.を投じた調査の結果は真っ黒。
基地の一角はB.O.W.の研究設備になっており、そこで少数ではあるがB.O.W.の製造と研究が行われていた。
さらに、貧弱なインフラしかないこのマーシャル諸島で行ったことにより、その管理は杜撰を極め、漏洩が確認された。
これにより、最低でもクェゼリンの米軍基地どころか、クェゼリンそのものを滅却する必要があると判断されることになった。
斯くして、周辺の島々から住人を避難させるとともに、控えに回っていたアプサラスに攻撃命令が下った。
その後の結果は語るまい。
結果として、クェゼリン島は丸ごと蒸発して新たな環礁……というよりは、自然ではありえない大穴を海にあけることになった。
加えて、周辺の島々およびクェゼリンの米軍基地にいた人々に対しては日本で得たデータを基にした滅菌消毒処置が行われた。
さらに、該当海域の一時封鎖を行い、N-β細胞の影響がなくなるまで隔離を行うことが決定されることとなった。
彼らは連合が宇宙から降ろしてきたクェゼリン島の代替となる人工島(ギガフロート)に移動。
N-β細胞の影響がないかどうかの経過観察を行いながらも、今回の事態の説明を受けることになった。
そうして、ようやく首謀者の一人であるマイケル大佐が捕縛され、持ち出されていたサンプルも消えたことにより事態は一応の収束を見せた。
しかし、それですべてが決着したわけではない。
関係者の取り調べに関してはこれより行わなければならず、また、住処を失った住人達への補償も行わなければならない。
そして、悲しいことに犠牲になった米軍兵士たちに対しても、である。これらについては米国やマーシャル諸島共和国政府の許可を得ているとはいえ、決して手を抜けない。
さらに、マイケル大佐に協力していた人間がどれだけいたのか、彼自身から聞き出し、裏どりをしなくてはならないなど、仕事は尽きない。
そして、根源と言える日本列島では、この後もB.O.W.を用いたバイオテロが相次ぐこととなる。
バイオテロの恐怖とそれを利用したがる人間の悪意は、連鎖する。それを断ち切れるかどうかは、人の意思にかかっている。
融合惑星に、未だに安寧というものは訪れる気配を見せていなかった。
242: 弥次郎 :2021/07/18(日) 22:58:40 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wikiへの天才はご自由に。
次回でようやくエピローグには入れるかもですねぇ……多分。
あとは補足の説明とか解説を投下すれば、廃棄物13号事件SSは完結とできそうです。
さらっと消し飛んだクェゼリン島とその周辺海域の生物の皆様には深く哀悼の意を捧げます。
これは致し方ない犠牲というものですので…
最終更新:2023年07月09日 21:38