828: 弥次郎 :2021/08/05(木) 21:29:07 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW GATE自衛隊(ry編SS リンクスたちの日常とお仕事6「アマツミカボシの場合」【リメイク】
企業間におけるリンクスの立ち位置は、不思議なことに日企連世界のそれと同じような役割を持つ。
即ち、実働戦力同士であり、同時にある種の企業間の窓口ともなる交渉役である。
事実、各企業の抱えるトップランカー若しくはその企業が抱える看板のリンクスは、「お茶会」と呼ばれる独自の会合で情報共有や交換を行っている。
例えば、オーメル・サイエンスはオッツダルヴァ、日企連ならば大空流星、インテリオル・ユニオンはウィン・D・ファンション。
GAならば古参の老兵であるローディーといったように、実力や戦歴の優れたリンクスが選ばれる傾向にあった。
これは一種の収束というべきか、あるいは因果などを引き継いでいることによるものというべきかは論じるべきかもしれない。
が、重要なのはリンクスが企業間における特使や大使といった交流を担う人材である、ということだろう。
何しろ、企業の精鋭戦力であるリンクスは必然的に優れた人間が選び抜かれてなるものなのだから。
つまり、戦闘技能はもちろんのこと、優れた知見あるいは知識を持ち、企業の一員として高い倫理観などを持ち合わせていなければならない。
生半可な人間は養成課程において弾かれるか、あるいはリンクス業を続ける中で淘汰されるというわけだ。
そうなれば、必然的にリンクスたちはそこらへんの人間を凌ぐ価値のある存在となりうるわけである。
そのほかのリンクスたちも養成課程の段階から交流を重ね、技術研鑽や将来的なつながりを形成するために顔を合わせることが多い。
企業ごとにリンクスやネクストの設計方針や運用のドクトリン、あるいは独自の傾向というのは存在しているのだが、研修の中で交流を行い、学び合うのだ。
それは戦術の幅を広げ、リンクスとしての技量を高めるほかにも、戦場での連携などを想定したものであり、数々の戦いでその連携はいかされてきた。
そして、アマツミカボシの個人的なことを言えば、会社間の取引や付き合いの端緒となることもあるので、なおのこと重視されていたのだ。
まあ、あくまでもリンクスであって、経営者でもなければ役員でもないアマツミカボシが直接何か影響力を持つわけではない。
長々と語ったが、つまりは、こういうリンクス業を長く続けていると、必然的に人の付き合いが多くなる、ということであった。
「げ」
そして、現在、特地の企業連の管轄基地。その中で、アマツミカボシは思わず声を上げていた。
ヴォルクルス出現の報を受けて招集されたのは自分だけではないとは知っていた。
事実、多くのリンクスと顔を合わせていたのだ。それこそ、C.E.世界の著名な企業からは続々と派遣されてきた。
だが、まさかここで「彼女ら」と顔を突き合わせるとは思いもよらなかった。
もちろん、可能性がなかったわけではない。彼女らの立場から考えてもおかしくはない。
しかして、アマツミカボシは端的に言って、会いたいとは思いたくはない相手であった。
「あらあらあら、どこかで見た顔と思えば」
「見覚えがあるかと思えば、ホシではないの」
瓜二つのソプラノボイス。万人を魅了するかのような美声は、これまた瓜二つの形の唇から発せられた。
いや、唇だけではない。唇を含む顔立ち、身長、身体の体形までもが鏡合わせのようにそっくりだ。
辛うじて髪型が多少違い、ローゼンタールのリンクスに支給される制服の装飾が一部異なっていることなどで見分けがつけられる。
だが、逆に言えばそれが無ければ、双子が入れ替わってもよくよく観察しなければ決して分からないだろう。
しかもそれは、一級品といっても過言ではない美しさと優雅さを兼ね備えていて、且つ磨き抜かれていた。
そこに美しい振る舞いが合わされば、それは一つの芸術品だ。生きた美しさという概念。あるいは、誰もが夢見る美しさの偶像(アイドル)。
傍から見ることさえおこがましく感じるような、そんな隔絶した美しさをたたえている。
だが、アマツミカボシは決してそれらに惑わされることはなかった。それくらいの精神的な耐性はある。これは前世から一貫していることだ。
一般に、というと失礼かもしれないが、日企連世界においてリンクスというのは一癖も二癖もある人間が多かった。
そんな中において、安定した実力と人間性を持ち、尚且つ企業に従順というのは中々にいなかった。
企業がその権力に任せてリンクスとなりうる人材を探していた世界においても、やすやすと手に入れることができるものではなかったのだ。
829: 弥次郎 :2021/08/05(木) 21:29:45 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
だから、国家解体戦争の裏の面などを知っているにしても、表向きは従順だったアマツミカボシの評価は高かった。
極端な性格ではなく、面白みがないが、逆に言えば非常に安定した精神性を持つ。ほかのリンクスなどとも関係は良好。
さらに戦後のオルカの一員としての働きも見事であり、四大企業の求める模範的なものを備えていたのだ。
そんな彼は、常にその余裕を備えていたし、誰に対してもその余裕から友好的に接するものだった。
だから、出合頭に「げ」などということはほとんどない。そんな振る舞いは清廉さに欠ける。
あるとすれば相手が極端な性格の持ち主であるとか、あるいは例外的に苦手な人間とあった時である。例えば、ランク0とか良い例だ。
そして、今目の前にいるリンクス二人は後者に該当した。そのリンクス二人、いや二人組のリンクスの名前を、アマツミカボシはよく知っていた。
「オデットとオディール……ローゼンタール所属の有名なリンクスのお二人がこちらに来ているとは思わなかったです」
「覚えていただいているようで何よりですわ」
「ええ、まったく。散々私たちを弄んで挙句に捨てて、忘れてしまったかと思いましたわ」
悲しそうに目を伏せて大仰に振る舞う双子の姉妹に、アマツミカボシはこみ上げた悪態を咄嗟に飲み込む。
「言い方に語弊がありますね。交流会でお二人と戦って勝利して、その後は会う機会が減っていただけの事でしょう?」
務めて丁寧に応対する。正直なところ、この双子姉妹は苦手だ。
確かに美しく、気高く、さらにはリンクスとしての実力もある彼女らだが、それはあくまでも表面の姿。
その中身は、かなりねじ曲がった性格がある。人づきあいが出来ないとか、協調性が無いとかそういうのではない。
繰り返しになるがそんな人間ならばリンクスになれない。しかして彼女らは必要な素養を持ったうえで、愉快犯的で小悪魔的だ。
そのくせ、気に入った相手には、揶揄ったりあるいは普段は人を寄せ付けない態度をしておきながら突然無防備な姿を晒し翻弄してくる。
それが彼女たちなりの愛情表現というのは分かるが、どうにも慣れてはいけないという感じがするのだった。
思い返せば、彼女らとの付き合いは養成課程の段階から始まっていて、その時から今のように翻弄されていたような気がする。
(体よく押し付けられたとも言うんだけどな…!)
周囲はそんな彼女らを知ってか知らずか、アマツミカボシを彼女たちのおもちゃとしてに差し出したのだ。
どちらかといえば杓子定規な、柔軟さに欠ける真面目な性格であるアマツミカボシとの相性はある意味ではよく、ある面では悪い。
少なからず、彼女らと付き合うことはアマツミカボシの中にあった固着した考え方をほぐすことにもつながっていたのであるし、悪くはない。
それに、結果的には彼女らを知ることにもつながった。
彼女らが「そういう」環境で育ってしまったが故の性格であり、社交界などでは必要なものだったことに。
それを知った時は、欧州の上流階級とは相変わらずらしいと思ったものだ。
ともあれ、だ。アマツミカボシは回想をそこそこにして意識を現実に戻す。
「まあ、お二人に遭えなかったのは少々さみしくはありますが」
「あら釣れないことをおっしゃいますね、寂しいだけとは……」
「全くですわ。あなた様と私たちの仲だと言いますのに…」
「あくまで事実を述べたまでですよ、フロイライン…」
830: 弥次郎 :2021/08/05(木) 21:31:03 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
クスクスと笑う彼女らに隙を見せないように注意を払う。
決して悪人ではないが、彼女らと付き合うのは控えたい。
それがアマツミカボシの偽らざる本音だ。ただし、彼女らを嫌っているとか、憎んでいるとか、そういうものではない。
リンクスとしての実力は評価しているくらいだし、戦場においての活躍は聞き及んでいて、それは素晴らしいものだと思っている。
だが、それはそれ。適当にあしらって退避しようとアマツミカボシは動きを作ろうとした。
しかし、彼女らはそれを読んでいたのか、逃げられる前に一気に距離を詰めた。
纏う香水の香りがほのかに鼻腔を刺激し、美しい碧眼の視線が自分を囲い込み、まるで檻に閉じ込められたかのような錯覚を抱かせる。
そしてそのまま、魅惑の声による二重奏がアマツミカボシの耳を柔らかくほぐしていく。
「私たちの鼻っ柱を圧し折っていただけたのは、あなた様が最初でしたのよ?」
「ええ、オディールの言う通り。
ジェラルド様やレオハルト様の様な先達には負けておりましたが、同期ではほぼ負けなしでしたから」
「殊更、私たち二人同時に相手取って圧倒して勝利したのは…」
逃げる前に距離を詰められた。
「「あなた様が最初」」
「……」
それは事実だ。当時の養成課程のリンクスたちの中でも飛びぬけたリンクスの中に彼女達はいた。
勝てたリンクスがいなかったわけではない。彼女達も先達に揉まれ、鍛えられて、抜群のコンビネーションを獲得したのだ。
それに対して、真っ向から自分は激突して、撃破した。
その時のことは今でも覚えている。正直、苦戦した。身体が過去の経験に対して不足があり、追従できないことなどもあって、苦労した。
前世と今の世の違い、全盛期と、全盛期に向かって成長する不安定な時期の差異に由来する感覚のずれ。
それは肉体面だけでなく、搭乗機であるネクストの方にも存在していた。今の世界の方が性能が圧倒的に上で、かつての感覚のままでは性能を発揮しきれないのだ。
そんなことをはじめとしたネガティブ要素はいくらでもあったので、苦労した、と認識している。
だが、そんなことは彼女らにとってもどうでもよいらしい。それ以来だ、彼女らに執着されるようになったのは。
気が付けば、手がそれぞれオディール、オデットの手に握られている。白磁の様な肌の手が、自分の手をからめとっている。
「責任を、取っていただけますよね?」
「私たちの、ジークフリート様?」
美女二人の顔が、間近に迫る。
五感のほぼすべてが、彼女達で占められてしまう。
理性が静かに溶け出すような感覚が苛む。
だが、早々に飲まれはしない。鍛え上げられた理性は伊達ではない。
深く深く呼吸を一つして、腕に力を籠めた。
「……冗談はよしていただきたい、白鳥と黒鳥のフロイライン」
すると、案外あっけなく手はほどかれた。
彼女らも、本気で迫ってきたわけではないようだ。どこまで本気なのかは分からないが。
ふっとため息を一つついて意識を切り替えると、彼女らに問いかけた。
「それで、お二人もやはりヴォルクルスへの対処のために?」
「その通りですわ」
「既に企業も、日企連領内のゲートの存在と、その先に出現した邪神ヴォルクルスの存在を重く見ております。
ただでさえ戦力が割かれている以上、日企連としても他企業に協力を仰ぐのも当然と言えますわ」
なるほど、危機感を抱いているのは日企連だけではなく、その日企連に恩を売っておこうと考えるのも当然か。
しかし、ヴォルクルス出現の報が出てからかなり短い期間で派遣されてきたことも確かだ。いや、彼女らだからこそ、か。
ローゼンタールの抱えるリンクス戦力でもトップのレオハルトやジェラルドはその地位に関係してどうしても動きが鈍い。
831: 弥次郎 :2021/08/05(木) 21:31:36 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
ただ、鈍いというか、動きが遅くならざるを得ない、というべきか。彼らは企業の中でも、そしてある種の貴族社会でも地位を持っている故に柵が多い。
その点で言うならば、彼女らは比較的柵が小さい方だ。戦力的に見ても、単独でも強く、尚且つ二人組ならばなおのこと強いリンクス。
ヴォルクルスの強さを鑑みれば、生半可なリンクスでは数合わせにしかならないというのは想像に難くない。
そんな大激戦となる場所に派遣するという条件に、これほど合致しているリンクスも早々にいないだろう。
「ヴォルクルス討伐において、あなた方に力を貸していただけるのは大変ありがたいことですね」
「あら、そう固くなる必要はなくてよ?」
「全くですわ。お恥ずかしながら、欧州の企業は借りばかりで、返済しないとなんとももやもやするものですから」
揃って嫣然と微笑む彼女らは、しかし、欧州企業がその他の地域の企業に借りを作りっぱなしであることを憂慮していた。
嘗ての話、自分達がまだ幼い頃、欧州はWLFの脅威にさらされた。コジマが蔓延し、あらゆる兵器が投じられたこの世の地獄。
その欧州が急速に立て直しが出来たのも、比較的無事であった地域の企業や国が協力したところが大きい。
だが、それ故に欧州企業は高い借りを抱えている状態だ。それこそ、未だに尾を引くほどに。
だから今回のような事態は、ある意味で欧州企業にとっては渡りに船的なところもあるのだろう。
不謹慎などと言われるかもしれないが、彼女らも彼女らの事情があり、考えがある。
まだ彼女らは自分と同じ20歳を超えて少し経ったばかりで、そんな若い身に追わせるにはあまりにも重くはないかと思う。
(まあ、客観的に見ればそれは僕自身と同じだろうけども…)
主観年齢と客観年齢が違うのであるが、客観的に見てアマツミカボシもまた彼女らと同じ区企業の看板を若くして背負っている。
とやかく言うことはできないし、そんなことを言っているほど余裕があるわけではないのだ。
「ともあれ、お二人の助力に期待します」
「ええ、期待していただきますわ」
「報酬は弾んでいただきますわ」
綺麗に、そして華麗にカーテシーをしておどける彼女らに、ようやくアマツミカボシは苦笑を浮かべた。
が、その油断はある種命取り。直後、双子には悪魔の尻尾が生えた、ように見えた。
浮かぶ笑みは小悪魔のそれで、先程までの淑女然とした態度は霧散する。しまったと思うが、もう遅い。
ほどいたことで稼いだはずの距離が瞬時に狭まり、アマツミカボシは両側からしっかりと固定されてしまう。
「ではホシ?」
「エスコートをお願いしてもよろしくて?」
「私たち、少し休憩がしたいの。楽しませて下さるかしら?」
「私たちの間ですもの、喜んで受けていただけるわね?」
アマツミカボシは頷く以外の選択肢を持たなかった。
これは、特地であった僅かな幕間の一幕。二羽の白鳥に魅入られてしまった、北極星の神の名を持つリンクスの話。
832: 弥次郎 :2021/08/05(木) 21:32:08 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
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最終更新:2021年08月07日 08:59