741: 陣龍 :2021/08/15(日) 20:17:38 HOST:124-241-072-201.pool.fctv.ne.jp

『 伝説は一度しか起きない故に 』



 壮絶と言うより他無い、類稀なる一着争い。地鳴りの如き大歓声。湯気立ちかねない程の熱狂の渦。


「セイちゃん凄い!セイちゃんなまら凄いべー!!よーし、私もトレセン学園に戻ったらトレーニング
けっぱるべー!」
「スぺちゃんらしいですねー…でも、トレーニングよりも、やる事が有りますよね?」
「……えっ?」
「げ・ん・りょ・う……食事制限と一緒に、しっかりしませんとねー?スぺちゃん?」
「え、えぇっと……そうだ!スズカさん!」
「ごめんね、スぺちゃん。減量、応援しているから。並走なら、一緒に出来るけど……」
「ふぇぇぇえええん……私のバカぁぁぁぁ……」


「……最高のレースだったな、タマ」
「そうやったなぁ……オグリの喰いっぷりに目が行ってた観客も、皆レースの方に集中してたしなぁ…で、
オグリは一体何を取り出しとるんや」
「食後のデザートのアイスだ。タマも食べるか?」
「こっちが胸やけしそうな位あんだけ食べて置いて未だ食べるんか!……チョコアイス貰うわ!おおきにな!」
「まぁまぁ、うふふ……」


「……うわぁぁああーー!ネイチャたちズルいよー!ボクも、ボクもあのレースに出たかったよおぉぉぉー……!!」
「……そうだな、テイオー。これほどまでに感慨無量になったレースは、私の人生でも初めてだ。歓天喜地、
本当に…本当に、素晴らしいレースだった……!」
「……ブライアン。気持ちは分かるがその高ぶりを抑え込め。威圧感で地面が割れそうだぞ」
「無理な事を言うな。ウマ娘ならば、このレースを見て震えない訳がない」


「たーっはっはっはっは!いやー、今回ばかりはウマ娘歴始まって以来の熱いレースだったぜ!」
「かっけー……ホントにカッケーレース!!」
「ホント…良いレースだったわね……マックイーンさんは負けちゃったけど」
「あぁ、気にするこたぁねぇぜ!後でこのゴルシ様特製『超メガ盛りペガサスグローバルエクスプレスパフェwith
シュガー&チョコレートキャノンカスタム』を食べさせてやればさ!よーっし、行くぜお前らー!!」
「えっ……そのパフェって……」
「……確か、濃厚クリームや果物、アイスにチョコレートとかをクリスマスツリー位に盛り付けたヤツじゃ……」

742: 陣龍 :2021/08/15(日) 20:19:21 HOST:124-241-072-201.pool.fctv.ne.jp

「……思わず観察を忘れて見入ってしまったよ。私が目指す可能性の向こう側……その一端を見れた気がしたよ。
君はどう思……デジタル君?」
「…………」
「……立ったまま気絶していますね。石像見たいです」
「……カフェ、私はどうすれば良いと思う?このまま立ったまま放置しておくと、何かの拍子に倒れて頭を打ちかねない」
「……起きるまで膝枕でも、していれば良いのでは」



 観客席で、幾多のウマ娘達が今回のレースに興奮し、奮い立っている中で。


「……は……はははっ……」
「……はぁ……はぁ……」


 この『大勝負』を演出した二人のウマ娘達は、ゴール坂を駆け抜けた直後に、揃って芝の中に倒れ伏していた。



「だっ……大丈夫、二人とも……?」
「ネイチャちゃん……大丈夫……?」


 二人を心配する、共にこのレースを走ったウマ娘達が駆け寄り、助け起こすも、二人とも荒い息を吐くだけでまともに
返答をしなかった。否、出来なかった。彼女らは唯々、身体が酸素を求めるがままに呼吸するのみで何事かすら考える
余力も無い。自分の限界を遥かに超過したパフォーマンスを、文字通りの意地と根性の正しき使い方で発揮し切った
反動であった。


「……はぁー……疲れた。セイちゃんはもう限界を超えちゃいましたよ」
「……ホント……私、走り切ったん、だよね。あ、ありがと、起こしてくれて」


 多少なりとも息が整い、礼を言いつつ立ち直すセイウンスカイとナイスネイチャ。限界突破した勢いそのままに倒れ伏した
二人であったが、特に怪我なども無く元気なのは幸いであった。


「お見事だったよ、二人共。……俺達の負けだ」


 そんな彼女らに話しかけたのは、セイウンスカイとナイスネイチャと類まれなデッドヒートを繰り広げたゴーストウィニング…
その騎手の男性だった。

743: 陣龍 :2021/08/15(日) 20:23:13 HOST:124-241-072-201.pool.fctv.ne.jp


「あぁ、どういた…って、いやいやいやいや、負けってまだ決まった訳じゃぁ……」
「いや、オレとゴーストウィニングの負けさ。……ウィニングは、デビュー戦の時から何時も一着になると真っ先に観客席の近くに
行ってタップダンス見たいに足踏みするのさ」


 その事は、ゴーストウィニング対策の為にレースを多数見ていたウマ娘達も知っていた。一着でゴールするが速いか、他馬の邪魔に
ならないようにしつつファンから『ウィニングダンシング』等と俗称されたステップは、レース中の圧巻の走りと対照的に何処か子供っぽい
仕草であった。最初の頃は騎手に戻るように何度も指示されていたが、数レース後には諦められて好きにさせていた姿も印象に残っている。

 そのゴーストウィニングが、観客席に向かおうともせずに、じっとセイウンスカイとナイスネイチャを見つめていた。


「……見なよ。君たちの勝利の証明書。中山競馬場2500m、新記録を」


 そう言った騎手の男性の声に、反射的に着順掲示板を見たウマ娘達。





「……なに、あれ。掲示板、壊れたの?」
「見た事無いんだけど……この着順差。それに、タイムの数値が……」
「宇宙から来た人らの技術を元に、写真判定をもっと正確に出来るようになった結果が『アレ』なんだ。まぁ、こんな僅差の決着とか、競馬史上初
だろうけどね」


 見た事のない表記に茫然としているウマ娘達にネタ晴らしだけし、今日ばかりは観客席側に行かないゴーストウィニングをターフからパドックへ
戻させる騎手。他馬もゴーストウィニングの初めての行動に目を白黒させたり、群衆の大歓声に我を取り戻したウマ娘達が手を振る等のファン
サービスを始めたのを尻目に、誰よりも早くターフから姿を消していった。


  ┌――――┬――――┬――――┬
  |  中山  |   5R   |    確定  |
  ├――――┼――――┼――――┼
  |   Ⅰ   |   ①   |         |
  ├――――┼――――┼ >1㎝ ┼
  |   Ⅱ   |   ⑩   |        |
  ├――――┼――――┼ >1㎝  ┼
  |   Ⅲ   |    ③   |       |
  ├――――┼――――┼  >4  ┼
  |   Ⅳ   |   ⑦   |        |
  ├――――┼――――┼ >2   ┼
  |   Ⅴ   |   ⑨   |        |
  ├――――┼――――┼――――┼
  |   タイム  |   2:25.0  |        |
  ├――――┼――――┼――――┼



 過去、ゼンノロブロイ(競走馬)が打ち立てた有馬記念のレコード記録【2:29.5】を4秒以上も縮めた大記録。それが、セイウンスカイが成し遂げた、
このレースの決着点だった。

744: 陣龍 :2021/08/15(日) 20:25:20 HOST:124-241-072-201.pool.fctv.ne.jp




「……悔しいな、ウィニング」


 通路の中、騎手の静かな問いかけに小さな嘶きで答えるゴーストウィニング。何時もは一着を獲った帰りは
機嫌良く、踊るかの様に闊歩しているのだが、今日は前だけを見て歩いていた。


「25戦無敗。世界競馬、芝の頂点に座する最強馬。そんな馬が初めて土を付けられたのが、まさかあんな
可愛らしい女の子たちとはな」


 人の言葉を理解して居ると言われ、そして何処ぞの金色一族の如き気性の荒さとは正反対の人懐っこさを持つ
ゴーストウィニングは、自分の騎手に何事か言われれば必ず楽しそうに何かしら返すのだが、今は無反応だった。


「……次は、必ず勝つぞ。ゴーストウィニング」


 騎手の言葉に立ち止まり、振り返り【当たり前だ】と言うが如く鳴いたゴーストウィニング。満足気に笑い、ゴースト
ウィニングの首元をポンポンと叩く騎手。彼らはその『次』が永遠に来る事は無いなどと言う残酷過ぎる未来がすぐ
傍まで来ていたとは、競馬場に居た者全員を含めても、誰一人として全く想像だにしていなかった。






「……うーーん……暇ですねぇ」
「そーだねぇ……」


 ほぼ同着かつゼンノロブロイ(競走馬)の記録を塗り替えた菊花の青空と元ブロンズコレクターの優駿。その二人の
ウマ娘達は自分達の世界の流儀の通りに、レース後のウィニングライブをする為に待機室に居た。居たのだが……


「なーんか、やけにゴタゴタしてますよねぇ。既にこっちでも何度もウィニングライブはやっていて、そう手間取る事は
無いと思うんですけど」
「私もそう思うけどさー……だからと言って何か出来る訳でもないしねー。ま、お茶でも飲んでゆっくり待ってましょー」


 本来ウィニングライブを実施する時間から既に30分以上も経過していたが、部屋の外が妙に騒がしいが一向に控室に
係員が呼びに来る気配が無く、少女たちは何もする事が無く手持ち無沙汰だった。年頃の少女らしく初めはスマートフォンを
弄ってたりしたのだが、暫くして飽きた為に、今は椅子に座って何をするでも無くのんびりしていた。

745: 陣龍 :2021/08/15(日) 20:26:26 HOST:124-241-072-201.pool.fctv.ne.jp


「……そーいえばさ、スカイって今度ゴーストウィニングさんに挑まれたら、もう一回やる?」
「えー?それ聞きますー?……ま、やるんじゃないですかね。気が向いたら、ですが」
「へー、つまりはやるって事じゃん。良いねぇー、若いって言うのは」
「いやいや、ネイチャさんも歳殆ど変わらないでしょうに」



 始めは学園生活での日常から最近のレースについて、そして最後には先のゴーストウィニングに関する
厳かな闘志を燃やしている話。そんな適当な雑談で暇を潰していた時だった。



「スカイさん!ネイチャさん!!」
「うぉ?!き、キング!?ちょっと、入る時にはノック位してよ!」
「うわ、びっくりした……どうしたのさ、そんなに血相変えて」



 ノックも前触れも無く行き成り扉を蹴破らんが如く入室した、レジェンドホース杯短距離走部門優勝者の
キングヘイロー。普段は淑女然とする事を心掛けている彼女では普段見せ無い様な荒々しい表情と行動に
吃驚するセイウンスカイとナイスネイチャだったが、それに構わずにキングヘイローが言い放った言葉に
強制的に思考を停止させられた。


「今日のライブは中止よ!先程、ゴーストウィニングさんとその騎手さんが襲われて殺されたらしいの!
万が一の事を考えて、トレセン学園の生徒は全員警察官の護衛付きのバスで学園に戻る事になったわ!!
今すぐ準備して!!」


「……はい?」
「……え?」

746: 陣龍 :2021/08/15(日) 20:30:56 HOST:124-241-072-201.pool.fctv.ne.jp
|д゚) ネタバレ:此度の事件(又は事故)に関しては、先に上げていたウマ娘保護とか抜かした自称動物哀誤だか保護団体は関わっておりません
    (動物虐待や不法侵入容疑、また動物密輸入容疑で怒鳴り込まれてそれどころじゃ無かった)

|д゚) 次回はゴーストウィニングとその騎手襲撃事件の顛末、そしてその前に194氏世界に置ける所謂ツイフェミらの状況考察を
    やって行きたいなと思っております

|д゚ ) (勝手に世界観考察する気になっている事を)お許し下さい194氏様!()

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最終更新:2021年08月17日 11:03