803 :ヒナヒナ:2012/02/09(木) 23:06:36
○おまけ ―数学者チューリング―
―1945年×月×日 大日本帝国
「ここが日本か……。数学会ではあまり目立った活躍は無いが、暗号解読を先んじたし、
黄昏の中に居るわが大英帝国の変わりに、この国が新たな世界帝国となるのだろうか。」
数学の学会に出席するために、日本に来ることとなったアラン・チューリングは、
そう船上で呟いた。
彼は史実ではイギリスの暗号解読機関のリーダーであったが、
この世界ではイギリスが財政難から人材を囲い損なったため、
まっとうな数学者としての人生を送っていた。
もっとも、大学という自由な環境は彼の自重を綻ばせ、
史実では晩年まで隠していた同性愛傾向について噂されるようになっていた。
そんな嘲笑を含んだ視線から逃げるために、(大英帝国では同性愛は犯罪であった)
遠く日本の学会に参加することにしたのだ。
この遠くは慣れた異郷の地なら自分の噂を知るものは居まい。
そんなことを考えながらチューリングは東京帝国大学の赤門をくぐった。
学会初日を終えたチューリングは、日本に1週間程度滞在する予定となっていたため、
首都東京の散策に出た。
外に出てしまえば白人であること以外はそんなに気にされないし、
(一般人から見れば、フィンランド人もイギリス人もみな白人であった。)
イギリスの大学の様にクスクスと陰口を叩かれることも無い。
たまに、職務質問してくる警官に、ビザとパスポートを見せるだけで済んだ。
そんな感じでチューリングは日本滞在をしていたのだが、
なにかポップな絵柄が書かれたポスターを掲げる書店を見つけ、
物珍しさから寄ってみることにした。多くは春画であったが
店の奥の小さなコーナーにある本を見つける。
「こ、これは……」
―一週間後
チューリングが帰国する前日、彼に張り付いていた日本の防諜組織は、
彼が学会に参加している間に、彼の下宿に忍び込み荷物を調査していた。
夢幻会では彼が暗号解読者(史実)と言うことを知っていたので、
チューリングはマーク対象としてリストアップされていたのだ。
暗号関係のデータを持ち出されていないか、などを
その手のプロが探していたが、ある人員が不審な物を発見した。
大型の旅行カバンの底が素人細工で二重底になっており、
そこにカバーを被せられた書籍がしまいこまれていたのだ。
これは大変な物を見つけたとばかりに、小さい声で同僚に声を掛けて、
その書籍を手に取り、痕跡を残さないように開いてみた。
「……。」
防諜関係者達は何も言わずにきれいにカバーをかけ直し、
元あった場所に戻した。
部屋の主が戻る前に、無く立ち去る防諜人員達は何故か非常に疲れた顔をしていた。
最終更新:2012年02月10日 00:09