381: 弥次郎 :2021/08/20(金) 00:14:32 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

憂鬱SRW ファンタジールートSS「Course to Tir na nOg」3



「……といったところかしら」
「にわかには信じがたいことではあります」

 ターニャは率直な感想を述べた。
 エーリカもさもありなんと頷くしかない。
 ウィッチを含む一個中隊の、指示を無視しての独断専行と暴走。そして、それによって生じた膨大な被害と戦線への影響。
 それは単純に戦術的な範疇ではなく、戦略にまで及びかねない事態だったのだ。
 被害を受けた陸軍の存在もあるが、同時にその時に指揮官であった人物が重傷を負うことにもつながり、指揮系統が大きく混乱したのだ。
そのまま軍事定義上の全滅ではなく、文字通りの全滅とならなかった方が奇跡的であり、急遽駆け付けたウィッチ一個中隊の存在がなければそうなっていたであろう。

「そして、その元凶となったのが……悪名高きメアリー・スー、というわけ」
「メアリー・スー……?」

 ターニャはその名前に聞き覚えがあった。「前回」の記憶に関わるかもしれない、と思い出しながらだったので苦労したが思い出せた。
 しかし、これはかなり個人的なことだから、顔には決して出しはしなかった。
 そして、同時につながる。つながらない方がおかしいレベルだ。

「なるほど、だからこそ、アンソン・スー大佐が誹りを受けているのですね?」
「そういうこと。
 所属元はメアリー・スーがリベリオンで、アンソン・スー大佐が当時はスオムス。
 二人は親子ほど離れているけれど、血縁関係にはなくて、名字はたまたまの一致。
 情報が錯そうすれば、両者が結び付けられてしまうのも無理からぬ話よ」

 嘆息するエーリカだが、ターニャは別に同情もしなかった。
 『あの』魔導士と同じ人間が無能をやらかして被害が出たことは確かに憂慮すべきこと。
 だが、それはそれとして受け止めるべきで、個人についてはそこまでやることか、と思うしかない。
 第一、そんな危ない人間を重要なところに配置した時点で間違っているのではないか、というのが率直な感想だ。
今更誰かを悪いモノ扱いして攻撃しても、過去は何ら変わることはないのだから。

「愚かしいことですね……重要なことは、もっと別にあるでしょうに」
「ええ。その戦訓については各国に共有されているし、今ではウィッチも魔導士も審査を受けるようになっているから、少しは安心できるわ。
 無駄に騒がず、蒸し返さず、あらぬ噂が沈静化するまで待つしかないと思うわ」

 最も、それは長くかかるだろうというのは疑いようのないことだ。
 なまじ、軍事的な失敗にも絡んでいることなので、メアリー・スーのことは公式の記録にも残り続けるだろう。
まして、国家の垣根を超えた統合軍においての失態なのだから、それは単独の国の内側に収まることではない。
今後のことはわからないが、少なくともネウロイとの戦いが続く限り、ウィッチの暴走事件というのは語り継がれることは請け合いだ。
それ故に、おそらくアンソン・スー大佐はあらぬ誹りを受け続けてしまうことになるだろう。全く、ままならないとエーリカは嘆息するしかない。

382: 弥次郎 :2021/08/20(金) 00:15:56 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

 それに加え、もう一つの問題が浮上した。今更ではあるが、ネウロイとの戦いにおける戦力の見直しをせざるを得ない問題だった。
 即ち、ウィッチについてである。

「おかげで、ウィッチの信頼性まで揺らいでしまったわけでありますか……」
「ええ。魔導士の育成が急がれたのも、ウィッチに依存した体制を変えたいという意志でしょうね。
 最も、それは同じ問題を生み出すことにしかならないわ」
「結局はミスを犯すのが人間というわけでしょうか?」

 ターニャの発言に、エーリカは頷くしかない。
 そうなのだ。結局、魔導士がウィッチと違うところなどほとんどない。
 メアリー・スーのようなミスや暴走を犯す魔導士が現れないという保証など何もないのだから。

「だとするならば、教育や訓練でそういった人間は排除すべきでしょう」
「排除……大きく出たわね」
「人的資源に限りはあります。それならば、求められる魔導士・ウィッチ像に適合し、前線にそういった兵士を送り出すことこそ肝要かと。
 加えて、前線で魔導士たちを効率的に動かすことを前提に、部隊単位での組織編成や運用を考えなくてはならないでしょう」
「妥当なところね。今回の出向人員に魔導士が多いのも、ひょっとしたらターニャの言うような組織的運用のことを考えてのことかも」

 資源(リソース)と人間を数えたターニャの言い方に少し驚いたエーリカだったが、その理論は極めて合理的だった。
ウィッチ以外に兵科ができれば、前線ではそれに対応するために色々とやらねばならないことが増えてしまう。
これまでの集団運用では不都合が出てくるであろうし、柔軟な変更が必要だろう。
そういうことを考えられる彼女は、見た目にたがわず部隊の指揮官などが適役かもしれないとエーリカは思う。
彼女の強い意志や技量などと合わせれば、年齢と見た目以外は適切に見えてくる。

(儘ならないものね)

 だが、実際のところは彼女は自分とそう年の変わらない少女で、ウィッチでしかない。
 本来ならば戦場に不釣り合いなほど幼いというのに、ウィッチというだけで最前線に放り込まれている。
 それでも、自分のできることを必死にやろうとしている姿は応援したくなるというものだ。
 そう思いつつも、エーリカはカップにわずかに残るコーヒーを一気に飲み干した。そろそろ時間だ。

「私はそろそろ戻るわ。バディのクラーラが元気になったか見に行かなくちゃ」
「はっ!貴重なお時間を頂きまして感謝申し上げます」
「いいのよ、私も楽しかったし。
 あなたもウィッチならティル・ナ・ノーグに配属になりそうだし、その時によろしくね」
「はい」

 何か売店によってクラーラに買って行ってあげようか。そんなことを思いながらも、エーリカは有意義な時間を過ごせたターニャと別れた。
 多分、これから行く先でも一緒に過ごすことになるだろうという確信を持ちながらも。

383: 弥次郎 :2021/08/20(金) 00:16:31 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
いよいよエネラン戦略要塞が近づいてまいりました。
次回はそこらへん含めて描こうかなと思っております。



おや、リーゼロッテさんの様子が……?
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最終更新:2023年11月03日 10:05