379: 弥次郎 :2021/08/28(土) 19:12:37 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW ファンタジールートSS「Course to Tir na nOg」6
- F世界 ストライクウィッチーズ世界 現地時間1942年9月 大西洋上 カールスラント所属貨客船「シャルンホルスト」展望デッキ
リーゼロッテ・ヴェルクマイスターによる「試し」はそれから1時間余り継続された。
空気中に尋常ではない魔力がばらまかれていることに気が付けるか、その中で違和感のある展望デッキにたどり着けるか、そして光学術式を見破れるか。
極めて単純ではあるが、魔法を扱うウィッチや魔導士としては気が付いてしかるべきものばかりだった。
「元々は、私がこの船に乗り込んだ時点で気が付ければ最高点が付いたのだがな」
リーゼロッテは最初の合格者3名の前でそんなことを言った。
曰く、シールドの応用で光学偽装・遮音のステルス結界を張り、このシャルンホルストに直接乗り込んだのだという。
それでも、意図的に完全に遮断しておらず、気が付こうと思えば気が付けることだという。
そんなバカな、と疑ったターニャではあったが、事実としてリーゼロッテはストライカーユニットを持ち込んでおり、飛んできたことが窺えた。
ついで、エーリカがウィッチのシールドがそのように転用できるとは聞いたことがないと疑問を呈した。
これに関しては目の前で姿も音も消して見せることで証明としてのけた。
「なんていうでたらめ……」
普通、ウィッチのシールドというのは防御に使うものという考えがある。確かに「何かを遮断する」という意味では使えるかもしれない。
だが、それを使って姿を消したり音を隠したりするなど考えつきもしなかった。
「これについては扶桑での研究過程でも指摘したことだな。
魔法の使い道は案外広いし、ウィッチにはそれだけのポテンシャルがある。にもかかわらず、活かしきれていないとな」
ついでに言えば、その隠匿シールドを見破る技術もできている、と付け加えるとエーリカはノックアウトされた。
なんだそれは。もはや少数のウィッチが持つような固有魔法を再現しているじゃないか、と。
それが普及することによる戦力的価値はとんでもないことになる。何しろ、固有と呼ばれるほど希少で強力な能力なのだから。
だが眼の前の少女はそれをこともなげに実行してのけたという。いったい、どのような人間なのかと俄然興味も湧いた。
もちろん、自分の隣で感嘆しきりのクラーラには少々頭が痛くなったのだが。
「ともあれ、気が付ける人間は間違いなく能力がある。故に、より磨き上げる素質がある。
気が付けなかった人間はそれまでということにすぎない。だから、使えるようにする。それだけだな」
そして、合格者3名はその合格証となるバッチを渡されて帰されることになった。
これを漏らさずに、あとは到着を待てとの指示がなされたうえでだ。
「……想像以上に、怖い人間だな」
自室に戻る途中で、ターニャは思わずつぶやくしかなかった。
本能的に怯えたくなるような、そんな人間。いや、本当に人間であろうかと疑ってしまうほどに。
かつては幼女の姿をした化け物と言われた彼女が思わず怯える人間。無意識に、ターニャは体の震えを堪えた。
380: 弥次郎 :2021/08/28(土) 19:13:24 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
結果として、リーゼロッテによる「試し」を突破できたのはシャルンホルストに乗船していた面々の中ではウィッチが8名、魔導士で4名となった。
総勢300名余り、ウィッチや魔導士だけでも200名がいた中でも異変に気が付いたのは1割にも満たない数という有様であった。
とはいえ、それは試験を行ったリーゼロッテからすれば想定内の話だった。
よほど感受性が高いか、周囲の変化に鋭敏なウィッチでないと気が付けないものだし、それに劣る魔導士はもっと気が付けないわけだ。
シャルンホルスト以前の船舶、例えばブリタニアからの貨客船に対して行ったときも同じくらいの人数で同じ程度しか合格者が出なかったのだから。
逆に少なかったのはロマーニャからの出向組だ。まあ、少なくても気が付けるウィッチが混じっていたことは非常にうれしかった。
だが、ロマーニャからの魔導士たちは、虚像として出した幼女を熱心に口説き始めるものだからたまったものではない。
いや、魔導士だけでなくウィッチの中にも幼女に対して異常な愛情を----ゲフン。
扶桑皇国に関しては自分が扶桑にいた時に選抜した人員が含まれているのでまあ良しとする。
そして、ガリアとオラーシャに関しては数はいたが微妙といったところか。
(ともあれ、最後のカールスラントとスオムスが終わったなら選抜はほぼ完了か)
ウィッチだけで世界から集めて試験をパスしたのが50名余、魔導士で30名弱。
予想以上に少なかった。やはりというか、普段から魔法に触れているかいないかで感受性には大きな差が生じている。
やはりというか先天的な素質がほぼすべてを決定づけているに近い状況であり、これでは限界にぶつかるだろうと想像がついた。
扶桑皇国でこの世界の歴史についても調べていたが、これほどの物量を大々的に展開する怪異にぶつかったことがないこともこれを後押しているのだろう。
(それで十分だったから、足りない素養や才覚を後押しする技術が乏しい。
基本的に裏の世界でバチバチやり合っていたC.E.と比較するのもおこがましいほど「平和」だったのだろうな)
そう考えれば、魔導士が促成の戦力にしかならず、尚且つ魔導士の装備というのが急造品にしかならなかったのもうなずける。
無論のこと、エースや精鋭を集めた部隊の運用で質で数をカバーする方式ならば戦い続けることもできるだろう。
既存の兵科と合わせてネウロイと戦っているということも知っているし、間違ってはいない。
(だが……問題は相手がそれ以上に強いということか)
実際、自分が開発に携わったエーテル駆動の魔導型PS「MPF
シリーズ」も大型相手になれば厳しくなるかもしれない。
確かにウィッチは優れた戦力だが、ネウロイが急速に進化や発展しているのに追いつけるかどうか。
それこそ、従来のウィッチを超える個人の戦闘力を持つ集団を、魔導士並みに数をそろえる必要もあるかもしれないほどに。
あるいは---もっと別な解決策を探すか。
(もっとネウロイに対抗できる力をつけさせねばならんか……)
きっとそれは自分だけの話ではなく、もっと国家規模での話になりそうだとリーゼロッテは思う。
一先ずは、ティル・ナ・ノーグに集った者たちをスタートにしなくてはならない。目星はつけてあるので、あとは原石を磨き上げるだけだ。
斯くして、
ストライクウィッチーズ世界の戦力は移動戦略要塞「エネラン」に集まった。
人類の反攻の時に備え、彼ら彼女らは牙を磨き上げる雌伏の時を過ごすことになる。
時に1942年9月半ば。人類は、未だ戦いを諦めていなかった。
381: 弥次郎 :2021/08/28(土) 19:13:54 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
Course to Tir na nOgは一先ずこれにて終わり。
次のSSは扶桑皇国でのMPFシリーズ開発の様子でも描こうかと考えています…
最終更新:2023年11月03日 10:09