260: 陣龍 :2021/08/31(火) 17:03:43 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

『 一月遅れのウィニングライブ ~新しき門出は新しき仲間と共に~ 』



「夜の田圃道を散歩と言うのも、中々に趣が有る物ですね、提督」
「赤城さん。一応は任務ですので、余り気を抜き過ぎないのが良いと思います」
「確かに気を抜き過ぎるのも駄目だが、気を張り過ぎるのも良くないぞ、加賀。それに、こうやって
三人で歩くのも何時以来だったか、と言う程だ。少しは楽しんでも良い事だろう」
「提督……そうですね。私も少しは、提督に甘えるのも良いかも知れません」
「加賀さん……何時の間にそんな大胆に……」


 日本列島を巨大化させた神が、フェミニズムと言う棍棒を振り回す者どもを一人残らず『神罰』として
現世から消し去った事が世界に伝わり、連動して世界的にも極度に意固地になった西欧文明圏の
極一部の特定地域を除き『神罰』を喰らいたくないと言う事で水が引くが如くフェミニズムと、伝言
ゲームの結果『神罰』の対象であると誤認された悪性のポリティカル・コレクトネスとの関係性を絶つ
人間が続出し、毎度毎度の如く日本を震源地とした社会的大津波が世界に突撃して行っている中、
神崎島のトップとその愛妻の内二名は、日本国内のとある道で夜歩きしていた。任務がどうのと
言っていたが、三人共親しいと言う言葉では言い表せない程の間柄でかつ目下の者が居ないとあって、
一方は大胆にも片腕に寄り添い恋人結びして歩いている有様だ。


「……しかし、あの『神様』も色々と好き放題にしていますね。行き成り『そろそろ時間切れだから返す』と言う
旨の手紙を送り付けてくるなんて」
「それも何故か一般郵送での送付と言う、神様らしからぬ俗世式の手紙でもあったからな。列島を
大陸化させた時の生命と言い、今回の件と言い、一神教風の厳格さとは何とも違う、日本の神らしい
お茶目さと言えそうだが」


 この三名が夜歩きする原因となった『神様』は、神崎島司令部のみならず、警視庁や総理官邸にも同じく
一般郵送で手紙を送り付けており、手隙だったこの三名のみならず同じく神崎島の艦娘達、次いで警官隊も
通常の警邏するパトカーや警察官を増員して、手紙に付録されていた位置に向かっていた。因みに『神罰』関係で
主に警視庁の刑事や関係者に相当な苦労を掛けた詫びとして警視庁に大量の御神酒と白米、そして何故か
野菜や牛肉等も序でとばかりに手紙と共に送り付けられており、行き成りこんなものを送り付けられて困惑し
頭を抱えた警視庁長官は、考えるのが面倒になった事も有って『神罰』関係の捜査に関わった者に押し付ける、
もとい分散配布して尚余った分で市民参加型の臨時すき焼き兼バーベキュー会を開催して処理している。
尚神様印の食べ物のお陰か白髪や抜け毛、又は脂肪、肌荒れ等に悩んでいた多数の人々がその神様印の
食物を食べた明くる日謎の細マッチョ化や卵肌化、イケメン化等の健康体化や頭髪の復活等する事件が
発生し各所でひと悶着や小さな騒動等が有ったりしたが、その点は無関係なので流す事とする。



「……さて、予告していたのは此処の周辺か」
「そうです、提督」
「さて、一体『神様』はどんな『モノ』を御返し下さるのでしょうね」


 そうして辿り着いた場所は、田圃道から僅かに逸れた雑木林近くの中に有った、特筆すべき事も無い小さい野原だった。
昭和の時代なら、親子がキャッチボールをして母親が夕食だと呼びに来る景色が見えそうな、そんな変哲もない空間。

261: 陣龍 :2021/08/31(火) 17:05:31 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp


「……神々は往々にして大雑把とは言うが、幾ら何でも適当過ぎないか」
「同意です……」
「取り合えず、回収要請を出して置きましょう。その後は、この人達次第でしょう」



 若干の呆れ顔を見せた提督の視線の先には、文字通りに『乱雑な野積み』にされた、
一月ほど行方不明になっていたツイフェミ等と呼ばれていた面々の一部。地獄の餓鬼や
幽鬼の様な様相になっている事も無く、外見上は【取り合えず】まともなようには見えていた。
中身の方はいざ知らず。



「提督、他の地点に向かっていた警官隊や艦娘からも、空き地等に適当に積まれた行方
不明者の塊が複数発見されたとの事です。やはり、【外見上は】外傷等は見られていないとの事」
「ほぼ確実に、内面が『神罰』でやられて居るだろうな……自業自得としか言いようがないが」
「【肉体的な死で逃げる事は許さない】……と言うメッセージでしょうか」
「そうだな。そして同時に、【発狂等で逃げる事も許さない】、と言う事も有るだろう」



 そう言う提督が『乱雑な野積み』にされた一人の目を、懐中電灯で照らしながら見遣ると、
その目には【光】が見られていた。つまりは『正気』と『理性』は残されていると言う事である。
事この状況下になると、いっその事発狂や自殺で現世から逃げられれば楽なのだろうが、
そう言った『逃げ』をさせない様に『神様』が枷をはめ込んでいる事は容易に見て取れた。
深海棲艦との戦争等により、現世から常世に踏み込んでいた者達であるならば、ある程度は
【そう言った事】に気付かなければ色々とやって行けない。



「提督、護送車が到着しました」
「分かった。……さて」


 最早興味も失せた、人間の種の限界まで生き恥を晒し続けて死ぬ未来が確定した愚者達に言い放たれる、別れの言葉。


「現実にお帰りだ、大馬鹿者共。警察と裁判所以外で、待っていた人がどれだけ居るかは知らないが」


 心底からの謝罪は許されない。何故なら『禊』をする事が許されない故に。自死する事は許されない。
何故なら『死を選ぶ』と言う権利など無い故に。何かから身体を傷つけられる事は許されない。何故なら
痛みにかまけて『罪科』から目を逸らさせないが故に。世間から消える事は許されない。何故なら『尊厳』と言う
贅沢は認められなかったが故に。俗世から身を捨て寺社に籠る事は許されない。何故なら『逃亡』は言語道断で
認められる訳も無いが故に。誰かから赦しを受ける事は許されない。何故なら『終わり』を迎える事は許されないが故に。
狂う事・壊れる事は許されない。何故なら『神の怒り』がその自由を砕いているが故に。涙を流す事は許されない。
何故なら『咎人』で有るが故に。

ただただ、延々と、延々と。何処までも、何処までも。人としての生の時間全てを用いた、偏狭的なまでに徹底した、
その者の存在も意義も何もかも全てを【正気にさせたまま】否定し続ける『神罰』のある種残酷過ぎる陰湿、陰険さ。
無限なまでに続けられる『終わり無き終わり』の旅路は、始まったばかりだった。

262: 陣龍 :2021/08/31(火) 17:07:11 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp



「ふーっ……。全く、スカイったらまた速くなってない?」
「んー?そうですかねー?セイちゃん良く分かりませんなー……っと」
「ぜぇー…………はぁー…………ぜぇ…………はぁー…………」
「……ゴースト、大丈夫?」
「……きつい……あたま……つらい……」
「あー……相変わらずセイちゃんやネイチャさんの揺さぶりに面白い位に反応してたからねー」


 ゴーストウィニングとその騎手の復活事件より約一か月後のトレセン学園。外野では何か『神罰』を
喰らった連中が雑に放逐されていたり改めて刑務所にぶち込まれたり何だったりで少々喧しかったり
していたが、そんな事よりもトレセン学園ではサラブレッドからウマ娘になった新しい入学生徒の話の方が
比重を占めていた。


「……鞍上が居ないと、こんなにレースがキツイ物なんだって言うのは、嫌と言う程身に染みて分かった。
やっぱり、ウマ娘でのレース経験が全然足りないなって」
「そうは言っても、この前の模擬レースじゃシービーさんや会長さんにブライアンさんら相手に三バ身差で
勝利してたじゃん。その後の事も有るけど、レース結果その物にも三人共結構驚いていたっぽいけど」
「……あれ、善意が根幹では有っても学園のトレーナーにしつこく勧誘されて頭に血が上っていたから、
正直言って相当恥ずかしいし思い出したくないやらかしだった」
「イラつきで三冠バ衆や日本総大将にサイボーグウマ娘ら全員を纏めて抜き去るとか、ゴーストはホント
規格外だねー。セイちゃんお手上げですよー」
「そのお手上げされている規格外なウマ娘、散々お手上げしているウマ娘に模擬レースで負け続きな上
全然攻略法が見いだせてないんですけども」



 にゃははー、と笑って誤魔化すセイウンスカイをジト目で見るゴーストウィニング。あの葬儀の場での
ウマ娘化騒動後のゴーストウィニングとその騎手は、URA理事長を筆頭とした関係者や関係各所の尽力にて
戸籍の取得や死亡届と記録の撤回と言った役所仕事等の基礎的な事に加えて、ゴーストウィニングの
トレセン学園への編入とその騎手がゴーストウィニング専任トレーナーとなる事が決まった。前者は兎も角
後者に関しては、当人の希望が有るとは言えJRAでの競走馬の騎乗と平行してのトレーナー業と言う事で
異論はそれなりに起きたのだが、当のゴーストウィニングが自身の騎手以外はトレーナーになる事を嫌がり、
そしてJRAとURAの統合によるそれぞれの協会に所属している騎手や調教師、トレーナー等の仕事内容の変化や
移籍に対するテストケースとしても目されたのも有って実施された。勿論当然の事として、JRAは兎も角
己の領分を侵されるURA側のトレーナーの内一部が人の情として少なからず反発したり、それ以前に騎手と
トレーナーと言う前代未聞の二足の草鞋に善意で反対したトレーナーも多かった。と言うよりも、普通の神経を
していれば反対するのが当たり前である。


 そう言ったURA内での風潮に対して、ゴーストウィニングの騎手は蘇った際に何時の間にか仕込まれていたと言う
トレーナー知識とリモート通信等を用いた作業、更にJRA側から一定のサポート職員が付く事により可能であると説明。
だが一方で自分から『鞍上』を、例え善意であっても引き離し『赤の他人』のトレーナーの下に配属しようとするURAの
一部に我慢出来なかったゴーストウィニングの方は、そう言ったすり合わせをする大人達の空気を無視し、トレセン
学園内での模擬レースに唐突に参加。シンボリルドルフ、ミスターシービー、ナリタブライアンら三冠バ勢のみならず
ミホノブルボン、スペシャルウィークと言ったURA内でもトップクラスの実力者揃いの豪華すぎるレースにて三バ身差
勝利しウマ娘としての自己の実力を明示した上で『私は鞍上以外からは決してレースの指示を受けない』とその場で
叩き付けた。尚個人的事情でレース相手全員を文字通り当てウマ扱いにした事に関して流石に御目溢しするのは
ダメだと言う事で、後にシンボリルドルフがゴーストウィニングを生徒会室に呼び出してあの有名な『中央を無礼るなよ』
フェイスで少しばかり説教し、ゴーストウィニングをガン泣きさせて一騒動を起こしてしまっているが、それはさておき。

263: 陣龍 :2021/08/31(火) 17:09:07 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

「でも確かに、ゴーストは私らにだけ負け続けだけど、たまーにマヤノに負ける程度で、
他のウマ娘には凄く強いよねー。若しかして、苦手意識とかが着いちゃってたり?」
「そう言う積りはないけど……」
「まぁ、何度も走る内に揺さぶりに動揺する事も少なくなっている見たいだし、それまでに
勝ち星上げれるだけ上げさせて貰いますよーっと」
「うぐぅ……何も言えない」


 ルドルフ会長からの説教は兎も角、競走馬時代の経験が活きているのかウマ娘となっても
レースに滅法強く、出場する模擬レースで常々一着を取り続けるゴーストウィニングだったが、
最近勝負服に花嫁衣裳をターフに引っ提げて来たマヤノトップガンに時折黒星を喫する事が有り、
それ以上に競走馬時代最後のレースで最初で最後の敗北を喫したセイウンスカイと
ナイスネイチャには徹頭徹尾負け続けていた。自己分析、並びに『鞍上』ことゴーストウィニングの
騎手からの考察で直ぐに理由は分かったが、競走馬時代は自分の騎手との、文字通りの『人馬一体』により
レース展開に置ける細かな速度調整、位置取り変化を騎手が指示し、ゴーストウィニングがそれに
鋭敏に反応していた事が、かの26戦25勝と言う前代未聞の大記録を打ち立てていた。凱旋門賞、
キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスにて海外馬勢を粉砕したのも、ゴーストウィニング
自身の能力のみならず彼に跨っていた騎手が、この大一番でも何時も通りに走らせる事が出来たと言うのが、
正直に言って一番の大きい要因である。


だがウマ娘となった事で自身を指示する鞍上が、自分の背中から居なくなった事で全てを自身で考えて
動かなければならなくなり、結果として騎手と言う外付け頭脳を失ったゴーストウィニングは、自分の『鞍上』が
JRA、URA間での擦り合わせや調整にてんてこ舞いで余り傍に付いて居られなかった事も有るのか、
実力勝負の正攻法で走るウマ娘には滅法強いが、搦め手や揺さぶりにはとことん引っ掛かって掛かりまくって
撃沈し易くなると言う、何ともアンバランス極まりない状態になっていた。余りにも揺さぶりに弱すぎる事で一度
ヤケクソになって逃げ戦術に走った時は、競走馬時代では有り得なかった人生初の着外に沈み、レース後
体育座りで項垂れ黄昏れていたりする。



「まーなんにしても、焦り過ぎは良くないって事だねー。人生ゆるーく生きないと」
「そうだね。そろそろ外出禁止令も解けるって話だし……そう言えば、ゴーストの私服ってどんなの着てるの?
思い返してみたら、ずっと制服かジャージしか着てる姿見て無いけど」
「……私、服……?」
「……よし、今度商店街に買いに行こうか」
「この反応だと、サイズ合って安ければ何でもいいとか考えてそうだしね」
「何で分かったの!?」
「いや、すっごく分かり安いからね。ゴーストの考えて居る事」


 競走馬時代の賞金が、ゴーストウィニングが所属していた牧場経由で彼女の銀行口座にある程度振り込まれて
いるものの、そもそもサラブレッドからウマ娘に直通で蘇っているこのゴーストウィニング。多少は前提知識等として
刷り込まれているとは言え、感性についてはサラブレッドの頃を多分に引き摺っている感が拭えなく、編入後
栗東寮に入寮してからはそれなりの回数で細かな騒動を起こしてエアグルーヴや寮長のフジキセキに要らない
苦悩をもたらしていた。入寮初日に「馬草食べたい」と行き成り言い出して芝に口を着けたり、入浴後にサラブレッド時代の
感覚のまま、まともに衣服を着込まずに更衣室から出て行こうとしたり等、本来暴走役のゴールドシップが無言の
強制着衣と説教をゴーストウィニングに行うと言う大変珍しい行動が確認されていた。計算型ボケは天然ボケに
叶わないと言う実証である。ゴーストウィニングの場合天然ボケとは少し違う気もするが。

264: 陣龍 :2021/08/31(火) 17:10:11 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp


 ぽっと出の才覚溢れる新人ウマ娘と言う、一般のスポ根漫画等では嫉妬や悪意が向けられそうなゴーストウィニングで
あったが、ウマ娘と言う種族全般に置ける善性の多さが事前に負の感情の多くを抑止しており、また競走馬時代の実績に
加えて普段の行動が兎に角変に浮ついていて危なっかし過ぎる事で別の意味で注目がなされており、スマートファルコンに
エイシンフラッシュ、ハルウララにキングヘイローが同室と言う事も有って良く世話をやいているように、同じ寮生である
セイウンスカイとナイスネイチャが良くゴーストウィニングと一緒に居た。またこの二人との繋がりで黄金世代の面々や
トウカイテイオー、更にマヤノトップガンやハルウララ、生徒会メンバーとも度々関わりを持ち、色々と気に掛けられていた。
最近はウマ娘としての生活に慣れて来て特に事を起こしては居ないのだが、そうやって安心した頃に思い出したかの如く
無意識に芝を食べようとしたり下着姿で寮内をうろつこうとしたり等するので、被害の規模は極少とは言えゴールドシップとは
別方向に頭が痛い小さいトラブルメーカーである。


「でも、ゴーストのトレーナーさんが来た時に、ジャージとか制服でお休みの日に出かけるつもり?」
「…………はっ!?」
「全く思いも寄らず、って感じの反応だねー。まぁ服に関してはネイチャさんが仕立ててくれるだろうから安心だよねー」
「そうですか!?じゃあ宜しくお頼みします!」
「おう、任せなさ……いやいやいやいや、此処まで来たのならスカイも来てよ。と言うか、何処か行くつもりなの?」
「セイちゃんの次の休みはキング達と釣りに行く約束なのですー。にゃは☆」


 何時もの前屈みで横手でピースするセイウンスカイに、じゃあ仕方ないねーとお手上げポーズするナイスネイチャ。そして
二人の言動をほへーっとした顔で見つめるゴーストウィニング。サラブレッドの頃から人懐っこく図太く頭が良い上親しい相手には
ベッタリ、ファンや観客にも常々愛想を振りまくと言う、ゴールドシップとは別方向に『中に人入ってるんじゃね』と言われていた
ゴーストウィニングは、ウマ娘としての生を受けてからはその気質が何か爆発反応でもしたのか、レースで見せる妖刀の如き
鋭利かつ恐ろしいまでの覇気と追随能力から『ターフの亡霊』と呼ばれているのとは真逆に、一事が万事のんびりして気が
抜ける様な顔と行動をする事の多い、とある白毛の全レース場を走れるウマ娘か大食い大会で出禁張り紙が成される葦毛の
ウマ娘の如き天然ウマ娘になっていた。そんなウマ娘なのに、途中編入で勉強では最も出遅れていたハズが、一週間で
簡単に追い付いた上に先に入学していたスペシャルウィークやエルコンドルパサーへ勉強を教える側に回っていたりするのだから、
ウマ娘というのは分からないものである。



「バックシーーーンッ!!ゴーストウィニングさん!ここに居られましたか!!ややっ?セイウンスカイさんとナイスネイチャさん!
これは丁度良かったです!!」
「あ、バクシンオーさん」
「はいはい、セイちゃんですよー」
「相変わらず声が大きい……それで、学級委員長さんは私達に何か用です?」


 そんな三人の所に、トレセン学園の制服を着て爆走して来たのはトレセン学園が誇る学級委員長のサクラバクシンオー。
赤点補習の常連だったり何時も【バクシン】してモノを壊したりしているが、何だかんだで皆から『バクちゃん』と愛称呼びされたり
学級委員長の仕事を代わりにされたりする様な、愛されるウマ娘である。尚一見するとこんな愛されアホの娘系ウマ娘だが、
短距離に置いては全戦無敗と言うトレセン学園史上最強のスプリンターである。因みに現在ハルウララに続き有馬記念を制覇すべく
長距離走練習に勤しんでいると言う。何でも、三日前にはようやく2000mを息を切らさずに走り切れるようになったとか。



「はい!先程、理事長さんが決定を成されたので、お伝えに来ました!」
「決定?」
「何でしょうかねー…?」
「まーた思い付きで変な事やらないでしょうね、理事長……」


 ニッコニコの笑顔のバクシンオーに三者三様の反応を見せるウマ娘達。純粋に疑問符を浮かべるゴーストウィニング、
何事か面白い事が起きそうな予感に微笑むセイウンスカイに、理事長の私財を平然と投じて行う思い付きで頭を抱える
たづなさんの姿を思い浮かべるナイスネイチャと、それぞれのらしい反応だった。



「決定と言うのは、以前中止になったレジェンドホース杯のウィニングライブです!JRAさんとの話し合いも大丈夫だったとの事で、
今回はセイウンスカイさんとナイスネイチャさんに加えて、ゴーストウィニングさんも踊って欲しいとの事です!!」

265: 陣龍 :2021/08/31(火) 17:22:52 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

 そうして口を開いたバクシンオーは、一月前の件の事件で中止になって以降、様々な騒動により
完全に忘れられていたウィニングライブの事を伝えた。既にウマ娘達に批判の刃を向ける様な者は
あらゆる意味で消失しており、また今度こそ世間からの批判が無くともメンツとプライド以前に自らの
恥を注がんと気合を入れに入れている警察や公安系の諜報組織があらゆる手段を講じて治安改善や
事前の『除草』を徹底しており、安全性は確保されたと理事長が判断した結果である。因みにウマ娘達には
関係が無いので特に話されてはいないが、この治安改善や『除草』に関連して以前ウマ娘の『保護』等と
称した要求をした自称動物愛護団体が、二度目の動物密輸入未遂、しかもワシントン条約違反動物の
密輸入未遂やら劣悪環境下での犬猫の管理などを原因として強制家宅捜索や突入、逮捕が成されて
組織レベルで壊滅に追いやられており、その他でも何らかの形で目を着けられていた団体が良い機会だと
ばかりに片っ端から捜査の手やワッパ、極稀に銃弾か縄が叩き付けられており、理事長がこの
ウィニングライブ再開の決定を下した時には、ティ連の協力も有りウマ娘や競走馬、URA、JRAへの
攻撃行為をする可能性のある者や団体は根こそぎ吹き飛んで居たりする。



「…………ネイチャさん、次の休みは買い物中止でダンスレッスンお願いします」
「……あー」
「……あっ」
「うん?どういうことですか?」


 神妙な顔をして行き成りそんな事を言い出したゴーストウィニング。学園に来てからの付き合いの
長いセイウンスカイとナイスネイチャはその理由が言われずとも分かったが、バクシンオーはその理由が
分からなかった。


「……一回も、踊った事も、歌った事も無いです」
「…………ちょわーーーーーーー!?」






 ターフにバクシンオーの驚愕した面白大声が響き渡った一週間後。改めて開かれたレジェンドホース杯
長距離走部門ウィニングライブの特設会場には、文字通りの満員御礼で尚且つ多数の観客が詰めかけた事から
臨時に近くの広場や公園を借り上げてスクリーンを緊急設置する作業が何とか終えられた頃。セイウンスカイ、
ナイスネイチャ、そしてゴーストウィニングは特設ライブ会場の舞台袖に居た。


「いやー、何とか間に合って良かったねー。セイちゃんも安心しましたよー」
「意外と覚えられるのが早くて良かったよ。……本番でまたネイチャさんに激突しないようにしないと」
「あっはははー……まぁなんとかなるっしょ。ゴーストの動きはキレッキレだったし。ホント、若いもんは良いねー」



 思い返してみれば一か月間一度もダンスレッスンせず、と言うよりその存在も忘れてずっと身の回りの事や勉強、
ウマ娘の身体でのレースの練習にかまけていた事からダンスや歌唱の基礎もまともに学んで居なかった
ゴーストウィニング。彼の某ウマ娘の『ウィニングライブで天を仰ぐ見事な棒立ち』の悪夢が過るも、ゴーストウィニングの
持ち前の吸収力の高さやナイスネイチャとセイウンスカイが引っ張って来たライブ指南役のトウカイテイオー、
グラスワンダーの尽力によって、一流には程遠いがそれなり程度に踊れて歌えるようになった為に、取り合えずライブに
漕ぎ付ける事が出来た。



「しっかし、凄い熱気と騒めきだよねー。これ皆ゴーストを見に来てるんだろうし」
「横断幕とかのぼり旗に『スカイは日本を覆う幸福晴天』とか『若妻ネイチャは銀河の光』とか何とか書いてあるの有るけど」
「はぁ?!何で私が若妻!?」
「いや、それは分からないけど……あ、警備員に引っ張られて行った」
「わっ若……若妻、ネイチャ……」
「ちょっとスカイ!?笑わないでってば!もう!!」

 規模の多寡は有るとは言え、何度も似たような大舞台でのライブを経験してきたセイウンスカイとナイスネイチャとは違い、
舞台袖からコッソリ観客席を覗くゴーストウィニングは、競走馬時代に感じた熱狂とはまた別方向の熱気を肌で感じていた。
背後では若妻ネイチャにツボったセイウンスカイがお腹を押さえて笑い出し、ナイスネイチャが頬を膨らませて恥ずかしがる
青春の一ページを開いているのだが、それよりもゴーストウィニングの注意は観客の声の方に向いていた。特設会場開設と
係員としてバイト扱いで参加していたとあるアグネスなウマ娘がこの青春エモ波動にて爆散トリプルアクセルしているのは、
気付かなくて幸いであったが。

266: 陣龍 :2021/08/31(火) 17:23:40 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp


「はー……笑った笑った……。さて、そろそろ時間ですねー。それじゃ、行きましょうかー」
「スカイ……後で覚えて起きなさいよ……。っと、ゴースト。そろそろ行こっか」
「あ、うん」



 何時もの某ウマ娘の死亡確認と蘇生芸でまるで前座の様に一部で謎に盛り上がっている中、主役の三人のウマ娘達は
リハーサル通りの配置に付く。初のライブがこんな派手な代物な事に、センターでは無く三番目では有っても相当に緊張が
起きるかと思ったが、不思議とゴーストウィニングには過度な緊張や躊躇いは起きて居なかった。理由は、配置に立ち、
セイウンスカイとナイスネイチャを横目に見た事で分かった。



「……スカイ、ネイチャ」
「んー?」
「どうしたの?ゴースト……」



「次にセンターに立つのは、ゴーストウィニングだから」



 やっている事は、ライブだって実質レースと変わりない。真剣に自分のパフォーマンスを発揮し、見に来てくれている、
応援してくれて人々へ感謝の思いを、行動で伝える為。その場所がターフかライブの会場か、その程度でしかない。
その事が分かれば、必要以上の不安も緊張も掻き消えた。



「……できるモノなら、やってみなさい……ってね」
「……ゴーストがどれだけ強くなったとしても、私だって【一番】は譲る気は無いからね」



 誰も期待しない様な血筋から、ブラッドスポーツとすら言われた競馬の常識を完全に叩き壊し、そして生きた神話とすら
讃えられるまでに常勝不敗で勝ち上がったサラブレッド。その生涯を理不尽かつ唐突に断たれてからウマ娘へと成り立った、
余りにも数奇な運命を辿っているこの存在。その存在からの改めて行われた宣戦布告にも、名馬の魂を受け継ぐウマ娘達は
真っ向から受けて立った。此処から先は、『史実』等何もない、『もう一つの未来』が生まれるのだから、どのようなレースが
始まるかは、誰にだって分かる筈がなかった。




 そして舞台の幕が上がり、ライブの演目が始まる。初めて流れる曲は『Make debut!』。ゴーストウィニングが、
【ウマ娘としての生】と言うレースを始めた事を知らせる歌であった。

267: 陣龍 :2021/08/31(火) 17:31:57 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
|д゚) 以上、ゴーストウィニングとそのウマ娘の始まりの物語でした。この後は何やかんやの丁々発止しつつ学園生活楽しみつつ
    『鞍上』と共にトゥインクルシリーズに殴り込みするのでしょうが、それはまた別のお話

Q.『神罰』喰らった連中が身体的にまともなのは何故?

|д゚) A.腕とかもげてたり何かエグイ恰好してたら国や行政として保護せにゃ成らんやん。後どうしても身体がアレな事へ同情しそうな底抜け
     お人好し見たいなのも出て来るし

Q.『神罰』って現世での刑罰や死後の世界の罰則と関係あるの?

|д゚) A.『神罰』と現世での刑罰やその他、そして死後の裁可は全て別件です。じっくり刑罰喰らって行ってね、終わりは無いよ()

Q.この後あの連中どうなる?

|д゚) A.取り合えず旅行やコンビニで旨いモノ食うみたいな贅沢なぞ考えも出来ない罪科の返済生活に終始するんじゃねっスかね(適当)

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最終更新:2021年09月06日 10:32