847: 弥次郎 :2021/09/14(火) 00:21:21 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

憂鬱SRW ファンタジールートSS「扶桑皇国、開発戦線1941」3



 地球連合と扶桑皇国の合同開発チーム「シティシス」の開発した試作魔導補助偵察双眼鏡は、早くも評価を受けることとなった。
ウィッチに限らず、魔導士であるならば使える超高性能スコープ。それこそ、ウィッチの魔眼を元に再現したということで、驚愕と共に受け入れられた。
魔導士の能力を一つの要素に限るとはいえ、ウィッチ並みに引き上げるということは魔導士推進派閥にとっても非常に魅力的であったのだ。
 無論のこと、これの量産化や普及、そして運用が可能になるまでに時間がかかることは間違いない。
特に問題になったのは汎用的な宝珠に比べれば比較的簡単で製造や量産自体は簡単であったとしても、その精密さや緻密さにあった。
つまり、多くの機能と高い能力を実装するためにコストや工程がかかり、また運用の段階でも微調整が必要というものだった。
 だが、これらを差し引きしたとしても得られるものはあると、扶桑皇国の陸海軍はそろって採用を決定した。
これは評価試験が行われ、そして設計図や理論などについての説明がなされてから2週間と経っていない、異例ともいえる速さでの決定だった。
 そしてこの試作魔導補助偵察双眼鏡は100式魔導偵察双眼鏡として採用が決定。当面の間使う分は「シティシス」の生産ラインで作られたものを使用することとなった。
納入されたそれらは「シティシス」の元において扱いを学んだスタッフがつくという形で運用されることとなり、多くが最前線、欧州へと送られることとなった。
 この功績により、にわかに開発チーム「シティシス」の名は広まることとなり、扶桑皇国内ではその働きに期待する声が否応なく高まることとなった。
 しかし、これはこの先「シティシス」の経験することになる苦労の、ほんの始まりの一部にすぎなかったのだ。



  • F世界 ストライクウィッチーズ世界 現地年月日1941年3月末 扶桑皇国 横須賀 「シティシス」技術工廠設計室



 「シティシス」を率いるリーダーにして、アーキテクトであり、またテストパイロットも兼務しているリーゼロッテは非常にイライラしていた。
 なぜか?それは、自分たちの「やりすぎ」に原因があったためだ。

(やりすぎたか……)

 そう、先だってスピード制式採用が決まった100式魔導偵察双眼鏡という「大発明」のことだ。
 アレについての評価は著しいものがあった。それこそ、扶桑皇国だけでなく、各国からも問い合わせが相次ぐほどに。
それも、魔導士やウィッチだけでなく、一般兵科……それこそ陸軍の戦車や砲兵、海軍の艦艇などを運用する側からも声が来たのだ。
あの時はまだよかったのだ、とリーゼロッテは振り返る。それくらいの問い合わせがあることは予想していたのだ。
 アレは確かに個人携行可能なサイズまで落とし込んだ逸品。だが、それ故に微調整や制作難易度という問題が付きまとっていた。
そこで解決策としたのが大型化によるマイナーチェンジとデチューンであった。精度と機能を落とす代わりに大型化で調整しやすく、製造しやすくする。
そして、艦艇や陣地に設営するようなスケールとすることで個人ではなく集団で運用するという形に変えることで、より普及しやすくした。
 それくらいのアフターケアやアフターサービス、あるいは類似品の販売などはやって当然という考えであった。
 だが、なまじ大発明であったことや、短い期間でこれだけの成果を上げるものを生み出したという事実は「夢」を見させてしまったのだ。
 結果として、「シティシス」は連日連夜問い合わせが続き、陸海軍、挙句に扶桑皇国の各国大使館から日参されるほどになったのだ。

848: 弥次郎 :2021/09/14(火) 00:22:13 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

 そしてそれは、要求の肥大化につながった。
 あらゆる兵科・分野での技術供与や改良を依頼されることとなり、仕事の量が大きく膨れ上がることになった。
無論断りを入れたり、ある程度のもので自助努力をしてもらうように説得したりと対応を重ねた。
だが、それでもなお「シティシス」の活動に支障が出るほどになってしまったのだ。

(藁にもすがりたい気持ちはわからんでもないが、縋られる側まで沈んでは意味がないだろうにな……)

 考えつつも、リーゼロッテの手は止まらずにモーションセンサー対応型のコンピューターを動かす。
 彼女が手掛けているのは、ウィッチのストライカーユニットを発展させた飛行パワードスーツだ。
 エーテル技術を使い、ストライカーユニットの技術を取り込み、さらには連合の技術も盛り込んだ野心的なそれ。
素養にあまり左右されず、誰もがウィッチのように戦うことができるようになるというコンセプトのPSの開発は一朝一夕とはいかない。
基礎理論については現在構築中であり、それの実証やストライカーユニット技術の吸収のための試作機の政策も順調だ。
 遠からず、制式採用できるようなパワードスーツが完成する見込みが立つことになるだろうと思う。
 だが、それを邪魔しかねないのが、前述の通り各国からの問い合わせだったのだ。

 あの補助魔導スコープの時点でもしばらく時間を稼ぐことができると踏んでいたが、もっともっとと欲しがらせてしまうことになった。
 だから、開発チームの一部はその声を黙らせるための「撒き餌」の作成に割かざるを得ない状況にあった。
 元々開発されていたもので、遠からず公表予定だったのだが、前倒しすることになってしまったのだ。
斯くして、「エーテルエンチャント弾」「エリクサー」「魔力量スカウター」、これらが先んじて公表されることが決定。
 そして同時に、各国に対して釘をさす意味合いで地球連合を経由しての正式な「お願い」を行うよう働きかけた。
頼りにされる分にはいいのだが、あくまでも協力するのであって、何の自助努力を行わない一方的な関係であってはならないのだから。

(扶桑皇国には貸しはあっても借りはない。そちらからも抗議してもらうとするか)

 初期の段階で連合は高オクタン価の燃料の廉価での販売に始まり、各種資源や希少金属の提供を行っている。
そのほかにも、㎞単位というスケールが違う管制用自動人形付きの大型輸送艦の貸与や輸送航空機の提供などなどを実施。
更には扶桑皇国を通じて各国が発行している戦時国債を買い取り、その見返りに物資を提供する現物取引を行っているのだ。
 その引き換えというと失礼かもしれないが、ここで何かしらの忠告を各国にしてくれなければ、全くを以て支援をしている価値がないではないか。

「さて、と……」

 一度書き上げた基礎理論を魔導にも適応したAIに処理を放り投げ、基礎理論と照らし合わせて議論させるように設定すると次のタスクに移る。

849: 弥次郎 :2021/09/14(火) 00:23:17 HOST:softbank126066071234.bbtec.net


 それは、次の次、すなわち、この世界での国際的な枠組みでの戦力の増強計画であった。
 今のところは扶桑皇国をメインに後方国家の支援を重点として行いつつ、最前線国家の求めるものを生み出すことに終始している。
 だが、それではまだ足りない。それこそ、現在以上の人類の結束が必要となるだろう。
 そして、これの原動力となり得るのが、国家の枠組みを超えた戦力の結成にある。
 即ち、誰もが力を出し合うことで功績を競い合うのではなく、たたえ合う関係となれるような、いわば勝利の均等化。
地球連合で言うならば、あのロンド・ベルだろう。アレは各国の精鋭たちが集まり、彼らしか倒し得ないような強力な相手を打ち倒してきた。
その結果は勝利以上のものをもたらし、人類を、宇宙を、ひいては世界を存続させてきた。

(とはいえ、現段階では無理だろうな。そう言った精鋭部隊の有用性を証明し、各国がその気にならねば始まらん)

 そう、連合とてロンド・ベルのような組織が簡単に生み出せたわけではない。
 やむを得ない事情があり、各国が妥協し合い、苦心したうえで生み出した人類を守るための矛。
 そして、それが起こることを見据えて国家の枠組みを超えた教導部隊というのをリーゼロッテは結成をもくろんでいるのであった。
各国ごとにドクトリンや運用方法があり、装備にも違いが表れていることは百も承知の話だ。
 だが、それを理由にして協調や共同歩調が取れないのはもっと問題だ。だから、せめて戦技や戦術などについての共有などが欲しいところだ。
それらの共有は、ひいては一体感を生み出し、各国を繋ぐ橋となり鎹となる。

(最も……それほどに危機感を抱かねば始まらんのだがな)

 問題はそれだ。
 扶桑皇国を通じて聞く限りでは、今のところ人類側の攻勢は成功している。
 無論、犠牲も出ている。だが、それ以上にネウロイの支配地域に踏み込んで勝利を重ねているのだという。
 まあ、それでうまくネウロイの駆逐が済むならばそれでいいと思っている。備えたのが無駄になるのはよくあることだからだ。
 ただし、怖いのはうまく行き過ぎた場合。そして、最悪のケースが起こった場合だ。
 前者は言うまでもなく、戦後のバランスが乱れることを懸念してのことだ。戦後の検疫や膨大な戦費、戦死者の発生。
どれもこれも国家という生き物にとっては痛すぎるダメージとなりうる。ネウロイには勝利しても国家がもたなかったなど冗談ではない。

 そして、後者はネウロイがここから巻き返してくる、というパターンだ。
 勝っているのは事実だ。だが、それが長期的に見て敗北の前章だったというのはよくあること。
この手の「人間ではない」相手は、平然と人間の感覚を超えて囮や使い捨てといった戦術をとれるのだ。
そして、人類側が対人間という意識にとらわれている状態では、はた目には勝利を重ねているようにしか見えないことがままある。
相手はそもそも人間ではない。だから、人間の感性で推し量るのはリスクが伴うというわけである。
 もちろん、これについて今は外様でしかない自分たちにどうこうできるものではないのも確かだ。
 あくまで支援国家という立場であり、それ以上のことは彼らの意思を尊重する以上、不可能だからだ。

(できることは備えること、か……)

 ある意味で無力な状態だ。できることならば、自分たちのやっていること、想定していることが杞憂であってほしい。


 しかして、このリーゼロッテをはじめとした連合の懸念はのちに見事に的中することとなってしまう。
 時に1942年、攻勢をかけていた人類側に対し、ネウロイは突如としてそれまで以上の大戦力を展開。
 これまでの押されっぷりが嘘であったかのような大反撃を実施。引きずり込まれ、知らず知らずのうちに包囲を許していた人類戦力を壊滅に追い込んだ。
 地球連合の救援、政治的なモノから温存されていたウィッチの活躍、乱入者の存在、そして現地将兵の決死の努力で撤退は何とか成功した。
 だが、その代償に欧州はイギリスを除くほぼ全域が陥落。アフリカも半分以上が制圧されしまうという事態となった。
 人類は、そこまで陥ってから初めて自分たちの危うさに気が付いたかのように右往左往するしかなかった。

850: 弥次郎 :2021/09/14(火) 00:24:21 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
コツコツとストーリーを進めます…

853: 弥次郎 :2021/09/14(火) 00:46:22 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
修正を
849
×その結果は勝利以上のものをもたらし、
〇その結果は勝利以上のものをもたらし、人類を、宇宙を、ひいては世界を存続させてきた。
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最終更新:2023年11月03日 10:16