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銀河連合日本×神崎島ネタSS ネタ ゲートの先は神崎島もヤルバーンも無いようです 幕間 静かな星 前編
東アジア、欧州で展開された大戦争も終わりを告げ日本国内の移動制限も解除され騎手である彼は北海道を訪れていた。
戦争中は自粛を余儀なくされていたレースが再び開催される運びとなりその初レースで騎手が騎乗する予定の競走馬の様子を見るためだ。
千歳空港から車に乗り換え千歳の街を過ぎると戦車が公道を走る光景が目に入る。
欧州に派遣された部隊の車両、実戦も経験している筈であったがそんなことを思い起こさせない程十二分に整備されている。
彼には本土だけでなくここでもまた戦車が走っている、その程度の感想しかない。
日本人の多くが今回の戦争というものを感じたが戦場に行かなければこんなものだろう。
逆に世界の終わり云々については"彼"を始め日本人の多くが対馬の荒ぶる神存在を通し日本人という繋がりを通し肌で感じていたりする。
神の存在とはそういうものだ。
そして牧場に到着し車が停まりドアを開いて降りると抜けるような青空と眩しい太陽に彼は目を細める。
出迎えた牧場主始め牧場関係者と挨拶を交わすと直様目的の馬の所へと移動を開始した。
厩舎で休んでいる目的の馬を見つけ彼らは馬に近寄った。
騎手が手を伸ばせば撫でろとばかりに彼の手に顔を擦り付け調子が良さそうな様子に彼は安堵する。
戦争中はレースも自粛され馬達も走る場が減り、牧場の経営状態も大丈夫かと心配していたのだ。
そんな心配に対し牧場主は寧ろ大幅な黒字だと笑う。
欧州での騎馬達の活躍でティ連各国より馬の注文が相次ぎ嬉しい悲鳴だそうだ。
だが注文の大半は日本で人気のサラブレッド等競走馬向きものより軍馬に適した軽種や輸送に適した中種、重種等の大型種が中心だとか。
また戦時中は神崎島から欧州へと向かう馬達の調整を任され、戦後の今は復員した軍馬達が島へ帰る前にその体をここで癒やしている。
軍馬、その言葉に騎手は眉をひそめる。
戦争を経て軍事アレルギーこそ少なくなったが動物たち、しかも自分が関わる馬という存在が戦場へ行くというのは良い気分はしない。
だが牧場主は言うそれ以上に欧州の馬達を襲った惨禍は筆舌にし難いと言う。
それを救ったのは神崎島の軍馬達だと。
その言葉で騎手は思い出した、フランスやイギリスの馬に関係する友人と漸く連絡が時の彼らの状況を。
フランスの馬主は食料や輸送手段として馬をドイツ軍に無理やり徴発され、同じフランスの牧場主は多くの馬達を維持できず安楽死させざるを得なかった。
イギリスの方も馬にやる餌の調達に苦労し、端的に言って欧州の馬達は壊滅寸前にまで追い込まれかけた。
そこへ現れたのが日本・ティ連・神崎島欧州方面軍。
名将秋山好古やアルトリア・ペンドラゴン、源頼光に率いられた神崎島の軍馬やサルカスのボルダから構成されたホースローダーを纏う騎兵部隊。
彼らは欧州での騎馬の稼働率維持の為にそうした牧場や乗馬関係者を生活の糧だけでなく現地の馬達の食料や消耗品も対価として雇い入れたのだ。
ハイアクァーンにより騎兵部隊にとっては負担も殆どなかったが彼らには乾いた大地を潤す慈雨にも等しかった。
それによりどうにか彼らは欧州馬達の命脈を保ったのだ。
馬の様子も見えた彼は牧場内を散策していた。
その時彼の目に見たこともない馬達が目に飛び込んできた。
大型のものはサラブレッドより大型でガッシリとした身体であるがシャイヤーやペルシュロン等ではない。
中、軽種の馬達も見たことのない種類だ。
彼はその馬達のいる区画へとフラフラと誘われる様に歩いて行く。
569: 635 :2021/09/14(火) 23:29:45 HOST:119-171-250-56.rev.home.ne.jp
「おじさーん!ここから先は軍で借りてる区域だから立ち入り禁止だよ!…んん?おじさん、何処かで見たことあるような…。」
見たこともない馬達のいると思われる厩舎の前で彼はオーバーオールを着た中学生くらいの少女に止められた。
はてこの牧場にこの様な少女いたのかと彼は首を傾げる。
しげしげとよく見てみれば馬の様な栗毛のポニーテールに白い流星の様なメッシュの前髪をした少女。
少女は彼を見つめ訝しげな表情をするが彼は少女が人でないことに気づいた。
頭でピコピコと動く馬の様な耳に腰の後ろで揺れる尾、そんな人間を彼は知らない。
少女は暫し腕を組み何かを思い出そうとする素振りをすると思い出した様に破顔する。
「思い出した!思い出した!春の天皇賞のマックイーンに乗ってた人かあ。いやあ老けたねえ!!」
まるで懐かしい知人に会った様に笑顔になると彼の背中をバンバンと叩く。
叩かれた背中が少し痛い。この少女は誰だ?
そして少女は言うここの存在誰に聞いたか知らないがここに来たのは会いに来たのだろうと彼に言う。
会いに来た?
彼はその言葉に疑問符を浮かべるが少女に先導され厩舎の中へと導かれる様に入っていく。
入り口でイゼイラ人に止められかけるが少女が構わないと言うと敬礼をして少女と彼を通す。
少女は一体何者であろうか。
厩舎の中を歩きながら少女は会いたい人物は厩舎を抜けた先で走っていると言う。
意味も分からず先導されるままに歩く彼が厩舎を見渡せば見たこともない馬達。
少女は彼の様子を見てこの厩舎の馬達は全て神崎島の軍馬、日本在来種を島で長年掛けて交配、大型化させた日本純血種だと語る。
また島では新たなる血統、彼の騎士王の伝説の名馬ドゥン・スタリオンの仔も生まれ先が楽しみだと少女はその身に似合う快活そうな笑顔で笑う。
そういえばと先程の軍が借り受けているという言葉を彼は少女に問うた。
その言葉に少女は欧州で活躍した軍馬が島へ帰る前にここで身体を癒やしている、そのために神崎島の軍が借りていると答える。
そんなことを知っている少女は何者なのか。
虹色の光が見えた。厩舎の出口から差す太陽の光だ。
その光を背に彼の方を向くと少女は悪戯っ子の様に笑う。
570: 635 :2021/09/14(火) 23:30:46 HOST:119-171-250-56.rev.home.ne.jp
「僕のことは君も良く知ってる筈だよ?なんたってかつて戦った相手なんだから…。」
少女はその名を告げ、彼は信じられない表情をする。
その名は彼が憧れた皇帝の後継。その母の血統も辿れば日本初のダービー牝馬。
そして日本競馬の基礎を築いた星の末、地の果てまで駆け抜けて虹の彼方に消えた馬。
現在の日本で言うならば暁の水平線の先へ消えたとでも言うべきか。
彼は頭を振る。いや自分は知っている、少女を知っている。
遠い世界で生まれ変わり走っている筈だ。しかしここにいる筈はない。
少女は驚く彼を一瞥すると目を光の差す方へと顔を向けると笑顔を引っ込め、口を尖らせた。
「ああやっぱり電を乗せて走ってた…。電は僕の相棒なのにさ…全くもう…。」
暖かな光の向こうからターフを抉る音、蹄の音が厩舎に響き渡る。
少女は歩みを進め、暖かな七色の光の中に消えていく。
彼は目の間で少女が消えてしまいそうに思い手を伸ばし後を追い虹色の向こうへと渡る。
光で目が眩む。
目がな慣れるとその光景が瞳に映る。
虹の向こうには真っ青な空をバックに青々とした草原が広がっていた。
草原の草は生命に溢れ生命を謳歌する様を主張する様に風に揺れる。
馬の神様もこの世界にいるならばこの様な場所こそ愛するだろう。
そこには素朴な木の柵で区切られた芝のコースがあった。
コースに響く蹄の音、その音の主の姿に彼の目が驚きで開かれる。
571: 635 :2021/09/14(火) 23:31:19 HOST:119-171-250-56.rev.home.ne.jp
以上になります。転載はご自由にどうぞ。
明日は後編を投下します。
最終更新:2021年09月16日 17:28