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銀河連合日本×神崎島ネタSS ネタ ゲートの先は神崎島もヤルバーンも無いようです 幕間 静かな星 中編



一頭の栗毛の馬がターフを駆け抜ける、その背に少し色の違う栗毛の一人の少女を背に乗せ。
その顔は緑のメンコに覆われその下の鼻筋には一筋の白い流星が流れる。
彼はその馬を知っていた。いや知らない筈がない、忘れられる訳がない。

馬は第一コーナーを回り、第二コーナーすら圧倒的な速さで駆け抜ける。
コーナーを抜け直線を抜けるその速さの後ろに彼はその馬の影すら踏むことが出来ない馬達を幻視した。
その速さは異次元の如く。

直線を抜け馬は第三コーナーへとその速さのまま突入する。
彼はあの日の悪夢を幻視する。
やめろ、もういい走らなくていいと駆け抜ける栗毛の馬に彼は叫んでいた。
だが馬はちらりと彼の方に目を向けるとそのまま第三コーナへと突っ込んで行く。
馬の姿がコースの内側に植えられた大きな欅の影に消えた。
彼の心臓が動悸し、嫌な汗が流れる。


彼の背中が強く叩かれる、叩いたのは彼をここまで導いた少女。この世界そして遠き世界のターフの上で不屈と奇跡と称される存在。
少女は言う大丈夫だとあの時とは違う。
それに乗っているのは彼の四天王の一人、動物と心通わす足柄山の英雄を宿す少女。

馬の姿が現れるのを彼は少女と共に待つ、〇.一秒が一時間にすら感じられた。
一秒、二秒…永遠にすら感じられる時間を超えて馬が大欅の影より姿を現す。
かつての悲劇から大逃げするように。


走れ…!走れ…!行け!!


彼は叫んでいた。
栗毛の馬はそのしっかりとした四本の脚で第三コーナーを抜けた。
そのままのスピードで、いや更に加速した。
彼の自身の手でそうさせたかった姿で。

馬は第四コーナーを抜け最後の直線へと入る、彼が幻視する馬全てを置き去りにして。
彼は声が枯れようが喉が潰れようが構わないとばかりに声援を馬へと送る。
そして彼の耳に聞こえる筈のない応援と実況が微かにだが確かに聞こえた。


(『行け!行け!〇〇〇〇ス○○カ!私の夢、皆の夢を乗せ今度こそゴールを!!』)

(「頑張れ!!サ○○ンス○○カ!!」)

(「サイレ○スス○カ行け―――!!」)


段々と大きく、明瞭になる幻の声援に負けじと彼は叫ぶ。



「負けるな…!!今度こそゴールするんだ…スズカ!!」



彼は一際大きく叫ぶ。



「サイレンススズカっ!!!」

587: 635 :2021/09/15(水) 22:19:30 HOST:119-171-250-56.rev.home.ne.jp



彼の声が聞こえたのか栗毛の馬は更に直線で加速する。
全ての幻視の馬を影すら踏ませず置き去りにする異次元の速さでターフを駆け抜ける。
異次元の逃亡者、その言葉のままに。
そして馬は彼の目の前で幻のゴールポストを一位で通過した。
その勇姿を彼は自らの目に焼き付ける。



馬は幻のゴールポストを過ぎると馬上に少女を乗せたまま段々とスピードを落としていく。
その姿を彼は目で追う。自分がしたかった、なりたかったその馬の姿を目に焼き付けて。
その馬の鞍上の少女は馬が完全に止まると気を抜いた様に息を吐く。


「はわわ!?スズカさんどうしたのです!?」


気を抜いた瞬間、突如として馬が再び動き出し少女は慌てた。
馬はその場でくるりと左回りをすると真っ直ぐに彼の元へと向かってきた。
ゆっくりだが自分がここにいるのだと示すようなしっかりとした足取りで。
彼は自らの頬を抓った。
これは夢じゃないか自分が見ている都合のいい幻ではないかと思い。

だが柵越しにその馬は確かに存在した。
彼は二十年越しにその栗毛の馬の全身を見回す。
だがここまで来てもまだ信じられない。
彼は鞍上の少女に馬の名を尋ねた。

真剣な彼の様子に困惑しながらも少女は馬の名を告げる。
彼が渇望した馬の名を。
少女は確かに彼が望んだ名を口にした。
彼は青い空を仰ぎみる。
そして下を向き大きく深呼吸をし、しっかりと栗毛の馬を見据えその名を口にした。


「久しぶりだね。サイレンススズカ…。」


名を呼べば嬉しそうに首を伸ばして来る。
栗毛の馬、サイレンススズカの首を懐かしそうに彼は撫でる。
その姿にサイレンススズカの馬上の少女は彼が何者か察した。


「スズカ…話せるんだからあっちの姿になったらどうだい?」


その様子に彼を案内した少女、トウカイテイオーは呆れた様に言う。
その言葉に彼は固まる、スズカもそうなのかと。


『そうねテイオー。電ちゃん降りて貰ってもいいかしら?』

「了解なのです!」


目の前の馬、サイレンススズカが人語を発し彼が目を白黒させていると馬上の少女、駆逐艦の電はよっこらせと芝の上に降りる。
電がスズカから降りるとスズカが光に包まれ少女の姿を取る。
馬の姿と同じ栗毛のロングヘアにメンコと同じ色の耳カバー、彼が知るウマ娘のサイレンススズカと同じ姿。

588: 635 :2021/09/15(水) 22:22:49 HOST:119-171-250-56.rev.home.ne.jp


「お久しぶりです…あのレースから二十年振り…ですね…。」


スズカの口が人語を喋り、初めて言葉を交わす。


「サイレンススズカ…僕は…僕は…。」


言いたいことがたくさんあるが言葉にならない。
涙が溢れ出す。あの日からずっと悔やみ続け未だ血が出続ける膿んで癒えることはない心の傷。
その瘡蓋が取れてしまった。


「ご…ごめ。天皇賞で…僕は…。」


言葉が上手く出ない。
他ならぬサイレンススズカに罪を償いたいというのに。
そんな彼をスズカは優しく抱きしめる。


「謝る必要はありません…競走馬として短い生涯だったかもしれません。」

「サイレンス…スズカ…。」

「けど精一杯走って…精一杯生きて…私は幸せでした。」


見上げた彼の目に栗毛の馬と同じ優しい瞳が映る。
サイレンススズカの言葉に泣き崩れた彼の声が青い空に響き渡った。
そんな二人を見守る電とトウカイテイオー。


「いやはや流石にあそこに入っては行けないねえ。」

「なのです…テイオーちゃんも一本走るのです?」

「お!いいねえ。テイオーステップを見せちゃおうかな?」

「でも観客さんも相手も騎手さんもいないのです。」

「電…ソレを言っちゃお終いだよ?…そうだ!相手も騎手もいるじゃん!!」

589: 635 :2021/09/15(水) 22:23:24 HOST:119-171-250-56.rev.home.ne.jp
以上になります。
転載はご自由にどうぞ。
後編は明日投下予定。

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最終更新:2021年09月16日 17:30