35: 弥次郎 :2021/09/16(木) 23:58:24 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW ファンタジールートSS「扶桑皇国、開発戦線1941」4
- F世界 ストライクウィッチーズ世界 扶桑皇国 1941年4月2日 横須賀 「シティシス」技術工廠
来るべき魔導パワードスーツ開発に先駆けて開発されたパワードスーツ「YPF
シリーズ」。
いくつかの試作機から誕生した87番フレーム実証機「ハチナナ式」は、着々と工廠内のスペースで形を成し始めていた。
それも、1機2機ではない。10機以上が並行して製造が続けられている。とはいえ、半ばハンドメイドの製作である。
基礎に連合のPS技術があるとはいえ、ストライカーユニットというのを取り込んでいるのだから、それは一筋縄ではいかない。
無理を言ってMSやACの開発に使われる全自動CAD/CAMシステムを借りていなければ、もっと多くの時間を要していただろうと予想していた。
リーゼロッテにとって幸運だったのは、ほぼ不老不死の自分自身がテストパイロットをすることで危険の伴う過程をスムーズに終えられたこともある。
つまり、多少のトラブルで事故が起こって負傷しようとも容易く自分ならば復活できる、ということである。
加えて、自分と同等程度の再生能力を持つ分身を生み出して並列作業での開発やテストができたことも大きい。
「ふぅ……」
なんて事のない「4徹目」を過ごし、リーゼロッテは息を吐き出す。
無論、適度に休養や食事、身の回りの整理や体の汚れなどを清めるなどはしている。眠ってはいないのだが。
「事情を知らない」ごく普通の人間のスタッフに怪しまれないようにする苦労はあったが、それでもその価値はあったと思う。
眼前、並んでいるハチナナ式およびその装備品の数々が作業開始からどれほど完成度合いが進捗したかを見ればだ。
ただ、目下の問題としてはこの世界のキャパシティーや余力の問題に及んでいる。
確かに地球連合の技術としては『過去に逆行した産物』として完成している。一方、この世界にとっては『未来へと針を進めた産物』となりつつあるのだ。
既存のストライカーユニットを改良し、「虚憶」を持つ人間たちから聞いた「ジェットストライカー」にすることも自分たちの仕事だ。
それらは自分達ならば並行して進めることができる。だが、この世界の人間にとっては可能であろうか、と。
ただでさえ、魔導士という「虚憶」に存在するが、この世界には存在しないはずのものが生まれてある程度普及している状態なのだ。
ここからいかに優れているとはいえ、技術的難易度の高いMPFシリーズやジェットストライカーへと簡単に乗り換える余裕があるかとなる。
慣熟訓練や乗り換えには時間がかかるわけだし、性能の向上でこれまでの戦術では適合しなくなるケースもあり得るわけである。
(つまるところ、技術レベルの世界単位での底上げをやらねば、これらはお飾りにしかならんというわけだ)
それが尤もな懸念だ。飛べない翼に意味などない。役に立たねば、元も子もない。
もちろんのこと、少数精鋭に割り当て、集中運用するというのもアリといえばアリだろう。
こちらから支援や補助を行う人間を送り出せば、例えば精鋭部隊を編成してそこに配備するというならば可能になる。
そして、一般普及させるのはジェットストライカーということになるだろう。既存機の多くを凌駕するそれが普及すれば、優位をとれる。
とどめに、魔導士の補助だ。性能は正直低い。
だが。魔導士とならなくとも、誰もが演算宝珠を使えれば、歩兵の上位互換になれる。
その為の装備の開発も進めるように指示しているわけであるし、数年後には本格導入も可能だろう。
「一先ずは、作ってからか……」
作業しているパソコンから手を放し、いとおしげに自分の作った「翼」を、ハチナナ式の一つをなでる。
生み出していく喜びというのは、いつになってもたまらないものだ。いうなれば、この翼は子供のようなものといえる。
「失礼いたします、ヴェルクマイスター様」
「どうした?」
そこに入ってきたのは自分の秘書であるフラワーだ。
問いかけた先、有能な秘書は困り顔を隠さずに答える。
「お客様です、それも厄介な」
月に叢雲花に風、か。その言葉を浮かべながらも、リーゼロッテは苦々しくうなずいた。
36: 弥次郎 :2021/09/16(木) 23:59:41 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
「それではくれぐれもよろしく」
「ええ、ご期待に副えればと思いますよ」
その言葉を笑顔と共に添えてやれば、相手は気を良くして帰って行く。
そう、言いたいことを言った後、適当な応答をされたというのに機嫌よく、だ。
退出していく扶桑皇国軍の将官を見送った後、リーゼロッテは堪えていたため息を大きく吐きだした。
「勘違いされているな、やはり」
相手に『偽の記憶』を刷り込み終えて、リーゼロッテは漏らす。
そう、勘違いだ。扶桑皇国政府にしろ、軍にしろ、あるいはその官僚組織にせよ、個人にしろ、今日来た人間の背後にいるモノにとってきわめて都合の良い勘違い。
そんな勘違いをしていることは、先に対応したフラワーから聞かされていた。それへの対応が面倒になることも。
そこで、用向きを聞いた後に暗示と催眠を用いてとっととおかえり願ったのだ。おそらく帰った頃には都合の良い曖昧な記憶だけが残っているだろう。
その手の素養のない人間など、文字通り視線を合わせるだけでも完了できる。
対応としてはひどいかもしれないが、これでも忙しい身であるし、戯言に興味はないのだから。
そして、フラワーもまた、リーゼロッテの言わんとすることを察してお茶のおかわりをカップに注ぐ。
「ハチナナ式のプレゼンスがうまくいったことの弊害ですね?」
「ああ。早くもMPFを実践投入できるなどと考えている暗愚な連中だろう。
あの男自体に何ら悪意はなかった。ということは、その背後にいる連中が言葉巧みにあの男を差し向けてきたということだろう」
カップを空けながら、リーゼロッテはフラワーの言葉を肯定する。
「便利屋扱いされているわけだ、我々は。まったく、舐められたものだ。
まだ実践投入は不可能というのは説明されていて、納得はしているのだろう。
だが、心のどこかでは「できるのでは?』と期待しているのだ。我々の活躍が著しいことや、早期に成果を上げたことを根拠として、な」
「せかせばそれだけ成果を出してくれると考えているわけですね?」
「ああ。そして、それは功績にもつながる。便利な道具や人形扱いというわけだ。もっと言えば金の卵を産むガチョウか…」
そのことは薄々と察していたことであるが、主からそれを肯定されると、なおのこと込み上げるものがあるフラワーだった。
そして、それはリーゼロッテも同じだ。
小賢しい下々の人間、上の存在を敬えぬ者共、野心ばかり膨らませる群像、己が利益をさも大義のためと騙る下賤。
(ああ、全く……)
沸き上がるのは、未だに消えぬ胸の内の憎悪。
あの時の、最愛の人を失ったきっかけになった「あの出来事」の原因となった者共。それらと同じ匂いがしたのだ。
それを思い出すだけでも、文字通り炎が燃え上がってしまいそうになってしまう。いつの時代も、そんな者共は蝿のように湧いてくるものだ。
だが、リーゼロッテは自制ができる。見た目はそうでなくとも、1000年を超える時を生きてきたのだから。
「……フラワー、迷惑をかけた」
「いえ、何ほどのことがありましょうか」
怒りで手から迸った魔力はカップの中の紅茶を瞬く間に沸騰させた。
しかして、こぼれていった紅茶はフラワーの魔術により空中で受け止められている。
らしくもなく、怒りで我を忘れそうになってしまった。いまだにあのことは割り切れていない。
未だにリーゼロッテの奥底で、いつ噴火するかわからない活火山のように存在し続けているのだ。
37: 弥次郎 :2021/09/17(金) 00:00:15 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
数度の呼吸を経て、リーゼロッテは平静を取り戻す。
あの手の連中のことは頭から追いやり、意識を現実へと戻すことに成功する。
「ともあれ、何しかしらを差し出してやる必要はあるだろう。強く言ってもあの手の連中は全く堪えんだろうしな」
「同意いたします。得てして安全なところにいるがゆえに、そして大勢であるがゆえに、恐ろしさを忘れ、善意に乗るものですから」
そう、これがウィッチや魔導士ならばどうとでもなるが、相手は高級階級の軍人。それも、不特定多数なのだ。
そうなれば、責任も咎も誰かに押し付けることができるから、その個人は何とも恐ろしい怖いもの知らずになってしまうのだから。
だが、そんな連中に釘を刺すことができる方法を、よくよく心得ていたし、その為の力もあるのがリーゼロッテなのだ。
「フラワー……私はしばらく工房に籠る。余人を近寄らせるな」
「仰せのままに、マイマスター」
そして、立ち上がるリーゼロッテに最前までのいら立ちや怒りはない。
ただ、純粋に、自らのなすことをなさんとする魔女の姿があった。
後日のことだが、扶桑皇国軍に対してシティシスは試作兵器の一つを納入した。
まったく予定になかったそれは、しかし、注目を浴びていた。それゆえに、多くの人間が挙ってお披露目に押しかけることとなった。
『試作零式魔導強化刀』。それこそが、そのお披露目の主役。
埋め込まれた宝珠の力により、刃のみならず、使い手の力を底上げし、尋常ならざる力を与えるという触れ込みだった。
生み出したリーゼロッテが自ら説明をしていくにつれ、誰も彼もの目から正気というものが失われていく。
「炎の魔女」「姦淫(ルクスリア)の魔女」「バビロンの大淫婦」と呼ばれた彼女の言葉には、人を狂わす力と魔力が込められていたことも知らずに。
それのデモンストレーションを務めるウィッチや魔導士を押しのけ、押しかけてきていた将官たちがなんと自ら手に取ったのだ。
そして、それは起こった。必然にして、当然の結果が。
確かに使い手に力を与える刀ではあった。だが、その力は余人が従えることのできるものではなかった。
己の領分を超え、力を過信したままに、従えることができない力を浴びた瞬間、当然のごとく暴走した。
怪異を相手取ることを目的とした力が、演習場でコントロールされないままに振るわれたのだ。
そこにいたウィッチや事故に備えて用意されていたエーテルによる防御機構が稼働したことで、人死になどは出なかった。
だが、演習場は半ば形を失う大損害を負うこととなった。また、その暴走した力に多くの人間が恐怖した。
あふれ出る力に翻弄されるままに振るわれた一刀は多くを薙ぎ払い、壊し、砕いた。それは物理的なものもあり、人の意思や感情も含まれた。
まさしく大惨事であり、現場にいたリーゼロッテが力づくで抑え込まねばさらなる被害が出ていたことは明らかであった。
38: 弥次郎 :2021/09/17(金) 00:00:49 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
原因追及を行った結果、使い手が制御しきれなかったことによるものと判断されることとなった。
そして、その暴走事故を起こした軍人たちが、リーゼロッテら「シティシス」に対して再三にわたって成果を求めていたことが明らかとなった。
国家の意思を超え、個人の意思でシティシスに力を生み出すように要求し、挙句にこのような事態を招いたのだと、そう判断されるのに時間はかからなかった。
ほかならぬリーゼロッテの証言もあり、これらを生み出さざるを得なかったということも発覚した。
また、開発者であったリーゼロッテは自らの非を認め、扶桑皇国政府および軍をはじめとした関係者に謝罪して回った。
自らの至らぬばかりにこのようなものを生み出し、この惨事を生み出してしまったのだと。
力のないものに力を与えるといっても、それは危険が伴ってしまうことを失念してしまったのだと、自ら頭を下げたのだ。
これには、関係者たちも拳を振り上げることさえ躊躇ってしまった。
当然だ。誰よりも責任を負うべき人間が真っ先に頭を下げ、自らの非を認めたのだから。
自らの進退さえもと言い出すリーゼロッテに対して、各国政府ができることはそれを全力で止めることであった。
確かに彼女たちの責任は追及すべき事案ではある。だが、下手に追及して処罰した場合、それはそれで困ることなのだ。
既に彼女たちの生み出した魔導具や物品は最前線を支えている。それの供給元がつぶれるのは困るどころではない。
一先ずのところ、シティシスで作成された『試作零式魔導強化刀』はすべて回収・封印措置が取られることとなった。
製造され、取り付けられていた演算宝珠は解体され破棄。加えて、『試作零式魔導強化刀』の設計図や資料も表向き存在しないこととなった。
シティシスおよびそれを率いるリーゼロッテの進退についてはもちろん取りざたされたが、結果的には事実上の不問ということで落ち着いた。
彼女たちは力を欲した馬鹿どもの被害者であり、根本的には彼女たちを都合よく使おうとする人間がいたことが最大の原因とみなされたためだ。
そして、これらの一連の流れについての情報は、
ストライクウィッチーズ世界の各国に共有されることとなった。
それは、多くの人間が使える便利な道具という触れ込みの演算宝珠と魔導具という認識に、一石が投じられた瞬間であった。
使い手は道具を選ぶことができる。しかし、道具は存在する限り使い手を選べない。そんな当たり前のことを、改めて認識させることとなったのだ。
そうして、一連の流れが認知されていくにつれ、扶桑皇国をはじめとしたストライクウィッチーズ世界の国々は徒に力を要求することを控えることとなった。
不特定多数の相手を黙らせるもっともな方法、すなわち、恐怖と後悔に包まれてしまったがゆえに。それは蔓延し、波及し、人々の中にとどまり続ける。
だから、善意からでも悪意からでも、徒な行動を起こそうとするのを抑止するのだ。
全てはリーゼロッテの描いた絵図のままに。
斯くして、リーゼロッテに課された形ばかりの一か月余りの謹慎処分の後に、シティシスは再始動。
これまで以上に縛りや成果を要求されることなく、本当に必要なモノの開発に力を注ぐことができるようになったのであった。
そして、のちのMPFシリーズの基礎となるエーテルを用いたPSの基礎理論は1941年の5月に完成。
ハチナナ式を完成にまで持ち込み、のちに発展型の90番代フレーム実証機「キュウマル式」までたどり着くこととなる。
39: 弥次郎 :2021/09/17(金) 00:02:37 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
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事故は起こるさー…事故だよ?事故だ(豹変
ガソリンのドラム缶が銃撃で爆発して人を巻き込んで殺しても、乗っていた車から飛び降りたらその車が人を曳いても、人を投げたらそこが高い崖だったとしても、全部事故(TPP並感
最終更新:2023年11月03日 10:18