469: 弥次郎 :2021/09/22(水) 00:00:56 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

憂鬱SRW ファンタジールートSS「扶桑皇国、開発戦線1941」5


  • F世界 ストライクウィッチーズ世界 扶桑皇国 1941年4月21日 横須賀 「シティシス」技術工廠


 リーゼロッテが形ばかりの謹慎に入っても、シティシスそのものの動きが止まったわけではない。
 予めリーゼロッテから指示されていたように部門ごとに開発や研究を進め、あるいはストライクウィッチーズ世界の各国と折衝を行う。

 殊更、大きな仕事となったのはエーテルリアクターの輸出準備にあるだろう。
 元々扶桑皇国においてエーテルを用いた物品の生産に必要な分の獲得に使われていたリアクターを、各国へと普及させるという一大計画だ。
既に欧州においてはエーテルによる魔法強化を施したエーテルエンチャント弾が実証試験されており、高い効果を上げていた。
 だが、その製造は扶桑皇国でしか現状は不可能だ。少なくとも既存弾薬にエンチャントを施す生産ラインは扶桑皇国にしかない。
よって現状のところ、扶桑皇国で生産している武器弾薬に互換性のある火器にしかそのエンチャント弾は使えていない。
 よって、最も最前線に近く生産ラインも敷かれているブリタニアに対してその供与が行われることになった。
一般兵科でも当てられればネウロイを効率的に駆除できるというのは、その無茶な導入計画を実行してもなお有り余る恩恵だったのだ。
加えて一般兵科に限らずウィッチほど潤沢に魔力を使えない魔導士でもエーテルエンチャント弾で有効打を与えやすくなるため、それは希求された。

 そして、シティシスにおいて研修を受けることになったのは、そのブリタニアの技術者たちであった。
 内容は至極単純、エーテルリアクターの基礎理論に始まり、その維持管理、トラブル対応の方法など一般的なものだ。
 確かにエーテルリアクターは便利なものではあるが、同時に危険が付きまとうもの。特に大量のエーテルと電力が迂闊に反応すると、ドカンである。
 そして、横須賀港にはブリタニアで建造予定のエーテルリアクターの部品や設備が詰め込まれた輸送艦が準備されつつあった。
これの導入と稼働は、欧州戦線における武器弾薬の調達を大いに助けることになると期待されている。
 無論のこと、ブリタニアに限らず、エーテルリアクターを求めるのはリベリオンやカールスラントなども同じ話であった。
 だが、扶桑皇国でさえもまだ導入しきっていないそれをいきなり使えるかと言われると微妙なところだ。
連合の技術供与はありがたいことではあるが、平時ではなく戦時に進めるというのは何かと苦労が付きまとうものであるからだ。

 ほかにも、ウィッチや魔導士向けの最新装備-手持ち式の空対空ミサイル、大型砲、エーテルのエンチャントとバリアの発生機構を備えた防護服などを準備していた。
これらは十分すぎるほどの性能が期待されており、着々と工廠において開発がすすめられ、目下のところ所属のウィッチや魔導士でのテストを待っている最中だ。
とはいえ、これらはまだ本命などではない。これらはあくまでも後々に控えている本命のためのテストベッドでしかない。
 そうした時間稼ぎの間に、シティシスは本命---MPFの開発を進めることになる。

 だが、それには一つ欠けているピースが存在した。
 即ち、PSなどというものを知らず、初めて触れることになる人間の存在である。
ストライクウィッチーズ世界の人間を被検体としたこのテスト運用というのは、今後の導入には必要なデータを提供してくれることとなる。
 だからこそ、その人材のスカウトは連合およびシティシス上層部の承認するところとなり、実行に移された。
 リーゼロッテのやむを得ない謹慎というものが発生したことで多少はタイムスケジュールは遅延したが、その手以後は許容範囲であった。
 斯くして、信頼のおける人間と見込まれ、惠上大輔の甥である惠上悠がシティシスに招聘されることとなった。
予めテストに備えた事前の訓練と適性検査を実施。そして、リーゼロッテが謹慎を終えて復帰する5月半ばを正式な着任日として設定した。

470: 弥次郎 :2021/09/22(水) 00:01:33 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

  • 扶桑皇国 1941年5月19日 横須賀 「シティシス」技術工廠 応接室


 シティシスの工廠に併設された管理棟内の奥、首脳部や来賓を迎えるための応接室があった。
 そこに通された惠上悠扶桑皇国陸軍伍長は、まさしくおっかないものと対面していた。

「……」

 それは、自分よりも外見上は幼い少女。美しい銀髪をなびかせ、抜けるように白い肌を持ち、血のように赤い唇が宝石のように美しい。
 だが、それ以上に恐ろしいのだ。呼吸一つ、動き一つが、圧倒的な存在感を放っていて、目が離せなくなる。
いきなり銃口や刀を突き付けられた時の感覚に似ているだろうか?恐ろしくて、命の危機を感じるのに、それから逃れられない感覚。
 その人物、リーゼロッテ・ヴェルクマイスターは内心冷や汗をかいている悠をじっと見つめていた。
 その碧眼。何もかもを見通すかのような、そんな瞳。自分というものを丸裸にしているかのような鋭い眼光。
時折書類の方に目が行くが、基本的にはこちらを見つめているのだ。必要なことは見ればわかる、というように。

「……良いだろう」

 悠の体感で1時間は経過しただろうか。重々しく口を開いたリーゼロッテは、そういって書類をめくる手を止め、宣言した。

「事前の適性検査や人格面での調査も問題なし。肉体も健康で病気や失陥もない。20代ということもあって頑丈。申し分ない。
 これから肉体をさらに仕込めば、元々軍学校にいた以上になることは保証できる」
「ヴェルクマイスター様、言い方を」
「ん……?ああ、すまない、フラワー。言い訳になりそうだが、これでも卿を評価しているのだ。
 だが、私の作った翼を預ける相手なのだから、生半可では許したくはないのだ」

 そう、あれは私の子供だ、とまでリーゼロッテは言った。
 その言葉は、とても重かった。それを感じ取れるくらいには悠は叔父の姿を見ていた。
幼いころの自分に、そして軍人となった後に語ってくれたのだ。自分たちは飛べない代わりに、翼を生み出しているのだと。
 そしてその翼は、自分の子供かそれ以上のものなのだと。
 その時の叔父の顔は今でも忘れられない、忘れていない。
 その時と同じ顔をリーゼロッテはしているのだから、間違いようもない。

「わかりました。ヴェルクマイスター大佐の満足がいくまで、自分を鍛えてください」

 その言葉に、リーゼロッテは片眉を吊り上げる。

「ほう、言うな」

 体感で温度が10度は下がった。それくらい、リーゼロッテは真剣に睨んだ。

「妥協はしないぞ、私は。卿がふさわしくなければ放り出すかもしれん」
「望むところです」

 つっかえそうになる言葉を、震えそうになる喉を、怯えそうになる心と体を叱咤して、悠は答えた。
 相手は本気でぶつかる気だ。だったら、それに応じる態度をとらないとならないと感じたのだ。それに、一切の偽りはない。
 しばし、悠の目を見つめていたリーゼロッテであったが、やがて獰猛に笑った。

「ハハハ、本気か」
「はい」
「ならば、だ」

 その言葉を受け、リーゼロッテは宣告した。逃さない、逃す余地など残さないように。
 自らの子を預けるのにふさわしくするまで離しはしないと。

「その血の一滴、肉片一つまで、全力を捧げてもらうぞ」

 それに、悠は力強く頷きを返したのだった。
 斯くして、彼の煉獄の日々は幕を開けることとなったのであった。
 のちに扶桑皇国におけるウォーザードのトップランカーとして名をはせることになる惠上悠の、その始まりであった。

471: 弥次郎 :2021/09/22(水) 00:03:09 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

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人材スカウトでした。
縁故採用って言われそうですが、こうでもしないと信用のおける人間が集まらないので…
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最終更新:2023年11月03日 10:20