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憂鬱SRW ファンタジールートSS「扶桑皇国、開発戦線1941」6
- F世界 ストライクウィッチーズ世界 扶桑皇国 1941年6月9日 横須賀 東京湾沖合 改装軽空母「シャングリラ」
惠上悠伍長をはじめ、縁故を頼って採用された訓練兵は男性だけでも10名はいた。
元々魔導士を志していたもの、戦車乗りだったもの、あるいは軍艦に乗っていた経歴を持つ者もいるという陣容だ。
適性検査や面接の結果などを加味して集められた彼らは、YPF
シリーズのテスターと将来的なウォーザードの候補生なども兼ねて日々訓練を重ねていた。
それは座学やシミュレーターのみに限らず、肉体の鍛錬、連合製PSでの実習など多岐にわたった。
リーゼロッテからすれば、まっさらな彼らだからこそ得られるデータもあるが、それはそれとして、将来的な使い手として鍛えなければならなかった。
一兵卒として、そして、尋常の人間を超える力を振るうウォーザードとしての精神涵養を行うにはそれが必要だったがゆえに。
完成と配備を急いでいたリーゼロッテらシティシスの思惑もあり、彼らは6月にはすでにTFと呼ばれる練習機での飛行までもたどり着いていた。
彼らは未だかつてない飛行感覚に戸惑いながらも、それでも必死に食らいついていた。
そして、その日のその時間のカリキュラムは、ウィッチとの性能比較実験。
模擬弾を用いた攻撃もアリで、相互の性能差や稼働データの採取を行うというものだった。
シティシスに出向している現役ウィッチとの間の模擬戦ということで、数の上では5対3と優位を持たせてある。
だが、リーゼロッテが予測したように、未だに性能を活かしきれていないTF側が不利だった。
互いの攻撃が互いに対して均等に有効という前提条件であるとはいえ、一日の長があるのはやはりウィッチ。
空を飛ぶのがどういうことであるかを学んでいるウィッチたちの方がスペック上では劣っていても、極めて有機的に飛び回り、翻弄しているのが窺える。
「やはり、そうなるか……」
リーゼロッテは管制室でそう呟くしかない。
宮菱重工業 零式艦上戦闘脚と現在ウォーザードが使用しているTF-02はスペック面で優位を持っている。
加えて、ウィッチがとりうる戦闘マニューバも一通り教え込んであり、尚且つコンピューター側にも学ばせてあるという優位があった。
だが、そういったソフトウェア・ハードウェア面でのサポートを受けていることによる下駄さえも超えて、ウィッチたちは力量を示したのだ。
(だが、求めているのはそれではないというのが本当のところ……)
必要なのは、ウィッチを追い越すために何が足りないかということだけだ。
魔導士の実現に向けての研究でも出たのが、ウィッチが有する独特の感受性あるいは直感をいかに学び、再現するかであった。
時間をかける必要があるのは規定事項だろう。言っては悪いが、ウォーザード達は促成兵にすぎないのだから。
それでもそれだけを理由に負けてもらっても困る。ウィッチや魔導士の上位互換を目指し、それだけの力は秘めているのは確認しているのだから。
だが、それを引き出せなくては話にもならない。それも、使用者がこの世界の住人で、だ。
今のやり方で芳しくないならば、アプローチを変えるのも一つの手であろうか?
「難しいところだな」
「?」
思わずつぶやいた言葉に大輔が疑問符を浮かべるが、リーゼロッテは意には貸さない。
候補者たちの能力の頭打ちを破る何か。それを探してみなければならないのだと。
無数を超えて存在するアプローチの中から、一体何が最適か。それを導かなくては。
897: 弥次郎 :2021/09/25(土) 23:59:16 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
元々は平均的な連合製の輸送艦であったシャングリラは、その船体の大きさに相応しい広い格納庫を有していた。
もはや単なる格納庫というよりは、半ば工廠を格納庫と地続きにしたような、そんな各種機材のそろった空間であった。
そして、模擬戦をはじめとしたカリキュラムを終えたウォーザード達、そしてウィッチたちは甲板に着陸後、順次エレベーターでそのまま格納庫入りした。
待ち受けるのはメカニック班やデータ解析班だ。先ほどまでのカリキュラムで得られたデータと機体のレコードを比較し、あるいは状態を調べるため。
彼らの仕事は、むしろウィッチやウォーザード達よりもさらに多いと言っても過言ではないのだ。
そして、彼らの歓迎を受けた後に疲労困憊で休憩スペースに直行するのが、ウィッチとウォーザード達だった。
殊更に、未だに不慣れであるウォーザード達はその色が濃い。無理もないことだ。模擬戦だけでなく、演習でレベッカに可愛がられたのであるから。
同じTFを使っているとは思えないほどに、彼我の差が浮き彫りになっていた。それこそ、ウィッチたちですら彼女一人に敵わないほどに強い。
「だーっ……疲れたぁ」
悠は思わず声を漏らした。
メンテナンスベッドに体を預け、体を覆う鎧のようなTFを取り外していくのがTFの独自の機構だ。
だが、それはTFのパワーアシスト機能が切れてしまうことであり、稼働が停止すると同時に外側の支えを失った肉体に疲労がどっと押し寄せてくるのだ。
最初のころなど、自分の疲労がわかりにくくなってしまうものだから、取り外された瞬間に倒れ込んだほどだ。
今はそんな無様は晒さない。だが、それでも、一日が終わってしまうと体の疲労は避けえない。動くのもおっくうになるほどに。
「大丈夫か、悠?」
「……体中が痛いです」
そんな状態の悠に声をかけたのは、専門アーキテクトを示す黒の衣服に包んだフランソワだ。
専門性の高い分野をまたがって担当できる技術者あるいは専門家は、レインボーギャングの括りを超えた黒を纏うことが許されている。
それこそ、機体の整備なら何でもこなし、場合によってはウォーザード達のファースト・メディカルケア(即応医療対処)さえもこなす万能の人材だ。
フランソワはその役職故に、触診や悠の証言から何が必要かをすぐに察する。
「筋肉痛……いや、これはマニューバで体が負荷を受けたか」
フランソワはすぐに無理をさせないようにとストレッチャーを用意させる。また、筋肉の痛みを抑えるための湿布も用意させた。
それは、悠だけの分ではない。訓練に参加していた全員の分であった。彼らも彼女らも、訓練と演習にとかなりの無茶をしたのだ。
いや、それだけ求められていて、それらに必死に食らいついているというべきであろうか。
「無理はするなよ?この手のパイロットは体が資本だ」
「それは何度も言われました……でも、だからこそ必死に使わないと」
「大事にしろということだぞ」
クッション機能を稼働させて柔らかくなったストレッチャーの上で処置を受ける悠と言葉を交わしながらも、フランソワは湿布を張り付けていく。
他のバイタルなどの情報から考えるに、喋ったり他のことを考えたりする余裕はまだあるか、と判断できた。
「この後はデブリーフィングになる。ヴェルクマイスター大佐も今回の演習は見学なさっていたから、いつも以上だと思うんだな」
「了解です……」
フランソワの言葉に、少し悠はうぐっと言葉に詰まる。
リーゼロッテは、妥協をしない。目指すべき目標のために、ひたすらにまい進する人間だと短い付き合いで理解している。
意志があり、実行力があり、周りを巻き込むカリスマがある。そして、それを裏打ちするだけの実力もだ。
事実として、リーゼロッテはシティシスに出向してきたウィッチをあっさりのしてしまえる実力があった。
ストライカーユニットに依存せずに魔法を使いこなし、その知識も圧倒的なモノ。
(ものすごい必死なんだよな、あの人は)
898: 弥次郎 :2021/09/26(日) 00:00:17 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
そして、最も強いのがそれだ。自分に対してMPFやYPFを我が子、我が翼と言ったように、思い入れが強い。
それがわかるからこそ、誰もが自然に従ってしまうのだ。彼女が一番必死な姿を見せているのだから、誰も彼女に文句を言えなくなる。
ただ、頑固というわけでもない。文句というか、言いたいことがあればそれを許しているし、寛容に意見を撤回することさえする。
悠が見てきた中でも一番「大人」だ。というか、もはや老成しているとさえいえるほどの落ち着きさえうかがえた。
(いったい何歳なんだろうな……)
いつだったか、思わず年齢を聞いてしまったのだが、笑って答えてもらえなかったことだ。
Need to know.の原則だ、と言われた。つまり、自分は何らかの理由もあって、教えてもらう必要がないと判断されたのだという。
「よう、伍長。大丈夫か?」
「瀬上少尉……」
押されていくストレッチャーの上でそんなことを考えていると、隣を並走するストレッチャーの上には瀬上少尉がおり、声をかけてきた。
瀬上渚。海軍少尉であり、元々は艦艇の乗員だったと聞いている。それが縁故を頼って招聘され、自分と同じくウォーザードとなった。
演習では自分と同じくいい動きをしていたが、やはりというか、疲労で動けない状態になったようだった。
「まったく、今日は大佐殿の前だって聞いていたんで張り切ってみたが…無理はするもんじゃないな」
「でもいい動きだったと思いますよ」
悠の記憶の限りでは、一番ウィッチたちに食らいついていた。
その動きは教官から教えられていたそれに、とても近いように見えたのだ。まあ、主観でしかないので何とも言えないのも確かだが。
「……けど、普段からあの動きをしろって言われたらキツイんだよなぁ」
「毎度、これですからね」
装着者保護機能により、だいぶ負荷は軽減されているという。
それでも疲労が大きい。それだけの動きをして、集中を維持し、自分になだれ込むいくつもの情報を処理するためだ。
だが、それが意識の違いで出せる出せないが決まるならば、おそらくリーゼロッテは「常にそれをやれ」というだろう。
より高みへ、より新しい境地へ。挑み続けている彼女の前で張り切るという行為は、ある意味自分の首を絞めるものだ。
だが、悠は知っている。大人のような、しかし少女のような、そんなリーゼロッテにひかれている人間は男女問わずにいることを。
そして、その一人として、自分と共に訓練に励む瀬上も含まれているということを。
一瞬だが、高嶺の花という言葉が頭の中をよぎる。あるいは、舶来の神話に聞くなんとかの翼を思い出す。
自分たちはウォーザードとして、人工の翼で空を飛んでいる。だが、飛んでも届くところと届かないものがあるのではと。
そんなことを考える彼らは医務室を経由し、ブリーフィングルームへと出荷されていったのであった。
899: 弥次郎 :2021/09/26(日) 00:01:20 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
設定などはあとでまとめて出しますね。
あとどれくらいで扶桑皇国編を締めにすべきか…
とりあえず、1942年までは進めようかなと思います
最終更新:2023年11月03日 10:20