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銀河連合日本×神崎島ネタSS ネタ ゲートの先は神崎島もヤルバーンも無いようです 幕間 静かな星 後編一



あのレースから幾つかの季節が過ぎ、色んなレースがあった。
中距離のドリームトロフィーで電とトウカイテイオーがぶっちぎったり。
長距離でメジロマックイーンが電を騎手に迎え制したり。
マイルでサイレンススズカが電を乗せ大逃げかましたり。

電は騎手として大人気。
名前が歴史に産もれた馬から幻の馬、神馬、皇帝に至るまで、電はその背に跨った。
お陰で電は酷使無双の名騎手と呼ばれていたりする。
なお電曰く千里疾走が無かったらヤバかったとかなんとか。

そしてゲートが開き、ゲートのこちら側のイゼイラと日本に国交が生まれた初めての秋、その秋も深まって来た頃。



夜の府中、東京競馬場の厩舎、その馬房に大勢の人間が集まっている。
彼らの視線の先には藁の山に力なく横になる鹿毛の馬が一頭、その隣の馬房にも白馬が横になっている。
馬体に幾重にも巻かれた包帯が痛々しい。

その厩舎から少し離れた場所で話をするJRAと東京競馬場の職員たち。
厩舎の外に植えられた樹木を血が出る程の力で殴る男性もいる。


「クソッ!現場に居合わせたヤルバーン乗員と向こうの人のお陰で一命は取り留めたが…!」

「症状は?」

「塩酸による化学熱傷。明日の秋の天皇賞への出走は無理だ…。」

「折角向こうのJRAと神崎島中央競馬会がこっちの競馬への応援として寄越してくれたのに…。」


馬房に横たわる鹿毛の馬はこちらの馬ではない。
ゲートの向こう、銀河連合日本のJRAがこちら側の秋の天皇賞への招待に応じ派遣した馬だ。
向こう側でも人気のある馬でこちら側でも競馬新聞や雑誌等競馬系メディアで大きく取り上げられ、
現実より早くゲームリリース、第二期も始まったウマ娘で火が付いた競馬人気にも拍車をかけていた。
それはその血統にある。


「しかも向こうのJRAのあの馬、トーカイメジロは向こうの競馬界期待の星だ。
なんたって父方の祖父はトウカイテイオー、辿ればシンザンにミスターシービー、シンボリルドルフ。
母父にはメジロマックイーン…なんだこのロマン配合…。」


そう鹿毛の馬、トーカイメジロは"あの"不屈の帝王とターフの名優の子孫で既に幾つかのG1の冠を戴き、祖父や曽祖父を超えることを期待されていた。
向こう側ではその祖父や曽祖父も新たに創設されたドリームトロフィーを走っていたりするのだがこちら側の人間には知る由もない。
白馬の方は父がサラブレッドではないという血統故に天皇賞への出走はかなわなかったが十分に注目を集めていた。


「神崎島の方も父はアーサー王の愛馬ドゥン・スタリオン、その初の仔じゃねえか…大問題だぞ…。」

「向こうとこっちアーサリアンと競馬の本場のイギリスでも報道で大きく取り上げられてる。神崎島含め最悪国際問題にも発展しかねないぞ…。」


それだけではないと話を続ける。


「今回のは馬だけの問題じゃないぞ…天皇賞でテイオーとマックイーンの孫に乗る予定だった向こうのあの人も落馬で怪我したんだからな…。」

「傷害に加え殺人未遂でも捜査始まってるからな…。」

「僕がどうかしたかい?」

「!お怪我は!?」


そんな話をしていると向こう側の彼、日本競馬界の生けるレジェンドが姿を現した。
その腕はギプスで固定され三角巾で吊るされている。


「右腕を骨折しちゃってね。もう完全にくっついてるけど安静の為に明後日までこのままだよ。」

「じゃあ明日の出走は…。」

「代わりの馬がいても無理だね。」


とんでもないことをあっけらかんと言う彼。
だからこそ遣る瀬なさがと怒りが募る。
今日という日はこちら側の日本競馬界にとって記念となる日、になる筈であった。
名馬達の子孫と伝説の名馬の仔、そのお披露目のイベントが行われた今日は。

トーカイメジロはその血筋と翌日の天皇賞に出走するといこともあり注目を集め、ドゥン・スタリオンの仔も行ける伝説の血ということでイベントの目玉であった。
そして翌日の天皇賞ではトーカイメジロの父祖らをモデルとしたアニメ、ウマ娘のイベントも予定されており声優達もこのお披露目イベントに参加していた。
実際にウマ娘(彼ら視点)もいることからこちらの注目も高かった。

イベント中パドックでは彼がトーカイメジロに騎乗、ドゥン・スタリオンの仔にはウマ娘の声優達が順番に乗り記念撮影が行われていた。
皆笑顔が溢れていた。
秋の楯を得るであろう伝説の後継に夢を馳せ、アーサー王の伝説の証に心躍らせる。

880: 635 :2021/09/27(月) 17:44:25 HOST:119-171-250-56.rev.home.ne.jp


だが独り善がりな考えの者達のせいで全ては壊された。


サイレンススズカの声優がドゥン・スタリオンの仔に騎乗中に不審者がパドックへと乱入、馬達に液体を浴びせたのだ。
暴れるトーカイメジロから彼は振り落とされ、ドゥン・スタリオンの仔は皮膚が焼け爛れる痛みから大きく嘶きヨタヨタに歩き群衆を巻き込まぬ様にと離れるような姿。
最後まで倒れまいと耐えた、自分の鞍の上に必死に手綱を握り震える存在があったからだ。
そしてゆっくりとたたらを踏みドゥン・スタリオンの仔は地面に倒れた、鞍の上の人物を守る様に。

それに招待されその場にいたこちら側の彼は声を上げる。
重なったのだ。白と栗毛、全く違うのに栗毛に白い流星を持つ彼と。
そして鞍上から落ちた声優は立ち上がると馬の傍らに駆け寄り声を掛け、擦り続け誰か助けてと悲鳴を上げた。
その声優の姿がかつての自分と重なり呆然とする。

直ぐに不審者らは取り押さえられ、向こう側の彼は救急車、馬達は馬運車に乗せられ運ばれた。
後に残ったのは突然の出来事にざわめく者達と涙を流し続ける声優と寄り添う仲間の声優達のみ。
この世界の彼はずっと呆然としていた。



「トーカイメジロとドゥン・スタリオンの仔に塩酸を掛けたのは急進派のフェミニストや動物愛護、それに…平和主義を掲げる者達だそうだよ…。」

「あいつら…!」

「直接の面識は無く、ネット上のやり取りと人伝えでここに集まって犯行に及んだと…。
動物と女性から搾取して平和を脅かしていた存在から馬達を解放するだって…笑っちゃうな…馬を傷つけ、
人に危害加える事を平和のためとかで正当化するなんて。」


悲しそうに彼は笑う。
しかし直ぐに表情を改める。


「だけどあんな奴らの思う壺なんて癪だ。決してあんなのに負けはしない。馬も用意した。
こっちのJRAから許可が降りれば天皇賞で僕達も走れる…。」

「で、ですが乗れないんでしょ?それともこちらの貴方に…?」

「断られたよ…今日の事で二十年前の天皇賞でのあの馬を思い出して無理だって…。だけど代わりの騎手も用意出来てる。」

「本当ですか!?」


そうともと彼は頷く。
そして向こうとこちらのJRAで交わされた出走資格は満たしていると言う。


「大丈夫なのですか?」


スタッフの心配に彼は断言する。


「向こうのレースで僕が負けた騎手と馬だよ?それにあの娘とあの馬なら…秋の天皇賞でヒーローになる資格がある…いや、必ずなれる!
悪いもの全てを置き去りにした大逃げを魅せてくれるさ!」




『ここは関係者以外立ち入り禁止です!!』

「…なんだ…?」


トーカイメジロらの馬房の側で馬の様子を見ていたJRA理事らやスタッフは頓に騒がしくなった外へと視線を向ける。


『大丈夫だ!彼女達も関係者、神崎島中央競馬会の方々だ!』


誰かが入ってきた。
その誰かを止めようとするJRAや競馬場のスタッフと止めようとするスタッフを止める向こう側のスタッフ達。
長い栗色の髪に白いヘアバンドをした少女を先頭に四人の女性が姿を現す。
他には栗毛に前髪半分が白い幼い少女、鹿毛の緑に黒い輪の模様の入ったスーツを着る女性、鹿毛に前髪の一部に白いメッシュを持つ女性。
二頭らはその少女らに反応し立ち上がろうとする。


「まだ、寝てなくちゃだめ!」


静かだけれど良く通る声で栗毛の髪の少女が諌めると二頭は大人しく藁山に座り直す。
そして屈み一頭ずつそれぞれに栗毛の少女が手を近づける嬉しそうに顔を擦り付ける。
トーカイメジロを撫で走りたかっただろうにと声を掛けると同意するように静かに嘶いた。
大人しく撫でられる二頭に驚くスタッフや関係者達に少女に同行していた者が声を掛けた。

881: 635 :2021/09/27(月) 17:45:34 HOST:119-171-250-56.rev.home.ne.jp


「謝罪ッ!夜分遅くに申し訳ない!」

「貴女は…KRA(神崎島中央競馬会)理事長!?」


その内の一人は今回の件で骨を折ってくれた神崎島競馬界のトップであった。


「把握ッ!今回の件の概要は既に我々も理解している。故にこの馬の代わりの出走を提案したい!」



理事長は提案と書かれた扇子を広げた。
しかしこちらのJRAの理事らは同じ事が起きる危険性を危惧する。
秋の天皇賞を今回は中止すべきでは、と。


「緘黙ッ!その様に奴等の望み通りにしてどうなる?増々奴等テロリスト共を増長させるだけだ!味を占め、また同じ事を繰り返すぞ!!」


かつての宗教団体による化学兵器テロや暴力革命を狙った者達による殺人や占拠事件を忘れたのかと理事長は一喝する。
いい年をした大人達が少女に一喝されその身を小さくした。

警備に関してもヤルバーンと銀河連合日本が協力するので問題はないという。
その言葉に安堵する理事ら、それならばと。


「しかしその馬はどこに…?」


理事の一人が問うと理事長は一枚の紙を差し出す。
疑問を浮かべながらもその紙を受取ると読み上げる。


「…我々は以下の馬をトーカイメジロに代わり、秋の天皇賞への出走を……連名で提案す……る……!!。」


連名で記載される名と出走馬の名に理事は震える。


「提案者名、ノーザン………テースト、トキノ……ミノル、シンボリ…ルドルフ…。」


彼らが知る名馬達が名を連ねる。
そして。


「出走馬名、サイレンス………スズカ………。」


その場の全員がハッとし後ろを向く、あの栗毛の少女の方を向く。
少女は立ち上がり決意を秘めた瞳を向ける。
伝説は戻って来たのだ、秋のターフへと。
悲運の名馬としてではなく秋の楯を、無念にも走れなくされた馬達へと捧げる為に。


「秋の天皇賞…私が走ります…。」


その決意に応えその場の理事全員が頷きあう。


「回答ッ!全員同意と見てよろしいか?」


異口同音、全会一致。
二十年の時を超え異次元の逃亡者サイレンススズカ、出走す。

882: 635 :2021/09/27(月) 17:46:11 HOST:119-171-250-56.rev.home.ne.jp
以上になります。転載はご自由にどうぞ。
まだまだ続く…。

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最終更新:2021年10月08日 00:03