244: ham ◆sneo5SWWRw :2021/10/04(月) 01:52:11 HOST:sp49-97-104-110.msc.spmode.ne.jp
戦後夢幻会ネタ ham世界線 マレー沖夜戦 終焉と禍根



『レパルス』が沈み始めた頃、『POW』もまた艦首から沈み始めていた。
『鳥海』『摩耶』から放たれた魚雷が次々と命中し、艦首に大破口を作っていたからだ。
加えて、『由良』『鬼怒』が反対側に現れ、挟み撃ちとなる形で砲撃を加えたことで、ボロボロになっていた。
『レパルス』沈没の報を聞いた小沢は、砲撃中止を指示。
POWに「貴艦乗員ヲ救助スル用意アリ」と信号を送った。

「副長、総員退艦を発令せよ。」
「アイサー・・・」

戦死したリーチ艦長に代わり艦の指揮を執っていた副長の指示で退艦命令が発令される。
『由良』が接舷し、『鳥海』『摩耶』『鬼怒』が周囲でカッターや短艇を出し、英兵の救助に当たる。
接舷した『由良』に乗る第五潜水戦隊司令官の醍醐忠重少将は、三八式小銃を装備した水兵を4,5人引き連れてやってきた。

「フィリップス提督とお見受けします。
 私は海軍少将、醍醐忠重侯爵。提督をお迎えに上がりました。
 提督はよく戦われました。これ以上の犠牲は無意味です。
 戦闘の結果を国王陛下に報告するのも提督の責務でしょう。
 退艦してください」

醍醐が敬礼してそう言うが、フィリップスは決意した顔で返礼して言った。

「ロード・ダイゴ、お出迎え感謝する。
 だが、ノーサンキューだ。
 私はシンガポール、マレーの極東イギリス連邦国民に『危機になれば東洋艦隊が出撃する』と約束して出撃した。
 しかし、その約束を果たせなかった。そんな状態で、おめおめと戻れるものか。
 私が約束を果たせなかった責任を取るためにも、ここに残る。」

フィリップスの拒絶を受けた醍醐は、周囲の英参謀達を見るが、彼らの表情から説得できなかったことを察した。

「では、なにか形見の品を」

そう言われたフィリップスはおもむろに自分の帽子を醍醐に渡した。

「必ずご家族にお届けします」

そういって醍醐は敬礼して、英参謀達と艦橋を退出した。

「グッドバイサンキュー。諸君らに神のご加護が有らんことを」

自分1人だけとなった艦橋で、フィリップスはそう呟いて醍醐たちが退出した扉に敬礼をした。

245: ham ◆sneo5SWWRw :2021/10/04(月) 01:52:53 HOST:sp49-97-104-110.msc.spmode.ne.jp
マレー沖海戦 戦闘詳報
日本側
撃沈:伊65
大破:最上、熊野
中破:摩耶、三隈
小破:鳥海、鈴谷、鬼怒、白雪
撃墜:96式陸攻1機

イギリス側
沈没:プリンス・オブ・ウェールズ、レパルス、エレクトラ、エクスプレス
小破:バンパイア


この海戦で退避することができた『フォーミタブル』と『テネドス』だが、この2隻も無事では済まなかった。
壊滅した攻撃隊の残存機を収容している最中、『フォーミタブル』に四本の水柱が上がった。
『伊号第六八潜水艦』の放った九五式酸素魚雷だ。
史実では真珠湾方面に配備されているが、夢幻会の野村直邦によって、巡潜型の増産に成功していた。
そのため、真珠湾方面に十分な数が配備されたことから、航続距離の短い海大型の本艦はマレー方面に送られてきていた。
同じ海大型の『伊65』の仇を討たんと、史実より早く艦長となった田辺弥八少佐は、慎重に様子を伺い、着艦作業で回避運動が取れなくなった瞬間を狙い、魚雷を放った。
夜間に、航跡を引かない酸素魚雷を探知することは、『テネドス』1隻しか護衛の無い英海軍には不可能だった。
魚雷を受けた『フォーミタブル』は燃え盛る炎で海面を照らし出した。
その明るさは遠く離れたマレー半島沿岸で朝日と勘違いされるほどの明るさだったと言われている。

突然の雷撃で、慌てて魚雷発射地点の方向に向かう『テネドス』だが、この時、『伊68』は180度回頭しており、後部より2本の魚雷を「テネドス」に放った。
海面を必死に捜索している見張員が見つけた時には手遅れで、『テネドス』は艦首に1本命中し、艦橋より前の艦首を切断。
沈没することとなる。

両艦が沈没する頃、海戦より被弾して脱出してきたオーストラリア駆逐艦『ヴァンパイア』が偶然通りかかり、救助活動を開始。
夜が明ける頃にはシンガポールより遅れて出航してきたアメリカ駆逐艦4隻も到着。
彼らは『ヴァンパイア』より戦闘が終了したことを伝えられ、『フォーミタブル』『テネドス』の乗員救助を行った。
5隻はその後、航空偵察の情報から日本海軍が居ないこと知り、海戦海域に進出。
夜間で見つけられなかったテナント艦長ら残る乗員を救助することとなる。

イギリス側は不沈戦艦と豪語していたPOWが巡洋艦と駆逐艦からの艦隊で沈められたことに大きな衝撃を受けた。
チャーチルもまた同じく、史実のように「戦争全体でその報告以上に私に直接的な衝撃を与えたことはなかった 」と書き残すことになる。

しかしその一方で、わずかながら帰還することができたPOW乗員への聞き取り調査により、KGV級戦艦の各種問題点と欠陥が判明。
この報告を受け、チャーチルをして「我々が持っていたの不沈戦艦ではなかった。戦艦のようなものだった」と称され、設計部門は閑職に送られる者が多数出ることとなる。

246: ham ◆sneo5SWWRw :2021/10/04(月) 01:53:24 HOST:sp49-97-104-110.msc.spmode.ne.jp
一方で、勝利に沸き、名声を集めた馬来部隊だが、反省点や課題もまた多かった。

特に問題とされたのが魚雷の早爆、命中率と誤射である。

第9戦隊と『三隈』の魚雷がことごとく早爆した件は、大きな問題になった。
運用側は口々に設計に問題があると言った。
しかし、『鈴谷』の木村艦長から「水雷員が勝手に信管を弄ったのが問題なのでは?」と問われ、実際、そのことに注意した鈴谷の魚雷が問題なく作動していることから、その可能性が浮上した。
実際に該当する艦の水雷員に聞き取り調査したところ、信管を過敏に弄っていたことが判明した。

さらに、サンジャック港に帰還した熊野から不発魚雷を回収した際、回収した魚雷に「必中!大井乗員一同」と寄せ書きされていたことから、『大井』の外れた魚雷であると判明。
第9戦隊が小沢の訓令を無視して遠距離雷撃を実施していたことも判明し、第9戦隊は完全に大恥をかく結果となった。
最後に『レパルス』を沈めた功績で相殺となったものの、責任を感じた『大井』の水雷長が謝罪の自殺をしたことで、この魚雷の各種問題は海軍全体に波及していくことになる。

海軍は、信管を弄らないようにロックすることも検討したが、荒天時等の海面の状態に合わせて信管を調整をする必要があったため、信管の調整目安に関してマニュアルを作り、全水雷員に徹底することで対応することとなった。
さらに、「戦闘時に例え挟撃であっても射線上に味方を入れないこと」が徹底されていくこととなる。

また、射線上に味方を入れないことから、レーダーの重要性が高まった。
海戦の始めに起きた陸攻の誤認や『最上』と『三隈』で起きた衝突事故を回避することからも、レーダーの重要性を小沢らが説いたことでその存在が注目されることとなる。
折りしも、海戦劈頭で『日向』率いるミッドウェー砲撃隊が数で優る米艦隊を撃破したことからもその有用性が認識され、日本海軍はレーダー開発に注力していくこととなる。

なお、この海戦で戦死した第7戦隊の栗田の後任人事については、南方作戦が切迫している状況から小沢が兼任で第7戦隊を指揮することとなった。
加えて、この海戦で『最上』と『熊野』が大破し、予備艦となったために、第7戦隊は高雄型の『鳥海』『摩耶』、最上型の『鈴谷』『三隈』という変則的な形で編成されることとなる。

247: ham ◆sneo5SWWRw :2021/10/04(月) 01:53:57 HOST:sp49-97-104-110.msc.spmode.ne.jp
一方で、この海戦が原因で禍根を残すこともあった。
英軍将兵を引き続き救助していた馬来部隊だが、『POW』が完全に沈んだ頃、新たな艦隊が接近してきた。
すわ新手かと緊張が走るが、それは第2艦隊だった。
戦闘海域の東で航行していた彼らは、無線を聞きつけ、ようやく来たのだが、あまりにも遅すぎた到着だった。
第2艦隊の近藤信竹中将を嫌っている小沢は、この遅刻に怒り、『第2艦隊何処にありや?最早敵は居らず』という電文を打たせた。
馬来部隊の下士官や兵も、あまりに遅い到着に怒り、「近藤長官は嫌っている小沢長官を見捨てるためにわざと遅刻したのではいないか?」という噂が実しやかに流れた。
もちろん、第2艦隊側もそんなつもりはさらさら無いのだが、旗艦が『香椎』だった南遣艦隊への旗艦用重巡派遣での妨害や戦力増強時の小沢への悪口を近藤が行っていたことから、弁明するまもなく、その噂は忽ち駆け巡ることとなる。

当然、近藤の評判は悪くなり、反対に小沢の評判は高まった。
巡洋艦と駆逐艦から成る艦隊で戦艦に挑み、帝国海軍伝統の指揮官陣頭精神を体現したのだから当然であろう。
「艦を大事にしろ」と着任した艦隊司令長官や戦隊司令官に常々説いている永野総長は「貴重な重巡を2隻も潰しおって」と評価を下げていたが、
海軍のみならず、陸軍からも、船団を守るために決戦に向かったことから、「海軍軍人の中でも小沢閣下は陸軍のことを分かっておられる」と高く評価した。
そうして名声を集める小沢に、近藤が怒りを感じたのは当然であった。

加えて、連合艦隊司令部は小沢を評価し、山本をして「よくやってくれた」と涙して喜ばれた。
一方で、近藤に対しては冷淡で、宇垣参謀長が戦藻録に「近藤司令長官は赤煉瓦が長すぎて、海軍軍人の精神を忘れてしまったようだ」と記されることからもその評価は歴然だった。
おまけに、戦力が低下した馬来部隊の補強のために、近藤麾下の第2艦隊から『榛名』が抜かれることなる。

あらぬ噂で貶められ、戦艦まで引き抜かれた近藤は怒り、小沢を憎むようになる。
元から近藤を嫌っている小沢も仲を戻すつもりもなく、両者の中はこの海戦後に決定的となり、後に、小沢が第三艦隊司令長官になった際、ソロモン海域の戦闘で度々噴出することになる。

248: ham ◆sneo5SWWRw :2021/10/04(月) 01:54:31 HOST:sp49-97-104-110.msc.spmode.ne.jp
以上です。
ようやく終わりました。

醍醐少将が迎えに行くのは、彼にはこの時のことを美談として広めることで、伊勢型戦隊司令官とさせるための布石で入れました。
やったね醍醐さん、史実の任地を回避できるよ!

フォーミタブルはイムヤが仕留めました。
これでイギリスはさらに苦しくなります。

反省会では第9戦隊は功績と水雷長の自殺で有耶無耶になった感は有りますが、後に解体されるので無問題です。
信管は荒天時の高い波で起爆することが考えられるので、ロックはしません。
ただし、下限とマニュアルは徹底しました。

第7戦隊は小沢さんが当分の間は兼任します。
艦隊司令長官が戦隊司令官を兼任するのは良くあることですし。

小沢さんと近藤さんの対立は当初から考えていました。
拙作世界ではミッドウェー後に南雲さんが就任を辞退するので、小沢さんが最初から第三艦隊の司令長官となり、二人は険悪のまま、ガ島に臨みます。
どうなるかは、御楽しみです。


今回はここまでです。
このご時世、自身や親族のこと等で、色々忙しく、間が開くことが多いですが、よろしければお付き合いください。
それでは次回も宜しくお願い致します。

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最終更新:2021年10月11日 22:23