296: 弥次郎 :2021/10/10(日) 19:58:13 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW ファンタジールートSS「扶桑皇国、開発戦線1941」7
- F世界 ストライクウィッチーズ世界 扶桑皇国 1941年9月9日 横須賀 「シティシス」技術工廠 会議室
シティシスの活動は、活発さを増していた。
2か月の間にシティシスが開発した物品の生産ラインの構築や欧州への輸出などが順次進み始めていた。
既に欧州の戦線においてはシティシスの魔道具や物資が大きく活躍を始めているころでもあったのだ。
特に、現地に派遣されたエーテルリアクター搭載型の工作艦でエーテルエンチャント加工が施されるようになったことで、キルレートは大きく向上した。
既に最前線での知名度というのは大きくなっており、それは
ストライクウィッチーズ世界だけではない、日本国召喚世界の日本にまで届いていた。
まあ、かといって連合への心証などが良くなっているかといえばそうでもなかったりする。何しろ、連合は基本的にウィッチ容認派でもあるからだ。
これに関しては双方に主張があり、隔たりがあり、どうしても譲れないものというものが存在する。
日本国召喚日本にしてみればウィッチというのは少年兵、しかも年端もいかぬ少女を兵士に仕立てる非道だ。
他方の連合にしてみれば、有効な戦力であるウィッチを遊ばせるのは正しい判断とは言えない、というわけである。
つまり、双方の立場や過去の経験などが違いすぎて、埋められない、というわけであった。
そんな欧州に対し、扶桑皇国でシティシスに出向して技術研鑽や研修に明け暮れるウィッチやウォーザード、魔導士たちも着々とカリキュラムをこなしつつあった。
航空空母や潜水空母といった連合の保有する戦力での実地訓練、VR訓練、シミュレーターによる訓練、あるいは生身での戦闘訓練。
ここには、最前線国家からも融通されたウィッチたちなども参加するようになり、より訓練には熱が入り始めていた。
最も現在進行形で戦争状態であるので、そこまで多くはない。だが、技術を学ぶという点においては必要な交流であったのだ。
扶桑皇国の各国大使館の武官からの情報もあってのことだろうと、リーゼロッテたちは予測していた。
「---以上が、現段階の報告となります」
進行役のフラワーが報告を終える。
会議室内には、連合から派遣されている人間たちが集まり、顔を突き合わせていた。
活動の活発化は必然的にこうした会議での報告の回数を増やすことにつながっていた。
まあ、一括で状態を管理しているリーゼロッテが把握すればそれで事足りるのだが、そうもいっていられないのが組織というものだ。
彼女のワンマンならばともかく、今は複数の人間が協力し合い、不自然さを出さないように苦心しながらやっているのが現状なのだから。
「ありがとう、フラワー」
報告を終え、自分の席に戻った秘書に礼を述べたリーゼロッテは、自ら壇上に赴いた。
さて、と前置きした彼女は集まった人員を一人一人顔を見たのちに、口を開いた。
「卿らの活躍のおかげで、シティシスおよび連合の実力や能力を示すことができた。
そのおかげか、何かと言い分が通りやすくなったし、この世界の戦いは優位に進みつつある」
それは、リーゼロッテをはじめとしたシティシスの面々はすでに把握していることだった。
「そして、戦力増強の計画も順調に進み、人材育成に関しても同様に進んでいる。
さらに言えば、連合による戦時国債の買取や物資の提供などもあり、この世界は確実に怪異に対して団結して立ち向かっているといえる状況だ」
そして、と先だっての会議の最重要事項として伝達されたことを、口にする。
「来る1942年……大反攻作戦が実施されることとなった。
我々シティシスにはバスの切符が来た。これに乗るか反るか、ここで決定したい」
誰もが、その意味を察した。
つまるところ、そういうことが求められるようになってきた、ということだと。
297: 弥次郎 :2021/10/10(日) 19:59:07 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
数日前。8月も末、リーゼロッテは扶桑皇国のとある会議へと自ら赴いていた。
それは、大本営において開催されるその会議のなかでも、殊更、御前会議と呼ばれものである。
帝の代理にご臨席いただくというものだから重要度は高いどころではない。加えて、扶桑皇国を構成する政治および軍のトップが雁首揃えるのだ。
本来ならば、リーゼロッテはそれには参加していない。代理の大洋連合の将官が参加するなどしているのだ。
それは見た目の問題もあるし、あくまでお飾りの大佐という階級でしかないリーゼロッテの立場も考慮のしてのことであった。
色々と裏表の事情はあるけれども、リーゼロッテは表向きには民間から軍に協力している民間人という立場であるのもかかわっている。
だが、シティシスという組織の実態としてはリーゼロッテがその多くを握っているのは事実。そしてその彼女が呼ばれる必要があるとのことだったのだ。
(……窮屈だな)
お仕着せというか、一応として地球連合軍の大佐の制服を身にまとうリーゼロッテだが、如何せん居心地も悪い。
いや、軍服を着る分には問題ない。体に合うサイズはあったのだから、それを着ているし、偏に礼服といっても金がかかっている分それにふさわしい着心地だ。
原因は遠慮なくぶつけられる周囲の視線だ。それは当然だろう、はた目には十代そこそこの少女なのだし、飛びぬけて美しいのだから。
それに加え、連れてきている秘書のフラワーとの差があまりにもひどいというものあるだろう。
フラワーは187センチという女性らしからぬ長身に風格、美貌だ。それが自分につき従っているのはアンバランスだろう。
別に自分が姿を晒すのは初めてでもないのだから、そこまで露骨にじろじろと見なくてもよいだろうに、とリーゼロッテは思う。
思うだけにとどめるのは、これが公式の場であり外交の場であるからだ。事実、隣には地球連合の将官も外交官もいる。
むさい男どもの中で自分の姿が浮くのはわからなくはないが、やはり。
「----定刻となりました、それでは、始めさせていただきます」
リーゼロッテが少なからず苛立ちを漏らしていたころ、ようやく進行役がその言葉を紡いだ。
そして、帝の代理が一番上座の御簾の奥の席に入ったことで、会議は幕を開けた。
会議自体は、事前の打ち合わせの通りに進んでいた。欧州に派遣している軍からの報告、殊更、国家間連合軍の動きを主体としていた。
アフリカの多くを奪還し、さらに欧州の方面においても着実な前進を行い、支配地域の多くを奪還しつつあること。
そして、一時進撃を中止し、兵站の構築や兵士の休養などに力を注いでいることなども報告された。
改めての報告とその確認という形であり、そこには驚きはない。配られていた資料も補足用にすぎなかった。
リーゼロッテは、そこに一々首を突っ込むことはなかった。
シティシスから技術を提供して生み出された物品がそこで活躍し、成果を上げていることは知っていた。
それに加え、あくまでも諮問機関というか委託を受けた研究機関でしかないシティシスには軍事的なアレコレに首を突っ込む権限はあまりないからだ。
(一応は勝ちに向かって進んでいる……か)
だが、引き込まれてもいる。そう考えるのは、そういう戦術をよく理解しているからだ。
敵軍の侵略に際し、自国領土でのゲリラ戦および焦土戦の展開による敵軍への出血の強要と士気の低下の誘因。
そう、ヴェラード、歴史書においてはヴラド3世と呼ばれる王のとった戦術に似ているのだ。
圧倒的多数の軍勢を率いるオスマントルコの軍に対し、自国への被害さえも飲み込んで彼はその戦術を採用し、苛烈に実行に移した。
その結果---裏の方でも動きがあったとはいえ---ワラキアはオスマントルコのメフメト二世を撤退に追い込んだのだ。
同じようなものととらえると、こちらが優位になっていると考えられる一方で、相手の領域に誘い込まれているように思える。
相手は人外未知の怪異---すなわち、こちらの常識が必ずしも通用しない---ということを考慮すると、楽観はできない。
「大佐」
そこまで考えていたところで、そっとフラワーがささやいたことで意識を戻す。
298: 弥次郎 :2021/10/10(日) 19:59:42 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
議題は次の物へと、今後の欧州における反攻作戦のスケジュールについてに移っていた。
「戦線の整理と兵力の集約までには1942年の2月ごろまでの準備期間を要すると計画されております。
これまでは戦線での敵戦力の漸減と地道な占拠地の奪還が主眼でありましたが、今作戦においては積極的な進撃と制圧を主眼としております。」
「来年の……つまり半年近くの準備を要するものかね?」
将官の一人の問いかけに、進行役は大真面目に答えた。
「はい。一大反攻作戦……呼称「オーバーロード」はそれだけの戦力を投じて行われる予定となっております。リーゼロッテ大佐?」
「ふふっ……いや、なんでもない、続けて構わない」
出てきた名前に思わずリーゼロッテは吹き出してしまう。なんだそれは。第二次世界大戦での作戦と同じではないか。
しかも場所までおおむね同じである。おまけに、オラーシャ帝国方面からの奪還作戦はまるでバグラチオン作戦のようだ。
それらを知るだけに、思わずリーゼロッテは堪え切れなかった。歴史の収束か、あるいは別な何かか。
連合と同じくこの世界に協力している異世界の日本の勢力が知ったら何と思うことやら。
「……えー、では続けます。この一大反攻作戦においては、敵占拠地の奪還に主眼が置かれております。
確認されている敵集団---主要都市やその近隣に展開する集団を各個撃破、巣と思われるベルリン近くまで攻め込むことを計画しております。
これらは、一か月や二か月ではなく、数か月単位での大規模な侵攻となります」
「総力戦だな」
「海軍陸軍も総動員ときたか……」
口々に言い合うが、全体としては肯定的な雰囲気であった。
これらの作戦のための、さらなる欧州派遣群の増援や物資の供出などが検討されていたが、これらに関しても乗り気であることが窺えた。
(となれば……)
流れは読めた。ネウロイとの拮抗状態を打ち破り、攻め込んで殲滅するという段階に入った。
つまり、戦後が見えてきたということだ。各国は戦後の権益やパワーバランスを見越した行動をとり、あるいは、うまく切り抜けることを考え始めるわけである。
そして、自分に対してもこの会議に出席するようにと声がかかったことも、決して無関係ではあるまい。
これまでシティシスは、そして連合は直接的な参戦を行っていなかった。それを補って余りある支援の数々はしてきたのだ。
だが、実際に血を流したかどうかというのは大きな問題となるだろう。感情面での意味合いは大きい。
それこそ、連合は他人に血を流させ、自分は安全なところで暴利をむさぼっていたと誹りを受けかねない。
それがあるからこそ、扶桑皇国はこの会議に参加を促すことで伝えてきたのであろう。
「……というわけでして、シティシスの方にも戦力の供出をお願いしたいのです。
先ごと提出された新兵器の開発の進捗は順調でした。実践投入も可能とありましたが、いかがでしょう?」
視線が集まることを感じ、リーゼロッテは席を立ち応答することにした。
この応答が、大きく状況を変えてしまうことになると、そう確信したうえで。
299: 弥次郎 :2021/10/10(日) 20:00:46 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
- 1941年9月9日 横須賀 「シティシス」技術工廠 会議室
「ということで、戦力の供出を求められた。
ウィッチはもちろんだが、ウォーザード達、さらに連合の戦力も」
つまり、戦後のことを考えて血の対価を支払えということだとリーゼロッテは言う。
それに反応したのは訓練教官を務めるレベッカだった。
「ですがヴェルクマイスター様、まだ訓練カリキュラムは完了しているとは言えません。
訓練はだいぶ進みましたが、YPF
シリーズへの転換訓練を行い、ようやく戦闘に慣れてきたというレベルでしかありません」
「だが、一端の戦力にはなると判断された……実際、模擬戦ではそこそこに成績を出せるようになりつつあるのだし」
それは事実だった。
訓練の積み重ねやMPFのシステムや各種インターフェイスの改良、さらにウォーザード達の慣熟が進んだことで、戦力として形になりつつはあったのだ。
特にハチマル式から発展強化されたキュウマル式は実践投入も前提の重武装化や専門分野への最適化を進めており、その分野ならばウィッチを超えつつあった。
それでもとレベッカが反対するのはひとえに基準に届いていないゆえだ。連合の基準が高いというのもあるが、使い捨てにできる戦力ではないことに由来する。
戦いは数という面もあるが、同時に質も向上させなければ何ら戦局に寄与しない。それでは参戦させる意味がないのだ。
「正直なところを言えば、実戦への参加は前向きに検討している」
だが、そのレベッカはリーゼロッテの言葉に口をつぐむ。
悪く言えば、このシティシスはとびぬけている実力を持つリーゼロッテの差配一つで決まってしまう組織だ。
他の誰よりも実力があり、知見があり、能力がある。キャリアもあるわけで、その意見一つであっても誰もが無碍にできない。
「ああ、言っておくが、これは私の意思もあるが……連合も大規模な戦力の供出を検討していることに合わせてのものだ」
「つまり……」
「そうだ。あくまで連合の一組織としての参加になる。あくまでもおまけ程度の扱いだな」
誰もが納得した。あちらからの要望に応えた、というよりも、連合の方も戦力を出すからそれに合わせるという形なのだと。
「連合にとっては、戦後権益にそこまで固執する理由は存在しない。
あくまでも自国の安全保障の観点から、この戦争には参戦している。
まあ、余力は無限にはない都合上、最低限の支援でこの世界にネウロイを押しとどめ、可能ならば駆逐してしまうのが一番だ。
だが、この世界に力を貸している都合上、肝心な時に不在では格好がつかないというのもある」
故に、とリーゼロッテは結論付けた。
「急ぎで戦力を仕上げてもらうことになる。
表向き、我々の主題であるMPFはウィッチの互換戦力を生み出すことにある。
実際のそれを戦場で示すことこそ、これまでの活動の証明になるだろうな。
急なものとなるが準備期間はある。各員は準備にかかってくれ。フラワー」
「はい。こちらが予定表となっております。必要に応じ修正を加えますが、供出する戦力や物資はこれらを基本とします」
参加者に配られるのは、リーゼロッテの選び抜いた戦力のリストだ。
戦力はもちろんのこと、前線を支える技術スタッフが多く選び抜かれているのが特徴だった。
感嘆か、驚きか、様々な反応が出る中で、リーゼロッテは〆る。
「あくまで本命は連合の供出する戦力。とはいえ、我々もそれに劣らぬ活躍が望まれている。各員の努力に期待する」
それは、秋の戸口が見えてきたころ。
さらなる戦火を世界が望んでいるかのような時節となった、そんなころであった。
300: 弥次郎 :2021/10/10(日) 20:01:30 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
ストーリー進行を進めますー…
308: 弥次郎 :2021/10/10(日) 20:59:22 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
誤字修正を
299
× まあ、余力は夢幻にはない都合上、
〇 まあ、余力は無限にはない都合上、
320: 弥次郎 :2021/10/10(日) 23:01:34 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
追加で修正を
298
×これまでは戦線での敵戦力の漸減と地道な占拠地の奪還がメインでありましたが、今作戦においては
〇これまでは戦線での敵戦力の漸減と地道な占拠地の奪還が主眼でありましたが、今作戦においては積極的な進撃と制圧を主眼としております。
最終更新:2021年10月11日 22:38