936: 弥次郎 :2021/10/17(日) 22:02:11 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW ファンタジールートSS「扶桑皇国、開発戦線1941」8
- F世界 ストライクウィッチーズ世界 1941年9月12日 扶桑皇国 横須賀 東京湾沖合 改装軽空母「シャングリラ」上空
悠こと惠上悠伍長は控えめに言って、命をすり減らす感覚に苛まれていた。
近頃の教官たちの訓練は何時もよりも熱が入っているのを感じていた。それこそ、手加減されていても死ぬんじゃないかという一撃を食らうなどしている。
それだけでなく、教官たちの緊張感や張りつめている意識がすさまじいのだ。些細なミス一つにまで細かな指摘が飛ぶ。
そして改善箇所としてピックアップされ、頻度が大きいものは意識的に改善するように何度も繰り返しを行う。
これまでも訓練ではその手の必死さにぶつかったことは多かった。だが、それとは質もレベルも違う力の入れようだったのだ。
理由はわからなくもない。噂では、欧州での大反攻作戦が近いと聞いているのだ。
ひょっとしたら、自分たちもそこに出場するからここまで厳しさを増しているのでは、というのが仲間内での共通認識である。
(でも、教官たちは何も言わないからな……)
それはまだ知る必要のないこと、と一様に返答されていることだ。情報管理に厳しいシティシスだ。
そんなことに意識を割くくらいなら、戦闘機動(マニューバ)の一つでも覚えろ、と言われるがオチ。
ウィッチや飛行型パワードスーツ、あるいは空戦や空間戦闘における機動兵器のマニューバを参考にくみ上げられたMPFの戦闘動作は、千パターンを軽く超える。
無論、パターンとしては登録されていてもつかわないものもあるので実用的なのは数百パターンに絞られるのだが、それでも多い方だ。
手足、体幹、背部のユニットなどを主軸にして自在に変化し、飛行する技術。
「ほっ、と」
意識を集中させ、サイコ・エミュレート・デバイスを通じてマニューバを選択、機動に備える。
すると、オート制御で魔導噴流式飛行義肢からエーテルを用いたジェット噴射が発生、体を覆うTFごと大きく挙動を変化させる。
後方の仮想敵から速度を出して逃げる動きから、いきなり四肢を用いての逆噴射と、そこからシームレスな逆上がりのような上昇運動。
同時に手にしたライフルは自分を追い抜いた相手のいるであろう予測位置に向けられている。後は引き金を引くだけ。
ここまでの動作は、悠が自ら動いたものもあるが、訓練機であるTFの自動動作に委ねたところも大きい。
誰もが同じような動きができるようにするというのは、何か代わりの物に動作のコントロールを任せるのが一番だったりするわけだ。
後は、ここに細かい微調整を入れたり、状況に合わせて続ける動作を変更することだろうか。
『チェックポイント、R-19を通過、規定マニューバタスク23を達成』
「了解、続行します」
意識に届くオペレーターの声に返答しつつ、訓練を続行する。
頭部を覆うヘルメットに表示される飛行ルートとそこで行うべき動作に従い、そこに示される動作を続行するのだ。
常に動きを求められるそれは、訓練期間を経て徐々に複雑化している。それに適応できているということは、実力も上がっているのだろうか。
自分は求められる能力を身に着けているだろうかと、ふと悠は思うのだ。
(訓練は続けているし模擬戦もシミュレーターもやっているけれど……)
シティシスのMPF開発チームの実戦がまだというのは紛れもない事実だ。
戦場に出すには早すぎるからと言われたこともあることから察するに、まだ実力が足りないのだろう。
だが、それでも、実戦経験のあるウィッチたちとの模擬戦でようやっと拮抗できるようになってきたのだからと思うことがないわけではない。
最も、教官であるレベッカなどからすれば、そういった急いてしまう心をつぶしてから実戦を経験させたいというのが本音なのだったが。
937: 弥次郎 :2021/10/17(日) 22:03:00 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
そして、母艦内のCICで各機の動きを見守る教官たるレベッカは、まさにその問題と直面していた。
即ち、扶桑皇国をはじめとした
ストライクウィッチーズ世界基準での慣熟と、シティシス側での慣熟にレベルの差が存在していたのだった。
即ち、以前はまだ訓練未了であると断った実戦への参加を打診、それこそ、大反攻作戦が実施される前に参加しないかと声をかけられたのだ。
無論、連合側としてはようやくYPF
シリーズのキュウマル式への慣熟が始まったばかりという認識である。
だが、対する扶桑皇国らはすでに実戦に間に合うレベルであろうと判断しているわけである。
実際のところ、キュウマル式までに至ったところ、ウィッチとの戦力差はほとんどない、あるいは特定分野では上とまで評価されたのだから。
「これを言うのは、あんまり気分良くないんですがね……」
「わかっております、五島大佐」
今日はリーゼロッテがいない日だ。
そして、そんな日にそんな話が持ち込まれたのは偶然ではない。話を持ち込んできた五島の表情を見ればわかる。
これを言うために来て、何らかの確約を得るためにスケジュールや根回しを済ませてきたということだろう。
つまり、先延ばしの理由を作ったり、あるいはその手の事態が起きたことで霧散させた要求が高まってきた、ということ。
反攻作戦自体には参加する旨を伝えてはあるのだが、おせっかいを焼こうというのか。
政治的なアレコレに首を突っ込むつもりはあまりない、というかやれないというのに、政治は能力故に見過ごせないという背反した状況。
各国からの接触も多いのも、そこについてが大きいのだろう。もう大反攻作戦に勝ったつもりでいるのか、と思ってしまう。
政治ゲーム。未来を見越すのは結構。だが、それを過剰なまでに下に強いるというのは問題のあることだ。
まして、それを半分は連合の組織であるシティシスに強いて、あるいはその技術力を取り合うなどと言うのは。
「ですが、欲しがるといわれても提供できるもの、できないものが存在します。
勝手にボード上の駒と認識されても困るものがあります。こちらとの外交をあまりにも軽く見られては困るのです」
「はい、それはもちろん。ですが、地球連合という組織の存在感が未だに薄いというのもありまして…」
「……なるほど」
五島が言わんとすることを、レベッカはすぐに察した。
つまり、地球連合という組織の実態を認識しにくい、ということだ。
何しろ本拠地がファルマート大陸のゲートの向こう側にあるという条件で、他の戦線を抱えている中で少数精鋭部隊を遠隔地に展開しているのだ。
必然的に展開できる戦力に限界はあり、影響力も小さくなってしまう。あるいは、その存在感もまた然り。
融合惑星において、地球連合の存在が噂や陰謀論とされていたことがあると聞き及んでいたからこそ、そういうことなのだと分かってしまった。
(難しい問題ですね……)
つまり、中途半端に見えるからこそ、軽く使われてしまう、ということだ。
技術力はある、しかし、それだけしかないのだろうとみられているのだ。積極的に、目に見える形で支援を行っているわけでもないのだし。
だが、存在感を大きく見せるような大規模動員は現状のところ不可能だ。大規模反攻作戦に備えた増援要請が、先日やっと承認されたばかりだというのに。
スケジュールやローテーションの都合がついたのがおよそ一年後というのは、それだけよそでの動員や、こちらでの活動の準備に時間がかかることの証左。
それなのに、今すぐその手の対応をするのはかなり難しいところがある。
けれど、と以前リーゼロッテが自分たちに言っていたことを思い出し、それを伝えることにする。
「ですが、五島大佐は、それにこの世界の方々は一つ勘違いしておられます」
「勘違い、ですか?」
そう、勘違いだ、と頷いて見せる。
それは、この世界の住人たちが、政治家たちが連合に抱いている幻想や懸念といってもいい。
どういうことか?それは、地球連合が求めているモノが何であるかという勘違いだ。
「確かに地球連合とその傘下の組織はこの世界に対して介入を行い、手助けを行っております。
それは確かにネウロイという脅威に対抗するため、間接的にしろ、自国の安全保障のためであります」
「それは……聞き及んでいますが」
「ですが、別段この世界に対して侵攻をしようだとか利権を勝ち取るためだとか、そういうものは求めていないのですよ」
「ええと……?」
938: 弥次郎 :2021/10/17(日) 22:04:10 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
つまり、とレベッカは単純に答える。
「このネウロイを退けた後にこの世界の情勢がどのように変わるか……地球連合に影響が及ばないならば、どうなろうとかまわないのですよ」
「……え?」
あっけにとられる五島だが、無理もないことだ。
扶桑皇国でさえも戦後のこと、殊更欧州のことに関心を持つというのに、そこまで意識していないと明言したのだから。
「イメージしにくいかもしれませんが、地球連合は他の世界においていくつもの人類存続の脅威と戦っております。
ネウロイとは違いますが、それぞれが人類の脅威となり、敵意を向けてくる存在です。あるいは、同じ人類同士でも利害からぶつかることもあります」
「ネウロイ以外とも、ですか」
「はい。その中において、連合は自らの領域を堅守することを第一義としております。
別段、侵略や支配を行うための行動ではなく、権利や権益を得るためではなく、安全を保障するため。その一点に尽きるのです。
版図を広げるというのもしていますが、あくまでも自分たちの世界・宇宙での話のこと。アクションをかけられても、反応に困るのです」
「……ええと」
逆に、五島の方が困ってしまった。
つまり、言葉通りだとするならば、地球連合とその傘下の組織や兵力はただ外敵を倒しに来たということになる。
そこに政治的な意図はあるにしても、別段侵略や版図拡大だとか、あるいは門戸開放などを求めてのものではないということになる。
利権を求めてのことでもない。まったくの、安全を求めてのことだというのか?
「繰り返しますが、何度となく侵略を受けてきた我々は、その手の侵略者が次にいついかなる場所に現れるか警戒しているのです。
ネウロイを倒してしまえばそれで終わりと、誰が決めたわけでもありませんしね」
「……それは、そう、かもですが」
五島は返答に困るしかない。
「ネウロイの後に現れる人類の脅威」など、考えたことがほとんどなかった。
無論、ネウロイ以前に怪異はたびたび表れてきていたのは事実。それらは大概小規模で、ネウロイのような広範囲に及ぶことはなかった。
だが、言われて気が付いたのだが、ネウロイの次に現れるものがネウロイより劣るなどという保証はどこにもない。
つまり、連合はネウロイ「程度」の敵など退けてきたし、それ以上とぶつかってきたということだ。
「ご理解いただけましたか?」
そこで五島は、自分の体が震えていることに気が付いた。
それは、恐怖だった。つまり、自分たちと歩調を合わせている相手は、本来はもっと恐ろしいものをねじ伏せて平和を勝ち取っているのだと。
それらの目が自分たちに向けられたら、ネウロイ「程度」で苦戦する自分たちはあっという間におしまいになるのだと。
「……一応は」
「よかったです。これを理解してもらうのは、骨が折れますので」
そういって笑うレベッカを気にすることができるほど、五島は肝が太くない。
薄氷の上。いくつもの国に暮らす、数えきれない命がそんな頼りないものの上にいる。そのことを、幸か不幸か、理解できてしまったのだから。
この情報は、扶桑皇国を通じ、各国へとひそやかにしみこんでいくこととなる。理解者は余り増えず、偽装を疑う声も出た。それでも、相互理解の第一歩になる、重要な情報だった。
939: 弥次郎 :2021/10/17(日) 22:05:13 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
前提条件が違うと話が食い違うよねっていう…
なまじ人類が勝てていて、戦後を見越しているからこそ、こういう色眼鏡で見ちゃうという罠
最終更新:2023年11月03日 10:23