874: 加賀 :2021/10/17(日) 20:00:09 HOST:softbank126194136011.bbtec.net


「『ミッドウェーの仇を』発艦前にパイロット達が口々に言っていたわ」
「確かスローガンになっていたと……」
「スローガン! フ、お笑いね。スローガンなんてチャチなもんじゃないわ……呪いみたいなものよ」
「呪い……」

 青葉の問いに瑞鶴はタバコを吸う事で答えた。

「第二次ソロモン海戦前、あたしの艦橋に元『赤城』の乗組員達が乗り込んできてこの旗を託したわ」

 そう言って瑞鶴は箪笥の引き出しを出し中から大きな旗ーー軍艦旗を取り出した。

「『赤城』が沈没する前に運び出してあたしの元に巡りこんで来たわ。元乗組員達は『頼む。ミッドウェーに散った『赤城』達の分まで今度こそ頼む』とね……」
「まさかこれはあの一航戦の……」
「えぇ。話が話を飛んで『一航戦の誇り』と言われてるわね」
「でも旗は『鳳翔』さんが掲げて……」

 今は横須賀に停泊している第一艦隊旗艦『鳳翔』には一航戦の誇りと呼ばれた軍艦旗が掲げられている筈なので此処に(瑞鶴の部屋)あるのはおかしいはずだ。

「鳳翔が掲げているのは二代目……あたしがコッソリと終戦後に交換したのよ」

 悪戯成功のようにウインクをする瑞鶴である。

「……その話も聞きたいですけど一先ずは置いといて……」
「それもそうね。話を戻すけど、第一次攻撃隊発艦後、直ぐに第二次攻撃隊も準備出来次第発艦を開始したわ」

第二次攻撃隊
零戦48機
九九式艦爆27機
九七式艦攻54機
天山9機
一式艦偵3機(誘導)

「第二次攻撃隊を出した第三艦隊は輪形陣で米攻撃隊を迎え撃つ構えにしたわ。米艦隊も此方を見つけていたしね」
「成る程。やはり輪形陣ですか……」
「後は攻撃隊からの一報を待つだけ……だったけど第一次攻撃隊からの電文は酷かったわ」

875: 加賀 :2021/10/17(日) 20:00:45 HOST:softbank126194136011.bbtec.net
「第一次攻撃隊より入電!!」
「読め!!」
「『我、敵艦隊視認。攻撃セルモ敵艦隊ノ対空砲火強烈ナリ』……『雲龍』艦爆隊隊長の江間大尉からの電文です」
「坂本大尉からは?」
「……対空砲火で被弾炎上、敵空母『サラトガ』に体当たりをしたとの事です」

 第一次攻撃隊隊長の坂本大尉は急降下で攻撃中に被弾炎上、そのまま500キロ爆弾を抱えたまま『サラトガ』の飛行甲板に体当たりをしたのである。

「長官、二艦隊近藤長官より入電。『我艦隊、前進セリ。敵艦隊ニ隙アラバ砲雷撃戦ヲ展開ス』」
「近藤さんめ……大きく出たな」

 二艦隊からの電文に南雲はニヤリと笑う。二艦隊は偵察機からの敵艦隊発見を受信した段階で出しうる速度で増速、敵艦隊に向かっていたのである。なお、この段階で近藤は航空畑以外では猛将の一人と言われている。(他にも数人いたりする)
 それはさておき、第一次攻撃隊は戦果としては空母『サラトガ』に500キロ爆弾5発命中と体当たり機で完全に大破していた。しかも爆風が機関室に入り込み『サラトガ』は15ノットでしか運用出来なかった。
 フレッチャー中将は仕方なく『サラトガ』を後方に退避させようとしたがそれを行う前に第二次攻撃隊が到着したのである。

「雨宮、『突・撃・セヨ』だ!!」
「ヨッシャ!!」

 『雲龍』艦攻隊は隊長機ーー楠美少佐に従い高度5メートルで突撃する。その中の分隊には真珠湾からの生き残りである雨宮機(雨宮飛曹長 秋沢一飛曹 福島二飛曹)もいた。

「雨宮!? もう1メートル下げろ!!」
「無茶苦茶だな!!」
「無茶じゃない!! 対空砲火が強烈でやられるかもーー」

 秋沢がそう言った矢先に分隊長機が右翼付け根に被弾、もんどりうつように海面に激突した。

「分隊長!?」
「雨宮、前!!」

 秋沢が叫ぶ先には敵空母ーー『サラトガ』が航行していた。

「距離1100!!」

 残った艦攻隊13機は『サラトガ』の左舷に突撃するがそれでも距離700の射点では楠美少佐以下7機しか生き残っていなかった。

「ヨーイ……撃ェ!!」

 雨宮機から投下された魚雷は一旦沈み込むが直ぐに海面近くまで浮き上がり、『サラトガ』に向かう。『サラトガ』は回避しようとしたが雨宮機が投下した魚雷は『サラトガ』の艦尾付近ーー左舷機関室付近に命中したのである。

「やった!? 命中、命中ゥ!!」

 見ていた福島が叫ぶ。その様子に雨宮は涙を浮かべた。

(今度こそ……今度こそこの三人で雷撃が出来た……)

 それを他所に他でも『瑞鶴』艦攻隊ーー加賀少尉の分隊は空母『レンジャー』の右舷に突撃、3本を叩きつける事に成功するのである。





「第二次攻撃隊は敵空母『レンジャー』を撃沈させたわ。けど、その代償は喪失艦攻44機というモノよ」
「第一次攻撃隊と合わせると……」
「着艦後の破棄や不時着水を含めると零戦11機、艦爆59機、艦攻47機を喪失したわ」
「……ッ……」
「防弾装備をしていた艦爆や零戦でさえこの被害よ。艦攻隊も良く帰れたものよ」

 瑞鶴は短くなったタバコの火を消し新しいタバコを取り出して火を付ける。

「まぁ海戦はこれで終了……というわけではなかった。航空戦は終わったけど第二艦隊はまだ終わってなかったのよ。何せまだ『泥棒』をしていないからね」

 瑞鶴はニヤリと笑うのである。

877: 加賀 :2021/10/17(日) 20:02:49 HOST:softbank126194136011.bbtec.net
次でラストですわ。
防弾装備があるからと言って突っ込めばそら喪失多数になりますはい。
此処で雨宮ペアの登場です。この三人での雷撃はさせたかったのが本音です(何

次回、『シスター・サラの価値』

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最終更新:2021年10月21日 13:30