412: 弥次郎 :2021/10/22(金) 00:34:02 HOST:softbank126066071234.bbtec.net


憂鬱SRW ファンタジールートSS「扶桑皇国、開発戦線1941」9


 宮森しおりはウィッチとしてはまれな魔眼という固有魔法を有している。
 通常ではありえない遠方を見通し、あるいは戦場を見据える目を有しているということである。
 扶桑皇国においては古来よりそういった千里を見通す目の持ち主が政治でも戦場でも、大きな役割を担ってきたというのは言うまでもないことである。

 しかし、その魔眼というのは、便利さと引き換えに扱いに困るものであった。
 訓練と本人の強い意志がなければ任意に使えるとは限らず、ともすれば乱視や目の痛みなどが付きまとうなど、半ばハンデとなってしまいかねないのである。
なまじ希少な能力であるがゆえに、その扱いに熟達した人間というのは少なく、魔眼に関する研究についても乏しいものがあった。
何しろ、ウィッチがその手の魔眼を使えるのが魔力が衰えるまでという制限があり、ほぼほぼ手さぐりに近いものなのだから。
無論、戦力化するために力は注がれることは当然。しかし、だからと言って全員が使いこなせるようになるとは限らない。

 そして、宮森しおりというのはそんな使いこなせなかったウィッチの一人であったのだ。
発現したあとから数年をかけ、必死に使いこなせるようになろうとした。だが、苦労と努力は実を結ぶことはなく、慣れぬ魔眼に振り回される日々が続いた。
それ故に成績も芳しくはなく、周囲の目もあまり良くなくなる。幼いウィッチの心がくじけるには十分すぎた。
だからこそ、最も重要な視野が狭まるというのを承知で眼帯をつけ、そのまま生活している。
 後悔がないと言えばうそになる。魔眼を使いこなせるようになりたいという気持ちがないわけでもない。
 だが、これ以上の期待や視線に耐えきれないと感じた。魔眼の使える特別なウィッチとして期待をかけられることに、疲れ果てた。

 元の所属を離れ、シティシスへの転属を希望したのは、そんなことがあった。
 ここならば、自分の過去をほじくり返す人間はいないであろうと。周囲の視線との折り合いをつけられるのではと、期待していたのだ。
 だからこそ、シティシスのトップを務めるリーゼロッテ・ヴェルクマイスターに呼び出され、魔眼のことを持ち出されたとき、大いに落胆したのだった。



  • F世界 ストライクウィッチーズ世界 1941年2月22日 扶桑皇国 横須賀 「シティシス」技術工廠 事務所応接室


「それは、命令なのでしょうか?」
「宮森曹長!」

 隣にいる五島が棘のある言い方を咎めようとするが、宮森は意に課さなかった。
 目の前の少女---のような容姿の大佐---は自分の過去を調べたと言っていた。それならば、自分がどういう決断をしたのかを分かっているはずだ。
それだというのに土足で踏み込んでくるというのは、とてもではないが容認できなかった。
 しかし、言葉を向けられたリーゼロッテは自分の100分の1程度しか生きていない小娘の威嚇を笑って受け流した。

「卿がその眼について思うところがあるのは理解している。それゆえにシティシスに出向したいと申し出たのだろうこともな」
「でしたら……」
「だが、あきらめればそれで終わりと思っているのは感心しない」

 その碧い瞳は、リーゼロッテの洞察は、彼女の未来に起こり得るであろうことを正確に予測していた。

413: 弥次郎 :2021/10/22(金) 00:35:04 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

「どうやっても、卿に魔眼があるという事実はついて回る。そして、その事実は卿の望まないものを招く。
 戦場で、ああ、確実に起こるであろうな。その眼が使えれば、というときが」
「ッ……!」
「それについては想像はついているだろう。だが、それだけではない」

 それは、ともったいぶりつつも、リーゼロッテは指摘する。

「使えれば、というもしもを誰もが空想するのだ。使えれば、ああならなかったのではと。
 戦いが終わっても、そう後ろ指を指され続ける。卿は、それを承知でその眼を封じる覚悟を決めたのか?」

 それは、言葉のナイフ。あるいは鞭であろうか。
 ビシリビシリと、しおりの体に突き刺さる。一息に痛みが来るのではない。
 じわじわと、時間をかけてしみこんでくるのだ。耳に瞼はない。だからこそ、その声を遮断することはできない。
 どうしようもなく宮森しおりという少女にその言葉は襲い掛かっていくのだった。

「や、やめ……」
「もっと言おう」

 しおりは思わずうつむき、耳をふさごうとするが、リーゼロッテの声は止まらない。

「卿一人の自己満足のために、多くを危険にさらし、最悪誰かの命を落とさせても構わないと、卿はそれだけの覚悟を決めていたのか?」
「リーゼロッテ大佐!」

 ついに、五島が怒りの声を上げる。
 軽い顔合わせでここまで精神的に追い詰めるなど、とてもではないが容認できなかった。
 だが、その怒りはリーゼロッテも同じだった。そうせざるを得ない事情は理解した。
 かといって、そんな中途半端な覚悟で選択して、後々に取り返しのつかない失態をしでかし、禍根を残した場合こんなものでは済まない事態になるのは許せない。
これは扶桑皇国の軍人の、ウィッチの問題。だが、シティシスに来るならば、その問題に首を突っ込まねばならない。
そんな爆弾を抱えた人間が来るなど、シティシスという組織を勝手に使われてはたまらないのだ。

「大佐……彼女の事情を分かったうえで、そんなことを言われては困ります……!」
「わかっているとも、五島大佐。
 だが、このシティシスを逃げ場に使われては困るのだ」
「逃げ場……?」

 その言葉に、しおりは思わずびくりと反応してしまう。
 そう、逃げ場だ。端的に言えば、しおりは周囲の目を嫌い、逃げ出したのだ。
 そんなしおりの反応に、五島は目を白黒させるしかない。逃げとは、どういうことか?

「後藤大佐は知らなかったと見える。
 彼女は目を使いこなせないことに負い目を感じ、逃げ場を求めたのだ。
 魔眼が使えることによる期待をかけられ、時間をかけても使えこなせず、裏切り続けるのが苦しくなった。
 目を封じて責任から逃れたくなるのも、まあ、理解できる」

 しかし、とリーゼロッテは断言した。

「だが、結局は自己満足だ。もっと周囲の方から働きかけ、彼女に道を示してやらねばならなかった。
 周囲に理解を促せなければならなかった。そうでなければ、魔眼を持ってしまったことを後悔しかねないのだから」
「で、ですが彼女はそういったことは……」
「言えるはずもない。うまく使えないから封じているという程度の認識でしかなかったのだろう?
 彼女の心情をよく理解しているとはいい難いようだ。個人の事情だからと控えたのかもしれんが、ことは軍事や人命にかかわることだ。
 安易に放置したうえで、こちらに押し付けたのは扶桑皇国の側だと言いたい」

414: 弥次郎 :2021/10/22(金) 00:36:41 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

 だから、とリーゼロッテは涙を浮かべるしおりの肩に手を置きつつも、断言する。

「その眼、使い物にしてやろうではないか」
「!?」

 その言葉は、嘘偽りはなかった。まっすぐに、脚色抜きに断言だった。

「ですが、彼女はこれまで……」
「同じ魔眼を持つ人間に指導を受けつつ、訓練や鍛錬に勤めてきた。だが、使いこなせず安定しなかった。
 それは知っている」
「それをどうにかしてみせる、と?」
「物は試し、というものだ。何、悪いようにはしない。
 魔眼とは、エーテルと魔力が独自の機構を目と視神経と脳の視覚野に形成することで生まれるモノ。
 そこに医学やエーテル技術で新しい方向からメスを入れることも、あるいは生み出すことも容易い」

 言った瞬間、リーゼロッテの瞳の色が急速に変わる。
 美しい青から、禍々しいまで紅色に。尋常ならざる魔力をはらんでいた。
 そして、五島としおりは見た。その瞳に見据えられた部屋の机が、いきなり浮かび上がったのを。
 ありえざる光景。だが、その原因は明らかだ。

「まさか、魔眼を……!?」
「ちょっとしたものだ。これは口外厳禁(オフレコ)にしてほしいが、卿らウィッチの魔眼『程度』ならば何とでもなる」

 どうだ、とリーゼロッテの、魔女の囁きがしおりの耳へと忍び込んでいく。
 ショックを受けていたところに、その言葉は遮るものなく流れ込み、染み込んでいく。
 それはしおりだけではない、甘くとろけるような誘惑は怒りさえ覚えていた五島にも襲い掛かり、敵意を沈めてしまう。

「さあ、どうする?」

 彼と彼女は、すでにとらわれていた。
 だから、選択は決まり切っていたのだ。













 後年、宮森しおりは『万華鏡』とあだ名される、複数の魔眼を使いこなすウィッチとして大成することとなる。
 その瞳は、単純な測距や望遠にとどまらず、ナイトビジョン、視線による念動力、鋭い視線による光学攻撃といった多様な使い方が可能だったがゆえに。
彼女の魔眼のポテンシャルはもちろん、その才能を開花させるまでの訓練や治療が、大きく作用したとされている。
 また、彼女の魔眼はシティシスにおいて研究され、補助魔導スコープの開発に役立てられることとなるのである。

415: 弥次郎 :2021/10/22(金) 00:37:49 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
期間限定の個人の才能や才覚に関するアプローチってまともにできるわけねーよなーと…

ストパン零でも、もっさんの魔眼については自助努力やウィッチ同士の協力で何とか形にするというのが描かれていましたし、
こういった科学やエーテル技術による研究はまだできないんでしょうな
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最終更新:2023年11月03日 10:25