681: 弥次郎 :2021/11/03(水) 23:16:00 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW ファンタジールートSS「扶桑皇国、開発戦線1941」10
ストライクウィッチーズ世界がF世界への転移後、大きく変化したのが「上がり」を迎えたウィッチの復帰であろう。
空気中に満ちる魔素、すなわちエーテル濃度が大幅に向上したことにより、魔力を生み出す機構が刺激され再び魔力を生み出せるようになったのだ。
またシティシスが調べたところでは、大気中の魔素を取り込む量が増えたことも、これに拍車をかけている。
簡単に言えば、いわば自然に満ちるエーテル濃度の向上が呼び水になったと、そういうことになる。
最も、それを明らかにして理論建てて一番最初に説明できたのがシティシスというのは各国にとっては微妙な話であろう。
彼らはいわば新参であり、外から来たよくわからない連中だ。その連中がウィッチについて一日の長がある自分たちの先を行くというのは何ともやるせない。
そして、それについては被験者となったウィッチたちにも言えたことであった。
具体的には、一度はあがりを迎えた後、再び前線に戻れるようになったウィッチたちである。
彼女らがなぜ復帰できたのかというのは扶桑皇国のみならず、
ストライクウィッチーズ世界全体にとって切実な問題だったが故だ。
わずかな期間でシティシスから原隊復帰となったウィッチたちであったが、彼女らはどうしても納得がいかなかった。
なぜ、詳細不明の大佐をはじめとした人間が、ここまでウィッチやその魔法について精通しているのか、全くわからなかったためである。
無論のこと、Need to Knowの原則に基づいて情報が統制されたり、あるいは公表できる情報で説明された。
だからと言って納得できるかは全く別問題であった。
そして、ウィッチやウォーザード、魔導士の育成を行うということにかこつけ、彼女らはシティシスへの出向を続けることにしたのだ。
ウィッチ向けの装備も作っているのだから一石二鳥だ、ということで。
- F世界 ストライクウィッチーズ世界 現地年月日1941年5月末 扶桑皇国 横須賀 「シティシス」技術工廠設計室
リーゼロッテ・ヴェルクマイスターというのは、その人生の過半を異端の魔女として生きてきた人間だ。
それこそ、受けた呪いや呪詛に限りはなく、幾度となく暗殺や襲撃を受けたことがある。敵意の視線を向けられたことなど数えることを当の昔にやめている。
「……」
「……」
「……卿ら、少しは遠慮をしたらどうなのだ?」
だが、だからといって敵意や興味やら何やらがごちゃごちゃに混じった視線を向けられ続けて平気というわけではなかった。
だから、スタッフたち共に作業を進めるリーゼロッテは、自分へと視線を送り続けているウィッチたち---伊井頼子らに苦言を呈した。
彼女らはウィッチ向け装備の研究開発の一環でこの工廠の設計室に招かれていた。彼女らが扱う武器はこの世界でも開発されている。
だが、ネウロイに対抗するためという題目はあっても、それはまだ試行錯誤をしているのが実情だ。
そういうわけで、シティシスは個人が携行する装備品の開発に参画し、ウィッチたちがそのテスターとなっている。
しかし、その陣頭指揮を執るリーゼロッテはひどく視線を集めていた。
その理由はわかるから何とも言わないリーゼロッテではあるが、そこまで視線を向けられて、無視というのも何とも困る話であった。
682: 弥次郎 :2021/11/03(水) 23:17:25 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
ウィッチ向け---常人より優れた体力や膂力や腕力を発揮する類の超人---に適した装備は、いくつかの候補から生み出されつつあった。
人を超えるという命題など、裏表の境目なく、C.E.世界においては研究されて久しいものであるのだ。
それこそ、超人などという存在がありふれていたC.E.世界の歴史を振り返れば、当然のことだった。
スタッフや技術者に指示を飛ばし、自らも作業の手を進める外観は幼いリーゼロッテもその一人であるゆえに。
「いや、ですから……」
「このナリで大佐というのは解せない。そういうことか」
頼子の言葉を、リーゼロッテは引き継いで言い当てる。くつくつと笑うのは、それがもはやお約束の如く繰り返されたものだからだ。
「それに、出来すぎているというのが、なんとも不気味といったところだろうな」
「……はい」
ことごとくを言い当てられ、階級では下の少佐である頼子らは沈黙するしかなかった。
そうだ。扶桑皇国、いや、
ストライクウィッチーズ世界からすれば、異常なほどに精通しているのだ。
このシティシスは短い期間で異常なほどの成果を上げていて、喜ばしいと同時に、不信感さえ抱いてしまう。
いや、それだけが理由ではない。ほかにも中止せざるを得ない理由が存在していた。
「そして、養成訓練課程から外されたというのも解せないといったところか」
そう、リーゼロッテが指摘したのはそれだ。
頼子らはもともとウィッチを指導する立場にいた人間だ。だから、過去の技術を受け継ぎ、教えるには適している人材といえる。
世界の転移に伴って魔力が戻ったことと合わせれば、実技指導などもこなせる貴重な人材だったはず。
だが、その彼女らを、リーゼロッテは指導要員としては使うことはなかったのだ。
「それはすでに説明したと思うが---我々が生み出すのは、新しい兵科だからだ」
リーゼロッテは手を止め、簡潔に断言した。
そう、ウィッチと同じように戦うが、しかしウィッチとは異なるもの。
エーテル技術を用いたパワードスーツ、それを専門とする兵科。既存の兵科の発展であり、延長に存在し、しかし全く違う存在。
「既存兵科の常識でくくると、失敗するものだ。ウィッチ以上のことができるようになるのに、ウィッチの動きしかできないと錯覚させては困る」
「ウィッチ以上のことを…?」
そうだ、とリーゼロッテは頷いた。
パワードスーツとストライカーユニットの融合・発展。その先に生まれるのは、ウィッチや魔導士などの上位互換の存在。
現在シティシスで訓練を受けるウィッチや候補生たちというのは、その上位互換に対応する力を磨いている真っ最中だ。
だというのに、ウィッチの動きという癖をつけてしまっては、発揮できる能力が制限されてしまうことに他ならない。
「想像できるだろうか?ウィッチさえも下位互換にしかならない力を発揮できる兵科を。その為の道具を、武器を?
それに適合できるように、ウィッチとして一度完成を見た卿らをさらに成長させるのは、正直手間だ」
「ッ…」
そんな軽い断言に、頼子と同期の笠井藍が声にならない声を上げる。
ウィッチとしての矜持を軽く扱われたことに怒りがわいたのだ。
683: 弥次郎 :2021/11/03(水) 23:18:00 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
しかし、それは紛れもない事実。
ウィッチとして全盛期を迎え、魔力が衰え、一線から引いた彼女らは今はウィッチとしては戦力になる。
だが、ウィッチ以上のものとして戦力化するには彼女らは全盛期を通り過ぎてしまっているのだった。
黄金期として発展や成長の余地の大きな若人たちと、すでに一度一線から身を引いてさび付いてしまった彼女らでは、手間が違うのだ。
「どうしても、というならば教官を務めているレベッカを納得させてみせると良い」
できるかどうかは別として、という言葉を飲み込んで、リーゼロッテは頼子らを挑発した。
彼我の実力差を理解してもらえば、嫌でも納得するだろう。それでもはねっ返りがいるならば、最悪原隊復帰してもらうしかない。
ネウロイの相手は決して容易ではない。そして、ネウロイだけで終わりではないと理解しているからこそだ。
「レベッカ教官を納得させれば、よろしいのですか?」
「ああ、そうとも。彼女ならばストライカーユニットも使えるし、生身でも腕が立つ。
ただ、舐めてかかると痛い目を見るぞ」
あえて嘲笑して、煽ってやる。
みるみる怒りのボルテージが上がっていくのをリーゼロッテは笑って眺めた。煽り耐性がない相手をからかうのはこれだから面白いのだと。
レベッカに関しては別に心配してはいない。彼女ならばその意図を汲むであろうし、加減してやる程度の腕はある。
(扶桑皇国側の人員との精神や情緒面でのすり合わせ…これで進めばいいがな)
のちのことであるが、横須賀沖合で行われた模擬戦において、頼子らは生身のレベッカに決定的な敗北を喫することとなる。
即ち、ストライカーユニットも何も使うことなく空を飛び、銃弾を回避し、攻撃を当ててくるという常識外のレベッカに叩きのめされたのである。
復活した魔法による戦闘力の強化もストライカーユニットによる飛行能力も、結局はレベッカの能力を上回るに至らなかった。
その敗因にはレベッカが強すぎたこともあったが、同時に、ウィッチの能力を過信しすぎた頼子らの慢心もあった。
ウィッチ以上のものを想像できず、あるいは実力として発揮できないことを認められなかったがゆえに敗北したのだった。
その報告を受けたリーゼロッテは、一言、五島に対して告げた。
「全能者のパラドクスに陥ったウィッチなど、怖くもない。
予定通り、彼女らはウィッチ向けの装備開発の被検体として協力してもらう」
そこに、毛ほどの興味も含まれていないことは言うまでもない。
ウィッチ程度ですべてが解決できるなど、そんな甘いことはないのだから。
684: 弥次郎 :2021/11/03(水) 23:18:47 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
厳密にはウィッチたちが弱かったわけではないですね。
相手が強すぎて、それを想像しえなかったということだけ。
最終更新:2023年11月03日 10:27