970: 弥次郎 :2021/11/28(日) 18:46:58 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW ファンタジールートSS「扶桑皇国、開発戦線1941」11
- F世界 ストライクウィッチーズ世界 1941年11月22日 扶桑皇国 横須賀 「シティシス」技術工廠 事務所応接室
1941年も間もなく終わろうかという11月。シティシスはこれまでの集大成を続々と送り出しつつあった。
キュウマル式および訓練機でありながらも実戦にも耐えうるTF-9が制式にロールアウト。
さらには試作を終えてMPF
シリーズとして生み出された先行配備型の「琥珀桜」の完成。
とどめに、これらに適した訓練を終えた人員合計80名余りの錬成を完了させたのだ。各国から派遣されてきた人員を加えての、急ぎで仕込んだ兵力。
たかが80名余と侮るなかれ。値千金のMPFを扱うことができる一端の戦力だ。その戦闘力に関してはリーゼロッテが許可を出したレベルだ。
戦場の空気に飲まれることなく、定石どおりに力が震えるならばウィッチ以上の働きはできると自信がある。
後はこれらを空母に乗せ、乗員と共に欧州へ向かうだけ---なのだが、それはまだ半年は先の話だ。
逆に言うと、半年先の戦いを見越し、準備を進めねばならないほどやることは山積していた。
そして、重要な事項が一つ存在していた。
即ち、リーゼロッテの欧州への出陣に伴い、これまで扶桑皇国で活動していたシティシスの上層を一時的であれ入れ替える必要に迫られたのだ。
ロードマップ自体はリーゼロッテらが作成していたし、欧州戦線に行くのはシティシスの全員というわけではないので、活動自体は扶桑皇国で継続される。
それでも主力が抜けてしまうことから開発研究のペースはどうしても落ちざるを得ず、また、パイロット養成なども人員を絞って継続するという形で落ち着いている。
暫くは販売した製品や技術関連のアフターケアやカスタマーサービスを中心になるだろうと踏んでいる。
とはいえ、その間にシティシスのトップを務める人間が不首尾を起こすような人間は困る。
そういう諸々の条件を付けたうえで、リーゼロッテは要請を出していた。
「そして、卿が来た、というわけか」
「はい!不肖、広原実!シティシスに着任いたしました!」
シティシスの工廠の一角、リーゼロッテの執務室でそんな声が響いた。
効果音が付きそうな、朗らかな声と笑顔。自分よりは高いが威厳があるとはいいがたい体躯。
そして、それを補うがごとく溢れる「気」が、彼女という存在を彩っていた。
広原実。裏でも表でも有名な広原一族の一人。
99%の人格破綻者と1%の偉人を輩出すると言われる、ある種扱いに苦心してしまう広原の生まれ。
最も、一族を一代で成り上げた広原喜十郎の時代からすでに時間が流れ、その極端な割合は緩和されているとされている。
ただし、逆に言えばそれは割合が減った分濃縮されているということをリーゼロッテは知っている。
そして、目の前の広原実も、薄まってはいても広原の一族であることも。
(能力はあるし、自らをセーブできる点は評価できるんだがな……)
おそらくだが、彼女が選ばれたのもC.E.世界における人材のやりくりに苦心した結果だろう、とリーゼロッテは予測する。
彼女が希少な、人を率いる素質がある人間なのは確かである。そして、表でも裏でも顔が効く広原の一族の出身であることも。
つまり、裏のフィクサーとしては有能ではあっても表では動きにくいリーゼロッテと違い、彼女は後ろめたいところを少なくして活動できるのだ。
個人としても能力は優れており、尚且つ、科学とオカルト両面に通じていることもプラスか。
ただでさえ地球連合は表も裏も人材をフル動員している最中。そんな中で、自分という大きすぎるコマを埋められる人が、それも能力ある人が来たのは幸運だ。
971: 弥次郎 :2021/11/28(日) 18:48:21 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
「……ともあれ、卿の着任は歓迎しよう。しばらくは私の補佐という形で行動してほしい。ほかの面子とも顔合わせをしなくてはならないのだしな」
「ええ。別世界の日本とその周辺国、この扶桑皇国をはじめとした世界。ファルマート大陸の勢力に独自のエーテル文化圏。
いくつもの勢力が所狭しと動いていますからね、まるで神々のトイボックスです」
「トイボックス、か。間違っていないな…」
実が例えに用いた「トイボックス」とは言い得て妙であろう。
あちこちの別次元にある世界が、まるで切り貼りされている世界。あるいは、どこかにしまってあったものを入れ物に詰め込んだような世界。
あるいは、異なる物質を入れてかき混ぜて、内部で発生し進行する反応を見るためのフラスコのような存在。
最も、神ならぬ身であるリーゼロッテたちでは誰がそんなことをしているかなど分かりはしない。所詮は内側の存在なのだから。
そして、迂闊に外側に出てはならないことも重々承知している。
ともあれ、である。
「顔合わせは予定を合わせつつ進めていく。残念ながら、欧州遠征を控えてシティシスも余裕があるわけではないからな」
「はい、承知しました!大佐もどうやらお忙しいようですしね!」
リーゼロッテの身なりが少なからずくたびれていたことから、実はそれを察していた。
不審に思われないように着回しというか、服装を一日ごとに取り換えるという作業は済ませ、身体を清めることもしているのだろう。
だが、それでも隠せないものがある。
「まあ、不老不死の私をねぎらわずとも良いのだがな」
「そうは言いますが、こう、管理し…ゲフン、世話を焼くように手配したくなります、ウフフ」
これだ、と八重歯を見せて笑う実にリーゼロッテはため息をつく。
手元にある書類でもそれは示されていた。上に立てる人間。人を率いる人間。そういう素質を持つ。
つまるところ、先天的なカリスマ、統率能力の持ち主。実力と積み重ねに依らない、人が付いてくるという性質。
それに加えて、ある種の管理願望というか、統制をとりたがるという性質が彼女にはあったのだ。
まあ、それは本人も自覚ありで、制御を利かせているので問題とはなっていない。彼女を外から窘めることもできるようであるし。
ともあれ、とリーゼロッテは〆た。
「これからが本番になる。卿の働き、期待させてもらうぞ?」
「かしこまりましたー!」
元気のよい返答。それにリーゼロッテも思わず笑みをこぼした。
運命の1942年を迎える間際に、新たな動きが生まれた。小さな、しかし、確実に大きくなる動きが。
古の暦において、春、新春を迎える直前に、エニシダの名を冠する組織に新しい風が吹いたのだ。
972: 弥次郎 :2021/11/28(日) 18:49:15 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
これにて1941年の開発戦線シリーズはおしまいとなります。
次はどこをSSに使用かなーと思いつつ、しばし充電期間としたいと思います。
Lass作品より広原の一族の人を。
設定はまた後日。
最終更新:2023年11月03日 10:27