96 :ルルブ:2012/02/11(土) 21:27:12
ネタ04です(><)

『諜報戦』

宇宙暦78X年初夏。

ヘルマン・フォン・リューネブルクは准将を経由して少将へと特進した。
彼が薔薇の騎士連隊、帝国からの亡命者で編成された厄介者のトップでありたかが連隊司令官であるにもかかわらず。
理由は同盟の対帝国政策の変化、帝国へのプロパガンダ戦の強化をとある国が吹き込んだからだと言われている。

そして現在。
国防委員会主催、宇宙艦隊司令部、統合作戦本部、大日本帝国大使館での合同立食交流会に呼ばれた。
これは大日本帝国との交流記念を掲げた政府と軍合同の親睦会である。

「リューネブルク少将、入ります」

ドアを開ける。
そう言って敬礼する。
傲岸不遜。
その態度は同盟最強を指揮する者に相応しく、それ故に同盟主流になれない男の悲哀があったと言える。

『いつか必ず裏切るであろう人間。
精々それまで有効に使いきってやる』

と影に日向に言われてきた男たちの代表だった。
そう、今までは。

「よく来てくれたリューネブルク少将」

国防委員にして、大日本帝国への特命全権大使を担い、外交成功という同盟史上初の政治的成果を上げた新進気鋭の政治家トリューニヒトは一同を代表して彼を迎え入れた。

「ありがとうございます、トリューニヒト閣下。
それで、帝国からの亡命者と言う小官に一体全体今を時めくニホン帝国の方々がどういったご用でしょうか?」

じろりと辺りを睥睨する。
そこで議場の後ろの方にいる紺のスーツ姿の女が柔らかい声を出す。
心底感心した、そう言った感じの声で。

「なるほど、聞きしに勝る方ですね」

と。

「?」

表情だけで疑問を提示する。
『誰だ、貴様』まさにそう言わんばかりに。

(女? 外交官と言う輩か?)

その視線を受けて女は椅子から立ち上がった。
そして一礼して名乗る。

「わたくしは大日本帝国外務省所属の白洲優奈と申します。
此方にいる17名は大日本帝国大使館所属の者達です」

ショートカットの黒い髪が舞う。
後ろには「キモノ」「ハカマ」と呼ばれる日本の伝統衣装で身を固めた男女がいた。
白洲の言葉と共に優雅にお辞儀する人々。

「これは失礼を。
それで、改めてお聞きしましょう。
今を時めく古の日の丸の帝国が、銀河帝国から落ちこぼれた自分になんのようでしょうか?」

「「「リューネブルク少将!!」」」

「「し、失礼ではないか!」」

「「こ、これは、その・・・・」」

リューネブルクの相手を挑発するかのような言論に同盟軍上層部がいきり立ち、国防委員の一部は青くなるが、とうの女性は柳のごとく流した。
そして簡単に言いのけた。

97 :ルルブ:2012/02/11(土) 21:27:57
「同盟の皆様、どうかお気になさらずに。
頼もしいお方ですわ。
          • 我が国は貴国や貴軍と異なり実戦経験が乏しい。
いえ、過日の回廊会戦以外は無いと言っても良いのです。
そこで皆様がご存知の通り人の派遣をお願いに参りました。
いわば交換留学生ですね、軍人同士の。
もちろん、同盟軍宇宙艦隊の方々にも何名かリストアップさせてもらいますが、その中でも貴方に同盟陸戦部隊の戦訓を教えて欲しいのです」

リューネブルクは無言で先を促した。
優しい言葉とは裏腹に、(この女はまだ何かある)、そう感じた。
女は立ち上がり、歩む。
その姿に会場にいた日本の使節が音楽を流す。
舞踏曲。
帝国が、欧州と呼ばれた国々が得意とした局。
白洲は、優奈は、妖艶な、東洋的な微笑をしたまま、

「踊っていただけますか?
ヘル・リューネブル?」

と、ドイツ語でリューネブルクの耳に囁き、彼をホール中央まで誘い優雅に踊りだす。

(手慣れたものだな・・・・この女)

そこで彼女は、白洲はリューネブルクの耳元で再び囁いた。

(面白い・・・・・俺を飼い馴らす気か?)

それはメフィストの囁きでもあったのか?
他の同盟将校を差し置いて。
他の誰にも聞かれない様に。

「先ほど言ったように我が国は『貴方』の力を欲しています」

間。

「このまま飼い犬のまま死にますか?」

(知った風な口を・・・・・・)

「同盟も帝国も知った貴方方だからこそ、私たちは舞台を用意するのです」

リューネブルクはさもありげに、

「興味・・・・・ありませんな」

と答えた。

(さて、どうでる?)

98 :ルルブ:2012/02/11(土) 21:28:37

「本当に、でしょうか?」

「小官は自分の立ち位置に満足しております。
レディ・・・・・シラス。」

にこり。

(笑う・・・・か)

「薔薇の騎士と呼ばれてはいても・・・・・危険な亡命者・・・・・そうではなくて? 
ヘル?」

白洲は、僅かな時間で、ほんの小さな囁きでリューネブルクの自尊心を、劣等感を巧みにくすぐる。

(こいつ)

「・・・・・同盟軍ではどうか知れませんが、亡命者と言うハンデを背負いながらここまで来た貴方は我が軍で注目の的なのです。
旧防衛軍出身者からの・・・・・・そして・・・・・ある方々の会合からも」

音楽がワルツに移る。
両者は、いや、リューネブルクと女は自らの背を壁にして他の誰にも聞こえない様に話し続けた。

「特に・・・・・・元帝国人から見た同盟軍の制度的な欠陥、を・・・・・ですね」

(!?)

「ヘル・・・・・『同盟国』、或いは『友好国』であるからこそ・・・・・・厳に警戒せよ。
国家に真の友はいない・・・・・古来の格言ですわ、リューネブルク・・・・・大佐」

(この女!
まさか・・・・・俺の昇進を仕組んだはこいつらなのか!?
何故・・・・・・いや、そうか・・・・・俺を、俺たちを追い詰める気なのか?)

そして睨む。
にやり。
白洲優奈はその鷹のような視線を見て不敵にも微笑んだ。

そして直ぐに彼を、自分を、見据えて手を放し、一礼すると微笑みながら離れて行った。
まるで何事もなかった様に、直ぐにトリューニヒト国防委員をダンスの相手に誘う。
日本大使館のメンバーも全員が同盟の要人たちと、軍人たちと歓談する。

ヘルマン・フォン・リューネブルク。
銀河帝国から亡命した子弟の一人。
第11代薔薇の騎士連隊連隊長。
同盟でも異例な帝国出身者の将官。
そして帝国人から見た同盟軍、同盟軍の汚点や汚れ仕事を請け負わされた部隊の長。

東洋的な女は去って行った。
そして何事も無かったかのようにトリューニヒトをパートナーとして踊り、続いてグリーンヒル中将の方へと向かう。

一人の野心家に、小さな同盟製の電子記憶媒体と彼女個人の連絡先を握らせて。
その後、渡された二つがどうなったかは同盟の記録には残されてない。

この後、リューネブルクは第11代薔薇の騎士連隊から正式に異動する。
自由惑星同盟派遣武官の一人としてかの地に赴くのだが、それは壮絶な外交戦の一幕に過ぎなかった。

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最終更新:2012年02月15日 07:56