121 :YVH:2012/02/11(土) 22:29:56
フリードリヒ四世から皇太子ルードヴィッヒへの譲位が四公の耳に届いたのは
皇太子へ譲位が伝えられた二時間後であった。

 -新無憂宮、東苑・ノイエ=シュタウフェン公邸-

「これで卿も国舅と呼ばれる身となったな、ヨアヒム殿」

屋敷に集まった四公のうち、ルドルフィン公が屋敷の主に話しかけた。
そんな、どこか他人事めいた発言に、公はむっとなって言い返した。

「叔父上、貴方も人事ではないのですぞ。我が妻は貴方の娘
 つまりは、貴方は次代皇帝の義祖父なのですからな」

国舅となる公爵は、叔父で舅にあたる老公爵に、そう言い返した。

「フンッ。分かっておるわ。それにしても、あの酔いどれ
 面倒ごとを残してニホンに行こうなどと、ムシの良い事を・・・」

甥で娘婿にあたる公爵の言を聞いて、ルドルフィン公はさも忌々しいとばかりに
この場にいない、至尊の座にある妹婿に毒づいた。

そんな中、ノイエ=ザーリアー公が口を開いた。

「で?我等、四公爵家は如何動くのだ?」

その発言に、今まで黙っていたヴィデルスバッハ公が答えた。

「決まっておる。我等四公家は帝室の藩屏、凡百の貴族どもとは違うのだ。
 新皇帝を陰ながら輔弼奉るのが我等の使命」

こうして四公爵家の当主達は、新皇帝と政府首脳部に協力する事を決めた。


 話の纏まった四公たちは、自分たちの方針を告げるために南苑に居るであろう国務尚書の所に向かった。

 -南苑・国務尚書執務室-

執務室を訪れた四公に、リヒテンラーデ侯が訝しげに問いかけた。

「はて?お歴々がお揃いで何用ですかな?」

その問いに、四公の最年長者ルドルフィン公が答えた。

「我ら四公、新皇帝と政府に協力する事を決めたのでな、
 そのことを告げに来たまでよ、クラウス」

感謝しろよ、と言わんばかりに老公爵は答えた。
それに、部屋の主は唯でさえ鋭い目をさらに鋭くして答えた。

「ほう?つまりは、お歴々は表の政に介入なさると?」

言外に‘宰相職を望むのか?‘と言う意味を込めて老侯爵は問い返した。
それに対し、皇帝の義兄にあたる老人は顔の前で手を振りながら答えた。

「止してくれ、そんな面倒ごとは御免じゃ。
 あくまで我らは、影じゃよ。クラウス」

老公爵の答えに、侯は苦笑しながら答えた。

「・・・まったく、公のものぐさは昔と少しも変わりませんな。
 面倒ごとは、すべて我らに押し付ける」

国務尚書の愚痴めいた台詞に、老公は胸を張って答えた。

「当然よ。影が表にしゃしゃり出てきたら、観客どもは興ざめするわ」

その物言いに国務尚書は呆れたが、反論する気も起きないのか、沈黙したままだった。
それでも、四公の協力が得られるとなれば、今後の国政にはプラスになるだろうとは思った。
何しろ、目の前の四名は直接的には強大な力こそ持ってはいないが、
※分家筋のブラウンシュヴァイク公家・リッテンハイム侯家は、かなり纏まった軍事力も持っているし
特に、リッテンハイムは親族に憲兵隊の高官が居る。
その他、色々な事柄を考え合わせて、リヒテンラーデ侯は四公の申し出を受ける事にした。


【あとがき】
昨夜の続きです。
123 :YVH:2012/02/11(土) 22:30:38
 協力を申し出た四公たちは、行動を開始した。

 ーノイエ=シュタウフェン公の場合ー

彼は軍の高官たち。即ち、帝国元帥四名と装甲擲弾兵総監、帝都防衛司令官を呼び出し、
事情を説明した上で、協力を要請した。

公の協力要請に武官たちは、黙って見事な敬礼で答えた。

 -ヴィデルスバッハ・ノイエ=ザーリアー両公爵の場合-

彼らは、ブラウンシュヴァイク公・リッテンハイム侯をヴィデルスバッハ公の屋敷に招請して
女婿二人に協力を要請した。

 =新無憂宮・東苑、ヴィデルスバッハ公爵邸=

屋敷の奥まった応接室の一つ、防諜対策が施された其処で話が始まった。

「卿らに来てもらったのは、他でもない。
 陛下が、ルードヴィッヒ殿に譲位する事を言い出したのだ。
 これは内定ではなく、決定だ」

屋敷の主の台詞に‘ああ、やはりか‘と言った顔をする、女婿二人。
四公次席の公爵の台詞に続いて、ノイエ=ザーリアー公が口を開いた。

「此処まで言えば分かろうが、卿らには馬鹿〔ウマシカ〕どもの妄動を
 抑えてもらいたい。手段を問わずにな・・・」

ニヤリと凄みのある笑顔で、女婿二人に話すノイエ=ザーリアー公。

「・・・手段を問わずに・・とは?」

掠れそうな声で、そう問う。リッテンハイム侯。

「そのままの意味よ、ウィルヘルム殿。卿は統帥本部と憲兵隊に顔が利く。
 ああ、心配は要らん。今頃ヨアヒム兄上がエーレンベルク・シュタインホフ両元帥に
 因果を含ませている頃だ」

頼りにしているぞ、侯。とのたまうノイエ=ザーリアー公。
最後に、四公次席公爵が因果を含めるように言った。

「分かったかな、両名とも?今回は今までの様には、いかんのだ。
 彼の古の帝国の華族達や英国貴族達の目もあるぞ。
 彼らに、銀河帝国貴族の本気を見せるのだ。
 その邪魔をする者たちには、悉く帝国の養分になってもらう」

帝国を代表する大貴族二人は、家門の宗主たちの醸し出す毒々しい雰囲気にあてられ
ただ、頷く事しか出来なかった・・・

124 :YVH:2012/02/11(土) 22:31:35
 ※少しアクが強いかもしれません。苦手な方は、ご注意下さい。 

 最後の一人、ルドルフィン公爵も自分の屋敷に複数人の要人を呼んで
協力を要請していた。(と言うか、命じていた)

 -新無憂宮・東苑、ルドルフィン公爵邸-

今、此処の応接室では屋敷の主と、近衛兵総監のラムスドルフ上級大将、公の腹心リスナー男爵が居た。

「卿らに頼むのは、酔いど・・オッホン、失礼。陛下と我が孫婿殿の絶対の安全じゃ。
 お頼みしますぞ」

応接室のソファに座った軍人と壮年の貴族は老公の失言は‘聞かなかった‘事にし
重要な要請だけを受領して、屋敷から退出して行った。

それと入れ違う様に、半白髪の青年士官が屋敷に入って行った。
彼は応対に出た執事に、主に呼ばれたとだけ告げて、案内を断り
一人で公の執務室に向かいノックの後、入室した。
部屋で待っていた公爵は、その人物に声をかけた。

「よく来てくれたな、パウル。
 いや、オーベルシュタイン男爵と言った方が良いのかな?」

そんなからかいの成分を含んだ老公の台詞に、言われた当人は無感動に答えた。

「貴方のお好きな様に、公爵閣下」

その返答に、老公爵は面白くもなさそうに鼻を鳴らして返答した。

「フンッ相変わらず愛想の無い奴じゃ。まあ、よい。
 卿を呼んだのは別に愛想を聞く為ではないからな。
 グリューネワルト伯爵夫人、いやさ、ローエングラム女伯
 及びその弟の安全を図れ」

老公爵の言葉に、オーベルシュタインと呼ばれた青年はなんら表情に動きを見せずに
疑問に思った事を訊ねた。

「何故、私〔わたくし〕が?それは宮廷警察か帝都防衛司令部の管轄では?」

青年の問いに公は一言、こう告げた‘ミューゼル‘と。
それを聞いたオーベルシュタインは、ここにきて初めて表情を動かした、僅かだが。
それを見て取った老公爵は人の悪い笑みを浮かべながら、口を開いた。

「ふふふ・・・分かったかな、パウル?我が不肖の「息子」よ
 あの姉弟は我らゴールデンバウムの一族よ
 そして、あの酔いどれの孫でもある」

ゴールデンバウムのすべてを憎んでいる卿には、似合いの任務であろう、と公爵は言い哄笑した。
ルドルフェン公の哄笑の中、オーベルシュタインは静かに発言した。その声音には珍しく感情が出ていた、
憎悪と言う感情が。

「・・・悪魔め・・・」

彼の声が聞こえたのか、公は笑うのを止め、

「そうよ!我がゴールデンバウムの・・・銀河帝国の為ならば、いくらでも悪魔になろうぞ!!
 かのカスパー帝の時のようにっ!第二次ティアマトの時のようにっ!
 もっとも、ティアマトではやり過ぎたがな・・・貴族の力を削ぐ事は出来たが
 コーゼルめを死なせてしもうた・・・叛将の首一つでは、とても釣り合わん・・」

最初は狂ったように叫び、最後の方は自嘲気味に小さな声で言った。

入室してから二時間ほどの後、オーベルシュタインは彼には珍しく硬い表情で
部屋から出てきて、足早に屋敷を辞去して行った。まるで何かから逃げるように・・・

【あとがき】
今回は少し、アクが強かったかもしれません。

義眼氏の出生に付いては、自分の完全な妄想です。
貴族の出とはいえ、生来の眼疾持ちなのに、士官学校を無事に出て三十代で佐官。
あの幼年学校生と比べてかなり優遇されていた印象を受けたので、こういう形にしてみました。

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最終更新:2012年02月15日 08:01