357: 弥次郎 :2021/12/11(土) 23:55:15 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

日本大陸SS 漆黒アメリカルート 「大宰相、Re:Boot」



「お久しぶりですね、嶋田さん」
「辻さん…その口ぶりだと」
「ええ、私も同じくまた転生してきた口ですよ」

 いつかと同じ料亭に招かれた嶋田は、前世以来となる辻との再会を果たした。
 どうやら、自分と同じく『二度目』であるようだ。
 ただ、嶋田はこれが『やり直し』などというものではないことを良く把握していた。

「嶋田さんも知っての通り、状況は前回とは違うということを把握してもらいたいです」
「ああ、和泉で目を覚ました後に情報を集めたが、とてつもない世界だな……」
「その分だと、改めて説明するまでもないですね」
「だが、ここまで歴史が変化したのは夢幻会の意思がかかわっているんだろう?」
「ええ……」

 嶋田より先に目覚め、夢幻会に参加していたであろう辻はため息をつきつつも嶋田の言葉を肯定する。
嶋田が市政や歴史書などを辿って歴史を振り返ると、歴史の転換点となっていたのは、前前世ではある種テンプレートとなっていた織田信長の時代であった。
より正確に言えば、織田家につき従っていた転生者たちが動いたことにより、歴史が大きく変わっていたのだ。
そして、その歴史への介入は国内統一でとどまることなく、国外へと大きく食指を伸ばすこととなったのだ。

「南方への進出、蝦夷への進出、まあここら辺はお約束でしょう。
 けど、まさか太平洋を押し渡って北米大陸にたどり着こうなんて……」
「悪い選択ではないですし、島国ではなく大陸国家だったからこそできたことですよ。
 将来の仮想敵たるアメリカを地域大国程度に押しとどめるというのは将来を見越した国家戦略としては間違っていません……ただし」
「皆まで言わなくてもわかる。歴史を変えることはできても、コントロールすることはできなかった、そういうことですね?」

 嶋田の言葉に、夢幻会の面々は沈痛な面持ちでうなずくしかない。
 それは、極めて的を射た言葉だったのだ。殊更、辻や嶋田同様に「二週目」である面々はそれの色が強かった。
「前回」において、嶋田は宰相として大日本帝国のトップに立ち、米国との戦争に挑むこととなった。
結果だけ言えば勝てたので良かったことであろう。だが、元々対米戦回避などを目標としていた当時の無限回の目的は果たせていなかったのだ。
無論歴史を黙して眺めていたわけではなく、あらゆる方面で働き、動き、この惑星の盤面を変えるべく力を尽くした。
 だが、歴史を変えるということはとてつもなく難しく、むしろ史実にはない動きを生んでしまい、混とんと呼べる有様になってしまったのだ。
そして、不本意ながらも地球における覇権国家として史実アメリカのごとき地位を構築するに至った。

「そうです。我々の先達は、歴史を、世界の在り方を変えることを試みました。
 ですが、その結果は嶋田さんが知っての通りです」

 つまるところ、歴史を変えはしたが、その方向性やその後の潮流に与える影響までも予想し、制御しえなかったということ。
自分達が「前回」犯してしまった失敗を再び繰り返してしまったと、そういうことなのであった。

358: 弥次郎 :2021/12/11(土) 23:56:22 HOST:softbank126066071234.bbtec.net


「その結果が、現在の世界の絵図というわけか」
「そうです。
 世界は日英同盟を主とする陣営と、変異したアメリカ合衆国を事実上の盟主とする陣営に分断されています。
 世界情勢の覇権はおおむね日英同盟によって握られていることは間違いない。
 けれど、その根深いところに、人間の負の面をこれでもかと濃縮したような世界が存在しているのです」

 辻の言葉に、嶋田は呻くしかない。
 アメリカという国家は、史実と異なりアメリカ合衆国とアメリカ連合国の二つに分断されたままである。
 その原因は間接的に言えば日本が北米へと進出したことであり、その後の北米における国家戦略のための行動にある。
そして、アメリカ合衆国はその遺伝子にコードされたとおりの動きを史実以上に加速し、発現し、予想もし得ぬ方向へと動いた。

「結果として、アメリカは現代化…ああ、今の時点での現代化ですが、ともかくそのように変異した中世も真っ青な理論理屈で動く国家となりました。
 その影響下にある国もまた存在し、彼らもまた人を人とも思わぬ蛮行を今もなお続けている。そういうことになります」
「元々アメリカは根底にそういうところがある国とは知っていたが、あそこまでとはな…」
「東西冷戦がかわいいよな、全くをもって…」
「人類と非人類の戦いだよな、これ。しかも人の形をしたもの同士とかいう地獄だ」

 ほかの夢幻会メンバーも口々に愚痴るしかない。
 そう、アメリカ合衆国陣営はもはや突き抜けてしまった倫理観や思想に染まり切っている。
 人を資源とみなし、人を人とも思わず、モノとして扱う。現代の奴隷貿易を行い、あまつさえ他国から資源回収さえも行う。
 だからこそ、それらを行う陣営は半ばパブリック・エネミーだ。決定的な何かがあれば、絶滅戦争になることは請け合いだ。
 何しろ、それをなさねば次の獲物は自分たちなのだから。

「やれやれ……国力があるとはいえ、ハードモードどころじゃなさそうですね」
「むしろバグったモードかもしれないですよ。はっはっは……」

 ともあれ、と辻は締めくくった。

「実績のある嶋田さんにはまた頑張ってもらうことになりそうです。
 今はまだ海軍少尉でしかありませんが、いずれは中枢で頑張ってもらいます。
 前回より人材は豊富ですが、それに見合うだけの仕事は山積みですからね」
「やれやれ…相変わらず仕事とやることはたくさんか…」
「諦めてください。正直、イギリスとも話を詰めていますが、決着をつける時が近いと推測されていますから」
「合衆国が原子力に手を伸ばす前に、ですか」
「そういうことです…史実アメリカの情報はもはや参考にしかなりませんので、準備が整えば一気に決めるつもりです」

 そういうときのリーダーが必要か、と嶋田は納得した。
 「前回」は世界を滅ぼしかねない選択を選び、実行に移した。
 今回もそうなるかもしれない。むしろ、前回と異なってそういった非道な選択肢を積極的に選ばなくてはならないかもしれない。
嘗て大日本帝国の宰相を務めた嶋田の勘は、早くもそうなりうる未来が発生する可能性が高いことを察知しつつあったのだった。

359: 弥次郎 :2021/12/11(土) 23:57:05 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

以上、wiki転載はご自由に。
嶋田さんがリブートしました。
これより、帝国内部で動き始めます。

時系列的には比州沖海戦が終わって、提督たちの憂鬱本編同様に嶋田さんが目覚めた後ですな

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最終更新:2021年12月13日 23:45