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日蘭世界 FFR支援ネタ イル・ド・フランス、その数奇な運命 後編



ノルマンディーの船体を衝撃が襲った。
漂流していた機雷がノルマンディーに触雷したと思われる爆発であった。
浸水が始まり傾く船体に悲鳴が響き渡る。通常であれば混乱でどうにもならず多くの犠牲者を出していただろう。

だが、この時の両船には乗員普通ではない者達がいた。提督達と共にゼーラントに行けなかった者達がいたのだ。
提督の遺言通り海軍の未来を守るべくせめて船乗りとしての腕を落とさぬようにとイル・ド・フランスとノルマンディーに乗り込んでいた。
彼らは提督に情けない姿は見せられぬと全員が行動を開始した。
船員達に指示を飛ばし自身らも船のダメージコントロールを行うと共にイル・ド・フランスへと女子供老人を優先し可能な限り移動させたのだ。
またノルマンディー周辺にいるフランス船舶に救援を要請した。
そして近海にいた多くのフランスの船が駆けつけた。海のルールは戦時下でもなければ助け合い互いが皆の為に皆が互いの為に動くのが暗黙のルールだからだ。

駆け付けた彼らの瞳に入ったのは傾きながらもなんとか低速での航行を維持し国民をフランスへと送り届けようとするノルマンディーの姿。
懸命なその姿に多くのフランス人達が胸を打たれ急ぎ救助活動を行った。それでも緩やかになれど傾き続けるノルマンディー。
駆け付けた全ての船が救命ボートに乗った、或いは海に落下した者達を救助活動を行った。
その最中、これで大型船が現れノルマンディーを牽引し波を掻き分けてくれれば良いのにと都合の良い夢想を誰もが思った。



しかしノルマンディーが、フランスの船が叫んだ国民を助けてという声は『彼女』に届かない筈がない。
国民と戦友(ノルマンディー)の危機に『彼女』が駆け付けない訳はなく、その声に応え『彼女』は姿を現した。


『こちら戦艦リシュリュー。ノルマンディー貴船の救助を開始する。』


全ての船から歓声が爆発した。
そしてリシュリューはノルマンディーを自身と縄で繋ぐと牽引を開始、先頭に立ち波を掻き分けノルマンディーの母港であるサン=ナゼールを目指した。
あそこのドックならばノルマンディーを収容し排水し安全を確保出来るからだ。

そして多くの船がもしもに備えノルマンディーを取り囲み同行した。
イル・ド・フランスやノルマンディー以外は小さな船しかいない、だけれどもそれは戦艦リシュリュー率いられ後に続く立派な艦隊であった。
その一隻の小さな漁船よりの手旗信号がノルマンディーに振られる。
だがその小さな漁船にノルマンディーの乗員たちは大いに励まされた。


『我ら貴船を護衛する。ゼーラントでリシュリューを守り抜いた彼女らの如く。』




サン=ナゼールにどうにかこうに辿り着いたノルマンディー、彼女から無事乗客全員を降ろすことが出来た。
まるで役目を終え力尽きつたかの様にゆっくりとノルマンディーは水の流入が増え船体が傾いた。そ
の様子に血相を変えた乗員とドック関係者は急ぎどうにかドックに収容した。
しかし彼女はドックに入ると排水を待たずゆっくりと水底へと着底した。
その光景をただ呆然とイル・ド・フランスとリシュリューの乗員たちや船会社、ノルマンディーを建造した者達は見送った。

共に第二次大戦を生き延びた戦友であり相棒とも言えるイル・ド・フランス、
同じく大戦を生き抜いた数少ない同胞とも言える戦艦リシュリュー、そして生み出してくれた者達に見守られながら彼女は生まれた地で永遠の眠りについた。
激動の大戦を生き抜いた船、対してその最期は静かなものであった。

416: 635 :2021/12/13(月) 07:21:45 HOST:119-171-250-56.rev.home.ne.jp


その後の調査で判明したことだがノルマンディーが触雷した場所より酸欠で死亡した複数の乗員の遺体が発見された。
しかもその場は内側より防水処置が綿密に成されていた。
即ち彼らは己の退路を断ってまで気密作業を行いノルマンディー自身をそしてその不沈伝説を最後まで守ったのだ。
それがその場で分かった時、調査に当っていた者達全員が乗員に敬意を抱いた。
これを出来る者がどれ程いることかと…。

なお復帰の可否も調査されたが爆発により被害は予想以上に大きくノルマンディーは修理不能と判断された。
彼女は己が生まれたサン=ナゼールの地で解体、その生涯を閉じることとなった。

そしてノルマンディーに接触爆破したものであるが…その後新たに機雷ではないことが判明した。
その爆発物の正体はイギリスが本土防衛戦時に使用が計画された沿岸防衛用ロケット推進式地雷の爆薬であった。
実験か実戦かで使用された同地雷の防水処置をした爆薬が何らかの原因で海に流出し漂いノルマンディーに接触、爆発したというのがことの真相であったようだ。
なおイギリスへのヘイトが更に溜まったのは言うまでもない。



フランス唯一の豪華客船イル・ド・フランスのその後であるが。
フランス、いやFFRが迎えた暗黒の三十年、一人ぼっちとなったイル・ド・フランスは客船として復帰しFFR各地を結ぶ本来の仕事に従事していた。
しかし暗黒の三十年の余波をイル・ド・フランスもまた避けることは出来なかった。
十分な改装資金や運営費もなくもなくかつてと違い質素な内装、低いサービスしか提供出来ず、
かつて彼女がアール・デコの内装を纏った大西洋航路のスターであった姿を想像することは出来なかった。

それでも大戦を生き抜き相棒を失った後も黙々と国家のため仕事をこなした。
ただ実直に仕事をこなしFFR各地の港に姿を現す彼女はFFR国民にとって模範であり国民が最も接する船であった。
苦しい時代でも彼女に乗って旅をすることがFFR国民にとってある種のステータスでもあった。

また、軍艦に非ずとも彼女はリシュリューらと共にあった。
事が起きればリシュリューやジャンヌ・ダルクらと共に各地に姿を現してはリシュリューらの後方支援を行った。
災害があれば国民たちを避難させ、紛争が起きれば兵士達を運んだ。
国の象徴として敬意と思慕を一身に受けるリシュリューとは違った意味で国民に愛され最も近い船だったのだ。



そんな中、暗黒の三十年も後もう少しで終わり迎えようかという頃、フランスという国を代表とする新たな豪華客船の話が上がった。
フランス唯一の豪華客船であるイル・ド・フランスが生まれてからほぼ半世紀であり客船としては老齢。
何度かの近代化へ経てはいるが各種設備や船体も老朽化しているからそろそろ引退し解体をということだ。
しかしそんな中一通の手紙がイル・ド・フランスを保有する船会社や政府に届く。


「イル・ド・フランスを引退させないで!!」


かつて海難事故に遭遇しイル・ド・フランスに救われたFFR国民の幼い少女からの手紙。
現実と同じくこの世界でも戦前から戦後までイル・ド・フランスは多くの人々を海で救った、それもFFRだけではない。
相手が大日本帝国だろうがオランダであろうが例え敵対するBCであろうが海難事故で助けを求められれば彼らを救い上げた。
彼女はいつしかFFRだけでなく世界中で『海のセント・バーナード』と呼ばれる様になり愛されていた。
その名を戴く彼女はFFRの誇りであった。その彼女がオセアンの指揮下へと入るというニュースが国民に広く知れ渡った。

FFRにおいては引退した船は霧の向こうでオセアンの指揮下に入る、この頃には既に国民に大きく浸透し始めていた概念である。
それは誉である。しかし、それでも国民に寄り添い続けた船がオセアンの下へ旅立つというのは一大事だった。
また、諸外国の救助された者達からも同様の嘆願書が届けられた。

この問題は議会にも上げられ喧々諤々の議論が連日の様に飛び交った。
リシュリューならば兎も角一隻の客船がこれ程の事態を引き起こし、ジョルジュ=ビドー大統領らFFR首脳部も頭が痛かった。
これがリシュリューであるならばどれ程の事態を引き起こすのかと。
そして連日の徹夜で頭がおかしくなっていたのか議会においてこれまた頭おかしい案が提案可決された。


『客船イル・ド・フランスの大規模再構築改装案』

417: 635 :2021/12/13(月) 07:23:29 HOST:119-171-250-56.rev.home.ne.jp


多分提案した人物の頭がおかしくなってたのだろう、可決した議員達も頭がおかしくなっていたのは想像に難くない。
一客船を国費まで投じて改装するのだ。
しかしながら頭おかしいと思われたこれを好機を見出した者達がいた、FFR政府・軍首脳部であった。
この時期、対BC、OCUを念頭にFFRの象徴である戦艦リシュリュー、その大規模改装の話が上がっていたからだ。
理由は言わずもがな忌まわしきアムステルダム条約が原因である。
やるならば徹底的にと、行きたい所であったが戦艦リシュリューは現在FFRの象徴である。失敗したでは済まされずどうしたものかと頭を悩ませた。

そこへこの船の話が上がったのだ。
イル・ド・フランスは全長241.1m、全幅35.9mという戦艦リシュリューにも負けない巨体。
戦艦リシュリューの改装のプロトタイプとするにはうってつけの存在だったのだ。


イル・ド・フランスの改装項目は多岐に渡るというかリシュリューの大改装及び後に誕生する原子力客船フランスのプロトタイプと言っても良い。
上部構造物はもとより船体の一部まで解体され彼女は竜骨の一部までも補強された。
さらに船体が延長され、最新の材料工学を用いた船体が構築されていった。
機関も最新のディーゼル・ガスタービンエンジン混載換装、船体の延長に合わせ速力も向上しリシュリューへの追随すら可能となった。
そして船を制御するシステムも国産の最新型が用いられた。
どれもこれも後の船に使われる技術ばかりであった。

内装はル・コルビュジエ始めフランスを代表する建築家、デザイナー、芸術家が動員され、内部の調度品も一品ものが国内で製造された。
しかしそれだけではない。
イル・ド・フランスに残され保管されていた戦前の調度品や内装、今は亡きノルマンディーから回収保管されていたものも用いられ、
FFRが連綿と続くフランス文化を継承していく決意が全面に押し出された。

かくして豪華客船イル・ド・フランスは再び蘇ることとなる。



イル・ド・フランスの改装終了いや『再』進水の日、ジョルジュ=ビドー初代FFR大統領始め政府軍関係者が出席し多くの国民が詰めかけた。
そして『彼女』の存在も忘れてはならない、戦艦リシュリュー。
今では少なくなってしまった先の大戦からの戦友始め多くの者達が再進水の日に駆け付けた。

式典が始まり戦艦リシュリューと客船イル・ド・フランスの船台の間には白い紐が結ばれていた。
その紐の先は斧が結ばれている。リシュリューが機関を始動しその巨体を動かし始めると紐が引かれ斧が振り降ろされ縄を切断する。
縄のに括り付けられたいるのはシャンペン、否シャンパーニュの瓶。
その瓶が叩きつけられ割れると紙吹雪が舞い、イル・ド・フランスの船体が滑り出し再び洋上へ踊り出た。
観客が歓声に湧く。

そして彼女は最も近くにいるのは戦艦リシュリュー、かつての大戦を生き延びた戦友。彼女ら互いに慶事を祝う信号を無線で光で手旗信号で送り合う。
軍艦と客船、FFRが誇る国家と文化の象徴が互いに向き合うその姿はまるで一枚の絵画、或いはパリのオペラ座の舞踏曲の様で。


そして始まったジョルジュ=ビドーFFR初代大統領の演説、その一節はFFRの教科書にも載った程だ。


『最早戦後ではない。』


この暫し後に戦艦リシュリューはドックに入り暫しの眠りつき、目覚めた時彼女は国民の前にNotre Commandant(我らが指揮官)という新たな姿を現すことになる。
それを以てFFRは戦後という暗黒の時代を終え、大規模経済成長という新たなベル・エポックを迎えた。
イル・ド・フランス、彼女はその時代を呼ぶ鏑矢となったのだ。

418: 635 :2021/12/13(月) 07:28:15 HOST:119-171-250-56.rev.home.ne.jp
以上になります。転載はご自由にどうぞ。

ちなみにイル・ド・フランスが美魔女化リシュリューと原子力客船フランスのプロトタイプになった理由。
リシュリュー大改装するのにぶっつけ本番はないやろなあと考えてたらイル・ド・フランスが再構築改装(美魔女化とも言う)される姿が浮かんだからとも言う。
ついでに「我らが指揮官が一人ぼっちな訳ないだろ!?当時からの戦友も居るわい!!」という謎の声が聞こえたからだ(爆)

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最終更新:2021年12月14日 00:01