953: 名無しさん :2021/12/08(水) 01:53:09 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
流れぶった切ってすいません。やっと書き切れたので

ttps://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/6907.html
ttps://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/6908.html
ttps://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/7167.html
上記作品群の続きです。短くやるはずが長くなったので、今週中の2回に分けます。

いや、終わった後現時点で公開できる設定集も出すから、3回かな
……前回から半年たってるとかウッソだろって自分でも思ってます

954: 名無しさん :2021/12/08(水) 01:53:53 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
###後編###

 ―――― 1951年2月、継続大戦。アンカレッジにて ――
 そこにはB-29ベースの特殊輸送機が並べられていた。
元々それらの機体は、かの『光あれ』作戦のために作られたと言って良い。
『光あれ』作戦はマッカーサーが急遽提案した作戦では無く、以前から計画され少しずつ進んでいた作戦計画だ。

空挺旅団とはいえ、その数20個を複数戦線に投入するという作戦である。
事前に準備無くやれるわけが無い。
少なくとも、B-29ベースの特殊輸送機を最低数百機単位で用意しないと行けないし、何もせずそれを送り出したところで
枢軸の航空戦力が遠慮無く、たたき落としていただろう。故に誘導作戦も必要になる。

バトル・オブベネルクスと称される千機の作戦機を用いた連日の戦爆連合作戦に海軍艦隊の出撃。
ここまでやっても落とされる可能性はなかなか減らない。何か工夫が必要だ。すなわち超高高度降下。
世界初のヘイロー降下の持つ特性は、こういった作戦の事前に行われた数度の実験によって発見され、マッカーサーは大いに
喜んだ。そして、それを駆使した『光あれ作戦』の実施を強く求めた。
さすがにばくちが過ぎるとして、大連合連立司令部およびホワイトハウスは否定的だったが、ついに始まった対ソ全域攻勢は
ソ連指導部を恐怖させ、博打作戦の発動を後押しした。
そして、あのとき使用された機体の半数以上がアンカレッジにてそのまま放置されている。

「ふん。マックの浪費癖の象徴だ。そうは思いませんか? 提督」
アイゼンハワーはそれを眺めて、そう言い捨てる。

「でしょうな」
アーネスト・キング。海軍を去ろうとした彼であったが、情勢がそれを許さなかった。
対日戦を主導した海軍元帥は太平洋戦線において、マッカーサーとはよく協調する中であった。
マッカーサーもキングもどちらも政治的手腕に長けた戦略家であり、同時に対日戦を主導する存在。

「さすがの私もこんなモノに貴重な戦費を傾けたと知ったときにはマックと大げんかですよ」
史実でもドイツにばかり配分傾きそうな資源配分を太平洋戦線に確保し続けた2人の元帥は
同時に一番重要な点で折り合いがつくタイプの人間では無かった。

「ですが、まぁ、成功した以上、これ以上はただのいちゃもんでしか無い」
すなわち、マッカーサーは野心家であり、奇策を好む人間であったと言う事。
キングは、実務家であり、堅実な作戦術こそ正しいと感じる人間であったと言う事だ。
マックは確かに秀才、士官学校で素晴らしい成績をたたき出したことは事実だ。けれども彼は堅実なる米軍参謀では無く

955: 名無しさん :2021/12/08(水) 01:55:01 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
「……まったく運に恵まれた男だ」
米軍のギャンブラーだった。史実の仁川上陸作戦を彼の唯一の傑作と呼ぶ戦史家もいるくらいだ。
それに対して、アーネスト・キングは計画をたて必要なモノを必要な場所に必要な時に確実に届くように采配をした上で現場に任せた。

「で、そのマックはなにやら北極星とやらにご熱心だそうで。そのワードだけ聞かされ、こんな場所までつれて来られた私は
何をすればいいのかな?」
アイゼンハワーの言葉に一つの書類をキングは見せる。

「『北極星作戦』。フィンランドが日本と共同で行ったらしい謎の作戦だ。マックは戦況を変える切り札の一つにしたがっている。
何しろ、ソ連に絶対に渡してはならない『人類の宝』だそうだ」
「……目の前のこいつらを利用する作戦計画とは別にか?」
「空前絶後の大作戦とは、とにかく大規模である事と敵の意表を突くこと。意表を突けるのであればいくつついても良いし
それだけ大規模になればなるほど万民が敬服する。……だそうだよ」
「マックが言った言葉か?」
アイゼンハワーの疑問に沈黙で返すキング。マックらしいとため息をつくアイゼンハワーの眼前にB-29特殊輸送機仕様の元に
次々と整備兵たちがとりついていく。再びこいつを動かそうとしているらしい。

「モスクワにでも空挺降下するつもりか?」  
「ソ連には回収しきれなかったこいつが大量に残されている。ソ連がそれをいつ戦略爆撃機にするかわからん。
それに、大規模な空挺作戦に国を救われたことが原因かは知らんが空挺専門の空挺軍団をソ連は組織しているそうだ。
そんなソ連がそれを許すとは思えんよ」
「では、何のためにこいつを使おうとしているんだ? 原爆でも運ぶ気か? 我が国にこんな大量のそれがあると?」
「まさか。そんな量の原爆など存在しない。せいぜい、あと2~3発くらいしか無いそうだ。それ以上作ろうとしたら文字通り
破産するそうだ」
何を今更と語る2人組の目の前で特殊輸送機のエンジンが再び稼働する。動くことを確かめられたそれは再び停止する。
それがあちらこちらで行われるモノだから轟音と排ガスがすごい勢いで立ちこめる。

「……バクーだ。あれを無人化して、大量の爆薬と一緒にバクーに突っ込ませる。それがマックが次に提案した
奇想天外な大規模作戦だそうだ」
「は?」
もっとも原始的な初期コンピューターがやっと作られた時代だ。無人操縦など出来るハズも無い。

956: 名無しさん :2021/12/08(水) 01:55:58 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
「なので、有人機が有線で操縦する。有人機1機で3~4機操縦出来る……ハズ……だそうだ」
「なんだそれは……無茶苦茶が過ぎるぞ。技術的に出来ると実際に出来るは別の話だぞ!?」
「あと、陽動作戦として一応モスクワも狙うそうだ。そっちの方は失敗しても成功しても一定の結果が出るように
BC兵器を積み込むとか」
アイゼンハワーはただただ、言葉が出ない。初手BC兵器とは。さすがにあの大戦でさえそこまで行き着いてはいない。
最後はダウンフォールなる一つの民族をこの世から根絶させる事を前提とした大作戦が実行に移されたとはいえ、敵軍の
激しい抵抗と、ついに成立した降伏によって完遂されることは無かった。

「ジャップでさえ、炭疽菌を使うときは事前に何度も警告を出していたんだぞ? 枢軸の悪逆非道より上回って……
それで勝てなかったらどうするんだ?」
ユダヤ人を根絶させると叫んでいたナチスドイツ。
やつらさえ、毎月の公開処刑以外ではやっていない。なにやらガス室で一斉にとか考えてはいたようだが、所詮は
『連立与党の一つ』に過ぎないナチスにそこまでの権限は存在しない。

枢軸陣営、三大盟主国ナチスドイツこと、正式名称『ワイマールドイツ連邦』だって、そこまでは行き着いてない。

「あの風船攻撃は、きわめて非効率で非合理的だった。
が、そう思えるのは最前線将兵や血気盛んな若者にはそう見えるだけで後方からすれば、目には見えず、対応策もろくに思い浮かばず、
せめて人里離れたところで炸裂してくれと祈りながら西海岸をハリネズミにするしか無かった。
あのときは太平洋艦隊へ振り分ける弾薬をどう確保しようか悩んだよ。ましてや風船の1割が炭疽菌だとジャップが自慢げに警告放送するものだから」
確かに、大連合として、ありったけの都市を焼き滅ぼし、時にガス兵器さえも容赦なく使った事は事実である。
けれど、致死性のモノを使う場合、前日には必ず警告放送を流していた。それくらいの良識は大連合、枢軸、双方にあった。
どちらも大量のBC兵器をばらまきながら、変なところに良識は働き、事前警告だけはしっかり行われていた。

と言うか、それがなければ今頃自分たちも生きていない。あまりにも悲惨すぎる戦いを繰り広げてしまってるが故に、変な所だけ何故か良識が働いた。
何より、炭疽菌というのがいい。何しろそれはとんでもなく恐ろしいが、同時に自然界に常に当たり前にそこにいた物である。
よほど運が悪くない限りは問題は少ない。アレは純粋なる恐怖を武器にした物だった。そして、それくらいしか効果が無かった。
そもそも風船に乗せられた細菌の大部分は雲の世界で死んでしまったのが大半で、本土防空への圧力の一点を狙った物だった。
……そしてこの事実は盛んに対日プロパガンダとして活用された。『まぬけなジャップ。恐るるに足らず』と。

「マックは何を考えてるんだ? そんなんでソ連に大勝利出来るとでも?」

957: 名無しさん :2021/12/08(水) 01:56:54 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
  ―― 1945年7月、WW2:『赤い夏作戦』補助作戦『N号作戦』、地中海方面。 ――
 地中海は太平なる巨大な海を意味する太平洋よりさらにおとなしい。
ましてや日本海と比べると、瀬戸内海のような空間だ。広くて狭くておとなしくて古代からの戦乱の海。
その海に取り残された連中がいる。大日本帝国海軍遣欧第1艦隊。

「アトラスの柱作戦ねぇ……」  「イタリア人らしいネーミングと言えばいいのか」
赤い夏、ソ連への全戦域大攻勢への補助として行われているのが、日本では『N号』と称されている作戦であり、イタリアでは
補助作戦の補助作戦、『アトラスの柱』作戦が行われている。困ったことに日本のN号にはそのアトラスの柱への支援も含まれている。
補助作戦の補助作戦に補助を行う補助作戦とはこれ以下に?

「閣下。お時間です」  「あい、わかった」
海軍少将横井司令の言葉とともに戦時量産型空母の一つである『親不知(G18-02)』は麾下に属する駆逐艦たちを率いながら
動き出す。

「遣欧総軍司令部より、入電。『ミンミンミン』」
夏から取った安直な符牒。けれどもそれがすべての始まりであった。暖機運転状態にあった95式艦爆(史実99式)が
次々と飛び立つ。陸上から出発した様々なイタリア製戦闘機。空の上でそれに合流する帝国海軍航空隊。
サジタリオと並ぶ95式艦爆。彼らの行き先はただ一つ。フランス領北アフリカ、内陸部最大の都市ヴィスクラ。

「ヴィスクラまで爆撃する。途中イタリア軍がもうけているはずの滑走路で給油する。事前に戦力を集結させたかったが……」
艦爆を出撃させた後の親不知を含む艦隊が移動を開始する。

958: 名無しさん :2021/12/08(水) 01:59:02 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
「やはり、あちらさん、せこい手で来るか……」
海図におかれるのは、イギリス艦隊を表すコマ。
ソ連への全面攻勢により、ソ連を戦争から離脱させることを目的とした『赤い夏作戦』。
しかしこれほど大規模な攻勢作戦だと、準備段階で感づかれる。当然大連合の米軍、協商の英仏軍。それぞれが
ソ連救援を目的とした作戦を実施するのは目に見えていた。それ故の補助作戦。
それがN号だ。米英に対する攻勢作戦。地中海方面ではフランス領北アフリカの全面占領を目的としたイタリアへの支援。
太平洋方面でも攻勢が始まっている現在。イギリス艦隊の出方が重要だった。

「ドイツ軍と第2艦隊(大西洋遣欧艦隊)の奴ら足止めに失敗したのか?」  「いえ、元々ジブラルタルにこもってる奴らですよ」
フェリックス作戦(ジブラルタル占領)。N号の一環としてそれの支援も行うようにと言われている遣欧第1艦隊(地中海艦隊)。戦時量産空母2隻に2隻の
重巡洋艦、そして無数の駆逐艦からなる遣欧第1艦隊に対してすさまじい仕事量だ。それでもそれを求めらている。

「敵はインコンパラブル。天山でたたきつぶしてやれ」
敵は世界最大の巡洋戦艦。こちらに戦艦なし、十分な砲戦能力はたった2隻の重巡洋艦。相手にとって不足なし。
相手がもっと早くて出てくれていれば、艦爆もこいつをたたきつぶすために出撃しただろうが、このタイミング、図られたか、それとも偶然か。
敵のジブラルタル艦隊は、事前情報だとインコンパラブル、リヴァプール(グロスター級巡洋艦)、そしてC級駆逐艦が15隻。
帝国海軍が誇る天山。所詮戦時量産空母にすぎない不知火は40機しか航空機を搭載できない。
故に、艦爆20機、天山20機を配備された不知火と、全機戦闘機で固めた、烏帽子(G18-05)に分かれた。
本当は艦爆は陸上から出発させ、空いたスペースに色々とやりたかったが、イギリス艦隊が出てくるのか出てこないのか。出てきたときに
地中海までなかなかやってこない最新鋭の雷撃機の代わりに艦爆を使いたいと言うわけでこんな中途半端な事をする羽目になった。

「閣下。イタリア艦隊より、参戦すると言う連絡が……」  「当たり前だ! 外務省あたりは無傷で帰っていただきたいとかほざいてるが」
元をたどれば連中の作戦だ。少なくとも地中海においては。
かつて、ドイツイタリアのアフリカ軍団がスエズ運河を占領した際、日本側も枢軸三大盟主国で足並みをそろえるべく、遣欧艦隊を設立した。
こうして、スエズを通って、遣欧第1艦隊(地中海)と、遣欧第2艦隊(大西洋)がやってきたのはもう昔のこと。
イギリス軍による決死のマーケット・ガーデン作戦により、マンデブ海峡が封鎖され、サウジアラビアが参戦。
解囲しようにもただでさえ広大なインド洋各地で戦う帝国陸海軍は攻勢限界に達し、紅海連絡線の途絶によって遣欧第1艦隊は
事実上帰れなくなったのだ。

「仕方ないとは言え、イタリアのパシリで終わるつもりはないぞ! もちろん外務省のパシリにもならん!!」
憤然と叫ぶ少将の姿に『その通りです』と次々ヤジが飛ぶ。帰れなくなった彼らは空路で運ばれる補給の航空機部品など以外の
すべてをイタリアに依存する羽目になった。すなわち水食料、燃料に一部武器弾薬。
戦時量産空母、親不知と烏帽子。最上型重巡洋艦、熊野と鈴谷。
松型駆逐艦が8隻、桑、桐、杉、楢、八重桜、梓、藤、榊
そして、この有力な艦隊をイタリアがお客様扱いするハズもなく、まもなく彼らはイタリアのパシリとしてここ数年使われ続ける事になる。
実を言えば、松型駆逐艦の桑に関してはとっくに海の底にあり、今のは二代目、フランスから鹵獲したル・ファンタスク級ローダシューだったりする。
彼らは血を流し続けたのだ。イタリアのために。戦友としてのイタリア人には強い同胞感情を抱いてもそうではないものには抱けない。

「イタリア艦隊に戦艦は?」  「いました! リトリヲ級混じってます!」
「クソが! 疫病神か!」
ヴィットリオ・ヴェネト級(リトリヲ)は日本の外務省より『無傷で戦勝を得て、イタリアの軍港に凱旋して欲しい』などという注文を受けている。
つまり、疫病神だ。

「リトリヲ以外でまともな戦艦は?」  
帰ってこない答え。それがすべてを表している。

「よい。我らの天山と、熊野、鈴谷だけでやる。相手にとって不足なしだ」

959: 名無しさん :2021/12/08(水) 02:01:39 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
  ―― 同年同日、北太平洋、アリューシャン列島沖 ――
 青空はすでにない。無数の黒煙に彩られ、澄み切った蒼穹の空気はいつしか、鉄と火と油の臭いに汚染された。
アメリカ連邦海軍太平洋艦隊のTF35との激闘の果てに、双方痛み分けとなった海域。
N号作戦の一環で、太平洋方面でも何らかの手を打つことになり、提示されたのが、サンフランシスコ空爆陽動。
実際にサンフランシスコを空爆するわけではない。その姿勢をアピールすることでアメリカに圧力をかけるもの。
そして、当然のごとくアメリカ側から反撃がなされる。それどころか日本本土への上陸作戦ではないかと思われる
米軍の部隊動員計画が何故か、流出するという事態に、日本側もただの圧力ではすまなくなった。

「天山は……もうそろそろだな」
空母赤城の船内で、整備士の1人がそうつぶやいてしまう。天山は傑作だ。少なくとも彼はそう確信している。
だが、戦場の現実が、教えてくれる。もうそろそろ限界点は近いと。天山を越える敵機が天山を越える数で襲ってくるだろう。
ドイツとの技術交流によって、レーダー技術が向上したが、それでもイギリスやアメリカに比べればボロボロだし
例の米軍自慢の特殊信管の技術は大量に落とされる味方作戦機という悪夢を何度となく見せてきた。
38年に試作機がロールアウトした名機、流星ならばまだしばらくは持つだろう。けれど天山は持ってあと数年。
整備士は黒煙とは別の暗雲が立ち込めている世界がなぜか見えた。

「絶対国防圏の改良を大本営連絡会議に提言しなければなるまい」
エロ爆弾(イ号)のさらなる調達と改良、そして飽和攻撃の実現が必要だと。
そして、同時に敵のAZONのようなモノがさらに出てくるだろう。ならば対抗措置としてさらなる防空システムの
開発を推進しなければならない。最低限研究されているという地対空誘導弾の開発と配備が必要だ。

「他の戦域は大丈夫なんだろうか?」

960: 名無しさん :2021/12/08(水) 02:05:28 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
  ―― 再び地中海。 ――
 インコンパラブル。大英帝国、フィッシャー提督の巡洋戦艦スキーがもたらした世界最大の巡洋戦艦。
計画がなされたWW1の頃でもすでに問題が多く指摘されていたはずなのに建造されてしまった世紀の馬鹿艦。
現代においてその兵装は主砲20インチ3連装砲2基6門、副砲として設置された4インチ速射砲4基、
そして本来5基あった副砲を一つ減らしその他兵装をすべて撤去、その代わりに対空砲のハリネズミとなった。
故に、それらが作り出す一筋の光の奔流は空を飛ぶモノへの殺意の権化。
無数の対空砲火。しかし、太平洋で、米軍の圧倒的なモノを一度でも見たことがある人間にしてみればむしろ――

「――光って標的が見やすいぜ!」
日本の無線機は世界標準と比べて低い。それでも生産精度が上がればそれなりの性能のモノの数をそろえることは出来る。
結果として、隊長機には送受信出来る奴が、それ以外には受信のみ出来る奴が搭載され、不十分ではあるが
隊長機を中心とした連携が出来るようになっている。

「いけ! エロ爆弾!」
隊長機がそれを解放する。そして、部隊がそれを解放する。

戦時量産型空母烏帽子艦内にて――――

「――まもなくドイツの『エロ爆弾(フリッツX)』投入です」
何故か、とある誘導爆弾開発秘話が最後には現場において日本の誘導爆弾全般を指す単語となり
ついには日本製誘導爆弾を表すネーミングとして敵味方双方から『ERO』呼ばわりされてるが、
今回天山隊が取ったのは二段構え。どちらも囮でどちらも本命。たった20機の天山を使って
確実にインコンパラブルを沈めるための方策。
ジブラルタルより出撃してきてるホーカーテンペストの方が数でこちらを上回っている以上、テンペストを
かろうじて足止めし、数の限られた天山で確実に仕留めるための強引な方策。

「エロ部隊にいい思いさせんな! いくぞ、おまえら!」
航空魚雷抱えた天山。生産精度が上がったことで量産され、隊長機に限定されるが送受信可能な航空無線機が
垂れ流す信号を受信機のみを装備した作戦機が拾って機内に響く無線音声。正直音質は悪い。
そして、投下。航空魚雷、走る。

フリッツXと航空魚雷の二段階攻撃。

インコンパラブルの対空砲火。そして補助艦として走り回る無数の水雷艇の銃火。
自ら魚雷へと突撃していく水雷艇の姿もあり、インコンパラブル健在。

「だが、もう沈め」

誰が、航空攻撃の二段階だと言った? 日本の駆逐艦、桑と桐が解き放つ長射程の酸素魚雷による三段階。
いや、誰が三段階で終わると言った。なんとか敵の砲火の中、突き進みその砲門をインコンパラブルへと向ける
重巡洋艦熊野。仮に戦艦を名乗る軍艦相手に何処までその20mmが通用するか。それでも――

「――ありったけの四段攻撃。いい加減通じろ!!」
そして、そこで蛮勇の限度がきた。
熊野、魚雷被弾。

不知火の戦闘指揮所で、幕僚たちがうめく。

961: 名無しさん :2021/12/08(水) 02:07:43 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
「潜水艦……」
やっとの思いで、イギリスの駆逐艦部隊を引きはがし、日本の駆逐艦部隊が相手をしているこの状況で
潜水艦の登場。インコンパラブルという前時代の巡洋戦艦を沈めるために桑と桐を熊野につけて別行動させて
このざまだ。このままでは持たない。

天高く、飛翔する無数のそれ。ホーカーテンペストのウィング。
迎え撃つ零戦の数は20機。すでに戦闘が始まってそれなりの時がたち、航空優勢はイギリス側に大きく傾いていく。
1機、また1機と天上より、日本艦隊を守護する羽が落ちていく。
むろん、たった20機、されど20機。ただでは落ちていかない。

「まもなく、テンペストが不知火上空へ!」  「たたき落とせ!! 零戦隊の奮闘を無にするな!」
ホーカーテンペストのウィング。されど、その数はウィングと呼ぶには小さい!
大連合お得意の特殊信管が無くたって、戦闘機相手に対空砲火で負けてたまるか!

インコンパラブルが自軍駆逐艦部隊との合流を図り、進路を変更する。沿岸方向へ。
地中海は、日本海に比べて荒れない静かな海だ。しかしそれは比較する相手が悪い。荒れるときは荒れるし
多くの古代の船が沈んでいる。むしろ沿岸ほど危ない。
しかし、インコンパラブルと比べて沿岸付近で日本の駆逐艦部隊と戦っているイギリス駆逐艦の数々の元に合流とはそういうことだ。
そこに、乱入者の姿。

「イタリア艦隊……」
イタリア艦隊。マエストラーレ級駆逐艦、リベッチオとシロッコ。日本から供給された虎の子の日本製酸素魚雷を搭載されたそれらは
魚雷を発射する。ヴィットリオ・ヴェネト級の戦果にしたいが、そのために日本艦隊に撃滅されても、そして日本艦隊が消滅するのも
どちらも困る。そして、どうせ、駄目なのもわかっている。日本艦隊に比べればイタリア海軍はいささか力不足を何度も見せてしまった。
それでも――意地の一つくらいは見せたい。
イタリア艦隊の駆逐艦がたった2隻、艦隊の陣形とは全く違う形で突撃した形は、戦場に混乱をもたらした。
たとえ、その混乱が長続きしないものであっても。
空のホーカーテンペストは日本軍機の決死の戦いに一時、押される。何故これほどに強固なのか? イタリアの航空隊は何故未だに後ろにいるのか?

「閣下。現状、我々が行える最後の攻撃です」  「ふん、とっととやれ」
海軍少将横井司令の一言。

「仕方ないとは言え、遅いんだよ。ボケ」
航空参謀のぼやき。
それらは、きた。インコンパラブルのレーダーがそれらをとらえる。
95式艦爆、ヴィクスラ空爆行き、直行便の緊急帰還。サジタリオのおまけ付き。

962: 名無しさん :2021/12/08(水) 02:10:22 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
その日、大英帝国の輝かしい世界最大の巡洋戦艦がついに海の底の住民となった。
尤も士気が下がるような現実が一つ。
大英帝国の上層部にとって、インコンパラブルの撃沈は惜しいけどすでに計算道理だったと言って良い。

大連合の同盟勢力として振る舞う協商だが、あくまでも同盟勢力であって従属勢力では無い。
『米ソの結婚』とまで称される『大連合』、そしてそれに対抗するべく主に日独伊が中心となって結成された『枢軸』。
その狭間に揺れるかつての超大国の残骸、大英帝国と欧州の軍事帝国フランスが手を組んで作り出した第三局。
それが、『協商』だ。とはいえ、大連合と枢軸の二正面作戦をするつもりは無い。

故に、大英帝国は陣営のオークションを開き、大連合の同盟勢力と落ち着いた。
だが、逆に言えば、名目上は対等なのだ。対等な協商がサボタージュを図る……わずかでもそう見える行為を働いたら
この大戦争の時代の大連合はどう反応するだろうか?
また、今や完全に枢軸と大連合の絶滅戦争となりはてたこの全球大戦の時代において、そんな大連合に全面的に迎合して
活動して、枢軸側が協商陣営をどう見るだろうか?
故に、協商は全力を尽くして枢軸と戦っていると言うアピールを。同時に協商は枢軸を滅ぼすほどの大戦争は望んでいないという
メッセージを。その両方を常に発し続けると言う綱渡りを強いられている。前時代の遺物にして、世界最大の巡洋戦艦は都合がいい。


「閣下、ドイツから、追加で燃料とフリッツXを供与するので、イタリア艦隊の元に合流せよと。
負傷者、並びに救助活動はスペイン軍が引き受けるので即刻行動願いたいと」
「……つまり、追加の敵がいるんだな? 何処だ?」
「大西洋方面、ジブラルタル沖70キロの地点に協商、フランス艦隊が集結中。目的はジブラルタル英国航空要塞の救援」
ため息。そして一呼吸。先ほどまでの喧噪は消え果て、沈黙が支配する司令部。その静寂を破るのはやはり指揮官の声。

「よろしい。せっかくのジブラルタル攻略が無意味になるよりは、ここですべてを出し切ってスペイン軍に救助された方が
よさそうだ……」
「司令、そのような発言は……」  「スペイン軍に救助されれば、本国への帰還はもう決まったような物だよ。時期は不明だがね」
「……スペインの参戦を期待されないのですか?」  「それこそまさかという物だ」
『防共と世界平和のための枢軸同盟条約連絡会議(枢軸陣営)』に参加していながら、この大戦に全く
関わろうとしない国、それがスペインだ。当初、ワイマールドイツ連邦のナチス総統兼連邦主席大臣のヒトラーもそんなスペインに
条約違反を理由に武力懲罰を考えていたようだが、そのスペインが今やヨーロッパ枢軸陣営における巨大な穀倉地帯として機能すると
もはや何も言わなくなっている。

「スペインの米も慣れればおいしいものだ。だが、いい加減日本の米が食いたくなってきた。それだけだよ」
スペインが工業製品でも無く純粋に食料を格安で枢軸に提供しているだけ。カネを払うのなら大連合や協商にも売るよ!
と言う態度をとり続け、工業製品が一つも含まれていないことをアメリカ大使やソ連大使に開けっぴろげに公開しているが故に
人道的な見地から『食料輸出をする野蛮な戦争国家!』などと言って仕掛ける事も出来ない大連合はフラストレーションが溜まっている。
だが、それはそれとして、今やスペインは枢軸、大連合、協商という世界の三大陣営それぞれの苛烈な諜報合戦、外交交渉の場として
機能し、その国家的立場を世界に確立しつつある。
そんなスペイン軍に救出されれば遠からずスペイン政府の手によって、本国へ送還されるとして、最前線の兵士たちには人気が高い。
イタリアのパシリももう疲れた。艦隊は消耗しすぎている。この上激戦が続くとなれば、もうその道を選ぶ方がいいかもしれない。

「だが、その前にやるべき事はやっておく。フランス艦隊を海の底に沈めてやろう。これが我々の最後の仕事と思うべきだ」
イタリア海軍のヴィットリオ・ヴェネト級(リトリオ)戦艦が見える。

「ジブラルタル航空要塞の主要な滑走路はドイツ軍によって破壊されました。まもなく航空優勢は完全に我々の手に落ちます」
「では、行こうか。リトリオの頭を我々が守ろう」

963: 名無しさん :2021/12/08(水) 02:12:33 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
―― 翌日、スペイン領カナリア諸島にて ――
それはボロボロの軍艦だった。浮いてるのが不思議なそれらはスペイン軍に曳航される形でフエルテベントゥラ島の港へ。
栄光と伝統の日章旗は下ろされ、これよりくず鉄としてスペインが解体することになっている。
もちろんスペインとしては貴重な資材にするつもりである。何だったら新たなスペイン軍艦船にするつもりだ。

救助されたり、元々船に乗っていた日本軍人たちが下ろされていく。
島が抱え込める人口の問題から、カナリア諸島の各地に徐々に人々が分散されていく。

「せっかくだし、地質調査の一つでもしてみるかな……」
海軍人とは基本的にはインテリだ。そういう新しい趣味を見つける人間も現れる。帰るそのときまで。
この記録は日の目を見ることはほぼ無い……ハズだった。

964: 名無しさん :2021/12/08(水) 02:17:10 HOST:167017014222.ppp-oct.au-hikari.ne.jp
本日はこれで終わります。明日、この話は終わって、土曜あたりに設定開示といった感じ

在りし日の自分が思ったことは改めて狂気とわくわく感に満ちていると感じてる今日この頃
とある日『……第2次世界大戦って、2回目の世界の大戦争ってあんのに、世界の半分も焼いてないな。もっと地球を焼こうぜ』

行き着いたのが枢軸諸国の国力を拡充させた上で、米ソに蹂躙させる末期戦
ちなみにこの構図を成立させるためのちょこちょことした歴史改編作業が一番時間かかってるような……

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最終更新:2021年12月14日 09:14