800: 弥次郎 :2021/12/19(日) 18:18:40 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

憂鬱SRW GATE 自衛隊(ry編SS「訪問者たち」



  • 現地時間 2011年1月某日 平成世界 日本列島 九州 長崎県佐世保市上空



 無遠慮なティルトローター機のプロペラの回転音が、空気を揺らす。
 それは、静寂と特殊な霧の満ちる空に響いていた。

 日本国の九州という、東京から遠く離れながらも、しかし一つの巨大都市として成長してきた佐世保にはふさわしくない静寂。
いや、むしろありえないというべきであろう。新年を迎え、新たな年を迎えて人々が動き出すことで多くのエネルギーが生まれるのだ。
そして、それは空間を満たし、目には見えなくとも活気という形で感じ取れるものであったはずなのだ。

 しかして、佐世保を満たすのはそんなものとはかけ離れた静寂。
 そして混じるのは、人の温かさを持たぬ機械の動きと脈動のみ。
 人の気配は遠く、沈黙が満たされ、とどめに抑えようのない悲しみが支配している。
 C.E.世界のアフリカ大陸から転移してきた怪獣「龍虫」による、空前絶後の破壊の爪痕は、生々しく九州の地に刻まれているのであった。

 ほかにも、前述の通り普段の気候ではありえないような質と量の霧が佐世保周辺の上空には浮かんでいた。
 これは「龍虫」のまき散らした酸が空気中に未だに漂っており、それを中和するために人為的に発生させているものだ。
最大で上空数千メートルまで飛び散った強力な酸は、降雨やその他環境の変化によって地上を襲う。
雨で希釈されようとも、元々が強力すぎる酸だ。だからこそ、こうして中和するための霧を発生させ、浮かべている。
復興に先駆けて開始されたこの飛散した酸の中和作業は2か月が過ぎているが、一向に油断を許さぬ状況で、今も続けられていた。

 そして、ティルトローター機はその霧を抜け、佐世保市街地へ突入する。
 いや、そこは佐世保市街地だった場所、というべきであろう。
 ティルトローター機のパイロットがとらえたのは、原形をとどめないほどに破壊され、酸で虫食いにされ、酸により溶かされた市街だったモノだったのだから。

 倒れ、おもちゃの積み木のように折り重なる高層ビル。
 飛び散った酸により食い破られて穴だらけとなった道路。
 形を失い、瓦礫ともはや見わけもつかない家屋。
 そこには、人の熱も、文明も、ましてや命などというものはなかった。
 ひたすらなまでに「無」があったのだ。







  • 長崎県佐世保市郊外 第23物資集積所 ヘリポートNo.3


 ヘリポートというにはいささか広すぎる、そして、ティルトローター機が抱えてきた物資コンテナを捌く設備が整うそこは、作業員が控えていた。
彼らは重装備だ。九州であるとはいえ、季節的には冬。気温が下がり、乾燥し、活動するには少々不都合な状況だからである。
加えて、未だに漂う酸を吸わないように、顔をすっぽりとマスクで覆い隠し、背中に背負うフィルターを通過した安全な空気を吸っていた。
 作業員たちだけでなく、ヘリポートの誘導員たちも同様だ。C.E.世界から来たにしても、平成世界の人間であるにしても、その手の装備は欠かせない。
何しろ、危険であるという警告を無視して高濃度の酸が漂う地域に飛び込んで行った人間たちが、そのまま血を吹き出して死んだこともあったのだから。

 ちなみにだが、それ以来そういった現場に対してマスメディアの人間が飛び込んで行くことはばったりと消えることになった。
彼らはそういった危険があると警告され、止められたにもかかわらず忍び込み、そして無惨な死を遂げたことをここに記しておく。
ついでに、危険地帯に自ら赴いて被害に遭ったことを棚に上げ、地球連合や政府を攻撃…もとい口撃したことも。

801: 弥次郎 :2021/12/19(日) 18:19:22 HOST:softbank126066071234.bbtec.net


 閑話休題。
 ヘリポートへと着地したティルトローター機は腹に抱えていたコンテナをヘリポートに敷かれたレールの上へとゆっくりと下ろす。
そこには自走式のパレットが控えており、そこにがっちりと機械的に固定され、そのまま伸びているレールを走って物資集積所へと向かう。
全てはオートメーション化され、人を介するよりも手早く、そして安全に行えるように整備されていた。
それは、このNo.3だけでなく、併設されたいくつものヘリポートでも行われている光景であった。
格納庫から吐き出され、集積所に収められていく物資の量は多い。何しろ、生存者たちの食料や生存に必要な物資が膨大な量に及ぶからだ。

 だが、そんな潤沢な物資や優れた物資集積システムがあっても、その場にいる人間たちの表情は明るくない。
 無理もないことだ。この地で起きた惨劇からまだ2か月余りしか警戒していないのだ。
死者・行方不明者・負傷者、さらに被害の全容や被害の総額などがどれほどに上ったのか、いまだにはっきりとわからないほどに。
何しろ、全て酸に呑み込まれてしまったのだから、過去の記録なども当てにできないままに復興に入らざるを得なかった。
一つ確かなことは、すでに安全が確保されている生存者以外の生存はほぼ絶望的である、ということだけだ。
既に相応の時間が経過してしまったこともそうであるが、初動の救助活動で酸による二次被害が発生したことにも由来している。
まともに被害地域に立ち入れるようになったのは、陸上自衛隊の化学防護車などを有する中央特殊武器防護隊がはるばる駆けつけてからであったのだ。
つまり、無事な生存者がいたとしても、食糧がなく、酸の満ちる世界において生存し続けることは困難であるがゆえに。

 そして、そこにあったのは、前述の通り「無」だったのだ。
 人の死体、壊れた建物などならばまだマシだっただろう。それ以上にショックだったのは「空白」であった。
 何もない。すべてが失われたまっさらな世界で、彼らにできたことは無事だった「モノ」を集めるくらいであったのである。
救助という形で来た人々の感情は、語るまでもないだろう。

 やがて、ヘリはすべての物資を下ろし終えた。
 格納庫(カーゴ)からはすべての物資が下ろされ、同時に運搬されてきたアンドロイドたちの引き渡しも完了した。
被災した地域の復興に向けた動きは、これより加速されていくであろう。

 だが、もう戻らないものは戻らないのだ。
 消え去ったのは人の命や資産など、そんな単純なものではない。
 生存圏というものを怪獣に蹂躙され、奪われたのだ。

「ここでは、俺たちは来訪者といったところか」
「ディックですか?すごい古典を読んでいるんですね…」
「ああ……ここは、もう人が生きる場所じゃないんだ」

 先輩にあたる作業員の言葉を、後輩の一人は否定できない。
 ここはもう、人ではなく百足の生活圏となりつつあるのだ。
 その主がすでに打倒されているから、たまたま人類が立ち入ることが許されいるだけにすぎない。

「2か月以上かかっても、まだ人には余る環境だ」
「でも、人は戻れますよね…?」
「そう信じたいところだな」

 自信はないな、と先輩作業員は言う。転移してきた百足自体は打倒された。
 だが、その体に付着していた微生物や菌類などは未だに生きていることだろう。
それらが駆除され、害がなくなるまでどれほどかかることか分かったものではない。
本当の意味で、百足の暴れた土地が人の手に戻るのはいつのことであろうか。
 それは、連合でさえも断言できない領域にある。分かることは、ここを帰る場所とする人々がおり、その為には動かねばならない、ということだった。

802: 弥次郎 :2021/12/19(日) 18:21:29 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
佐世保、まっこと広くなり申した…
佐世保だけじゃなく、福岡とかもそうなんですけどねぇ…
そして、2か月ちょっとしたら東日本だ…(白目

連合の支援が入るまでひと悶着あったことを追記しておきます。
現地の自衛隊の即応部隊が偵察に赴く → 濃厚な酸でお亡くなりに…
ヒャッハー!新鮮な悲劇だー!とマスゴミ吶喊 → 濃厚な(ry
マスゴミ、発狂
ここまで来てようやっと連合が準備を終えて突入

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最終更新:2023年09月07日 23:11