513: ホワイトベアー :2021/12/17(金) 21:23:09 HOST:163-139-167-186.tokyo.fdn.vectant.ne.jp
帝国の中たる議会や首相官邸、最高裁判所、さらに多くの中央省庁が集中する帝国の中枢、永田町。そのすぐ近くである赤坂の路上では帝国議会や最高裁判所などを目指す群衆と、それを阻止しようと多数の警備車や放水車、それに出動服を身に纏う自動人形達で阻止線を展開する機動隊の間で投石や火炎瓶、催涙弾が飛び交う激しい衝突がおきており、まるで戦場のような光景を呈していた。
『公道を占拠し、届け出のないデモ行為ならび暴動を行う君達に再度警告する。諸君らの行動は道路交通法ならび地方自治体法、治安維持法に反している。ただちに暴動を辞め、解散しなさい。繰り返す、ただちに暴動を辞め、解散しなさい』
「引っ込め、権力の操り人形ども!!」
機動隊側は拡声器を通して、学生たちに何度目かわからない警告が行われる。
しかし、その警告に学生たちが従うわけもなく、ある者は歩道から敷石を取り外し、それを武器として、また、あるものはどこから手に入れて来たのかわからない特殊火炎瓶を機動隊に投げつける。
「救護班、急げ!」
機動隊の掲げる防護盾に火炎瓶があたり、一体の自動人形が炎に飲まれ、火が全身に移る。
幸い、炎は別の自動人形が消火器を浴びせた事ですぐに消し止められたが、センサー類への被害がわからないので救護班を用いて後方に送らなければならない。
「ただの炎瓶じゃないよ!?」
「テロ対策の厳重な帝都にどうやって持ちこんだ!?公安や自ら隊、税関の連中は昼寝でもしてたの!!」
その威力は通常の火炎瓶とは比べ物にならず、機動隊員として護りを固める自動人形達すら驚愕させる。
「通常部隊は後退!! 車両を前面に出せ。放水車は暴徒に集中放水、投擲可能距離まで暴徒を近づけさせるな!!
射撃隊は全力で応射、催涙弾とゴム弾で奴らの行動力を削ぎ落とせ」
この部隊の指揮を取っていた機動隊隊員は、機動隊現場指揮車の上に立ち、拡声器を通して部隊に指揮を出す。彼の指示を受け、機動隊員達の前に出てきた警備車達は学生へ向けての集中放水を開始。その後ろに布陣を移した機動隊員達も催涙弾やゴム弾の水平射撃を強めていく。
こうした風景は赤坂に限られた風景では無かった。
帝国の中心たる東京都、特に東大などの大学や政治の中枢機関が多く置かれている東京市では、本来なら仕事や学校を終え、家に帰る人々で溢れかえる時間でありながら、東大に籠る同胞たちを少しでも助けようとする多くの若者たちが、怒声、怒号、悲鳴、罵声などが響き渡り、警察や帝国軍、戦闘警備隊で固められた新宿や市ヶ谷、永田町などの一部をのぞいて角材や火炎瓶で武装する学生達や横断幕やプラカードを掲げる学生たち、それを押さえつけようとする警察で溢れかえっており、各地で火炎瓶や投石、催涙弾、ゴム弾が飛び交い、ゲバ棒や警棒、トンファーでの殴り合う光景が繰り広げられていた。
やっかいなことに学生らは、過去の失敗から明確な組織やリーダー、作戦を持たず、それぞれの団体がスタンドアローン的に義憤の念と体制への憎悪の下に自身が最善だと思う方法で行動をしており、それゆえに無統制でありなが一見すると統制のとれた混乱が帝都東京を覆っていた。
「状況は?」
東京都知事である井ノ瀬尚樹が都庁の地下に整備された中央指揮室に入り、席に座る。
彼のいる都庁がある新宿中心部は、すでに都戦闘警備隊の即応部隊の1つである南機連が警備出動の名目で展開しており、騒乱激しい東京にあって、剣虎師団が展開している千代田区、第1機動連隊が守りを固める市谷台、IOPの子会社である民間軍事会社、GKMSCが治安維持の補助に当たっている八王子市西部などと共に数少ない平穏な場所となっていた。
「東大での学生の立て籠もり事件から現在までに発生した都内での暴動数は大小合わせて600以上、デモ数はこの倍にあたるとのことです。
これらの参加人数は推定ですが30万を超えているとの報告が上がっており、また、港、渋谷、文京、台東、墨田、中央、江東では大規模な暴動が発生。学生や極左集団らが使用する火炎瓶の被害でこれらの地域での火災が多数発生しているとの報告も・・・。また、未確認ではありますが銃器で武装した団体によるテロが羽田で発生したとの情報も入っております」
514: ホワイトベアー :2021/12/17(金) 21:23:39 HOST:163-139-167-186.tokyo.fdn.vectant.ne.jp
「都警はすでに全機動隊を投入して暴動への対応にあたっています。また、不足人員を補うために各警察署の人員も投入しているとのことですが、情報収集のために飛ばしている無人機やヘリからの情報では、これらの部隊は警察署周辺の警備で手一杯とのことです。都警本部は認めないでしょうが、すでに警察による事態の回復は不可能に近いかと」
先に中央指揮室に入り、情報の収集と指揮に当たっていた都安全保障局局長と戦闘警備隊幕僚長が間髪入れずにこれに答える。なお、本来であれば、いなければならない警視総監は千代田区の都警察本部におり、この場にはいない。
彼らからもたらされた情報は控えめに言っても最悪に近かった。なにせ東京市内では多くのデモが暴動に発展しており、機動隊は千代田区付近の死守で手一杯。その他の警察もその多くが警察署周辺の防衛に力をいれざるを得ず、実質的に警察は東京都内の治安維持能力を喪失していた。
「それで、政府の対応は?」
「国防総省と国家安全保障省、経済産業省、大蔵省は早急な治安出動を求めているようですが、警保局を中心に内務省が強固に反発、外務省と文部省もこれに賛同して治安出動の発令には今しばらく時間が掛かるとのことです」
この場にいる人間たちからは大なり小なりため息が出る。なにせ、この期に及んでまで、帝国の中央省庁はセクショナリズムを捨てきれずにおり、その性で彼ら彼女らは余計な苦労を負うことになるのだから。
「内務省はこの期に及んでまで縄張り争いが大事か・・・。連中め、護民官を気取るのやめちまえ!!」
知事は机に拳を叩き付けながら叫ぶ。
「国がダメなら俺たちが動くしかないが、もはや無能な警察には任せられん。幕僚長、都戦闘警備隊の状態は?」
「私の権限ですでに動員を完了。ご命令が下れば即座に動けます」
「よろしい。安全保障局局長、事務手続きの方は?」
「問題ありません。知事のご命令があればすぐにでも」
「議会の承認は得れてないし、公安委員会や都警からの要請も受けてはいない。だが、悠長にそれらを待っている訳にもいかん。東京都知事としてここに都内全域での非常事態宣言の布告を宣言する。あわせて、すでに都警察には事態収拾能力がないものとして、安全保障局ならび東京都戦闘警備隊に都内の治安回復のために治安出動を命じる。」
そういうと知事は横にいた補佐官から出された命令書にその場でサインをする。如何に列強最強の国家の首都であり、莫大な権限を認められている知事といっても、国に奉仕する義務と責務を負う公務員の1人でることには変わりない。いや、彼は命令1つで多くの人間に影響を与えることができる。そう言った意味ではただの公務員よりはるかに重い責任と責務を負っている。そうである以上、後に客観的に評価することができるようにする為にも、彼の命令の下に動きた人間たちに不要な責任を負わせない為にも、文書とサインがなければ、公的機関を動かすことはできないのだ。
「命令受託しました。」
安全保障局局長がそういい、室内にいた人間たちの動きもより慌ただしく、活発的になる。それは、知事も例外ではない。
「林副知事、ああ、私だ。すぐに内務省に連絡をとってくれ。それと記者会見の準備も頼む」
こうして、このバカ騒ぎを収めるために大人たちが動き出す。どれだけの苦難にあっても、決して諦めない鋼の精神をもった大人たちが。
515: ホワイトベアー :2021/12/17(金) 21:24:25 HOST:163-139-167-186.tokyo.fdn.vectant.ne.jp
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最終更新:2021年12月20日 13:41