243: 弥次郎 :2021/12/26(日) 12:08:05 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「天翔ける剣」3
新種のBETA「母艦(キャリアー)級」。
巨大なミミズを思わせる外観のそれは、突如として大地を割って出現した。
それこそ、大日本帝国が敷いていた富士防衛線の目の前やその内部、あるいは後方の、ほんの十数キロもない地点に現れた。
奇しくもそれは、ほぼ同時のタイミングで一斉に出現したのだ。その衝撃はとんでもないものだった、物理的にも、精神的にも。
未確認のBETA。それこそ、光線級以来の新種の出現。それも、直径が200m、長さは地表に出てきただけでも1㎞以上という超大型種。
更には出現しただけでは飽き足らず、その大きな口部から大量のBETAを、それこそ要塞級までも吐き出し始めたのだから堪ったものではない。
つまり、今まで備えが整っているとは言えない状態だったところに大量のBETAが出現、一瞬にして最前線となってしまったのである。
無論、戦術機もおり、抵抗が行われたのは確か。しかし、奇襲効果は抜群すぎた。致命傷となるほどに。
戦術機は、整備士が準備をして、衛士が乗り込み、システムの立ち上げを行い、そのうえでようやっと動き出せる。
つまり、例え存在していたとしても、動き出せる準備をしていなければあっけなく破壊されてしまうということである
人類の刃と言えども、鞘に収まっている状態では何ら意味がない、というわけだ。
そして、この攻撃は前線の衛士たちを支える後方-CP(コマンドポスト)や後詰の戦術機部隊や補給部隊などをまとめて叩き潰してしまった。
それは即ち、現代戦では必須である情報や補給の途絶を起こした部隊が前線に大量に発生したということになる。
こうなると、如何に現代の兵士と言えどもその能力を活かしきれなくなる。リアルタイムの情報がなければ有機的な判断は下せなくなるのだ。
判断だけではない。膨大な物資を消耗する現代戦および対BETA戦においては、補給の断絶は即ち死を意味する。
戦術機は、兵器だ。それも、燃料や推進剤などを大量に消費して稼働する機械。それらは無限大にあるわけではない。
そして、戦闘を継続した果てに待ち受けるのは、すなわち戦術機の停止---そして、生身で放り出されるという地獄だ。
絶対防衛線---相模原を起点とする相模・厚木最終防衛ラインに設置されたHQはこの突如の通信途絶に右往左往するしかなかった。
航空偵察が光線級により封じられている関係上、残るのは地上の通信によるデータリンクと、あとは衛星による光学観測のみ。
そして地上のデータリンクにしても前線と後方を中継する防衛ラインが一気に分断されて、そこから先は戦場の霧の中にあった。
加えて衛星による観測は生きてはいるが、それらは精度の問題もあって万能とはいいがたい。
よって、自分たちには前線の兵士たちに向け、最大出力で通信を行い、絶望的な撤退戦を指示するしかないのだ。
これによって部隊とまではいかなくとも前線将兵が助かる可能性はある。
だが、それは果てしなく絶望的だ。
何しろ、これまで戦闘を行っていた部隊が戦線を放棄し、富士防衛ラインに沸いたBETAの群れを飛び越えてくるなど、とてもではないが難しい。
第一、そんな長距離の撤退など万全の状態であっても難しいことだ。まして、BETAの妨害があることを考えれば難易度は跳ね上がる。
万事休す。
そんな諦めが相模最終防衛ラインのHQに満ちた時、通信回線がつながる。
それは、この最終防衛ラインよりもさらに後方、今もなお撤退が急がれている帝都東京からであった。
どんな叱責が飛んでくるのか。憂鬱なままに司令官はその通信を受けることにした。
だが、その内容は司令官をして予想外のものであった。
244: 弥次郎 :2021/12/26(日) 12:08:43 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
- C.E.世界 融合惑星 β世界 日本列島 旧神奈川県西部 富士防衛ライン
未確認大型BETAとの会敵、そして交戦。
それまでの戦闘で疲労した状態であったとしても、迅速かつ冷静にそのBETAへの対処を選ぶことができたのはひとえに彼女らが精鋭であったからであろう。
少なくともパニックを起こして戦闘さえもできなくなるといった、そんな状態に陥ることはなかったのだ。
しかし、パニックに陥らなかったからと言って、状況が好転するわけでもなかったのも確かである。
「撃て!怯むな!」
「FOX2!FOX2!」
「化け物がぁぁぁ!」
即座に散開した状態から、飛び出してきた未確認大型種-母艦級目掛け、火力を投射していく。
だが、それらは悉くが弾かれた。
「効いていない…!?」
「外皮で弾かれています!」
その通りであった。ホワイトファングスに限ったことではないが、この突如として現れた母艦級に対処できなかった理由がその防御力だった。
つまり、戦術機がもちうる火力では到底歯が立たないほどの固い外皮による防御力が圧倒的な武器となったと言えるのだ。
そして、そうしている間に母艦級は腹に抱えていた大量のBETAを順次吐き出していく。
そこには突撃級や要撃級、戦車級といった中小型だけではなく、後方にいるはずの要塞級や光線級・重光線級といったBETAが含まれていたのだ。
「隊長、光線級が……!」
「くっ……各機、光線級を優先して排除だ!」
唯衣はとっさにそれを伝達するだけで手一杯であった。
比較的距離が近いとはいえ、この遮蔽物もほとんどない戦場において光線級が出現したことは余りにも危険すぎた。
地形やほかのBETAによる遮蔽が望めないならば、次の瞬間に光線級のレーザーで貫かれる可能性は十分にありうる。
唯衣はとっさに背部の74式可動兵装担架システムも合わせて射撃を放つ。標的はもちろん光線級だ。
これだけBETAの数が飽和している状況では発見も容易ではないが、ともかく排除しないことには安全は確保できない。
そして、同時並行で押し寄せてくる戦車級や要撃級も撃ち抜いていく。
(数が、多すぎる……!)
だが、フォーメーションによる相互援助などがないこともあるが、BETAの絶対数の多さにこちらの火力が追い付けていないのだ。
未確認大型種が吐き出した分もあるが、割れた地面から次から次へとBETAが湧いて出てきている。
それは即ち、戦術機の火力では押しとどめられないほどの量のBETAによる包囲網が構築されつつあるということ。
「くっ……!」
捌ききれなくなったためか、足元にまでわらわらと戦車級が群がってくる。
やむなく跳躍ユニットを噴射、低空飛行で距離と高度をとる。
幸いにして飛行能力のあるBETAというのは今のところ存在しない。飛びすぎれば光線級が恐ろしいが、一先ずの危機は脱した。
「各員、一時後退だ!」
「了解!」
「了……!?しまった、とりつかれた!?」
見れば、僚機の一機である不知火の背中に複数の戦車級が取り付いていた。
こうなると、非常にまずい。長刀や突撃砲でははがしてやれないのだ。いずれも、威力が高すぎるがゆえに。
こういう時はマニュピレーターを使うか、あるいは短刀を使うのが定石。しかしそれでは間に合いそうにない。
どちらを使うにしても、持ち替えをする必要があり、それだけで時間がかかるのだ。その間に戦車級の口が戦術機の装甲を食い破ってしまう。
そうなれば、中の衛士はそのまま食われるしかない。懐に、それこそ超至近距離においてはBETAに弱いのだ。
245: 弥次郎 :2021/12/26(日) 12:09:39 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
ふと、頭の中にいやな記憶がよみがえる。
京都防衛線で、戦術機の中で、食われて死んでしまった戦友の姿が---
(……ッ!)
それを振り切るように、唯衣は叫ぶ。
「雨宮ー!」
「了解!」
雨宮はすぐに言わんとすることを察したのか、短刀を引き抜いて接近、排除に取り掛かった。
そしてすぐさま雨宮の抜けた穴に自分が飛び込んだ。
雨宮の不知火を追従する要撃級を長刀で切り裂き、さらに迫る要撃級の群れに120㎜砲弾を連続で撃ち込み---
(弾切れ…!)
見れば、36㎜チェーンガンも弾切れ寸前。
果たしてリロードは間に合うか。だが、そんな悠長な時間が過ぎるまで次のBETAは待ってくれない。
刹那の判断。そして、唯衣は選んだ。
武御雷のマニュピレーターから投棄される突撃砲。ガンマウントに予備が二丁あるが、それらは身を守るために使っている最中。
故にこそ、マニュピレーターで持つこれを捨ててしまうことは、すなわち身を守る手段を一つ失うことになる。
(それでも……!)
それでも目の前の死は回避しなくてはならない。
突撃砲を放棄すると、すぐさま次の武器を、00式近接戦闘用短刀を腕部から展開させる。
この武御雷の近接戦闘能力は、不知火をさらに強化したものだ。なればこそ、この距離であるならば---!
「負けない」
リーチの短さを速度と瞬発力で補い、武御雷の刃は刹那の間で要撃級を切り裂いた。
そうしている間に、雨宮は戦車級の排除に成功したようであった。
だが、それは局所的な、限定的な勝利にすぎない。
「隊長、もはや限界です!」
「わかっている、全機、撤退!」
もはや、BETAの群れは対処しきれないレベルだ。ならば、今度こそ離脱するしかない。
ないよりはましの対レーザースモークを投射。そして、可能な限りの全力で離脱していく。
幸いにして、未確認大型種との遭遇後の戦闘で脱落した人員はいなかった。
あとはこのまま、光線級が出てくる前に稜線の陰に隠れるだけである。
(防衛ラインまで撤退できるか……?)
逃げ切る態勢に入ったところで唯衣の心配事はそれであった。
かなりの時間の戦闘を行ったことで、燃料や推進剤などはだいぶ消耗している。武器や弾薬についてもそうだ。
このまま無事に逃げ切れる保証などどこにもないのだ。BETAの群れと鉢合わせする可能性もある。
それについては可能な限り回避するつもりであるが、かといってその時に備えた保険は欲しいところだ。
最悪、いずれかの機体を放棄し、衛士だけを搭乗させ、武器を集めるという選択もしなくてはならないかもしれない。
その時にはできるだけ余力の大きい機体を選抜するしかないだろう。
(この武御雷は持ち帰りたいところだが……やむを得ない、か)
高級機故に生産コストが高く、生産数にも限りのある武御雷。
今は一機でも戦力が欲しい状況だ。だからこそ、この機体を後のためにも持ち帰って役立てたいところである。
だが、現状においては他の隊員たちの命には代えられないものでもある。
荒い息をコクピットブロックでつきながらも、唯衣は何とか思考を巡らせる。
(ともかく、今は離脱を第一義にしなくてはならない)
未確認大型種の情報は是が非でも持ち帰らねばならないというのは、ホワイトファングスに共通していた。
新種のBETAがいきなり現れた経緯は不明だ。しかし、それを置いておくとしてもその能力や性質についての情報は確実に伝える必要がある。
大規模な地下侵攻。BETAを運搬するBETA。それこそ、対処の難しい大群と共に押し寄せてくるというのは脅威だ。
246: 弥次郎 :2021/12/26(日) 12:10:37 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
それに加えて、36㎜はもちろんのこと、120㎜がまるで通用しないことも脅威であった。
あの場では離脱を選んだために確かめることはできなかったが、おそらくだが近接長刀などでも歯が立たない可能性もある。
この苦境にあって更なる脅威が出てきたのはまずいことだ。だが、情報があれば対策は打てる。そう確信した。
(……よし)
そのせいだろうか。先頭から離脱できたからという油断がそれを見逃したのだろうか。
それとも、逃れたはずの「死」が、逃がすまいと追いすがってきたのか。
絶望は、地面の揺れとともに現れた。
「異常音源を確認……近いです!」
「なに!?」
同時になるアラートは、確かに異常な音源が近づいていることを、それもかなり近い距離にいることを示した。
音源のデータを照らし合わせれば、先ほどの未確認大型種のそれと極めて酷似していた。
追いつかれた?いや、そうではないだろう。あれが新種だというならば、それがほかにいてもおかしくはない。
ならばすぐ様に対応しなくては。そう考えたところで---世界が一気に絶望に染まる。
「ッ!?うああああ!」
「なんだと!」
「きゃああああ!?」
地面から、再び未確認大型種が進路上に飛び出してきた。
一直線に、巨大な大樹のようにまっすぐ伸びて、こちらに向かってその巨体をもたげた。
ホワイトファングスの戦術機は危うく速度のままに突っ込んでしまうところであったが、それをぎりぎりのところで回避した。
「戦闘は避ける!振り切るぞ!」
地面の割れ目から水のように湧きだしてくるBETAを飛び越えつつ、ホワイトファングスは逃げを打つ。
まともに相手にできないのは分かり切っている。もはや戦闘継続能力は底をつきかけているのだし、衛士たちの体力も限界に近い。
部隊を率いる唯衣でさえも、それは例外ではなかった。新種との遭遇や連戦はショックが大きすぎた。
だが、その母艦級とそれに追従する群れを回避したつけは、ついに回ってきた。
「隊長、後方に光線級が……!」
「なに!?」
その声の直後に、レーザー照射警告が鳴る。
光線級が本格的な照射を行う前の、事前の照射を検知したのだ。
しまった、と唯衣は歯噛みする。交戦を避けるためにルートを変更したのだが、その結果、光線級の射線に姿を晒してしまったのか、と。
だが、後悔しても始まらない。何とか回避しなくてはと思うのだが、遮蔽物がない。
そして、レーザーの発射から着弾まではほんの一瞬。どうする、どうする、どうする---
(まずい……!)
ついに自分の武御雷まで光線級によって照準が合わされ、レーザー照射されたことを知らせるフリップが立ち上がる。
今の戦場の重金属雲濃度はとてもではないが期待できるレベルにはない。
そして、対レーザースモークについてももはや底をついている。
発射されてから回避を行えるはずもない。
つまり---
(あ……死……)
万事休す。やたらと、世界がゆっくりに見える。
次の瞬間には、自分の体が戦術機ごとレーザーに貫かれるだろうというのが、なんとなくわかる。
走る走馬燈を呆然と眺め、そして死を覚悟した時。
それは、現れた。
247: 弥次郎 :2021/12/26(日) 12:11:15 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
「!?」
後方を映していた画面に信じがたいものが映った。
こちらを捉えていた光線級の群れが、消え失せたのだ。
しかも、それは膨大な光の瀑布によって飲み込まれることによってであった。
(誤射……!?いや、そんなはずは……)
それは唯衣の知っている限りでは光線級の放つレーザーに酷似していた。
しかし、光線級は決して誤射をしないとされている。それこそ、混戦状態においてもこちらだけを正確に打ち抜いてくるほどに。
それでも、目に見えたのはそれだった。レーザー光線のような、まばゆい光だった。
立ち止まり、振り返ってメインカメラで直接捉えてみれば、それだけで納まるものではなかった。
「BETAが……消えていく……!」
そう。光は膨大な量落ちてきたのだ。
地上を這うように迫るBETAを一匹たりとも逃がすまいという、強い意志をもって光が降り注ぎ、的確に潰していくのだ。
光線級も、要塞級も、突撃級も、要撃級も、それ以下の小型種も。光によって貫かれるか、あるいはその光の熱量によって次々と蒸発していく。
地面ごと吹き飛ばすような絶大な威力。着弾のたびに地面が揺れ、土くれが舞い、破壊が生じる。
「一体、どこから?」
「BETAじゃない……?まさか、味方が……?」
誰もが、その後継に思わず足を止めた。
それは本来ならば自殺行為もいいところであろう。
だが、なぜだかそうしても良いという安心感に包まれていた。
「すごい……」
そうして落ち着いて見回すと、その光線の恐ろしさが改めてわかる。
中型以上のBETAを余すところなく、次々と屠っていくのだ。上から打ち下ろし、動くBETAさえも逃すことなく。
(上……?)
そこまで考えて、ふと疑問が浮かぶ。上から光線が降ってくるということは、空を飛んでいるということなのかと。
そこで、上空を見上げる。光線級により、人類が奪われた空を。どうしても見上げることのなかった、高い空を。
「なに……あれ……」
そして、見た。それを。
光を纏い、下界を見下ろす存在を。
その背に生えた翼から、次々と光を放ち、地上を這いずるBETAを消し飛ばす理外のモノを。
手を伸ばしても決して届かぬ、天上の存在を。
全てを焼き尽くす、圧倒的な力の体現者を。
「あ……あ……」
それは何というべきだろうか。
希望でもあった。
死にかけた自分たちを救った、救い主であった。
それ以上に、恐ろしい存在だった。
(……)
ぽかんと見上げる先、その人の形をしたモノは、こちらに目を向けた。
空中に静止し、悠然と振舞う姿は、超常的な存在に見えた。
飽きることなく、そして、それしか知らないかのように、唯衣達はそれを見上げ続けた。
248: 弥次郎 :2021/12/26(日) 12:11:52 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
神代において、神とはすなわち力のことであった。
最終更新:2025年08月23日 15:01