283: 弥次郎 :2021/12/26(日) 19:21:18 HOST:softbank126066071234.bbtec.net


憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「天翔ける剣」4


  • C.E.世界 融合惑星 β世界 日本列島 旧神奈川県西部 富士防衛ライン 上空



 トヨアシハラから発進してから、レイヴン達は少数グループで、リンクスたちは単独もしくはペアで散開して各方面へと散った。
防衛範囲が広いことやACを操る彼らの戦闘能力の高さを活かしきるには、下手に群れさせるよりも個人の技量に任せた方がより効率的であるのだ。
無論のこと、CPやHQとの連携や適宜必要な補給などを行う必要があるのも確かである。
 だが、それを差し引きしてもなおということである。

(……改めてみると酷いな、これは)

 OBを起動して巡行速度で飛ぶタケミカヅチは、眼下の光景に嘆息するしかない。
 木々がすべてへし折られ、大地が均され、存在していたであろう建造物も何もかもが消え去っているのだ。
そして大地の色はおぞましいものに染められており、最早生命の気配がない、全くの空白地帯となっているのだ。
 侵略者というよりは資源回収システムといった方が正しいBETAの活動の結果といえば、ある意味では順当だ。
あらゆる資源を回収し、ハイヴという集積所を経て宇宙に打ち上げるための自立システムにしてみれば、人間の営みや自然など邪魔でしかない。
いや、人間という生物を生物として認識せず、災害としかとらえていないのだったか。
 まあ、概して侵略者などというのはそういうものだ。だが、そんな無法を振りかざしてくるならば力で抗うだけ、そういうことである。

『まもなく作戦エリアです』
「了解」
『目標は作戦エリア内の全BETAの撃滅、および展開している帝国軍の援護及び回収となります。
 排除したBETAの数と種に合わせて報酬は出来高払い。また、救助した戦術機の数だけ報酬にはボーナスが付きます』
「稼ぎ時ってところかな……回収機の要請は何時もの通りで?」
『はい、救助用チャンネルにお願いします』

 オペレーターの声に応答しつつ、改めて機体の状態をチェック。
 出来高払いというからには、可能な限り稼ぎたいところだ。
 それに、ブリーフィングで確認した限りではかなり帝国軍は不利な状況に置かれている。
 というか、基本的にマブラヴ世界においては人類側が不利で、常に劣勢であるのが常なのであるが。

『……追加情報です、タケミカヅチ』
「どうした?」
『前線に新型のBETAが確認されました。地中から巨大なミミズのような個体が現れ、大量の個体を吐き出し始めたと』
「……地中から現れて、母艦みたいに吐き出し始めたか」
『そのようです』

 母艦級か、とタケミカヅチはあたりをつける。
 桜花作戦時に確認され、のちに母艦級と命名された大型種。
 実際のところはBETAの地下資源採掘において、BETAの運搬や大深度地下の採掘を担当する種であり、別に新種というわけでもない。
光線級のように人類という災害に対処するためというよりは、資源採掘用の個体をそのまま災害対処に投入したという形なのだろう。
 だが、原作を考えればこの時系列の段階で母艦級が大々的に姿を現すなど早すぎる。
 この融合惑星に転移してきたことによって、何らかのバタフライエフィクトが発生したのだろうか。
 ともあれ、やることは一つだ。

「了解した。優先目標として排除する。出現地点のマッピングを頼む」
『承りました』

 いずれにせよ、BETAは一匹でも多く排除して、帝国軍を救援しなくてはならないのだから。
 瞬きを一つ。望遠機能で遠方を見やれば、果たして地面から母艦級が湧いて出てきたのが確認された。
 そして、その直近では必死に射撃を放つ戦術機達の姿が見える。

(効くわけないな、あの程度の射撃だと……)

 又聞きだが、外皮の硬さは戦艦の艦砲射撃でようやくというレベルらしいので、戦術機ではどうにもならないだろう。

「戦闘に入る。支援は任せた」
『はい』

 そして、戦場にタケミカヅチは飛び込んで行った。

284: 弥次郎 :2021/12/26(日) 19:22:08 HOST:softbank126066071234.bbtec.net


 音速を軽く超えていると、もはや世界は半ばスローモーションに見える。相対速度の差、という奴である。
 そして、ネクストはAMSによるダイレクト・マンマシーンインターフェイスで考えた通りの動きが可能だ。
 つまり、何が言いたいかといえば、自分だけが止まった世界で自由にできる、を疑似体験可能なのだ。

(母艦級に集中しすぎだな……)

 必死に抵抗している戦術機達だが、その視線は母艦級に釘づけにされている。
 そうしている間に、周囲にはほかのBETAが接近してきて、いつの間にか包囲されているというのに。
 いわゆる戦場でのトリガーハッピー、あるいはバッドトリップに陥っている可能性が考えられた。
メタ的な知識として「薬物投与」と「後催眠暗示」というものにより促成兵士の判断能力が時として欠如するというのを知っている。
それこそ、訓練中の衛士が統合失調症となって傷痍退役という笑えない状態が発生するほどに、枚数を生み出すために無茶をしているのだ。

(まあ、助けてやりますか)

 彼我の距離は1㎞以上。相手はまだこちらに気が付いていない。
 だが、目の前で死なれるなど気分がよろしくない。

(さて……)

 フツノミタマはメインウェポンであるソードライフルを構える。
 まずは要塞級だ。接近されては困るので、とりあえず弾丸を脚部めがけて撃ち込む。
 そして打った弾丸をQBの連発によって追い越しながらも、ソードライフルをソードモードに切り替え、要塞級の頭部を正面から切り裂いてやる。
そうして通り過ぎた後には、すでに要塞級はその機能を喪失していた。動こうにも足もなく、致命傷を負っている。

(まずは一つ……)

 続けざまに、周辺にいるBETAの中型クラスの個体の群れにもう片方のライフルから弾丸を順次叩き込む。
彼我の速度差や距離などからして、とりあえず命中することはほぼ確定だ。
 命中を確認するよりも先に、次の要塞級に取り掛かる。今度は懐まで一瞬で飛び込み、回転切りだ。
 脚部に仕込んだブレードも含めた4つの剣による舞は、刹那の間に要塞級をバラバラに解体してしまった。
 その肉片が地面に落ちるころには、すでにフツノミタマは次の標的の要塞級に躍りかかっていた。

『な、なんだ!?』
『レーダーに反応はなかったのに……!?』
『な、BETAが死んだ!?』

 そこでようやく戦術機達は周囲で起こった異変に気が付いたようだった。
 BETAがいきなり周囲ではじけ飛ぶようにして撃破され、知らぬ間に陥っていた危機から逃れたことを。
 さらには、音を遥かに超える速度で自分たちの周囲を何かが飛んでいることも。
 だが、それに一々反応するのも惜しい。だから、タケミカヅチは動きを止めない。

「喰らえ……」

 ばらまくようにライフルを次々と発泡。精密に制御されたそれは、適当に撃っているように見えて実に的確に放たれていた。
元々の威力もあり、次々とBETAの急所を貫通。一撃で死骸へと変換してしまった。これで後の問題は戦車級くらいだが、それくらいは自分で対処してもらおう。
 それよりも重要なのは、目の前の母艦級だ。これがいると、内部から次々とBETAが湧いてきて面倒なことになる。
ただ、この巨体故にとどめを一瞬で刺すのはライフルなどでは苦労することになる。
 だから、というように、背部の大型武装が立ち上がる。
 本来ならば大多数の敵機を一網打尽にする火力がただ一つの個体に向けられる。その巨体はまだ一部しか地上に出てきていないが、全容は予測できる。

「そら」

 軽い言葉と共に、ホーミングレーザーが突き刺さっていく。
 圧倒的な熱量を伴うそれが一気に突き刺さり、母艦級の硬い外皮を貫通。誘導されるままに内部を食い破り、内部の個体もろとも焼き尽くした。
 戦術機達からすれば、とんでもない光景であったことだろう。あれほど火力を撃ち込んでも効かなかった相手が光で貫かれ、一瞬で死んでしまったのだから。

285: 弥次郎 :2021/12/26(日) 19:23:06 HOST:softbank126066071234.bbtec.net


「やりすぎたか……?」

 だが、文字通り火を噴いてぶっ倒れる母艦級に、やりすぎたかとタケミカヅチは思う。
 念のためにと打ち込んでみたが、予想外に相手が弱かったようだ。知らず知らずのうちに、BETAを過大評価しすぎてしまっただろうか?
他の異星人や侵略者が強すぎたので、ここまで程度の低い相手となると過剰火力になってしまったのか。
 まあ、それはそれで構わないか、とタケミカヅチは一人ごちると、そのレーザーキャノンを次の標的へと向ける。
即ち、全方位にいるBETAの群れ目掛け、大型から中型までをまとめてロックオンしていくのだ。

「喰らえ」

 そして、ホーミングレーザーキャノンから華が開いた。
 それは強力なレーザー光によって構成され、四方八方へと、立体的に投射されていく。
 BETAの大小を問わず、全てを平等に焼き尽くすそれは、幻想的とすら呼べるものであった。

『周囲のBETAの反応、ほぼ消失しました』
「……よし、ここは完了かな」

 予想以上にBETAが弱い、というかこちらが強すぎるということを頭に入れておかないとな、と思いつつも周辺の状況を確認。
 そして、そのうえで通信回線を開いた。

「聞こえるか、そこの戦術機」
『な、な、な……!?』
『何者だ貴様!』

 なんと勇敢にも武器を向けてきた。
 ぶっちゃけ、36㎜と120㎜など怖くないのだが、なんとも勇敢なことだ。
 いや、どちらかといえば混乱しているというべきか。

「帝国から依頼を受けた地球連合の戦力だ。諸君らの救援に来た」
『救援、だと……!』
『地球連合など聞いたこともないぞ、何者だ!』
(仮にも命の恩人にあまりな態度だな……)

 戦場でのコンバットハイがあるにしても、些か血の気が多すぎやしないか、とタケミカヅチは思う。
 まあ、相手はそういう状態だ、と割り切って接するしかない。相手の納得まで付き合うなど時間がもったいない。
それにこの様子では、自分たちが包囲されて死の危険が迫っていたことを認識できていないようであるのだし。

「ともかく、救援だというのは事実だ。実際、諸君らは敵中で孤立していたのだからな。
 悪いことは言わん、すぐに後退したほうがいい」
『な、なんだと……』
「すでに諸君ら帝国軍にも斯衛軍にも後退命令が出ている。殿は我々が受け持つ」
『馬鹿にするな、帝国は我らが守るものであるぞ……!』

 一機の戦術機が、不知火がすごんできた。が、向けられる殺意も武器も全く怖くもない。むしろかわいいほどだ。
 そうか、と返答しつつ、ちょうどよく表れた母艦級目掛けてレーザーを撃ち込んで一瞬で穴だらけにして見せる。
 その後継に呆然としている帝国軍の衛士たちに、タケミカヅチは問いかける。

「で、諸君らはアレを倒せると?先ほどまであれほど苦戦していたようだが?
 あれはまだまだ出てくるぞ。それに加えてすでに前線が崩壊している状態であるのだから、大人しく後退したほうがいいぞ」
『くっ……侮辱するか、貴様!』
「事実だろう?」

 話にならんな、とオペレーターを通じて回収機を要請する。煽りすぎ、と注意を受けたが、喧嘩腰になったのは相手が先、と言い返しておく。

「ともあれ、これは正式な命令だ。中継してやるからHQに確認するといい。
 ちなみにだが、富士防衛ラインはすでに崩壊しているぞ」
『馬鹿な……!』
『嘘を言うな!』

 その叫びは、悲痛さで満ちていた。
 無理もない。信じたくもない内容であるのだから。
 だが、それは純然たる事実だ。弁護の余地もなく、まぎれもなく確認されていることだ。

286: 弥次郎 :2021/12/26(日) 19:25:00 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

 やがて、小隊長と思しき不知火の衛士と通信が繋がる。

『こちら帝国陸軍所属ロング小隊の小隊長を預かる境江祐樹中尉だ。
 先ほど貴官が言った内容に偽りはないのか?』
「その通り。富士防衛ラインは先ほどの新種BETAの集中攻撃を受け、崩壊している。
 故に、富士防衛ラインより以西の部隊は事実上孤立、そしてBETAによる包囲を受けている。その救援が地球連合に依頼された」
『小隊長……』

 そして、もう一機の不知火が通信に入ってきた。

『先ほど、富士防衛ラインのCPではなく、最終防衛ラインのHQと通信したところ、確認が取れました。
 富士防衛ラインは崩壊。後方に大量のBETAが地下侵攻したことによるものだそうです。
 我々は、包囲されて孤立していると……!』
「言った通りだろう。時機に地球連合の回収機がここに来る。無理をせずに後方に下がるといい」

 その言葉が飲み込まれ、浸透するまでしばし時間を要したが、境江は頷きを作った。

『……相分かった。ではロング小隊はこれより地球連合の回収機により撤収する』
『小隊長!』
『進言を許可した覚えはないぞ、井吹少尉。遺憾ではあるが、我々にこれ以上の戦闘は難しい』
『ですが……!』
『これは命令だ!』
『……ッ!……了、解しました』

 面倒だな、としつこく絡んでいた井吹少尉とやらを見る。まあ、感情の問題だからしょうがないかとタケミカヅチは無視を決めた。

「では、他の部隊の救援に向かう。また機会があれば会おう」
『ロング小隊を代表して感謝する。あー……今更だが、貴官の名前と所属を知りたい』
「ああ、そうだったな……」

 そういえば名乗っていなかった。ちょっと急いでいたとはいえ、礼を失していたか。

「大洋連合の企業「ムラクモ・ミレニアム」所属の傭兵タケミカヅチだ。
 大洋連合軍に出向するにあたり少佐を拝命している」
『傭兵…企業…?まあ、いいか……繰り返しになるが、感謝申し上げるタケミカヅチ少佐殿。
 それに、部下が失礼をした。どうか許していただけないだろうか?』
「構わない。こちらも急ぎで礼儀を飛ばしていたことは事実だ」
『武運長久をお祈りいたします』
「そちらもな、境江中尉」

 そして、今度こそタケミカヅチは戦場から飛び去る。
 OBを起動し、音速を超えた世界へと飛び込んで行ったのだ。
 あとに残されたロング小隊は、嵐のように駆け抜けていったその姿を見送ることしかできなかった。

『タケミカヅチ……戦術機と同じ名前、か』
『あの傭兵……不敬ですよ、武神の名前を名乗るなんて』

 井吹は未だに不服気であったが、そう名乗ってもおかしくないと境江は思う。
 何しろ、戦術機のセンサーで感知できる範囲のBETAがほぼ存在しないのだ。
 文字通りの意味で、全滅させてしまったのである。新種のBETAを一瞬で殺しつくし、要塞級さえもバラバラにしてしまうなど、味方であっても恐ろしい。
 要塞級に対する対応メソッドは複数の戦術機が連携して120㎜を撃ち込むというもの。そして、それでさえも犠牲は避けえないというのが実情だ。
そんな戦術機にとっては強敵である要塞級を、あろうことか単独でバラバラにしてしまえる能力と機体の能力は、とびぬけているとしか言えない。

(なるほど……まさしく、武神か)

 遠くに回収機と思しき機影を確認しながらも、境江はそのように一人呟いた。
 あれほどの力が友軍であって、本当に幸運だったのだと、そう思えるのだ。

287: 弥次郎 :2021/12/26(日) 19:25:42 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
いよいよ次回、唯衣姫たちと合流ですねぇ
そこでこのSSは区切りとする予定です。
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最終更新:2025年08月23日 15:04