414: 弥次郎 :2022/01/08(土) 00:24:52 HOST:softbank126066071234.bbtec.net


憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「救いの舞い降りたのちに」


  • C.E.世界 融合惑星 β世界 日本列島 富士山上空


 企業連合の傭兵たち、そして地球連合正規軍の進撃に伴い最前線が西に進むのとは対照的に、空路で東に向かう一団が存在した。
 それは、膨大な数の輸送機の群れ。すなわち、β世界大日本帝国が引いていた防衛ラインで孤立していた部隊を回収した一団だった。
最前線を維持している間に、前線から洩れた個体、そして地下侵攻によって後方の防衛ラインを破壊されて孤立した数は相当数に及んだ。
元より広い範囲を防衛するためということもあったし、それを支えるための一般兵科や整備班なども存在したこともあり、とにかく数は多かった。

 これに拍車をかけたのが、帝国の動員のやり方であった。
 過去や未来からの転移組を中心に多くの戦力が臨時編成という形で通常よりも整っているとはいいがたい形で放り込まれたのだ。
侵攻に際して、その手の転移組を教育や再訓練などを施したうえで帝国軍内に分配し、編成するというのは時間が足りなかったのである。
そのため、彼らあるいは彼女らは通常とは異なる編成や組み合わせによって配置された。

 よって、前線に展開している将兵や戦術機の数については既存の編成を基準に推測することができず、捜索に一手間かけることになった
何しろ、富士防衛ラインに置かれたCPが地中侵攻で大打撃を受けたのだ。それは、そこに集積された情報の喪失も意味した。
これに伴い、地球連合の回収チームは逐次情報を現地兵士たちから集めながらも、回収作業を行うことになり、捜索機も飛ばしながらの対応を強いられた。

 幸いにして、BETAに飛行する種は今のところ存在しておらず、また地中侵攻をしてくるBETA群も護衛機により順次排除されたことで安全であった。
何しろ、輸送を受ける帝国軍や斯衛軍の兵士たちは誰も彼もが敗残兵も同然の状態であるからだ。
武器弾薬が尽きたところを救援されたものもいれば、包囲され孤立したところを救われたもの、負傷したところを救われたものなど多数だ。
総じて、無事だった部隊などほとんどいない。生きて戻れることが奇跡といってもいいくらいなのだから。

 そして、斯衛軍に属するホワイトファングスを率いていた篁唯依とその隊員たちも、回収機の中で戦術機やほかの衛士など共に揺られていた。
誰もが疲労状態、あるいは緊張がほどけたことによる脱力状態であったり、場合によっては大小の負傷によりケアを受けていたりとさまざま。
怪我などなく回収された唯依であっても、やはりというか、命の危機を脱したことによる疲労感に苛まれていた。

(……帝都に、帰れる、のか)

 斯衛は全ての民の模範となるべし。自ら先陣を切り、引くは殿。そういうものであったはず。
 そして、膨大な数のBETAに対しての防衛線に赴いたということは、死さえもいとわずに戦うということになる。
それこそ、唯依は---彼女だけでなく多くの兵士たちは---命を投げ出す覚悟を固め、帰ることができないとそのために西に赴いた。
 結果として、こうして撤収出来ているというのは、まさしく奇跡だ。死にに行ったのに、助かったのだから。
 しかし、それを純粋に喜べないのも確かだ、と唯依は思う。

「なんで後方に下がるの!BETAはまだ国土にいるのに……!」
「落ち着け、我々にこれ以上の戦いは無理だ!」
「よその国に国土の奪還を任せきりにして、おめおめと逃げろだと!?」
「そうだ!他国など信用ならぬ!我らこそが防人としてでなければならん!」

 そう言い争う声が意外と近くから聞こえてくる。
 疲れ切っている唯依は、それから顔を背け、聞くまいと支給されている毛布に包まってベッドの上で身をよじる。
 今は、考えることさえもおっくうなのだ。そう、自分に言い訳した。
 されども、ふと思うのだ。生き残ってしまったのは、前線から逃げて命を長らえたのは本当に良いことなのかと。
自分達に課せられた役目を放棄し、全うしていないのではないかという、後悔の念が湧いてしまうからだ。
複数の声が言うように、戦うべきだという意見は分からなくもない。自分たちは、国を、そして民を守る役目を負っているのだから。

415: 弥次郎 :2022/01/08(土) 00:25:49 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

(けれど……)

 自分たちは、どうしようもなく敗北したのだ。
 力が足りず、数も足りず、武器も足りず。その結果として、外の勢力に力を借りることになった。

(けれど……自己満足ではあってはならないはず……)

 自分たちはいいかもしれない。たとえ死ぬことになったとしても役目を全うしたならば満足もできる。
 だが、その自分たちが負けた後、無辜の民まで自分たちと一緒に死ねとまで言えるか?と、そう唯依は考えてしまった。
やむを得ず他国の力を借りたにしても、それによって民が助かるならばまだマシではないかと、そう思うのだ。

(いや……)

 今は休もう。唯依は目をぎゅっと閉じる。そのようにコメディカルスタッフに指示されたのだし。
 難しいことは後だ、と。ほどなくして、彼女は静かに寝息を立て始めた。やっと、休める。
 京都防衛線以来ずっと張りつめていた糸が、ほんの少し、緩んだのだ。



  • β世界 日本列島 富士山上空 輸送機内スタッフルーム


 収容され、キャビンでアフターコンバットケアを受ける兵士たちの騒ぎは、当然ながらコメディカルスタッフ達の知るところとなった。
戦闘後の興奮によるものというのは共通した見解だ。何しろ、命がけで戦っていた彼らはアドレナリンで満たされている。
そんな状況下において冷静な判断だとか落ち着いた行動がとれるかと言われたら、おそらくはNOだろう。
 無論、地球連合軍のスタッフらも何もしなかったわけではない。興奮を抑え、疲労を抜くための処置を様々に行っている。
それは一般的な薬剤の服用であったり、あるいは薬品を含まない飲料や食品の提供であったり、あるいは体を休める環境の提供だった。

「……これはちょっとまずいかも?」
「戦術機で暴れられては困るな」

 だが、それを超えて兵士たちは、殊更に衛士たちは興奮しているケースが多く見られた。
 中には制止を振り切って格納庫に向かい、戦術機に乗り込もうとする衛士まで見られるほどに。
現在のところは、それは阻止されている。だが、何が起こるか分かったものではないのも確かだ。
 だから、スタッフルームの一角で顔を突き合わせるコメディカルスタッフを率いる主任らは判断を迫られていた。
すなわち、彼らを強引に鎮圧するか、それとも理性に期待して説得を試みるか、である。
鎮圧自体は簡単だ。鎮静剤などを撃ち込めばいやでも大人しくなる。人間がどう頑張っても、薬には勝てない部分がある。
 だが、そんな暴力的な手段に出ることは余り気分が良いものではないし、他の兵士たちを興奮させる恐れもある。
 かといって、放置していてはやがては攻撃的な手段に出るかもしれない。コメディカルスタッフとて、兵士ではある。
それでも、戦闘を第一義としているわけではないし、興奮状態の相手が何をどうしてくるかはわかったものではない。
万が一にスタッフの負傷者が出てしまえば、それは現場だけでなく、下手をすれば国家間問題にもなりかねない。
 しばし意見を交わしていたが、やがて一つの結論へと納まることになる。

「アンドロイドに鎮圧させよう。彼らを格納庫に案内させ、そこで一網打尽にする」
「そうするしか、ありませんか……」
「見えないところでならば余計な影響はないでしょう。騒ぎも起こらないでしょうし、それが良いかと」

 あまり気は乗らない、というのが共通見解。
 何しろ、相手も必至だからこそ、使命に準じようとしているからこそ、力でねじ伏せるのにためらってしまうのだ。
彼らの心情は分からなくもない。地球連合軍の兵士たちがこうして戦うのも、自分たちの星を、国を、家族を守るためだからだ。
その感情が決して悪とは言えないだけに、しこりの様なものが残りそうだった。

「では……」
「ああ」

 そして、準備が終わってから十数分後。血気はやる衛士たち十数名は戦術機のおかれた格納庫に通され、鎮圧された。
 必死すぎるがゆえに、真摯であるがゆえに、どうしようもなく危うかったのだ。
 こうした処置---処置に限らず前線から遠ざけるという行為---は少なからず、帝国内部に小さな不満の種をまいた。
 小さいが、決して0ではないそれが芽吹くのは、あまり遠くない未来であるが、今の彼らが知ることはない。
彼らは彼らで、一瞬一瞬に全力であるがゆえに、未来までも万全に見通せるわけではないのだから。

416: 弥次郎 :2022/01/08(土) 00:26:33 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上wiki転載はご自由に。
理解と納得は別物だよなって…

423: 弥次郎 :2022/01/08(土) 12:09:20 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
誤字修正を転載時にお願いします
414
×創作に一手間かけることになった
〇捜索に一手間かけることになった。

× 結果として、こうして撤収で来ているというのは、まさしく奇跡だ。
〇 結果として、こうして撤収出来ているというのは、まさしく奇跡だ。

×去れども、ふと思うのだ。
〇されども、ふと思うのだ。

415
× 収容し、キャビンでアフターコンバットケアを受ける兵士たちの騒ぎは、
〇 収容され、キャビンでアフターコンバットケアを受ける兵士たちの騒ぎは、

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最終更新:2022年01月20日 10:48