628: 弥次郎 :2022/01/12(水) 21:10:51 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「ストレンジ・ブレーキング」



 融合惑星β世界の日本列島を舞台とした地球連合の大進撃は、順調そのものだった。
 先遣隊であるリンクスやレイヴン達が点で面を食い破り、それを線としてつなぐことで数を減らす。
そうしたところに、連合正規軍が満を持して突入し、BETAの進撃をそれ以上の火力と物量をもって叩き潰しながら前進したのだ。
 正面だけでなく側面、すなわち海上からの援護攻撃や上空からの援護も忘れない。
 そして、進撃をする中で必然的に必要となる補給は、それよりはるか上空から文字通り降ってきた。
テレポートアンカーを用いた大規模輸送である。物資とその補給を行うための拠点ごと降ってくるという金と物量に飽かしたそれは、連合の進撃を見事に支えた。

 語るまでもないが、大戦力が投入されたということは、膨大な弾薬などをはじめとした物資がすさまじい勢いで消費されるということである
それが防衛線を曳いての防衛であるならばともかく、進撃が伴うならばなおのこと補給というものには気を使う必要がある。
補給と一言にいうが、消耗するのは弾薬だけではない。
 パイロットたちは長期の戦闘となれば体力や集中力が落ちてくるし、水や食料なども必要となる。
 機動兵器の整備や補給作業を行うのだって、人間はもちろん各種機材が必須だし、その為の空間が必要だ。
つまり、逐次前線の前身に合わせて補給物資などを下ろし、不要になった補給地点などの撤収を同時に行う必要があった。
無論全部が不要というわけではなく中継基地は残されるのだが、その展開と撤収の連続はまるで履帯の大回転にも似ていた。

 日本海側と太平洋側の両方で始まったそれは、必然的な合流を果たすことになる。
 即ち、日本列島の中心部、旧近畿地方という合流地点へとそれぞれの軍勢が突入したのである。
 旧近畿地方を合流地としたのは、自然な流れであり、それぞれの軍勢の指揮を執る司令部の話し合いの結果故だ。
 日本列島を大きく見た時、ちょうど半分ほどの中間点が旧近畿地方で、非常に丁度良い。そこで消耗した軍勢を一度止め、補給などをする必要があった。

 これには、海の上からの援護を行っているAFなどの都合も存在していた。
 つまり、日本列島を破壊しすぎない攻撃オプションで効率的な援護を行う射程には限界があったのだ。
やろうと思えば地形ごと吹き飛ばす、それこそ地図の書き変えさえも必要なレベルのことができるのがAFだ。
 だが、序盤戦におけるAFの援護の結果を見た帝国が、泡を食って攻撃の自重を求めるに至ったのである。
 これらの事情もあり、しばしの再編と戦力の見直しが行われることとなったのだ。

 そして、BETAもまたその動きに対処した。
 前線において「災害」が圧倒的な数押し寄せてきた、というのはBETAのコントロールをとる鉄原ハイヴや重慶ハイヴの頭脳級もとらえていたのだ。
元より増えていた個体を吐き出すためという意味もあって個体を差し向けたのであるが、それを払いのけ、「災害」が接近してくることは許容できなかった。
しかも、前線の個体からの情報では全く未知の「災害」が出現したというものまであるという。
 しかして、BETAの頭脳級がとった行動は単純そのもの。すなわち、さらなるBETAの放出であった。
 元より「災害」というものに対する対処能力というものが実のところは高いとも言えないBETAは、一つ覚えの物量展開により解決を図ったのだ。
それこそ、大深度地下の資源採掘に用いる個体を「災害」に対して大量投入すると言う手まで打って。

 ただ、人類側にとって幸いだったのは、同時複数個所に侵攻をおこなったことにより、BETAが結果的にしろ分散したということである。
G弾の影響で増えたBETAの個体が一つの目標めがけて押し寄せれば、連合とて手を抜くわけにはいかなくなっただろう。
しかし、イギリス、ソ連、日本帝国と狙いがばらついたことにより、数は減っていたのであった。無論、俯瞰的に見ての話ではあるが。

 斯くして、BETAとの戦いは第二ラウンドへと突入する---で筈であった。
 ところが、日本列島の戦線には異常が発生した。
 それは、純粋な戦闘の意味合いでの異常ではない。どちらかといえば、今更飛び出てきた政治の戦いであった。

629: 弥次郎 :2022/01/12(水) 21:11:42 HOST:softbank126066071234.bbtec.net


  • C.E.世界 融合惑星 β世界 日本列島 紀伊半島 旧三重県南部 地球連合仮設補給地点



 テレポートアンカーにより降ってきた仮設拠点には、前線から後方からやってきた人員と入れ替わる形で下がってきた戦力が集っていた。
 そこにはネクスト、ハイエンドノーマル、大型MT、あるいはMSなどが並んでいた。
 さらに、それらの周りを囲うように作業用のロボットなどもいて、整備や補修あるいは補給や装備換装などの作業で忙しげに動き回っていた。
今のところ、前線の動きはとある事情から停止しつつある。その時間を利用し、AF「トヨアシハラ」から株分けされたユニットが現在紀伊半島に近づいていた。
何しろ、地中から侵攻してくる個体が存在すると分かっているのだ。安全の確保がされるまでおちおち陸地に拠点を置いては置けない。
一応地中のセンサーなどは敷設されてはいるが、侵攻を探知することはできても阻止はできない。
 万が一があると怖いために、ここの拠点はユニットが到着次第引き払う予定だ。

 だが、些か微妙な位置で止まっているというのも確かなことだ。
 近畿地方の入り口で急ブレーキをかけたのに等しく、進撃速度や展開力を考えればその意味はあまりない。
こうして近畿地方解放に向けて一つの休憩を挟めるのはありがたいことだが、別になくても構わないのもまた事実。
 しかして、AF「トヨアシハラ」を通じて伝えられた、今回の作戦の依頼主である帝国の要望とあらば止まらざるを得ないのであった。
殊更、ノリノリで蹂躙をしていたリンクスたちの中には不満を訴えるものもいたほどだ。
 そして、そんな一人であるリンクス「刹那」もまたここ紀伊半島南部の補給基地に到着していた。
 上空から降り立った企業連所属の航空艦の整備スタッフたちに愛機「ガンドライド」を任せた彼女は、オペレーターからその理由を知ることになった

「お(自主規制)」

 そして、開口一番に放送禁止用語の暴発であった。
 一応、接頭語として「お」がついているとはいえ、何ら丁寧にも上品にもなっていない。

『お嬢様、そのような言い方は……』
「これでも我慢した方なのよ…?」

 戦闘間(インターバル)コンバットケアを受け、ひと段落した彼女はオペレーターに毒を吐く。
 我慢した方なのは確かだ。それこそ、ぶちぎれてUターンし、帝都東京に爆撃を仕掛けたりしていないのだから。

「まあ?侵攻で放棄せざるを得なかった旧首都の奪還に一枚かみたいというのは分からなくもなくてよ?
 あちらの軍にも面子というものもありますし?それを指揮する政府にも考えはあるでしょう」
『……』

 ただし、と沈黙するオペレーターに続けて言う刹那の眉間の皴は深い。

「それでも、我慢ならないのは、尻尾を撒いて臨時首都防衛のためと引き下がった軍の連中が、口を出して政府に介入させたことですわ!」

 そう、この奇妙なブレーキは、帝国政府の要請であった。
 そしてそれを厳密に言うならば、その意見の出どころは精鋭戦力温存と臨時首都防衛の名目で後方にいた帝国斯衛軍。
さらには斯衛軍で大きな権力を持つ五摂家とその周辺の有力武家から、日本政府という中継点を経由していたのだ。
彼らはとっとと帝都東京から逃げ出す算段を立てていたのだが、参戦した連合の戦力が押し返し、進撃すると聞くや、一気に手のひらを返したのだ。

「しかもその連中、ぎりぎりまで連合の協力に反対したとも聞きます。
 相手の心情や状況についてはある程度分かっておりますので許容はできますが……どの面ぶら下げて(以下、自主規制)」
『お嬢様、ステイ』
「そんなに手柄が欲しければ、最初から前線に出て自分で立てればよろしいでしょう!?
 救援した帝国軍の方がまだ根性がありましてよ!彼らはあの状態からでも戦うことを提言するほどに士気旺盛でありましたのに!」

 そして、刹那の叫びは正しかった。
 連合という国外勢力の介入を嫌ったのは帝国政府・軍・そして五摂家などの武家の中でも共通して存在した意見だ。
 それでも許可を出したのは、想定外の事態---BETAによる積極的且つ大規模な地中侵攻など---が起きたためだ。
それこそ、途中で撤退してしまうとしても、少しでもBETAの進撃を食い止め、時間を稼いでくれれば御の字だという形であった。
 だが、蓋を開けてみれば、防衛線の救援のみならず、逆侵攻までも仕掛けるというありえざる結果を生み出したのだ。
そして、それは富士防衛線からの巻き返しは一気に進んで、旧帝都たる京都の存在した近畿地方まで差し掛かるという大戦果。
 多くは喜んだことであろう。国外勢力の助力というか、彼らが想定以上に活躍してくれたことはありがたい限りだったのだから。

630: 弥次郎 :2022/01/12(水) 21:12:14 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

 しかし、そこまでうまくいくと逆に欲が出る。
 さらには、元々の疑心暗鬼が首をもたげる。
 とどめに、放り捨てていたプライドやメンツが今になって邪魔をする。あとを考えると、何もしなかったというのは我慢ならない。
 つまるところ、助平心を出した人間が少なからず存在したのだ。それこそ連合の介入を嫌った五摂家の中からも出るほどに。

 しかして、企業に深くかかわる富裕層の生まれとして高貴ゆえの務め(ノブレス・オブリージュ)を果たさんと戦う刹那にとっては噴飯ものだった。
 彼女とて、そういう手のひら返しや意思決定を覆すというのが存在することはよく知っている。
君子豹変すという言葉もある通り、迅速果断に状況に合わせた判断をパッと下せるかどうかというのは重要な要素なのだから。

 しかし、それはそれ。これはこれ、である。
 戦闘中でややハイになっていることを差し引きしても、刹那の指摘は少なからず的を射たものなのだ。
 確かに進撃を一時中断して、帝国軍や斯衛軍の到着を待つというのは不可能ではない。
加えて、彼らが参戦を希望しているというのもどういう理由であるのかは全く理解不可能というわけでもない。
恐らく地球連合や企業上層はそれを認めはしたのだろう。だが、心から喜んで、というわけではない。
刹那が言うような感情が湧いたことも事実なのであった。

「フゥー……」

 一頻り叫べば、冷静さが戻ってくる。
 時間がたてば、戦いの中で火照った体に冷たさが戻ってくる。
 過熱気味だった頭も、前線でマーセナリーお嬢様している思考から、企業関係者という思考にシフトする。

『……大丈夫でしょうか、お嬢様?』
「ええ。もう冷静よ……多分」
『そこは言い切ってほしかったですね……』
「まだ戦闘中よ。完全に冷え切るには早いわ」

 それで?と刹那はドリンクを手に取りながら端末越しに問いかける。

「その帝国軍の方はどうなっているのかしら?」
『現在、東京や最終防衛ラインの相模原から戦力を抽出、陸海空のそれぞれのルートで展開予定だそうです。
 部隊の再編やこちらに輸送を一部委託するという都合上、すぐさまとはいかないようです。
 急いでも先遣隊が到着するのは8時間はかかるとのことで……』
「8時間……まあ、急いだほうといったところかしら?」

 逆に言えば、急ブレーキをかけた軍勢が8時間近くブレーキをかけ、防衛線を維持しなくてはならない。
 短いようで長いのが8時間だ。一日の3分の1という長い時間だ。
 相手は続々と押し寄せてくるわけであるし、効率的に排除して待つ必要がありそうだ。

『帝国としても、あくまで形だけの参戦としたいとのことでして、連合上層との間で交渉が進んでおります。
 本格的に戦力が投じられるのは、大勢に影響が少ない地域……現段階では四国解放だそうです』
「そうでしょうね。面子があるのは分かっても、こちらの戦略にまで影響を及ぼすようなら無視一択でしょう」

 ともあれ、と空になったボトルをゴミ箱に投げ捨て、刹那は立ち上がる。

「まだ戦いは続く。それなら、私は戦うだけですわ」
『その意気ですお嬢様。あと、出来れば言葉にはお気を付けを』
「いやよ」

 短く、鋭い拒否。
 そして、刹那の姿はガレージへと向かう。ネクストの調整や補給を担当したスタッフたちとも話し合わなくては。
 そこには、凛とした戦士の姿が存在していた。

631: 弥次郎 :2022/01/12(水) 21:13:11 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
一気に書き上げました…

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最終更新:2022年01月20日 10:53