721: 弥次郎 :2022/01/15(土) 20:33:06 HOST:softbank126066071234.bbtec.net


憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「煌武院、立つ」2


 政威大将軍にして煌武院家当主煌武院悠陽、戦場へ。
 その報は、戦局の大きな変化に伴い混乱していた帝国内部をさらに揺るがした。
 これまでは後方にいた彼女が最前線に自ら赴くというのは、まして武家のトップが出向くというのは、これまでになかったことだ。

 実のところを言えば、斯衛軍というのは対BETA戦の経験が乏しい。
 将軍を守護する存在という主目的の関係上、まだユーラシアで戦線が張られていた時に大陸派兵に参加したのは多くはない。
あるいは、欧州に留学し戦場を学んだ者もいるが、それはあくまでも少数派の行動の結果である。
無論、各地での戦い、殊更日本列島への侵攻が起こった際においては斯衛軍も参戦して奮戦しているのも確かである。
 だが、結局のところ精鋭であるがゆえに出し惜しみを受けていたことは事実として揺らがない。
 また、とある時系列において斯衛軍の人員が海に不慣れ故に行動に戸惑う姿が存在したように、その実として、対応能力に欠けているところがあるのも事実だった。
 そしてとどめに、BETAとの戦闘経験が乏しい代わりに、対人戦闘経験は組織の都合上高いというBETAとの戦いでは些かそぐわない体質も備えている。

 無論、悪いことではないのも確かだ。
 斯衛軍にいるということは、そもそも高度な教育と訓練を重ねてきたということであり、練度の高さを保証するものでもある。
斯衛軍に死の八分無し、と豪語するように、暗示や薬物投与に依存しなくとも優れた衛士を育成できていることも事実。
そして、その装備の質もまた確かであり、武御雷という高性能機までも生み出して配備している。

 ともあれ、最精鋭たる斯衛軍はそんな実情でありながらも、国外勢力との共同作戦を展開することになったのである。
 戦力としては斯衛軍に属する戦術機一個大隊。武御雷と不知火を主力とする、まさしく最精鋭部隊だった。
付属して、戦車や自走砲部隊などの支援部隊とヘリなども加わっている。ここには連合から供与された戦車を配備した部隊も含まれていた。
 さらに、ここに合流したのは、五摂家の一つ斑鳩家と縁のある斯衛軍の兵士の一団であった。
これは、当主ゆえの縛りを受けて直接赴けなかった斑鳩崇継の代理という形であり、彼なりの行動の結果であった。
 思わぬ増援を受けた彼らは迅速に準備を整え、未だに残るインフラをフル活用、あるいは輸送車両などによって西進。
地球連合軍の待ち受ける相模原・厚木最終防衛ラインへと向かうこととなった。

 その姿は未だに残っていた帝国民や皇帝の目に深く焼き付けられることとなった。
 ただ引いてくのではない。前に出て、戦い、勝利を得るためにと進む姿。
 それは、言いようのない力強さを、あるいは鼓動を伴っていた。

722: 弥次郎 :2022/01/15(土) 20:33:59 HOST:softbank126066071234.bbtec.net


  • C.E.世界 融合惑星 β世界 日本列島 相模原・厚木最終防衛ライン 地球連合軍拠点


 帝都出立より数時間後、帝国の部隊は無事に地球連合軍の拠点へと到着していた。
 連絡を受けていた地球連合側でも準備を整えており、多くの戦力が出立を今か今かと待ち受けていたのだ。
 目につくのは、居並ぶホエールキングであろう。その名の通り、クジラの姿形をまねている。
 そしてそれ以上に恐ろしいのが能力だ。
 全長は250m。武装として68センチ連装砲やミサイルランチャーを搭載。
 本分たるペイロードに関しては、到着した斯衛軍をまとめて一機で搭載しきってしまえるほどに、圧倒的だった。

 驚きもそこそこに、斯衛軍はそれらに連合の戦力と共に分乗していくこととなった。
 いきなり斯衛軍を戦場に放り出すというよりは、連合の戦力が随伴して展開するという形になるためだ。
一応斯衛軍や、別ルートから合流予定の帝国軍にも戦闘してもらうことにはなるのだが、あくまでも体裁を整えるためという面が強い。
多少の犠牲が出てしまうのはしょうがないが、かといって目の前で雑魚によって死なれすぎては寝覚めが悪いどころの話ではないためだ。
 かといって、何もしないまま護衛されて戦場に出るだけ、というのも良くはない話である。
 殊更に、煌武院悠陽が専用機で前線に出る必要があるということは政治的にも大きな意味合いのあることであった。
なればこそ、その傍らに、万難を排せる護衛を張り付けることとしたのである。
 それこそが、ムラクモ・ミレニアムのリンクス「一目連」であった。
 そして、悠陽の専用機たる00式R「武御雷」を筆頭に戦力が積載されたホエールキングは最前線へと順次飛び立っていく。

 連合の戦力が行動を再開するのと合わせる都合上、時間的な余裕は案外少ない。だからこそ、かなりの強行軍で帝都から駆け付けたのだ。
送り出し終えた帝国軍の輸送部隊などが飛び立っていくホエールキングらを見送って、疲労と安ど感からへたり込んでしまったのも無理はない。

「や、やっと終わったか…」
「ああ、一先ずはな」
「……もう勘弁してほしいな」

 軍事行動、とりわけ輸送というのは案外時間がかかるし、工程もたくさんあるし、尚且つ慎重さが求められる。
 普通ならば余力と余剰の時間を確保して万難を排して行われるのだが、今回ばかりはそれが極めて少なかった。
それでいて、政威大将軍の煌武院悠陽率いる部隊を輸送しろときたものだから、担当者たちのストレスたるや語るまでもない。
 ともあれ、彼らはベストを尽くした。遅滞なく、多少のトラブルを乗り越え、部隊を予定の場所まで送り届けたのだから。

「あとは……煌武院殿下がご無事ならばいいんだがな」
「ああ……」

 一人がポツリと漏らした言葉に、誰もが顔を暗くする。
 そう、あくまで自分たちの関与できるのは送り届けるところまで。そこから先は自分たちの領分ではない。
 一口に戦場と簡単に言えてしまうものであるが、最前線は激戦だと聞いている。確認できただけでも数十万ものBETAの押し寄せる場所。
現在のところ順調に押し返しているとは言うが、危険がないというわけではない。新種のBETAも出現したと聞くのだし。
 彼らは後方部隊の人員。戦術機の適性検査で弾かれたりして、こういった裏方を任されている。
それゆえに、衛士たちとは違って長らく職務についており、年齢としては高い方なのが実態。
そんな自分たちが、若い兵士たちを、それも武家としては最も畏きところの少女を送り出さねばならないというのは、精神的なダメージが伴っていた。
若い兵士を送り出すのはこれが初めてというわけでもない。いつかは自分たちに下される命令であったかもしれない。
 だが、いざそれに直面すると、まして---

「いや、やめよう……」

 余計な感傷だ。彼だけではない、他の作業員も感情をこらえていた。
 同じような年齢の兵士たちを送ってきたのに、今更な話だ。
 せめて、無事に務めを果たし、凱旋してほしいものである。
 彼らに詳しい政治の話など分からない。それでも、無事であってほしい気持ちだけは本物。
 他者に、他国に委ねるしかないのも悔しいが、それしかないのもまた事実。
 願いを託され、鋼鉄のクジラの群れはひたすらに西へと向かっていったのだった。

723: 弥次郎 :2022/01/15(土) 20:34:53 HOST:softbank126066071234.bbtec.net


  • β世界 日本列島 旧東海地方 上空 ホエールキング 艦内 ミーティングルーム



「お初御目にかかります。私はムラクモ・ミレニアム所属のリンクス、一目連と申します。
 大洋連合軍出向にあたり、大佐を拝命しております」
「これはご丁寧に。
 私は日本帝国にて政威大将軍の職を拝命しております、煌武院悠陽と申します」

 両者が対面したのは、ホエールキング艦内に設置されたミーティングルームであった。
 急ぎで出発したために、ブリーフィングなどが行われたのは道中と相成ったので、それゆえの必然であった。
 ブリーフィングの開始前、事前に伝達されていた情報を基に両者は初めて顔を合わせることとなった。

(なんと……これは……)

 第一印象。一目連に対して悠陽が抱いたのは、静けさであった。
 空っぽということではない。空虚な、という意味でもない。
 そこにあると同時に、極めて自然で、存在しているのにしていないかのようなそんな二律背反であった。
自然と周囲と一体化してしまう静けさ。派手さではない静謐。あらゆることに動じない安定感。それを強く感じていたのだ。
一目で強者とわかるような、そんな簡単な存在ではない。強さを秘める、あるいは静けさの中に刃を巧妙に隠すような、そんな存在。
やたらと部位を振りかざすのとは違う、もっと---そう、本当の強者とは、兵(つわもの)とは斯くあるべしという理想形にも見える。
 ともあれ、一瞬の逡巡の後、悠陽は言葉をつづけた。

「貴方様が、今回私の傍に控えてくださると聞きました。相違ありませんか」
「いえ、ありません。この一目連、煌武院悠陽殿下のお傍に侍り、万難を排する役目を担います」
「それは頼もしいことです。
 ですが、此度は、私の我儘により恩人たる地球連合の皆様振り回すこととなりました。
 改めて、ここにお礼申し上げます」
「とんでもないことです。あの大胆かつ果断、そして国家を代表した行動は、称賛されることあれ、非難されるものではないでしょう」

 一目連の言葉は、実際のところ連合の態度を、悠陽の決断に対しての好意を含んでいた。
 救援を要請し、予想以上の活躍に喜びはしても、それからどうするかという観点に欠いていた政府を強引にとはいえ動かしたのだ。
また、これだけの大反攻作戦へと発展した状況下にあって、帝国という国家の面子を守る行動を真っ先に取ることができていた。

「それは持ち上げすぎですわ、一目連様。本来ならば信を置くものに任せるべきところに、私が首を突っ込んだわけですのに」
「いえ、殿下。この老骨に様などというものは不要でございます」
「そうでしょうか?私の命を預けることとなるのですから、礼儀を払うのが当然と思いますが?」
「あくまでもこの一目連は雇われ。それこそ、この身を盾としてもお守りするのが役目と存じます。
 この作戦における関係だけとはいえ、堅苦しく礼を払う必要はございません。遠慮なく呼び、命じ、使っていただければ」
「それは……」

 悠陽は一目連の言葉に少々困るしかなかった。
 確かに礼儀を払われ、敬われていることは分かる。
 だが、これまで経験したのとは違う関係を求められてもいた。すなわち、雇用者と労働者の関係だ。
厳密なところを言えば、武家の頂点たる悠陽は武家を雇用して使用する立場にある。
 しかし、一目連はその態度と関係に似ておりながらも、あくまで一過性の仕事によるもの、と割り切っている。
 そして、傭兵というものを使い倒せと、そう頼んできている。
 これによって、微妙ではあるが認識に誤差が生じているのだ。

「過ぎたことを申しました。お許しを……」

 それを察した一目連は引き下がる。
 ここで彼女に多くを求めすぎても意味がない。
 あくまでも彼女との契約はこの場においての、この作戦においての話だ。

「……わかりました、貴方様にも譲れない一線があると、そう捕らえることにします」

 その上でですが、と悠陽は言葉を紡ぐ。

「ですから、これは私からの提案なのですが、私個人として懇意にしていただければと、そう思います」
「それは、傭兵という立場ではなく、ということでしょうか?」
「ええ。これもまた何かの縁。私個人として、もっと知りたいと、そう思っているのです」
「……はい、それでは、差支えなどなければ」
「ありがとうございます」

 結局最後は押し切られたな、と一目連は思う。
 だが、悪いとは言えないだろう。これが彼女にとって良い刺激となってくれればありがたい。
 それに、連合としても武家のトップとの伝手はあった方がいいだろうという打算も含めてある。
 縁は、確かに結ばれたのだ。

724: 弥次郎 :2022/01/15(土) 20:36:13 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

 そうして一目連らが歓談している間に、ブリーフィングの開始が告げられた。
 ブリーフィングルームに集う面々が緊張の面持ちで、部屋の前方、展開されたモニターへと注視する。
 旧帝都奪還作戦「宵星作戦」。
 まず第一段階は砲撃---母艦でもあり巨大な砲のキャリアーでもあるホエールキングによる制圧砲撃を行う。
大まかにBETAの数を、特に脅威となりうる大型種を可能な限り漸減することに始まる。
光線級による迎撃も当然想定されるが、そもそも連合の使用する砲弾はレーザー程度は弾く仕様だ。
よって、これによる数の漸減というのは順調に進むことが想定される。
 加えて、着陸点を確保するため、先行するMS隊によりBETAの誘引と排除を担当。
 これらが完了次第、順次戦術機などを含む戦力は確保したポイントに着陸、迅速に展開することになる。

 ついで、第二段階。ここからは機動戦力の出番となる。
 すでに旧帝都は大部分がBETAにより大地が殆ど平らにならされており、かろうじて残った地形があるものの、その面影はほとんどない。
それほど地形が変化しているため、光線級が存在する状況下においては射線が開いた、遮蔽物がないために極めて危険な領域であった。
天然の要害による地形の有利を得られないというのは、防御手段が乏しい戦術機にとっては致命傷だ。

「ですが、これはこれまでの常識でならば、となります」

 ブリーフィングの司会進行は言葉を紡ぐ。

「戦術機部隊の突入に際し、地球連合戦力による光線級哨戒を実施。
 また、アンチレーザー爆雷の集中投入による戦闘領域の形成を行います」

 これらが意味することは何か?至極単純だ。
 マップ上に、京都市街地を中心とした円が広がった。そのエリアは安全圏だ。
 光線級という死神の脅威が殆ど存在しない、飛行制限がある程度取り払われたバトルフィールドそのもの。
地を這うBETAに対し、戦術機が空を飛べるという強みを最大限生かせる状況だ。

「光線級の存在しない状況下で、旧教徒市街の制圧を行うのに、最も適した環境を構築します。
 これが作戦の第二段階の開始となります。戦術機部隊の展開を開始。BETAの排除を開始します。
 排除の完了後、衛星軌道上からのテレポートアンカーによる防衛戦力の投入を実施。
 そこから迅速な陣地構築と防衛体制の形成をもって、本作戦は第三段階へと移行します」

 マップ上、制圧された教徒市街から矢印が多方向へと展開していく。
 それこそ、近畿地方だけではない、より遠くへ、BETAの制圧かにある地域へと伸びていくのだ。

「第三段階。これは制圧した旧帝都京都市街地を起点とした、大規模な進撃となります。
 日本海側からはAFトコヨノカミを旗艦とした水上打撃部隊の援護が展開されまして、中国地方への道を開いていく形となります。
 また、帝国軍の皆様は太平洋側へと南進。別働の連合軍戦力と帝国軍戦力と合流の上で、四国へと進んでいただきます」

 一連の動きを見れば、まさに大進撃だ。
 しかし、これらさえも、全体から見れば一部でしかない。
 奪還すべき領域はまだまだあり、こんなところで躓いてはいられないという連合の意思が感じられるものであった。

「これらをもって、地球連合及び帝国の合同軍は本州全土の奪還に向けた一翼を担います。
 それぞれの集団に定められた目的地のBETA排除と制圧・拠点化をもって、宵星作戦の完了と相成ります」

 以上です、と進行役は一礼する。

「それでは質疑応答に移ります」

 鋼鉄のクジラの中で、彼らの準備は進む。
 一大作戦まで、あと間もなくと迫った頃であった。

725: 弥次郎 :2022/01/15(土) 20:38:31 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
急ぎ足になったなーと思いますが、ご容赦を。

次回は立たなかった方々のご様子を。
マブラヴでの五摂家って斑鳩、九条、斉御司、崇宰、煌武院とありますけど、ここまでまともに動いたのが二つというね…
というかここら辺の設定をちゃんと出してほしいよなーって…

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最終更新:2022年01月20日 10:59