844: 弥次郎 :2022/01/16(日) 23:33:47 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「煌武院、立つ」2.5



 政威大将軍にして煌武院家当主煌武院悠陽、ご親征。
 その衝撃は帝国を揺るがした。
 これまで五摂家の人間が前線に立つということはそれなりに存在していた。
 しかし、将軍となった身で自ら最前線に向かうというのは前代未聞もいいところであった。
そもそも将軍というのは武家のトップであり、その命は個人や家だけのものではないのだ。
故にこそ戦場に赴くということはあっても多くは鼓舞や慰問のためであり、戦場への出場などは危険であるがゆえに回避されてきたのだ。
特にBETAとの戦いは人と人との戦い以上に危険が伴う。降伏などが一切通用しない、敵性生命体であるがゆえにだ。

 これについては、反応はさまざまであった。
 悠陽の身を案じる者、親征に自らついて行こうとする者、ついに帝国はそこまで追い込まれたかと嘆く者。
あるいは、これまでお飾りであった将軍が自ら主体的に動き出したことに感涙するものまでいたとも。
まあ、ともかく地位や家柄とか役職によるものの、それぞれが反応を示した、ということは確かだ。
長きに及ぶBETAとの戦いのみならず、五摂家を含む国家としての在り方が年月を経て悪しき方向へ硬直している中にあって、それは一つの楔となっただろう。

 しかしながらも、それはただ一つの行動にすぎず、大局に影響を与えるにはまだまだ小さいことも確かだ。
幕府と反幕府の衝突を回避し、奇跡的な和解を経て生み出された五摂家と将軍という制度。
積み上げてきた歴史や格式、あるいは慣習などが支えると同時に雁字搦めにしているこれを、ただ一人が蹴っ飛ばしたところで山を動かそうとするに等しい。
 五摂家が協力して、という体裁はあれども、結局は五摂家同士やその周辺の武家による暗闘と打算による体制。
五摂家が持ち回りで務める将軍職とて、皇帝から任じられるという体裁であっても、政治的なアレコレに左右されている。
 武家の最高権力者にして最高責任者。その名誉と箔、そして付きまとう責任。人間は前者ばかりを求め、後者を避けたがるものだ。

 以上のことからすれば、融合惑星転移に伴う時系列の混線は政治的に大きな混乱を生んだのだ。
 客観1999年において、政威大将軍が煌武院悠陽にあるという時点で察するべきだろう。
 これは2000年以降の情報の上書きによるものであり、彼女や彼女の周辺の人間が主観的に見て将軍職を務め、その影響力を発揮するのは自然なこと。
 されども、主観1999年において将軍職だった五摂家の一つ斉御司家からすれば、それは突然の暴挙にしか映らないのである。
そも、客観1998年の帝都京都の失陥に伴う引責で九條家が将軍職を手放した後、政治的なやり取りを経て受けたのが斉御司家だったのだ。
 よって、斉御司家と九條家が主観的に見れば、煌武院家が権力を保持しているのは慣例などを無視した行為で容認できないのだ。

 そういった都合もあって、斉御司家と九條家、さらには崇宰家などは仙台への脱出を急いだのである。
 これは、間接的な嫌がらせだ。五摂家が退避するとなれば、その役職上斯衛軍も帝国軍の一部も同道せざるを得ない。
そも、政府からして仙台への脱出を急いでいる状況であって、自分たちが動くことに何ら咎めはなかった。
 そうすることで、自分たちの安全を確保しつつ、後々に使える戦力を温存。そして、煌武院の動員できる戦力を減らせる。
戦力が減ったうえで、これまでに例のない膨大な数のBETAの侵攻を防げるはずはない。いや、減っていなくても変わらないだろう。
 そうなれば、煌武院家とてその失態から前例にのっとり将軍職を手放さざるを得なくなるだろう。
 この程度の策謀はたしなみというレベルだ。未だに若い悠陽ではまだ理解しえないものであった。
当然、悠陽の後見を務める煌武院家の人間は気が付いていたが、すでに根回しなどは完了した後であった。

845: 弥次郎 :2022/01/16(日) 23:35:32 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

 そして、実際に戦端が開かれたときも彼ら五摂家の三家の動きは変わらなかった。地球連合が参戦しても。
 むしろ、連合の参戦によって反撃し、反攻作戦と転じたことは好機でさえあったのである。
 基本的にその功績は煌武院家のモノとはなるだろう。だが、結局のところそれは一時的なものである。
最終的な、それこそ、対BETA戦における論功行賞においては自分たちとてそこに食い込めるわけである。
何ならば、政府内には五摂家の息がかかった人間がいるのだ。勝ったならば勝ったで自分達にも利がある。

 とどめに、将軍の親征には、斉御司家と九條家と崇宰家の三家は嘲笑さえしたのだ。
 所詮は嫌われている国外勢力である地球連合の戦力による勝利にすぎない、と。
 まして、戦場に守られる立場の将軍が出ていったところで、碌に戦えもしないと踏んでいた。
戦死するならば最上。そうでなくとも、政府や帝国軍を外側から越権的に動かしたことは咎められるとも考えていたのだ。
 何しろ、国連軍と米国の行動の結果、帝国全体が排他的な空気や世論に支配されているのだ。

 そんな状況下において、外の勢力に国土の奪還という功績をとらせれば、当然ながら不特定多数から顰蹙を買う。
国土の奪還というのは悲願であり、為すべきことだ。それこそ自分たちの力をもって為すべき案件。そこに外の力をねじ込むなど言語道断
だから、そこを追求してしまえば如何様にでもなる、そう考えていた。

 最も、彼らとて視野狭窄だったのは事実だ。
 所詮は世論も空気も流動的なものであって、絶対のものではない。
 連合も何もすべてを自分たちが代わりに解決してやろうなどという甘いことはやらないつもりだ。
 さらに言えば、煌武院悠陽という少女であり将軍が自ら先陣を切ったという事実の重さを過小評価してしまっていたのだった。
 それを知るのは、最早取り返しがつかなくなってからの話なのだが、ここでは割愛しよう。




  • C.E.世界 融合惑星 β世界 日本列島 臨時首都仙台 斑鳩家邸宅


 五摂家の一つ、斑鳩家の当主である斑鳩崇継は、臨時首都である仙台の邸宅で大いに荒れていた。
 自分とて、自分が斑鳩家の当主という地位にいることはよくわかっている。
それがどれほどに重要な役目であり、家に仕えるか縁のある人々数千人を守るためであるということもだ。
 だが、だからといって、最前線からとっとと尻をまくって逃げ出し、安全なところで安穏としているのを良しとするほど彼は割り切れはしない。
 彼自身、周囲の人間によって引っ張って連れてこられていなければ、最終防衛ラインで専用の武御雷を駆って戦っていたであろう。

「ええい、くそっ……」

 落ち着くことなく、荒れた彼は足音も荒く廊下を闊歩する。
 自分たちがここに来るにしたがって引き抜かれた戦力や労力などを考えれば考えるほど、腹だたしさがましてくる。
 連合の介入によって防衛線が持ちこたえ、さらに反撃に転じたことは確かに朗報だった。
 だが、その際において煌武院家以外がまともに動こうとせず、政府さえも右往左往するばかりだったというのは彼の怒りを煽った。

 国外勢力を使い潰すような真似にも等しいし、自国を自分たちの力で守ろうとする気概もないのかとみられかねないのだ。
他の五摂家の人間が内側で完結した政治視点で考えていたのに対し、崇継はその地球連合との関係性を含め考えていた。
 それ故に、腹だたしいのだ。そんな政治ごっこをしているから、まともに団結もできないのだと。

 だからこそ、最後の抵抗で煌武院悠陽の親征に、自分の息のかかった部隊を送ったのだ。
 これは知己でもある崇宰恭子も協力してもらい、動かせる戦力を送っている。が、彼女からの伝言では当主に咎められたらしい。
当の彼女は全く気にしておらず、むしろ崇継の行動を称賛してくれたのが唯一の救いであろうか。

(ともあれ、これで何らかの成果を上げてもらわなくてはな……)

 逐次入ってくる情報では、すでに将軍率いる戦力は近畿地方に入ったという。
 そして、連合の好意もあって旧帝都京都の奪還作戦に突入するとのことだ。
 今更になっても権力闘争をしている五摂家の悪意に負けてほしくない。それが、偽らざる彼の本音だった。

「折れてくれるなよ、煌武院」

 未だに若く、純粋でもある彼女に押し付けておいて、今更ではある。
 それでも、自分はこの仙台から無事と戦勝を祈るしかなかったのだ。

846: 弥次郎 :2022/01/16(日) 23:36:11 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

以上、wiki転載はご自由に。
武家も帝国も五摂家も軍も民も、決して一つではない。
人間なんて所詮は相争う生き物ですからな。そして、相争うというだけあって、人間の敵はやはり人間。
早々に権力闘争だとかを手放せるわけもないよねって話です。

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最終更新:2022年01月20日 11:04