927: 弥次郎 :2022/01/17(月) 23:21:59 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「煌武院、立つ」3
- C.E.世界 融合惑星 β世界 日本列島 近畿地方 旧奈良県上空
戦端は、既に開かれていた。
上空を飛ぶホエールキングは、その主砲でもって対地砲撃を開始していたのだ。
68センチという大口径の巨砲が吠える度、その砲弾は送り出される。
着弾すれば、当然の如く大地ははじけ、砕け、ひび割れていく。そこにいるBETAもろとも、吹き飛ばしていくのだ。
されるがままではなく、光線級が撃ち出される砲弾を撃墜せんと集中砲火を浴びせるが、その程度のレーザーでは砲弾を破壊することはかなわない。
それこそ、周辺の光線級が大挙して押し寄せ、そのレーザーを浴びせ続けているにもかかわらず、である。
これらはβ世界の帝国からすれば驚天動地の事実であったが、連合からすればこの程度のレーザーは怖くもなんともないのだ。
事実として、BETA支配圏に突入して以来、光線級の攻撃を受け続けているが、ホエールキングは悠然と空を飛び続けていた。
それどころか、悠然と艦載機を甲板上に送り出し、対地砲撃を実施させるほどであった。
レーザーの嵐の中で、据え置き型の搭載砲をMSが撃ち込み、これまたBETAを吹き飛ばすというのは、普通ならば危険すぎる行為だ。
しかして、MS---ギラ・ドーガはそれを果敢に実行する。搭載砲「ビッグガンⅡ」から放たれる光条は、的確に大型種や光線級を撃破していった。
そんな光景をモニター越しに眺めるのは、ホエールキングに同乗している帝国の戦士たちであった。
まさに夢のような光景というべきか。出現以来、人類を苦しめ続けてきた光線級をものともしないというのは、まるでお伽噺のようだ。
だが、そんな光景は現実であった。それどころか、このホエールキングを構成する装甲の向こう側で今起きている。
「本当に、レーザーに耐久していますね……」
「はい。地球連合においては一般的に使われる臨界半透膜というコーティング技術によるものです。
光線級程度の出力のレーザー程度では、多重に重ねられたこれを貫通することはかないません」
地面を薙ぎ払うビームによって生じる爆発や火炎に照らされるギラ・ドーガ。
一昔前の歩兵をそのまま大きくしたかのような外見のMSは、その装甲で難なく受け止めているのだ。
これが戦術機であったならばとっくにハチの巣になっているどころか、撃たれすぎて蒸発しているかもしれない。
だから、そんな常識を打ち壊す技術に悠陽は立場などを忘れ、年相応の子供らしい感動をもって眺めていた。
そんな悠陽の傍に控えるのは一目連だ。
ファーストコンタクトで痛く気に入られた一目連は、彼女の希望もあって傍で案内役を務めていたのだ。
一般兵士が応対するよりはだいぶ良いだろうという判断で、悠陽の希望はかなっていた。
連合の兵士たちにしても、よもや最高位の権力者を対応することになるとは思わなかっただろう。
彼女はまだ二十歳にもなっていない少女であったが、逆にそれが対応の難しさを上乗せしていた。
そういう意味で、悠陽が一目連を指名したのは意外と助かることでもあった。
928: 弥次郎 :2022/01/17(月) 23:23:41 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
一頻り感嘆し、差し出されたドリンクチューブから水を飲んで乾いた喉を潤した悠陽は、しかし興奮を隠すことなく続けた。
「音に聞いてはおりましたが、連合の持つ技術というのはすさまじいものがありますね。
この船……ホエール、キングでしたか?このように空を飛ぶ船など、考えはしても実現できるわけがないと諦めていたことでしょう」
「恐縮であります。本国の技術者たちが聞けば、大いに喜ぶことでございましょう」
「……いずれは、帝国もその技術を学ぶことができればよいのですが」
悠陽とて、学んでいることだ。技術と経験の積み重ねこそが、今日の戦いを形成していると。
そして、時には自ら見出すだけでなく、外から学ぶということも必要であると。
彼女は、国家が、そしてその民が国粋に傾倒する傾向があることを知っている。
それに至ることとなった経緯も切欠も、その原因の原因についても、よく調べて、よく知っていた。
感情として理解できなくもない。屈辱とさえ思えることもあるだろう。しかし、それで納得しなくてはならないこともあるのだ。
(なんの因果か、私は将軍職を預かる身となっている…なればこそ、出来ることがあると信じたい)
他方、それを聞く一目連は回答に躊躇した。
今のところ、連合の支援は技術供与などは二の次で、根本的な支援、つまり衣食住や医療などに重点が置かれていた。
何しろ直近の大問題であったからだ。控えめに言って、帝国の領土や国家としての体裁は破綻寸前。
食料も資源も何もかもがBETAとの戦いに費やされ、余力に事欠く有様だったからだ。
よって連合は格安での食料の提供や住環境の整備、特に大地の汚染から国民の健康を守る方へと注力していたのだ。
連合がやればよいだけであるのですぐに導入でき、効果が望めるために、急ぎで出すことができたのだ。
だが、悠陽が望むような高度な技術を提供し、学んで吸収してもらうには時間がかかる。
平然と連合が使う技術一つをとっても、この世界と連合との間では極めて大きな格差が存在する。
余力に事欠き、潰れる寸前の国家においてどこまでそれを吸収して実用化することができるか、正直なところ不明だ。
(……今はまだ、彼女らがまだあきらめていないということを知れただけ、良しとしよう)
今優先すべきは、直近の作戦だ。
この作戦を成功させることが、連合に対する心証をよくすることにつながるのだ。
そして、現状の帝国において功績をもって現将軍の権威を高め、帝国の政治の流れを握ることにもつながる。
(まったく、内ゲバには全力というマブラヴの世界らしいというべきかな……)
無理もないことではある。人間など、三人集まれば派閥ができてしまうのだから。まして国家というレベルの集団ならばなおさらのこと。
この作戦は成功が前提だ。だから、いかにうまくやるかが、最大の問題となってくる。
相手がこれまでの侵略者と比較すれば弱いBETAだからという理由で油断はできない。
そして、作戦エリアが近いことを告げる艦内放送を以て、一目連は悠陽と一度別れを告げ、格納庫へと向かう。
間もなく戦場。これよりは、一切の油断のない領域だ。要人を守りつつ、しかし、同時に戦ってもらうという絶妙な調整のいる戦い。
一瞬の油断がクライアントの死につながりかねないのだから、責任は重大だと改めて気を引き締めた。
929: 弥次郎 :2022/01/17(月) 23:25:00 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
- β世界 日本列島 近畿地方 ホエールキング艦隊揚陸予定地点
揚陸地点の確保とは、案外忙しいものだ。
押し寄せてくるBETAを駆除しつつ、衛星軌道上から降下してくる戦力の展開までの時間を稼ぎ、陣地形成まで支える。
言うことは容易くとも、やるは難しいのは当然。押し寄せるBETAの数は多いわけであるし、包囲状態がデフォルトだ。
全方位が敵だらけであって、それに対応するためには相当な数を揃えなくてはならない。
加えて、長時間地点を確保し続けるというのは、それだけ戦闘時間が延びるということ。
これが戦術機だったら速攻で弾切れだな、とタケミカヅチは愛機フツノミタマの中で思う。
(まあ、動く壁っていう役目は適しているかな)
フツノミタマが背部のホーミングレーザーキャノンから放つレーザーの嵐でBETAを焼き払う。
そう思った次の瞬間には大型の要塞級をピンポイントで手にした直刀により裁断し、バラバラにする。
QBとQTによる音速を超えた機動と旋回、そして加速による蹂躙は、尽きることのないBETAの群れを確実に削っていく。
この漸減を行うのにふさわしい「動く壁」という役割はまさにフツノミタマに適していた。
機動力に重きを置く軽量二脚なのだ、こうやって前線で動かしてなんぼというところがあるためだ。
動きを抑えて火力と殲滅力を発揮するのは重量二脚やタンクなどの役割であるので、そこは任せるしかない。
幸いにして、タケミカヅチら先遣隊による地点確保は順調にその支配エリアを拡張しつつあった。
ホエールキングの主砲の一斉射により流れを分断し、その空白をネクストやハイエンドノーマル、そしてMSで支え、広げ、大きくした。
既に揚陸地点の拠点化も順調であり、作戦の第一段階に関してはほぼ完了といってもよいだろう。
問題となるのは、ネクストやMSといった高性能なコンピューターを積んだ有人兵器をBETAが探知し、優先して狙ってくることか。
そういう性質であるとはいえ、このままでは作戦エリアである旧京都までたどり着くまでにバテかねない。
まあ、普通ならば、と枕詞が付く。
ホエールキングに艦載されているのはMSだけに限らず、レッドホーンなどのMAも含まれているのだ。
それらが前衛となって道を開き、さらには艦載機によるアンチレーザー爆雷の集中投射によるバトルフィールド形成もある。
これだけやれば、戦術機であっても安全にBETAと戦闘をして、目標達成をすることができるだろう。
「あとは、ここでの活躍次第……!」
大型のレーザーブレードで一気に薙ぎ払う。
それは、直接刃で切り裂かなくとも、剣の圧で大地がめくりあがり、小型種が吹き飛び、死んでしまうほどの威力。
「!?」
その直後に不意に地面が揺れ、意表を突くように遠方の地面を割って母艦級が三体も湧いて出てきた。
なるほど、よほどBETAは数が余っているようだ。ならば、やることは一つ。
「排除する」
『お願いします』
オペレーターにそう伝え、一瞬でフツノミタマは音速を超える。
吐き出される要塞級や突撃級などを手にしたライフルとホーミングレーザーキャノンで順々に焼き払う。
相変わらずのものすごい物量だ。ただ、個体ごとがそこまで強くない。そして、全滅させる必要がないから、タケミカヅチは加速を選んだ。
(前へ!)
ほんの数秒で距離を詰め終えたフツノミタマは、その大型レーザーブレードを以て吶喊。
中央の母艦級を下からえぐり上げるように貫いてのけた。まるでゴムのチューブのように、要塞級は下から圧迫されて形状を拉げさせる。
「でえええぇぇぇぇい!」
そして、フツノミタマはその程度では止まらない。
レーザーブレードで貫いた状態で固定させたまま、一気に加速を後ろへと叩きこむ。強く、強く、ただひたすらに強く。
930: 弥次郎 :2022/01/17(月) 23:27:46 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
するとどうなるのか。
ネクストという機動兵器がもつ力を解き放った行動が何を招くのか?
それは単純、ネクストの膂力と推力を以て、母艦級が地面から一気に引き抜かれていくという現象だ。
(気持ち悪いほどに長いな……)
持ち上げ、後方にひっくり返していくが、地面を割って胴体がまだまだ伸びてくる。
母艦級はトンネルボーリングマシンの様なものだという説明を聞いたが、なるほど納得がいく。
もがくようにして母艦級が逃れようとするが、そうはさせない。
「いっけけええええ!」
OBを起動し、一際推力を叩き込み、それと共に母艦級を大型レーザーブレードごと投げ飛ばす。
10mと少しという小型の人型が㎞単位の母艦級を振り回すのは、とんでもない光景だった。
そして、投げ飛ばされれば、重力に従って母艦級の3㎞近くになる巨体は倒れていくはずだった。時間にすればほんの数秒の後に発生するだろう。
だが、その数秒で確実な殺害---というか処分は完了できる。
両腕部のレーザーブレードが展開し、レーザーの刃を発振。
フツノミタマは起動状態だったOBの推力の向きを変え、一気に襲い掛かったのだ。
二段QBも連続で叩き込んでの剣戟。まさしく瞬く間に、母艦級はその胴体を裁断されていた。
「これでしまいだ」
そして、支えを失って上空から落下してきた大型レーザーブレードをキャッチし、タケミカヅチはとどめのレーザーキャノンを放つ。
ホーミングするそれは、それぞれが生きているかのような軌道で生き残っていたBETAを、母艦級の断片をさらに焼き尽くす。
終わってみれば、圧倒的な長さと積載量を誇っていた母艦級は、その体内のBETAともども活動を停止させられ、燃え尽きていた。
「次だ!」
だが、それで満足はしない。
次の瞬間に反転したフツノミタマは、次なる母艦級へと背後から襲い掛かっていく。
今度は先ほどとは逆に、上から突き立てるように大型レーザーブレードを振るい、強引に動きをねじ伏せた。
無理やり動きを止められた母艦級はもがくが、その力はネクストを超えられない。OBで強引に地面へと押し付けられているのだ。
そして、そうしている間にホーミングレーザーキャノンはリロードを完了させ、照準を合わせ終えていた。
地面からその巨躯を晒した時点で、ここを撃ってくれと言っているようなものなのだ。
「くたばれ」
放たれたレーザー光が母艦級の体を文字通り串刺しにし、穴だらけにしてのける。
内部のBETAもろとも焼き尽くされた母艦級は最後のあがきのように前に進もうとして、しかし、活動を停止させる。
ドシンと、その巨体が崩れた衝撃と音とが大地を揺らした。それは、多数のBETAを巻き込んでの、大きなものだった。
一息ついたところで、残る一体の母艦級がほかのネクストにより排除されていることに気が付いた。
どうやら、口を開けたところにグレネードを大量に撃ち込まれ、強引に蓋をさせられたようで、内側から破裂したようになっている。
えぐいな、と思いつつも、周辺を索敵。BETAの群れはどうやらひと段落したようだ。
(来たな……)
そして、近接火器で周辺のBETAを叩きながらホエールキングの群れが近づいてくるのが見える。
いよいよを以て、本番。これまでの戦いなどまだ序盤にすぎない。
帝国がその矜持と力を示すことができるか、その試練の時が迫っていた。
931: 弥次郎 :2022/01/17(月) 23:28:23 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
次回から帝国軍の出番となりますね。
最終更新:2022年01月20日 11:06