801: ホワイトベアー :2021/12/30(木) 22:00:46 HOST:sp49-98-7-177.msb.spmode.ne.jp
日米枢軸ルート 外伝 タクール・ハー山頂の戦い3

西暦2008年 グリニッジ標準時11月17日午前1時30分

タクール・ハーでの戦いは、ほんの15分前までの静かさが嘘だったかのように再びその激しさを増していた。この頃になるとアルカイダ側はすでに、私たち、404分遣隊がヘリコプターから岩場にその身を移している事を把握したようでヘリコプターへの銃撃を停止。その攻撃の対象を私達と援軍として駆けつけてきた109分遣隊が潜む岩場に限定し、積極的に自動小銃や機関銃の弾を浴びせてきていた。

しかし、そのすべては私達のメンバーに当たることはなく、ただただ、私達の目の前にある剝き出しの岩に細かな凹凸を創るだけだった。無論、こちらも負けてはいない。手厚い歓迎をしてくれているお返しとして、タリバン兵の脳天に6.2mm弾を正確に叩き込む。

人間や普通の自動人形と違って、特殊作戦用自動人形である私たちは夜間であっても昼間のようにはっきりと相手の姿や周囲の状況を視覚できる。対してアルカイダ側はろくな夜間戦闘装備を有しておらず、当てずっぽうで撃つしかない。ろくに光の差さない夜間に差は歴然で、それ故に圧倒的なまでの数的不利を負いながら私達は時間を稼ぐことができていた。

「どうやら、タリバンは命だけじゃなく銃弾まで惜しくないようね」
「命のバーゲンセールを開く人間にとって弾なんていくらでも浪費していいってことでしょ。あの世で弾は使えないんだし」

この頃になると、タリバンからの奇襲攻撃を喰らった時と比べても部隊に漂う空気は遥かに軽くなっていた。自然と余裕そうな顔で軽口を叩きあえる程度には。

とは言え、油断はできない。タリバンは無駄に浪費しても気にしないだけ弾丸を有しているものの、こちらはそうではないのだから。ガンシップが空から援護をくれた時に、私たちを運んできたヘリコプターだったものからいくらかの弾薬は回収できたものの、それでも、こちらの弾薬は潤沢にあるとは言えなかった。
さらに、少なくない数の戦闘員を無力化したといっても、依然として数は向こうが優勢である。仮に彼らがタコつぼから出て総攻撃を仕掛けてきたら私たちは最終的には敗北を迎えてしまうだろう。

そんな事を考えていると敵が籠るタコツボからの銃声と合わせて、遮蔽物として利用している岩の向こうから何度も爆発音が鳴り響き始めた。

「どうやら敵は手榴弾による攻撃に切り替えてきたようだな。まあ、考えとしては悪くない。ただ、私たちのところまで投げれる可能性が低いことに目をつむればな」

肩を竦めながら109分遣隊のワンシックスは言う。こいつと意見が会うことは癪だが同意見だ。私たちの籠る岩場とアルカイダ側が籠るタコツボまで50メートル以上離れている。普通に考えて届くわけがない。

実際、彼らが投げた手榴弾は、その全てが私たちのいる岩場まで届くことはなく、ただ雪をまき上げるだけであった。

「45姉、やっちゃう?」

ナインはグレネードランチャーがついてる自身の65式自動小銃5C型を構えながら笑顔で問う。

「そうね。適当に撃ち返して」

アイサー♪、フォーファイブの答えを聞いたナインはいつもの笑顔を崩さずに応え、無邪気かつ嗜虐的なほほ笑みを浮かべた109分遣隊のフォーツーと一緒に、グレネードランチャーを敵のタコツボ目指して放つ。

点目標でも150メートルの射程距離を誇る66式擲弾筒から放たれた二発のグレネード弾は、タリバンの手榴弾とは違いしっかりと標的であるタコツボ陣地まで届き、タコツボに籠る戦闘員達を吹き飛ばした。

802: ホワイトベアー :2021/12/30(木) 22:01:23 HOST:sp49-98-7-177.msb.spmode.ne.jp
「これでもう暫く時間は稼げるでしょぉ。あと5分ちょっとで猛鷲が到着するし、早く基地に帰ってラムレーズンアイスを食べたい」

手榴弾を投げようとしていた戦闘員を狙撃していたイレブンがそうつぶやく。まったく、怖がりな癖にこういうところはマイペースなんだから。ある意味、大した精神なのだろう。

手榴弾やグレネード弾の爆発音や銃声をBGMに引き金を引いていると、甲高いジェットエンジンの音が聴覚センサーに入る。それから間をおかず、通信機が入ってきた。

『こちらエンジェル04、無事かい?お嬢さん方』

無線からここにはいない男性の声が聞こえてくる。どうやらバクラムから来た航空支援が到着したようだ。当初の予定通り私が担当する。

「こちらエンハンスド、無事とは言えないけどまだ持ちこたえてるわ。こちらの位置と状況はわかるかしら」
『ああ、無人機から情報を得てすでに確認している。それで、俺たちはどこにこいつをばらまけばいい?』
「上々。すぐに攻撃目標をそっちに送るわ。」
『・・・受信した。一度旋回してから攻撃を加える。注意せよ』
「了解、盛大にやってちょうだい。」

そういうや、ここにいた全員は爆音で聴覚センサーがやられないように耳を覆い、蹲る。時間をおかず1機の猛鷲から2発の250キロ爆弾が投下され、山頂が激しく光り、間を置かず爆風と、舞い上がった雪や土煙りが山頂を支配する。

降りかかる土流が落ち着くや否や、爆撃の効果を確認するために急いでタコツボを見る。爆弾は陣地に大したダメージを与える事は出来なかったが、アルカイダの戦闘員達は突然の爆撃に驚いたのか空に向かって自動小銃や対空砲を撃ちまくっていた。

「こちらエンハンスド、爆撃は命中せず、その効果は認められない。再度の爆撃を要請する」
『エンジェル04、了解。これより再度攻撃を加える。注意せよ』

再度突入した猛鷲から2発の250キロ爆弾が投下される。再び閃光と舞い上がった土煙に山頂が支配され、タコツボ陣地は対空砲と一緒に盛大に吹き飛んでいた。
どうやら、対空砲と一緒にタコツボ内の燃料か弾薬も巻き込んだようで、タコツボ陣地から激しい火柱が上がっていた。
タコツボ陣地内で動きはなくただただ怒号と悲鳴、うめき声が聴覚センサーから届けられるだけだった。

『エンハンスド、こちらエンジェル04、爆撃効果は?再度の攻撃は必要か?』
「こちらエンハンスド、直撃よ。アルカイダは対空砲ごと月まで吹っ飛んで行ったわ」
『了解。燃料ビンゴまで待機する。必要であれば読んでくれ』

そう言い、猛鷲達は山頂付近を旋回しながら待機する。まるで私達の守護天使であるかのように。


西暦2008年 グリニッジ標準時11月17日午前1時40分 タクール・ガール山頂付近上空

空気を切らす音を盛大に鳴らしながら、闇に支配された空を4機のCH-32大型輸送ヘリコプターが飛んでいた。
その中には計100名の勇猛果敢なレンジャー達が窮地に陥る戦友を救うべく席に身をやつしており、このまま行けば404分遣隊や109分遣隊がタリバンと戦闘を繰り広げている半キロ後方に設置されたランデングゾーンに彼女達を降ろす筈だ。

『マジック、こちらゴールディーガー04。着陸地点に接近中』
『こちらマジック。了解した、ゴールディーガー。そのまま継続してくれ。』

前線司令部であるマジックとパイロットの通信が耳に入る。
いくらアルカイダの陣地にある対空砲を撃破したと言っても、敵前にCH-32の巨体を晒せば、再び彼らが装備するパンツァーシュレックⅣの餌食になる可能性が大きなリスキーな作戦と後に言われることになるが、パンツァーシュレックⅣの射程距離は練度の高いドイツ陸軍落下傘猟兵ですらせいぜい300メートル程度、ろくな訓練も受けていないタリバン戦闘員なら100mをきる程度しかない。

803: ホワイトベアー :2021/12/30(木) 22:02:20 HOST:sp49-98-7-177.msb.spmode.ne.jp
念のために300メートルの安全マージンをとった着陸先に部隊を展開させるが、本来ならもっと近づいて部隊を展開させる事も可能である。

『着陸30秒前』

レンジャー達は席から立ち上がる

『着陸5秒前』

「仕事の時間だ。全員気合を入れろ」

先遣隊の隊長がそう言い終えるのと同時にランプドアが開き終わり、20名弱のレンジャー達が次々とヘリの外に飛び出るように展開。他の部隊が展開する着陸地点の安全の確保する。

彼女らの上空では3機のヘリコプターが三三式回転式6連装機関銃を下界に向けており、何かしらのトラブルが発生した場合は即座の援護を可能としていた。

「レーザー04よりゴールディーガー01。着陸地点に驚異は認められず」

『ゴールディーガー01了解。計画通り部隊の展開を継続する。』

部隊司令部の乗る《ゴールディーガー01》からの命令により《ゴールディーガー01》《ゴールディーガー02》《ゴールディーガー03》は相次いで高度を下げ、逆に先遣隊を降ろした《ゴールディーガー04》は高度を上げていく。

高度を下げた3機のゴールディーガーから何本かのロープが降ろされ、レンジャー達が次々と開かれたランプドアから降下していった。先遣隊の展開からわずか2分程の時間でレンジャー達は完全に展開を完了。

「隊長、全部隊展開完了しました。」

「わかった。部隊を三班に分けて全身を開始。セーラー達を救うわよ」

レンジャー達の到着は山頂の404分遣隊らやアルカイダ達も理解していた。

「レンジャーが到着したようね」

フォーファイブはそう口にする。

「これで勝負は決まったな。それで、これからどうする?」

「急ぐことはないわ。援軍の到着を待ちましょう。幸いグレネードは大量にあるし、嫌がらせでもしながら」

それもそうだな。そう言うとワンツーとナインによるハラスメント攻撃を続けていった。

5分ほど経つとレンジャーの救援が到着。

「待たせたわねセーラー。」

レンジャーを率いてきたシロはそうフォーファイブに声をかける。

「救援感謝します。本来なら詳しい自己紹介もしたいところですが、なにぶん時間が迫っているので作戦会議に移りたいのですが、よろしいでしょうか?」

「ああ、構わない。」

短く挨拶を交わすやいなやフォーファイブとシロは敵情と攻撃方法についての打ち合わせを始めた。

804: ホワイトベアー :2021/12/30(木) 22:04:02 HOST:sp49-98-7-177.msb.spmode.ne.jp
「敵の陣地は上の守護天使が250キロ爆弾で吹き飛ばしたので大きな被害を追っています。しかも、現在は統制が取れていない可能性がかなり高い。」

「確かか?」

「はい。小型の偵察ユニットを使って調査した結果、どうやら敵の大将が爆撃で吹き飛んだらしく、指揮系統が崩壊しているようです」

「素晴らしいな。なら攻撃方法は簡単だ」

「シロ大尉のご意見は?」

「20人からなるチームを2つ編成して突撃する。歩兵教則の基本。ムーブアンドシュートで攻めるぞ。」

「・・・危険では?」

「危険は承知の済みだ。正義の鉄槌作戦開始まで時間が無いからな、上は早急な山頂の確保と偵察拠点の確保を望んでいる。」

そう言うと、彼女は副官に指示を出してレンジャー部隊から突撃部隊を編成。タリバン陣地への攻撃を開始する。

レンジャーの到着によりタクール・ガール山頂を巡る戦いの決着は一気に日本軍側に傾いた。レンジャー達はムーブアンドシュートによりタコツボ陣地に突撃を敢行した。

日本軍の突撃を阻んでいた機関銃陣地は、グレネードランチャーにより沈黙。
自動小銃を持った戦闘員達も暗闇で周囲が確認できず状況の判断つかなかった事や、爆撃による混乱から立ち直れていなかったことから、小刻みに射撃と突撃を繰り返す日本軍に対して左右に銃口を降るばかりで引き金を引けなかった。

タコツボ陣地まであと15メートル程のところまで接近すると、突撃していたレンジャー達は突撃を停止。一斉にグレネードをタコツボに投げ、タコツボ陣地は沈黙させる。

その後、レンジャー達はタコツボ内に突入し、生き残っていた戦闘員達を射殺し、日本軍は山頂を掌握した。

「レーザー01よりマジック。山頂を確保した。繰り返す山頂を確保した。」

『こちらマジック。了解した。機材と人員を載せた輸送ヘリコプターをそちらに回す。それまで拠点を確保してくれ』

「レーザ-01了解。」

『404分遣隊と109分遣隊は破損した自動人形と一緒に上空で待機しているゴールディーガーで基地へ帰途せよ。』

「了解です」

「了解しました」

通信が終わりしばらくして、上空で待機していたゴールディーガーが高度を下げ、ランプドアを地面に設置させる。

「シロ大尉、救援ありがとうございました。これからの健闘をお祈りします」

「ああ、貴方達の検討も祈っている」

挨拶を終えると、404分遣隊と109分遣隊は輸送ヘリに乗り込み、猛鷲と共にこの戦場を後にする。

しかし、レンジャー達はこの場に残り、偵察部隊と機器を載せたヘリコプターが到着するまで山頂を維持しなければならない。

夜はいまだ明けず、漆黒の闇だけが世界を支配していた。

805: ホワイトベアー :2021/12/30(木) 22:04:36 HOST:sp49-98-7-177.msb.spmode.ne.jp
以上になります。wikiへの転載はOKです。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2022年01月20日 12:27