749: 陣龍 :2021/12/29(水) 15:19:11 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

【女神】と成る【戦艦】の『彼女』


――――また、なのね


 見慣れた設備、聴き慣れた音。この身に感じる全てに幾度もの『既視感』を改めて感じる。何故ならば、
これは何度も『経験した』事だから。



――――もし神が居るのならば、どうしようもない程暇なのね



 工員たちの喧騒と、それをかき消す艤装の音。据え付けられる自身の主砲、主機、艦橋、装甲、設備。
何もかもが『何時ものあの日から変わらない』。


――――私の名は、リシュリュー……戦艦、リシュリュー


 建造が進み、進水式が始まろうとしているその日、『彼女』は目覚めた。



――――……何時になったら、私は『終わる事が出来る』のかしら


 フランス人が様々な歓声と歓呼の声を上げる式典を、何も活力を感じさせないぼんやりとした目で見つめながら、
生まれながらにして疲れ切った『彼女』は、ため息を吐いていた。


――――……え、進水式?


 今まで聞く事も無かった、『進水式』と言う単語を耳にした自分を疑いながら。



 物言わぬ鋼鉄の塊だった戦艦リシュリューに『意識』が何時宿ったのかは、当のリシュリュー自身も良く覚えていない。
船体が組み上げられている時だったかも知れないし、船体が出来上がった時かも、また艤装途中で脱出の為に
無理矢理進水した頃だったかも知れない。曖昧ながら覚えている様にも思えるし、そうではない様にも思えた。


 はっきりとした記憶に残り続けているのは、建造途中での対独、ひいては世界大戦が勃発し、ナチスドイツ軍によって
偉大『だった』フランス大陸軍はあっという間に細切れに叩き潰された末、航行可能だったフランス艦艇はナチスの鹵獲から
逃れるべく艤装も終了して居ないままで国外へ逃走。そして本来友軍で有った筈のイギリス軍が航空攻撃と
戦艦バーラムによる砲撃戦による撃沈を目論み、何とか撃退した後は正式に自由フランス軍所属艦として、
アメリカの工廠で修理を改装と共に受けつつ、味方撃ちをして来たイギリス海軍の艦隊に属する形で戦争に参加し続ける形となった。
だがその後は、手頃な敵艦と遭遇する事が無かった事や、また自由フランス軍の貴重な戦力で有る事等からか、
政治的には兎も角軍事的には実質『居る事だけが任務』も同然の戦歴のまま、終戦を迎えた。祖国を侵略したナチスドイツを
叩き潰したのはアメリカとイギリスとソ連。その同盟国だった日本を下らせたのはアメリカ。戦艦リシュリューは、
様々な面で仕方が無い事とは言え、ずっと後方に居座った形のままであった。

750: 陣龍 :2021/12/29(水) 15:21:01 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

 蝕雷の様な小さい損傷をした他は大きな戦果も損傷もする事無く終戦を迎えた戦艦リシュリューは、
その後兵員輸送を護衛し沿岸への艦砲射撃をするのみで、華々しい艦隊決戦も熾烈な航空攻撃に晒される事も無く、
1958年に予備役となった後、1968年の1月にQ432に改名されてリシュリューの名も失った末、その年の9月に解体された。
客観的に見れば、乗員の殆どが死ぬ事無く無事生き残れた事は事実だが、それでも『戦艦』として思う所は多々有った。
とは言え、あくまで『リシュリュー』は唯の【戦艦】でしか無く、何事を言う事も出来ずに、ただ諦観と共に解体されるがまま、
意識は消え去った。


――――何時もなら、中途半端な艤装のままで、ナチスと開戦して、必死に国外逃亡する頃に【起きる】筈なのに……



 初めての風景に困惑しながら、各種艤装を完了した『戦艦リシュリュー』の姿を、艦橋から見下ろす『彼女』。十を、百を、
千を、万を優に超え、既に数える事も飽き果てた『意識の始まり』の記憶では有り得ない艦影は、紛れも無く初めての【イレギュラー】であった。



「ほんっと攻走守全てに優れた良い戦艦になったもんだ。我が国の建造能力も案外オランダ帝国に負けていないと言っても
過言では無いのかもしれんな」
「十中八九過言だろうし、そもそもこのリシュリュー級の比較対象が量産重視のサウスダコタ級だからなぁ……」
「……海軍軍人としては言ってはならんのかも知れんが、俺としては海軍戦力より陸軍装備の方が不安なんだがな。
近所の生意気盛りだったヤツが、この前の休暇で里帰りした時に『大戦戦車が実質主力ってどう言う事なんですか…』と泣きながら酒飲んでたぞ」
「無いモノ強請りしても天から降って来る訳でも無し、イギリスかアメリカから買うしかない気がするがな」
「自動車の発明国は我が国なのに、どうしてこんな事に……」

――――……えっと、一体何を言ってるのかしら?確かこの頃にはソミュア社のS 35が有った筈だけど



 勝手知ったる我が身(艦内)を超えて、情報を求めて工廠内を彷徨う中、視察か何かで来ていた様子のフランス海軍士官たちの
会話が耳に止まり、彼らの真横で立ち止まり情報を聞き出す『彼女』。幾多の記憶と此度の事態に置いても、誰一人として
認識されていないからと言っても、割と大胆な行為である。



「しかし何度も思うが、幾ら量産効果で安いとは言っても、このリシュリューの強さを見ているとあんな鈍足戦艦よりコッチ量産する方が良い気がするな」
「量産する程カネと資材が有れば、な。しわ寄せで陸軍装備がさっき言ってたように大戦時代の焼き直しが有れば良い方だし」
「分かっとるわい」



――――……サウスダコタ級は立派な高速戦艦だった筈だけど……一体、どう言う事なの、それって……



 そして聞けば聞く程に、何だか今まで聞いた事も無い良く分からない情報が次々上がって来る内に情報が飽和して来て疲れた『彼女』は、
取り合えず目頭を抑えつつ艦内へ戻る事とした。

751: 陣龍 :2021/12/29(水) 15:22:26 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp

「……一体、何がどうなっているのよ」


 『意識』が戻り、そして疲れたりすると何時も行く艦長室に入ると、『彼女』は一人溜息と共に言葉を溢した。
精神が擦り切れそうなほどの繰り返しにて感覚が麻痺しきっていたが、新しい情報と光景の嵐は、
『彼女』に取って色々な意味で刺激が強すぎた。


「……おい、君、お嬢さん。一体何処からこんな所に入り込んで来た?」
「……ほえっ?」



 そして追い打ちを掛けるが如く、怪訝な表情で『彼女』をしっかりと見据え、問いかけて来た海軍士官に対して、
まさか声を掛けられるとは夢にも思っていなくて間の抜けた声と顔で振り返った『リシュリュー』。今大戦に置ける、
決して表沙汰にされる事の無い新たな【歴史】は、この二者以外の誰にも知られる事無く、静かに始まった。






 第二次世界大戦が終結し、そして戦艦リシュリューを祀り上げたプロパガンダが原案策定者の想像を遥かに超えて
制御を失い、フランスと言う国家全てを覆う神話へと突き進んで久しい頃。リシュリューを信奉する兼ね合いにて
乗組員らの日誌等が精査、編纂される様になり、国家予算にて進められていたが、その際にとある士官がまるで
リシュリューが実在する女神であるかの如く仄めかしていると言う資料が一部見付かった。だが極めて残念な事に、
その士官は終戦後にリシュリューに必要な資材の調達の為に上陸したその日、フランス本土で発生した
各種テロ行為やクーデターに巻き込まれて死亡が確実視される行方不明となっており、また少しでも情報が有るかと
その士官の家族や自宅等も捜索されたが、同じくクーデター騒動に付随した治安悪化の巻き添えで焼け落ちたり
殺害される等しており、詳しい情報は今も尚分かる事は無い。現実的に考えれば唯の冗談と片付けるのが正解なのだろうが、
それでもリシュリューに夢を見る一定のフランス人は『女神』の情報を求めて彷徨っていた。



 彼ら、彼女らの『夢』が真実か嘘なのかは、いつの日にか分かるのかも知れない。

752: 陣龍 :2021/12/29(水) 15:26:48 HOST:124-241-072-209.pool.fctv.ne.jp
モントゴメリー氏経由でFFRにプレゼンした内容:一兆フランの光景たるエッフェル塔とシャンゼリゼ通り

実際に出来上がったモノ:段ボールと厚紙で作った街と塔っぽいナニカ


(´・ω・`)(無言の割腹準備)

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最終更新:2022年01月20日 12:57