884 :SARU ◆CXfJNqat7g:2012/02/13(月) 01:25:38
一寸長目(約5k)ですが、ここに投下します

※今回のネタについて
実在する個人・団体・企業・ハハッとは一切関係はありません
尚、以下に登場する実在っぽい固有名詞について言及する場合は、作中からコピー&ペーストする事を強く推奨します

マジョオレンジとの約束だぁっ!









或る成り上がり者の足跡

──196x年 加洲共和国アナハイム

園内は老若男女どころか人種すら問わず、雑多な観客(ゲスト)が楽しんでいた。様々な造形の着ぐるみを含む従業員(キャスト)達が或る者は徒歩で、或る者は施設の中で、或る者は飾られた山車に乗って応対する。
勿論、観客達を楽しませるのはそうした人々だけではない。スリルを追い求める余り高度や速度を競いつつその実ありふれた物とは一線を画した、園内世界の一部を模した様々な乗用遊戯機器群も陳腐化や老朽化による淘汰を繰り返しては常緑樹の如き新鮮さを保っている。
遊び疲れ、又は食欲や喉の渇きを覚えた観客の為には特徴的な連結した放物線の意匠が園内限定の(一寸、値の張る)特製ランチを用意している。勿論、園内第二の人気者と同じ名を持つ道化も時折姿を見せる。
場内に遺棄、放置された塵芥はいつの間にか消えており、観客達に無粋な印象を与える事が決して無い様に配慮されている──その作業に従事する、特定の集団に属する人々も。
近隣の野球場では地元球団目当てに客席を満たした人々が、やはり放物線の意匠を付けた売り子から軽食や飲み物を買っている。常設店舗は企業街の胃袋を満たしているのと同じ店構えの物と廉価メニューを中心としたセカンドブランドがあり、後者に集う人々は前者程雑多としてはいない。
これらの光景を見た日本人はこう述べるだろう──「加洲共和國は通常運行」と。

それ等は生来の物では無い。
某かの意図が働いた結果だ。

885 :SARU ◆CXfJNqat7g:2012/02/13(月) 01:26:16
“シン・ドゥ(Shin Do)”──夢幻会内部での“彼”の呼称だ。“彼”の本名(と推測される物)と“ジョン・ドゥ(John Do,「身元不明の男性遺体」、転じて「氏名不詳の男」)”を掛けた物だが、現在は東洋系の実業家マック・リー(Mac Lee)として知られている。
ディズ二一、マクドナノレド、アナハイム・ダックス等々、加洲共和國の優良企業を傘下に持つサンセット・エンタープライズの総帥だ。

“彼”が何時、如何なる方法で渡米したかは未だに定かではない。夢幻会が把握した時点で既に現在の名義でヒスパニック系やメキシコの安価に過ぎる労働力を用いた食品加工業や菓子製造業で一財産を築いていた。
外見や言動から素性については恐らく彼の半島出身者ではないかと言われているが確証はない。日米戦というか津波──『衝』号作戦──に端を発したアメリカ風邪や内戦、治安悪化による混乱で戸籍に相当する各地の出生証明が失われた中からリー(Lee)という姓を選んだのも、
字面だけでは果たして白人なのか黒人なのか、東洋系でも支那人なのか満人なのか朝鮮(韓國)人なのかまるっきり分からない一種の無国籍な名前だからだと推測される。少なくとも帝國の勢力圏出身を騙って現地の財界と渡りを付けた事は確かだ。

食文化保持や食糧自給の観点から『脱牛育鶏』をスローガンに掲げた農水官僚の方針によって牛肉が高級化した帝國本土は兎も角、加洲共和國は地産地消の観点から牛肉を日常の食卓に供し続けていた。
しかし、旧米國文化の精髄とも言えるハンバーガーがそれなりの価格帯に落ち着くと、大量生産大量消費を基本とする安価なファストフードとしては成立し難くなって行った。特に人口比でそれなりの勢力を誇るも、半ば公認の賤民階層となりつつあったヒスパニック系には事実上手の届かない物となっていた。
“彼”が目を付けたのはそこだった。
事業展開が頭打ちになっていたマクドナノレドの株式を取得するや否や、ヒスパニック系が殆どを占める低所得者層向けセカンドブランドとして『マックテリア』の設立を提案したのだ。
安価なメニューを実現する為、使用する食材についても徹底したコスト切り詰めが行われた。
ブランドが売りにしている百パーセント牛肉パティの代用に食肉加工時の切り落とし肉は言うまでもなく、ドイツ系ソーセージ職人の助言を得て廃棄品である一部の内蔵を混ぜた廉価パティを考案し、半ば燕麦を混ぜたバンズ(麺包)や付け合わせの野菜共にメキシコに設立した専用ラインで大量生産した。
従業員にもヒスパニック系を雇用し、安普請である店舗改装の段階から完全に教本化されて教育の無い人々を安価な労働力として動員する体制を確立、加洲共和國だけではなく周辺諸国の低所得層に食い込んだ。

この功績でグループ企業の社長に就任した“彼”が次に狙ったのはディズ二一である。
日米戦以前より加洲に大規模遊興施設を建設する計画はあったのだが、地元大学の研究でディズ二一兄弟の構想した物とは桁違いに大規模でなければ商業的成功は難しいという結果が出た事と戦中戦後の混乱から頓挫しかけていた。
“彼”は政財界にこれを公共事業として推進する一方、将来の開園に備えて各種の芸人(エンターテイナー)を確保すべく尽力した。一時期、ラスベガスの通称“ガンホー・ファミリー”と芸人の引き抜きで衝突したが、ヒスパニック系の人脈を通じて当面の相互不可侵──将来的には相互に興業を行う事で決着した。
開園迄の繋ぎとしてテレビ放送や巡業を行い、時に球団拡張時に設立したアナハイム・ダックスの試合中継でキャラクター達が闊歩する姿は情宣活動の成功例とまで言われ、当時半ば穏静していたゲッベルス博士がそれを見て独宣伝省に喝を入れに来たとまことしやかに囁かれていた。
195x年、アナハイムの地に無事開園を迎えたディズ二一ランドは現在進行形で経済成長を続ける加洲共和國民へ飽く事無き娯楽を提供している──

「聞いたか? やっこさん、半島南端近くの島一つ丸々買い取ったらしいぞ」
「ケッ、故郷に錦を飾るつもりかよ。食品分科会『司徒派』の一員として“聖なる菓子”を汚させはせん!」
「ああ、アレを期待してたらマシュマロの代わりに変なクリーム入った奴が出て来た時の絶望感ぱねぇ」
「『御門派』も忘れないでくれ。中に入れた方は創意工夫として認めてやるが、パチモンが記念日まで朴李やがって……」
「でも上からのお達しは『帝國に害を及ぼさない限り放置』だ。当面は生温かい視線で見守るだけだ」
「間違っても浦安に東京なんちゃらは出来ないし作らせない」
「はぁ……」

つづかない

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最終更新:2012年02月24日 22:07