150: 弥次郎 :2022/01/20(木) 23:09:56 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「煌武院、立つ」4
- C.E.世界 融合惑星 β世界 日本列島 旧近畿地方 旧甲賀市 ホエールキング艦隊着陸地点
連合の先遣隊と衛星軌道艦隊の合同で確保された拠点に、ホエールキング艦隊は着陸した。
BETAに均されているとはいえ、この旧甲賀市周辺の山がちの地形は未だに遮蔽物として有用であった。
それに目を付けた連合はここを仮の拠点として制圧を実行して、ホエールキング艦隊を迎えたのだ。
無論のこと、地中を掘り進める母艦級BETAを警戒し、密集するのではなく間隔を保ち、尚且つ対地中センサーなどを敷設するなどして対策を行っている。
ほかにも、いわゆるCPやHQを作戦時には上空に再び舞い上がるホエールキング内に設置することによって、地下侵攻を回避できるようにしている。
旧甲賀市の地上拠点が仮に強襲されて使えなくなったとしても、敵中に孤立して指示が通らなくなるという事態は避けられるようになっているのだ。
そして、何よりも空中艦隊による潤沢な支援の下で叩けるという時点で、BETAに対して途方もないアドバンテージを得ている。
物資の投下に始まり、艦載砲による支援砲撃、いざというときの回収など、数えきれない恩恵が得られるのだから。
ともあれ、すでに将軍である悠陽の演説というか激励の言葉は伝達されており、帝国および斯衛軍の誰もが否応なく士気を高めていた。
そして、ホエールキングから戦術機や兵器などの積み下ろし作業が完了し、戦闘準備が整った。
それを以て、いよいよ宵星作戦が幕を開けることとなった。
第一段階、すなわちホエールキング艦隊による対地砲撃が開始される。
通常であればこの砲撃は重金属雲の展張も兼ねて行われるが、連合の場合では不要だ。
故に、貫通する砲撃が次々とBETAの群れを叩き潰していく。
そして、戦術機部隊の先駆けに少数のネクストなどのACが作戦エリアに向かうとともに、ホエールキング艦隊もまた艦載機を解き放つ。
彼らの目的は戦術機にとっての死神、光線級の排除のための光線級哨戒、さらにアンチレーザー爆雷の展開によるレーザーの無効化にあった。
光線級だけを的確に潰せば、戦術機部隊は平野部に展開したとしても安全を確保された状態だ。
そこにアンチレーザー爆雷もつかわれるとなれば、それこそ、疑似的ではあるにしても自由な空を人類は取り戻せるのだ。
そして、十数分をかけ、そのフィールドは形成を完了した。あとは適宜追加をしていけば、フィールドの維持は可能だろう。
『いよいよとなりますね』
悠陽の言葉に、一目連は静かに頷く。第一段階はすでに完了し、第二段階にシフトしつつある状況。
彼女が率いる斯衛軍一個大隊は、帝国陸軍の機甲部隊を交えた混成大隊2個の援護の元前進、旧京都市街地へ突入することになっている。
そのエスコートには一目連らをはじめとしたACやMSが少数ながら張り付き、万が一のことがないようにと備える。
そして、最も傍にいるのが一目連の役割。もっとも、彼女の指示で自在に動くという特性も備えているのだが。
ともあれ、旧京都側から射線が通らない地点でその時を待つ戦術機の大隊は、確かに熱を持っていた。
そして、それは悠陽にも共通していた。
『これから私の初陣……不思議と、緊張しないものですね』
『油断はなさいませぬよう。世の中に絶対というものはありません。万が一のことは起こりえるのですから』
『ええ。ですが、そうなったとしても、助けていただけると信じております』
屈託のない悠陽の信頼の言葉に、一目連は苦笑した。
信頼されているのはいいことであるが、だが、余りにも無防備すぎるのだ。
人は必ずしも善意だけとは限らない。悪意もあり、時には信じがたい愚行を犯す生物でしかない。
勿論、悠陽がそういう性格に成長するほど、周囲の人間に恵まれていたというのは喜ばしいことでもあるのだが。
だから、一目連の返答は決まっている。
『お任せを』
自分の力で、彼女を守る。それだけである。
151: 弥次郎 :2022/01/20(木) 23:12:33 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
旧京都市街地一帯がアンチレーザー爆雷の効果により安全圏となった報告が届いたのとほぼ同刻。
光線級哨戒を担当していた先遣部隊から光線級の排除の完了を告げる通信が届き、さらに閃光弾が打ち上げられた。
その合図を以て、帝国陸軍および斯衛軍は突入を開始した。
将軍であり今回の作戦における総指揮官である悠陽の大隊を中央にして、帝国陸軍二個大隊が左右を固める陣形で一気に突っ込んだのだ。
当然、遮蔽となる山岳地域から抜け出し、盆地である京都へ向かうというのは光線級の的となる。光線級に撃ってくれと言っているも同然。
先んじて、光線級哨戒を行ったとはいえ、撃ち漏らしは少なからず存在してしまうものだ。そして、事実レーザーは幾筋も放たれた。
だが、そんなことは織り込み済みであった。
『……消えた!』
『レーザーが、届いていないぞ!』
『本当だったのか……!』
衛士たちは驚愕したことだろう。望遠機能により、レーザーを発射寸前の光線級を捉えられながら、しかし、何もなく前進できるというのは。
レーザーが目のような部位から発射されているらしいというのは分かるが、それが文字通り遮断されているのだ。
それこそが、レーザーというものが人と人とが争うための兵器として使われ、その対策が研究されつくした連合の生み出した産物の力だった。
『神速で進め!』
そうなれば、あとは戦術機、二足歩行戦闘機の飛行能力の出番だ。
跳躍ユニットによるブーストで一気に加速、地形を飛び越え、距離を貪っていく。
当然、押し寄せてくる「災害」の排除のため、BETAもまた迎撃のために次々と個体を差し向けてくる。
突撃級を先頭に、要撃級、戦車級といういつも通りの群れ。そして、それに送れる形で要塞級なども展開し、前進してくる。
ここまでは想定通り、と誰もが考えていた。失地奪還をするにしても、BETAが一定のパターンで行動するのは分かっている。
しかし、新種の大型BETAのことは誰もが頭の隅に置いていたのであった。
戦術機が搭載するあらゆる火器が悉く通用しないというのは、それだけ脅威ということに他ならない。
しかも地下から侵攻してくるという特性もあって、直前までその個体の接近に気が付きにくいというのもある。
では、どう対処すべきなのか?
単純だ。湧いたらすぐにたたける戦力が向かう、これだけである。
『新種BETAを多数確認!』
悠陽の乗る武御雷R型を中心とした集団の前方に、果たして母艦級が一気に沸いた。
大地を割って表れたその個体は、大きく口を開いて、内部からさらにBETAの群れを吐き出す。
その様子はまさに濁流を吐き出す如くであり、並の戦術機の集団でも飲み込むだろう。
だが、来ることがわかっていたなら対処はまだしやすい。まずは上昇して飲み込まれないようにし、倒せるBETAを排除していくのだ。
悠陽の武御雷もまた、跳躍ユニットにより飛び上がって群れを回避する。そして、これまでの訓練通り、BETAに向けて突撃砲を放っていく。
撃てば何かしらにあたるというレベルの集団だ。適当に36㎜をばらまくだけでも命中は得られる。120㎜でも同様だ。
だが、数が多すぎることや進撃速度から撃ち漏らしがどうしても発生する。
(これが……なるほど、死の八分というものですか。なるほど、そうなるのも分かります)
そう、これが純粋に怖いのだ。悠陽は、そんな自分を冷静に客観視していた。
これだけのBETAが、戦術機さえも油断ならない個体が、まとまって押し寄せてくれば怖い。
怖いから、冷静に判断ができなくなり、操縦を的確に行えなくなり、あっけない最期を迎えてしまうのだと。
自分とて訓練を始めたばかりのころなどそうだった。恐ろしくて、逃げたくて、必死になって余裕を失ってしまっていた。
だが、初期の訓練の時とは違い、今の悠陽は冷静だった。初陣であっても、後催眠や薬物などがなくともだ。
そして、指揮官としての悠陽は頭の中で冷静に考える。あの大型種は危険だ、と。
BETAを大量に吐き出すということのほかにも、未だに帝国の戦力では撃破したことがないというのだから。
だが、だからと言ってアレを回避することは難しい。そして倒せるかどうかわからない相手に消耗するのも愚策だ。
なればと悠陽は通信回線を開き、傍らを飛行するネクストのリンクスへと、アレをどうにかできる戦士へと指示を飛ばす。
152: 弥次郎 :2022/01/20(木) 23:14:28 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
『一目連様、あの大型種の排除をお願いしても?』
『はい。すぐに片づけてまいりましょう』
『戦果を期待します』
『殿下はどうか無理をなさらぬようお願い申し上げます』
『フフッ、早くしてくれなければ、私は無茶をしてしまうかもしれませんよ?』
その通信に周囲の戦術機達がぎょっとしたように視線を向けてくる。
一応、この斯衛と帝国軍の指揮を執るのは悠陽なのだ。そんな指揮官が無茶をされては困る、というものだ。
それに斯衛にとってはその存在意義を問われるような案件となりかねないのもある。そも、総指揮官の彼女が前線に出てきていること自体、例外的だというのに。
そんな焦りを抱く斯衛軍らをよそに、一目連は鷹揚に言うのみだ。
『それでは、しばしお傍を離れます』
そして、次の瞬間には一目連の愛機「斬月」の姿は文字通り掻き消えた。遅れて音が届くほどに、圧倒的な速さで飛んでいったのだ。
光を追いかけてみれば、大型のBETAの傍に、母艦級の懐という距離にすでに「斬月」の姿はあった。
そのメインウェポンたる斬機刀を振りかぶったその姿は、なんと真っ向から、正面から突っ込んでいく。
そして、雲耀の一太刀を以て、世界が切断された。
それは、あくまでもイメージだ。
だが、斬月が刀を振り下ろしたとき、悠陽はそれを感じたのだ。
(……美しい)
物を切るなどではない、存在そのものを切り裂く、まさしく必殺の一撃を。
伝え聞く、示現流の極致と言われる領域に達した、無慈悲な斬撃を。
それは、いっそ美しかった。すべてが完成された一つの調和だった。
そして、結果は生じる。
斬撃は突撃してきた母艦級を真っ向から切り裂き、地面ごと真っ二つにした。
いや、もはや剣を振り下ろした圧で、信じがたいことだが、叩き潰したといった方がいいかもしれない。
誰もが、斬月が刀を振り下ろしたことは分かった。だが、それと発生した現象がイコールでつながらないのだ。
しばし、戦場に沈黙が下りた。その衝撃は、物理的にも、視覚的にも、そして精神的にも大きすぎた。
『ば、ば、ば、バカな……』
『あの大型が……!?』
『一体何があったんだ…!?』
誰もが混乱する中で、一目連は悠然と次に備える。
確かに一匹は母艦級を撃破した。然れども湧いている母艦級はまだまだいる上にこちらに押し寄せてくるのだ。
『……フ』
だが、一目連は静かに息を漏らすのみだ。
真正面に、母艦級を縦に両断した刀を引き戻し、構えを変え、横なぎに一閃。
再び、音を置き去りに、雷を超えて、薙ぎ払った。
そして、世界が切られた。それも、水平に。
今度は、戦術機に乗っていた衛士たちも、感じ取れてしまった。
今、制御されていなければ、その切っ先の延長上にいた自分達さえも真っ二つにされていたと、そう理解できるほどに。
それだけで、まとめて複数の母艦級が今度は横にスライスされた。それも、体内にいたBETAの群れもろとも。
いや、それ以上だった。斬機刀を振り終えてから発生した斬撃波と呼ぶべきモノが、地上を覆いつくすほどのBETAの群れを切り裂いたのだ。
10mと少しというサイズのネクストが、その丈にあった刀で直接切ったとは到底思えないし、リーチは当然足りないのがわかる。
だが、それでも、最前まで生きて蠢いていたBETAがその一振りでいきなり死体に変わったのを見れば、嫌でも納得せざるを得ない。
今度こそ、沈黙が下りた。
悠然と戻ってくる斬月の背後、まとめて消し飛んだBETAの群れだけが、雄弁に語っていた。
一目連という存在の、でたらめさと強さを、どこまでもはっきりと、反論の余地もないほどに。
153: 弥次郎 :2022/01/20(木) 23:15:36 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
駆け足でしたねー…
作戦開始されましたがのっけから一目連さんハイテンション。
まだまだ作戦は続きますよー
最終更新:2022年01月29日 13:44