229: 弥次郎 :2022/01/22(土) 22:08:49 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「煌武院、立つ」5
- C.E.世界 融合惑星 β世界 日本列島 旧近畿地方 旧帝都京都市街地 外延部
母艦級の群れが吹き飛ばされたことは、衝撃と共に、自信というものも帝国軍と斯衛軍に与えていた。
つまり、それだけ強い味方が自分たちにはついているのだ、という単純な理由だ。
理論理屈は分からなくとも、厄介な母艦級を倒せる戦力が味方にいるというのは心強い。それだけでも、極めて士気が上がるというもの。
元より帝都奪還に加えて将軍の親征に同行できるというだけでも名誉であり、士気が高まっていたところにこれなのだ。
帝国の旧帝都奪還に向け、これ以上になくコンディションは良い状況にあった。
無論、浮足立っているというのもあるだろう。
変則編成で通常より多い斯衛軍戦術機一個大隊と帝国陸軍混成二個大隊という数がいれば、そういう人間はどうしても出てくる。
彼らが厳しい訓練を重ねていると言えども、一目連の見せた圧倒的な力を、連合による潤沢な支援を、自らの力と錯覚してもおかしくない。
まして、少なからず薬物などの影響を受けている帝国の人間であるならば、猶更のこと。
その認識は、エスコートをする側である連合の戦力、そして一部の帝国側戦力に共通したものであった。
『殿下……』
一目連が通信を繋いだ先、悠陽もまた、高まっている自軍の興奮に懸念を抱いていた。
『一目連様、これはどうしたものでしょうか?』
現状、戦術機部隊は巡行で低空飛行をしながらの侵攻中だ。その中にあって、悠陽は困惑していたのだ。
BETAの集団を、それこそ母艦級を含む大集団を一瞬で抜けられたのは僥倖そのものだ。
そうだからといって、油断や慢心をするというのは心得違いというものである。
だが、問いかける悠陽も、本当は何をすべきかをよく理解している。
しかして、ここで下手なことを言えば、水を差す結果になり替えなない。素直に言うことを聞いてくれても、根本解決にならない可能性もあった。
『これに関しましては、日本帝国の領分であり、地球連合としては干渉などはあまりできないのが正直なところでございます』
バッサリと斬る一目連の言葉。
しかれども、それは事実だ。これは帝国内部の軍事組織の問題。
発端が大洋連合の一目連の行動によるものだとしても、現象が起こっているのは帝国軍である以上、その責任というのは帝国なのだ。
つまりこの場における最高権力者にして責任者である煌武院悠陽のもとに存在しているのである。
知らず、一目連に自分も頼り切りそうになっていたことに気が付いた悠陽は、一目連の言葉にうっと息を詰まらせる。
『……これは失礼を。確かに、これは帝国の領分です』
すぐに言えたのは美徳だな、と一目連は思う。
一目連もそれなりに人生経験があるが、素直に謝るというのはなかなか難しかったりするのだ。
だが、こんな少女に言わせているというのは一目連の背中を妙にムズムズさせる。
『……長く語る必要はありますまい。ただ、殿下が配下の者たちを想っていると、伝えるがよろしいかと』
だから、言ってしまう。独り言だ、と自分に言い訳しているが、回線を開いている時点で有罪だろう。
とはいえ、帝国が足を引っ張りすぎても困るのが連合なのだし、と自分に言い訳する。
(まるで子供だな……)
思わず、苦笑が漏れる。結局、いくつ年を重ねても、いくつ転生を重ねても、変わらないところはあるということか。
悠陽に対して大人の対応をしていた自分が次の瞬間にこれでは。自分で自分が思いやられるではないか。
いつまでたっても子供のところがあるのは、情けないところなのかもしれない。けど、大人になり切ってしまうと失いそうになるものもある。
それでも、悠陽の前では大人であらねばと思うのは、その役目のためか、それとも近い年ごとの娘がいるためか。
ともあれ、今は戦闘だ。彼女がやることを見守ろう。一目連は、地下から沸いてきた母艦級に襲われそうになった不知火からなる小隊を救いながらもそう思った。
230: 弥次郎 :2022/01/22(土) 22:10:53 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
そして、しばしのちに動きがあった。とある通信回線が開かれのだ。
それの意味するところは、帝国軍さらには斯衛軍にとっては緊張をいうか、気を引き締める要因となるものであった。
即ち、総指揮官たる煌武院悠陽の言葉が発せられるチャンネルが開かれたのだ。この作戦に際し、そのように割り当てがなされている。
すでにBETAの集団とも各々が戦闘しつつ進撃していて戦闘途中だった衛士たちも、機甲部隊の兵士たちもいた。そんな彼らは、回線が開いたことを認識し、耳を傾けた。
『我が親愛なる帝国軍、そして斯衛軍の、全ての兵士たち、衛士たち、総員そのまま聞いてください』
戦術機の中で、供与されていた戦車の中で、あるいは砲撃支援のため海上に展開する艦艇の中で、誰もがその声を聴いた。
戦闘中の声だ、というのはすぐにわかる。言葉は平然と紡がれているようで、呼吸の乱れや言葉にやや不明瞭なところがあるというのでわかる。
実際、悠陽は戦闘を継続しながらも言葉を紡いでいた。周辺の敵は護衛機が排除しているが、かといって動きが止められるような悠長な状況ではない。
同じ戦場に出ている衛士たちは、その光景を見ることができていた。将軍が自ら戦う姿を。
一目連の斬月に援護されつつも、近接長刀と突撃砲を用いてBETAを適宜排除しつつも動きを止めることなく動き続ける紫の武御雷を。
『くっ……失礼を。
今、我々は旧帝都奪還という目標のため、戦い続けています。
異国でありながらも我が国の悲願のため力を地球連合より貸していただいて中でも、自らの意思と力で戦わんとするために。
他人任せではなく、他者と協力しあり、微力であろうとも自分の力で為すために』
そこで一息。
突撃級が飛び出してきたので、飛びあがりつつ、その柔らかな足を背部の可動兵装担架システムにより打ち抜いて擱座させる。
そして、振り向きざまに120㎜の弾丸を胴体へと撃ち込んでとどめを刺した。
『ですが、これらの戦いは決して我々後進の死を求めてのことではないということを忘れないでほしいのです』
一目連もまた、ネクストの機動力を生かして次々とBETAを屠りながらも、その様子を見守っていた。
『京都は、旧帝都は、多くの英霊たちが守らんと命をとして戦った場所。
そして、古より歴史を積み重ねてきた土地。そこを取り戻すことは悲願でありましょう。
英霊たちの死は無駄ではなかったというその証のためにも』
しかし、と断言する。
要撃級を切り裂き、続けて襲ってきた要撃級を連続で裁くため一度言葉を途切れさせた悠陽は力強く言う。
『英霊たちは、先達たちは、こうも見ていることでしょう。徒に、その命を捨てて死ぬなと。
自分たちが戦ったのは、後進の我々を死にいざなうためではなく、一人でも多くを救うためであったと』
回線に、応答はない。誰もがそれぞれに戦いながらも、悠陽の言葉を聞いていた。
潤沢な物資、レーザー級の脅威の漸減、信じられないほどの砲支援。戦術機とは異なる異国の戦闘兵器による援護。
どれもが、これまでの戦い以上のものである。だからといって、死の危険が0というわけではない。
突撃級は跳躍して回避しなければ死ぬ。要撃級の腕の一撃は食らえばフレームが歪みかねないほど危険だ。
戦車級は集られて貪られれば待ち構えているのは死のみである。故に、必死にならねばならなかった。
『これはあくまでもこの私の考えであり、こうあってほしいという願望でしかありません』
そう前置きし、悠陽は告げた。
『総員、生き延びなさい。足掻いて足?いて、必死に生きて、勝利を勝ち取るのです。
生きていないものは、私は許しません。勝つための必要な犠牲など、認めません』
一息。最後に、半ば叫ぶように。
『生きなさい!生きて、戦いを終えるのです!生きて、BETAから我らの国土を取り戻すのです!それを至上となさい!』
一瞬の間をおいて、歓声が上がった。
まだ、旧帝都奪還は始まったばかりにすぎない。
生きるため、帝国の領土を取り戻すため、その戦いはまだ続くのだ。
231: 弥次郎 :2022/01/22(土) 22:11:31 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
あと3,4話くらいで決着したいなぁと思います。
233: 弥次郎 :2022/01/22(土) 22:21:09 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
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× 実際、悠陽は戦闘を継続しながらも言葉を紡いでいた。周辺の敵は護衛機が排除しているが、か突堤動きが止められるような悠長な状況ではない。
〇 実際、悠陽は戦闘を継続しながらも言葉を紡いでいた。周辺の敵は護衛機が排除しているが、かといって動きが止められるような悠長な状況ではない。
最終更新:2022年01月29日 13:46