403: 弥次郎 :2022/01/24(月) 23:14:46 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「煌武院、立つ」6



 戦闘エリアに、アンチレーザー爆雷が投射され、効力を発揮していく。
 無人のMTやMSを載せたSFSに懸架された装置から発射されたその爆雷は、減衰しにくいはずの光線級のレーザーをいともたやすく減衰させる。
それこそ、例え戦術機の装甲へと直撃しても軽い焼け跡が付く程度にまで弱らせるほどに。
こうなると、途端に空を飛ぶ存在に弱くなってしまうのがBETAだ。何しろ、空を飛べない個体しか存在しないのだから。
ついでに言えば、光線級以外に飛び道具というものを有していないのだ。溶解液の噴射もあるが、たかが知れている。
 そうなれば、あとはもはや釣る瓶打ちである。

『撃て』

 短い命令の言葉と共に、SFSに乗ったMSから次々と火砲が撃ち込まれ、BETAの群れが一掃されていく。
 一般的なギラ・ドーガだけでもその火力はとんでもないものがある。ビームの嵐が、実弾が、グレネードが、次々と破壊していく。
もはやそれは駆除という作業になっており、戦闘すら成立していない。ほとんどのBETAは上空の敵を見上げるばかり。
光線級などは淡々と照射を繰り返してはいるが、最早飛んでくる砲弾一つの迎撃もできず、成果を出せてすらいない。

『単調だな……』

 ギラ・ドーガのパイロットの一人が思わずこぼす。
 そう、弱すぎて、単調で、つまらない。腕が鈍ると愚痴をこぼす有様だ。
 無論のこと油断はしていない。だが、その万が一さえも起こりえないほどに、彼我の差は隔絶していたのだ。

『そういうなアックス3…まあ、こいつらが弱いってのは事実だがな』

 僚機はそういうが、その彼さえも演習にすらならないと思っていた。
 これまでのテロリスト、侵略者、異星人、侵略者の駒、あるいはB.O.W.などなど、それらと比較すれば弱すぎたのだ。
むしろこれまでの相手が強すぎて基準が狂っているのであるが、案外そんなことはころっと忘れてしまうものだ。
 ともあれ、大洋連合軍のMS部隊は順調にBETAの数を減らしつつあったのだ。


  • C.E.世界 融合惑星 β世界 日本列島 旧近畿地方 旧帝都京都市街地 上空


 そして、地球連合軍だけではなく、企業連合軍の戦力も活躍していた。
 丁度、旧京都市街地上空へと後方から弾丸と共に追いついてきたサキモリなどが良い例だ。
 あるいは、中国地方の入り口で敵集団のど真ん中に飛び込み全方位砲撃で数を減らすフツノミタマもそうであるように。

『一目連さん、援護に入ります』
『了解した。光線級が山を登ってくる。排除を任せる』
『はい』

 集団の上空に居座ったサキモリは、そのレーザースナイパーライフルとマークスマンライフルで射撃を開始した。
ロングレンジの武装で光線級の排除を行うのは砲撃支援(インパクトガード)というポジションがあることからわかるように、β世界でも一般的だ。
どうしても近中距離での、BETAとの彼我の距離が近い戦闘を強いられる中では数を捌ききれなくなることも多いためである。
多くの場合、砲撃支援、打撃支援(ラッシュ・ガード)、制圧支援(ブラストガード)などが担う役目だ。

 だが、上空のそれはどうだ?帝国の衛士たちは戦慄した。上空で自在に飛び回り、アクロバティックな動きの中で狙撃を続けているのだ。
後続の光線級に射抜かれるかもしれないというのに、踊るようにして空中を舞い、打ち抜く。
 本来狙撃というのは、照準を定め、誤差を修正し、空気や風の流れを加味して、発射するものだ。
精密さが求められ、その為に動きを組み立てれば、どうしても止まらざるを得ない。そうでなければ、あらぬ方向に飛んでいくのだから。
 そんな常識を、上空の機体は知らぬとばかりにぶち壊して、戦闘を続行する。
 光線級に補足されないように、レーザーに絡めとられないように、まるでステップを踏むように。
 飛んでいった弾丸の先、旧京都市街地を超えた対岸の山に登り始めた光線級などが優先的に弾けて形を失うのは、圧巻だ。

 いや、それだけではない。その射撃は、的確だったのだ。
 旧市街地の端にたどり着き、弾薬を消耗した前衛が一度後退し、投下されたコンテナからの補給を行いまでの間を綺麗に埋めるように。
 光線級が減れば、続けざまに動きの速い突撃級や要塞級へと的確に射撃を続けていき、BETAの群れを強烈に足止めしていた。

404: 弥次郎 :2022/01/24(月) 23:15:46 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

 加えて言えば、その連射速度も大したものだ。
 ある程度連射すればその分だけ精度は落ちるのだが、それがまるでみられない。
 それどころか、背中に背負った兵装を適宜交えて打ち込んで、効率的な排除をしていることが窺える。
 それでいて、可憐にして華麗。ずるいではないかと、誰かが漏らす。

『舞姫のようだな……』
『美しい……』
『……なんで、嘘……』
『どうした、スワロー05?』

 暢気な、あるいは連合の圧倒的な実力に感覚がマヒした衛士たちだが、一部はその光景の異常さに気が付けてしまった。
いわゆる、アイデアロールに成功してしまったというべきか。スワロー05はまさにその手の狙撃手、砲撃支援だったのだ。
事実として、彼女の武御雷は87式支援突撃砲を装備したポジション相応の装備を持っている。
その狙撃手としての経験が、そのとんでもなさに拒否反応を示してしまったのだ。

『嘘…ありえない…なんで…弾道が歪んでないのに…』
『おい、スワロー05!』

 その時、僚機の制圧支援を担当する武御雷が、スワロー05の機体を直接揺らした。
 言葉だけではない、物理的な衝撃は彼女の、スワロー05の体を揺らし、正気へと戻した。

『あ、あう…痛い……』
『ぼさっとするな!殿下の言葉を忘れたのか…!?』
『あ、そ、それは…』

 その言葉は、激戦の中にあってもまだ頭の中に残り続けている。

『我々に、死ぬことは許可されていない!役目を果たせ!英霊たちが見ているんだぞ!』
『あ……あっ、は、はい!』
『味方でもとんでもないってのは分かるが、それに見惚れて死にましたなど、どう報告するつもりだ…!』
『申し訳ありません…』

 まったくだ、とスワロー05は恐縮するしかない。
 あの機体が恐ろしいというか、怖いのは確かだ。だが、それはBETAが恐ろしいよりも何百倍もマシ。
 事実として、あの機体は味方で、BETAを次々と屠ってくれて、自分たちの負担を大きく下げてくれているのだから。

『よし、いいな?』
『はい』
『スワロー01からスワロー各機へ。前衛を担当する中隊が補給に入る。我々は、それと入れ替わりで前衛に出るぞ』

 その言葉の意味は一つ。入れ替わりで負担を均一にすることで戦闘継続を維持する仕組みで、自分たちが負担を担う順番が来たということだ。
つまり、温存していた武器弾薬を惜しみなく使い、BETAを直接叩いて、戦線を押し上げていくということになる。

『上空の友軍、大洋連合の黒子御前……大尉の援護もある。
 焦る必要はない。ただ、目の前の敵を倒せ。そして、生き延びろ』

 スワロー01は、敬称が連続する事態に少し戸惑いつつも、言葉を紡いだ。
 上空のスナイパーの働きは評価しきれない。たった一人で大隊の支援ポジションの戦術機全てを合わせても足りないような働きをしている。
 だが、おんぶにだっこではこちらの名前が廃るというものだ。この戦い、参加するだけでもこの上のない名誉である。
だからと言ってそれにいつまでも満足しているなど、もってのほかだ。帝国軍の精鋭たる斯衛軍の名が泣く。

『スワロー各機、前進!BETA共に、ここが誰の土地か、分からせてやれ!』
『了解』
『了解しました!』
『任されました!』

 スワロー01の言葉に、スワロー各機が応じ、それぞれが戦闘態勢に入る。
 すでに旧市街地に突入しつつある。あともう少し押し返せば、BETAの群れを山際まで追い込むことができる。
 そうして、防衛線を構築するまでの時間を稼ぎ切れば---今作戦の自分達の目標の一つは達せられることになる。

『続け!』

 その勇ましい声と共に、彼らは前進する。
 生きて勝利を勝ち取るために、全力を以て。

405: 弥次郎 :2022/01/24(月) 23:16:35 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
次の話でおおむね戦闘は終わりですね。
あと政治の話も兼ねたエピローグと合わせて、合計2話で完結かなって考えてます。

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最終更新:2022年01月29日 13:48