439: 弥次郎 :2022/01/25(火) 23:05:11 HOST:softbank126066071234.bbtec.net


憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「煌武院、立つ」7



  • C.E.世界 融合惑星 β世界 日本列島 旧近畿地方 旧帝都京都市街地 西部外延部


 帝国軍および斯衛軍の戦いは、終盤へと向かい始めていた。
 BETAの群れを受け止め、押し返し、補給を受け、また群れを受け止める。
 それの繰り返しと、時には大胆な前進を以て、前線はついに旧京都市街地の西部に到達したのだ。
 先端部が、点としてそこに到達したのではない。拮抗しながらも押し返した防衛線が点を結んだ線として到達した。
南北に展開する地球連合軍の戦線と合わせ、そのラインが、旧帝都を飲み込もうとしているのだ。

『グローブ3、リロード!120㎜残り1マグ!』
『カバーする!』
『戦車級が湧いて来たぞ、近寄らせるな!』

 押し上げていることを実感しながらも、衛士たちは油断しない。
 BETAの勢いはかなり落ちてきている。上空のホエールキングや後方に控える機甲部隊による潤沢な支援だ。
あるいは、最前線の先でBETAの群れに吶喊し、数を減らすネクストやSFSに乗るMSなどの活躍もある。

 それでも、今この場において激しく戦うのは斯衛軍だ。
 守りを主体とするその軍隊が、守勢ではなく攻勢に出ている。
 それは、偏に彼らの主が自ら前に出て戦っており、それに送れるわけにはいかないがためだ。
 しかして、彼らは同時に冷静だった。彼らの主の命令が、強力に彼らを現実に繋ぎ止めていた。
その内容は至極単純で、それでいて難しく、されども果たさなければならない命令であった。
 「生きろ」と。
 BETAとの戦いは、死がつきものだ。死の八分という言葉があるくらい、初陣の兵士の段階で死に追いかけられている。
だから、誰しもが仕方がない、という割り切りを持っている。そういうものだから、どうしようもないのだと。
 しかし、それが許されなくなった彼らは、必死に生き延びようとしていた。
 命を捨てて戦うのではなく、命を拾って戦う。危うくなれば逃げる。カバーし合う、あるいは戦術機に交じる連合の戦力に救助を要請する。

『くそ、集られた!』
『こっちに!はぎとってやる!』
『こっちで抜けた穴は埋めるぞ!』
『次の集団、2時方向!突撃級』
『受け止めるぞ!多少高く飛んでも光線級は怖くないぞ!進め!』

 声が飛び交い、動きが交錯し、必死に動作が重なる。

『無事か?』
『助かりました、一目連殿……』
『よし、次の敵に備えろ。いけるか?』
『はっ!』

 一目連は文字通り飛び回り、全体のフォローを続ける。
 戦術機より小さいがゆえに、懐まで飛び込んでフォローができるのだ。
 すでに斯衛軍も帝国軍も、一目連の実力を疑ってなどいなかった。
 彼がいるならば、殿下の傍に控え、自分たちを補助してくれるならば生き残れると、そう信じられた。

『大型種、出現!11時方向に2体!』
『砲撃支援を要請しろ!この距離では有効打は与えられない!』
『BETAを吐き出してくるぞ、砲撃支援、制圧支援、打撃支援も火力を惜しむな!』
『了解!……っ!またか、しかもこの距離で……!』
『近いか……それなら、こいつでも食らいやがれ!』

 そして、BETAの群れはそれでも押し寄せる。
 母艦級が地面から柱の如く立ち上がり、BETAの群れを吐き出していく。
 だが、その斯衛軍の衛士は「それ」をひっつかんで、果敢にも飛び上がった。止める声を無視し、跳躍ユニットを吹かす。

440: 弥次郎 :2022/01/25(火) 23:07:25 HOST:softbank126066071234.bbtec.net

 これまでの常識では自殺行為。しかし、今は違う。
 光線級が次々と排除され、重金属雲などとは比較にならないほど強力なアンチレーザーフィールドがあるのだから。
 光線級のレーザーが怖くないだけで、これだけ自由なのか、とその衛士はしばしの空中を楽しんだ。
地上を這いずるBETAが小さくなり、おぞましい面を拝まなくて済む。そして、煩わしい高度制限を気にせず行けるのだ。
 そして、眼前には母艦級の大きな口が迫っている。とてもデカイ。戦術機の全高の倍以上はありそうだ。
 光学センサーは、その母艦級の体内に膨大な数のBETAの群れがいることを確認した。それもセンサーの感知限界以上に。

『おらっ!』

 そして、その武御雷は、S-11の搭載された基部を外し、投げつける。同時に全力で跳躍ユニットを噴射、後退した。
すでに起爆コマンドは入力済みだった。そして、重力に従って体内に堕ちていったS-11搭載機部は、切り離されてなお、命令に忠実に機構を働かせた。

『……!?やった!』
『嘘だろ、あれをやったのか!』
『爆発させた……のか?』

 S-11という爆薬の炸裂は母艦級を内部から吹っ飛ばす。
 内側から形が拉げた母艦級は、痛みに悶えるようにその体をくねらせる。空から小型のBETAが降ってくるが、些細な事。
これまで攻撃の通用しなかったそれに、初めて明確な打撃を与えることに成功したのだ。
 そして、その衛士が稼ぎ出した時間で、一目連は一気に肉薄する。
 斬機刀を構え、QBの連続で戦術機達の合間を抜け、風の如く。

『ハァッ!』

 一振りが、何重と重なって母艦級を切り裂く。一体だけではなく、次の母艦級もすぐさま解体した。
 そして、あっという間に折り返してくると、呆然として空中で姿勢を崩した武御雷を軽くつまんで持ち上げる。

『見事だった……S-11をああ使うとはな』
『あ、は、はい、光栄であります……』
『ただ、無茶はするな。冷静に、努めて心の静寂を保つんだ』
『は、はい……』
『下ろすぞ』

 そして、見事に母艦級を苦しめた武御雷は地面へと下ろされた。
 だが、称賛の声を受けつつも、まだ動きは止まらない。
 突撃砲に次のマガジンを叩き込み、動き出すのだ。

『次だ、次も蹴散らす!』

 そうだ、まだ、戦いは終わってなどいない。
 まだ、勝利への未知の半ばなのだから。

 そして、長い戦いは、しかし終結へと向かう。
 BETAの群れはいよいよを以て勢いを失っていき、数も種類も貧弱となっていくのが傍目にもわかるようになったのだ。
帝国軍や斯衛軍にとってはBETA大戦においては滅多に経験することができない、BETA戦力の枯渇であった。
 無論、遥か後方、BETAの支配地にあるハイヴからは続々と増援は吐き出されている。
 それでもなお、今の光景が構築されたのは、偏に駆逐速度が増援の速度を圧倒的に上回ったからに他ならない。

441: 弥次郎 :2022/01/25(火) 23:08:57 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
 無論、なにも余裕があってのものではない。
 誰もが急速や補給を挟みながらも激戦を続け、必死に戦った結果だった。

『ふぅ……はぁ……』

 荒い息を、将軍専用機である武御雷R型の中でついていたは悠陽だった。
 彼女の総撃破数は大小サイズを考えなければ、すでに100を超え500を飛び越えて1000に至ろうとしていた。
 そして戦闘開始からの経過時間は休息も含めて2時間余りを優に超えており、実績だけで言えば、最早一線級の衛士に他ならなかった。
彼女の環境が非常に恵まれていること、そして占拠されている地域に踏み込んでいくということを加味すれば、その事実はもはや疑いようもなかった。
 彼女の武御雷R型はすでに体の大半がBETAの体液でべったりと汚されており、細かな損傷や傷は数えきれない。
 だが、それでも、生き残った。
 彼女は、自分の麾下の戦力に命じたことを、自らでも実行し、証明してのけたのであった。
 無論、彼女の体力は限界だった。集中力も途切れ途切れになりつつあった。訓練を重ねたとはいえ初陣であり、精神的な疲労も大きい。

『ふ……あ……』

 それでも、悠陽はグッと上を見る。
 合わせて、武御雷も姿勢を正し、周囲を見渡す。
 そこには、損傷を抱え、あるいは見事に生き抜いた自らの麾下の戦術機大隊の姿が存在していた。
更に見渡せば、帝国陸軍から来た混成戦術機大隊の姿も見える。いくらか数が欠けてはいるが、いずれもが回収されている。
つまり、奇跡的に死亡者数0というものを、この一大作戦において実現してのけたのだ。

『これで……しまい!』

 そして、最後のBETAにとどめが刺された。
 しぶとく武御雷に張り付こうとしていた戦車級などがまとめて36㎜でミンチにされたのだ。
 周囲をレーダーで伺えば、動体反応は戦術機や連合からの戦力以外は存在していなかった。
 静寂。しかして、それは決して負のモノではない。戦いを潜り抜け、その先にあるモノを勝ち取った結果生まれた正の静謐。

『殿下』

 傍らに侍った一目連に促され、必死に悠陽は操縦桿を操作する。
 武御雷はその操縦に合わせ、前進していく。一歩一歩、その足音を立て、力強く。
 そして、集団の先頭に立ち、近接長刀を振り上げる。まっすぐに、天を突くように、鋭く。

『政威大将軍にして煌武院家当主煌武院悠陽、京都一番乗り!』

 そして、叫ぶ。
 それは、ずっと抑え込まれていた感情の奔流。
 戦う中で、一歩ずつ近寄って、たどり着いた場所だからこそ、その価値はあった。

『幾多の英霊たちよ!涙流した国民よ!我らが都たる京都よ!我々は、戻ってきた!』

 そして、その叫びに、誰もが咆哮した。
 生きている。戦える。そして、今、ついに勝利をつかんだのだと。
 幾千の英霊が命を散らし、幾万もの弱き民が力尽きて、それでもなお進み続けて、たどり着いた。
 苦労があった、挫折があった、涙があった、諦めがあった、怒りがあった、深い絶望があった。
 だが、それらをすべて通ったからこそ、たどり着き、勝ち取ることができた勝利があった。
 それらすべてが、たった今、肯定されたのだ。長い長い遠回りの果てにたどり着いた、その場所。

『------------!』

 そして、その叫びに合わせ、全ての衛士や兵士たちの叫びが、飽和した。
 宵星作戦、第二段階の完了。
 帝国軍および斯衛軍を主力とする戦術機部隊による旧帝都京都の奪還と制圧、そして拠点化が完了したのだ。

 連合の広報部隊や報道機関により、その姿は克明に記録されて、帝国民へと報じられることとなるが、それはのちのこと。
それに先駆け、CPやHQを経由し、作戦の成功と旧帝都奪還の報は帝都東京へ、そして仙台などへも報告されていった。
その報告は、奪われた時とは違い、大いなる喜びを伴ってなされた。
 悠陽の言葉の通り、失われたそこへと、人類は、帝国は戻ってきたのだから。
 負けてばかり、失ってばかりではない。ついに巻き返しの時が来たのだと、誰もが希望を抱いたのだ。

442: 弥次郎 :2022/01/25(火) 23:09:39 HOST:softbank126066071234.bbtec.net
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最終更新:2022年01月29日 13:49