885: 弥次郎 :2022/02/10(木) 20:18:01 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「醜貌割鏡/習貌歪鏡」3



  • C.E.世界 融合惑星 β世界 現地主観時間1999年9月26日 日本列島 帝都東京



 政威大将軍煌武院悠陽の凱旋。
 それは、旧京都市街地近くに建築された、帝国軍京都中継基地での休息と処々の引継ぎなどを終えた9月も末のころの話であった。
 戦時ということもあり、パレードなどこそ行われなかったものの、ラジオを通じてその報告がなされたのは、改めて帝都の帝国民をにぎわせた。
何しろ煌武院悠陽自身がラジオにて声を届け、勝利の報告をしたのだから、その効果は絶大といえるものであった。

 それに拍車をかけたのが、前後して連合がばらまいた将軍の姿を映した写真や新聞であった。
この時代、未だにメディアというのはC.E.世界からみて古典的というか化石的な手段に依存していた。
だが、逆に言えばそこさえ押さえてPRに活用してしまえば世論に訴えるというのは楽ということでもある。
そこに掲載されたのは、将軍専用の戦術機である00式Rや強化衛士装備の悠陽の姿、あるいは軍服で基地を視察する姿などなどである。

 その写真にさりげなく一目連の姿が映っていたのは大洋連合によるステルスマーケティングの一環であったが、これがまた受けた。
まさしく将軍に侍るという風貌と姿であったのだ。未だに若く、悪く言えば頼りない悠陽と対照的に、巌の如く安定し武を漂わせる姿は非常に映えた。
まさにもののふ。まさに武の体現者。まさに偉丈夫。まさしく斯くあるべき姿ではないか。
 事実として、新聞社などに写真を見た帝国民から問い合わせが殺到し、あの人物はいったい誰なのだという声が届けられた。
 そして、その回答は大洋連合から伝えられた通りに伝達され、人々の間で共有され、広まっていく。
大洋連合の狙った広報戦略はまさに成功したといっても過言ではない。
名を売りつつも、戦場で活躍する姿を見せつけ、さらに将軍との関係までPRできたのだから。

 これを進めたのは、連合の戦略でもあり、残された選択肢でもあった。
 何しろ、帝国政府というのは榊政権下においては指向性蛋白の一般国民への使用を踏み切って、尚且つそれを間接的に連合にもしてきた。
その件については謝罪と対応がなされているのであるが、連合としては評価がマイナススタートであることに変わりはない。
 さらに五摂家をはじめとした武家も、ご存じの通り天川作戦時に見せた醜態から言うに信用が起きにくかった。
 そして残ったのが、将軍職とはいえ未成年の少女を介した外交という次第であったのだ。
連合としては余り歓迎できたものではなかったのであるが、それが最善に近いということもあり、受け入れざるを得なかった。
斯くして、帝都東京において民主制にあるまじき完全世襲の地位を持つ少女を主体とする外交が展開されることとなった。

886: 弥次郎 :2022/02/10(木) 20:18:33 HOST:softbank060146116013.bbtec.net


 まず大洋連合が悠陽から得たのが、最前線における戦力の展開の許可である。
 国家間における軍隊の展開は帝国政府を通す必要があり、こちらは時間がどうしてもかかってしまう。
 そこで、国軍ではなく大日本企業連合の抱える傭兵部隊を使う。悠陽が政威大将軍として彼らを雇用するという形で駐留させるのだ。
名義としては外人部隊ともいえる形であるが、少なくとも武家トップの悠陽が許可を出した帝国斯衛軍所属となるので、国内での活動ができるようになる。
これは事後承諾でもある。すでに駐留している戦力もいれば、設営された連合の拠点もあるのだし。
だが、法的なアレコレの問題が発生するのを避けるためにも、建前というのは必要になった。
無論のこと、帝国斯衛軍からは戸惑いや反対の声もあったのであるが、ない袖は振れないのである。
帝国軍にしても帝国斯衛軍にしても、戦力は奪還できた地域の広さに対してまるで足りていないのだ。
如何に跳躍者たちがいるとはいっても、それには数に限りがあるし、兵站や補給面での不安もある。
むしろ、逆立ちしても用意できない膨大な戦力を前払い無し全額後払いという破格の条件で雇えるのだから、冷静に見れば破格を通り越した待遇だ。

 そして、傭兵たちは別な形でも雇用されることとなった。
 即ち、帝国軍および帝国斯衛軍の教導のためという、アグレッサーとしての雇用だった。
 交流を行っていた初期のころから、連合視点では戦術機の運用というものがまだ稚拙に見えたのだ。
何しろ地球連合というのはこの手の機動兵器を運用した経験が濃い。期間こそβ世界に劣るかもしれないが、その質は違いすぎた。
その技量が今回の戦闘で明らかになっており、それを研究したいと考えたというわけである。
実態としては夢幻会が原作で露になっていた衛士の訓練や待遇などの問題点を解決するためというのもあってのものもあった。

 さらに帝国内の国力増強に介入することとなった。具体的なことを言えば、技術交流である。
 帝国軍や帝国斯衛軍と帝国国内の軍事企業の関係は、顧客とメーカーの関係にある。
 そして、その顧客が大洋連合内の企業との技術交流を依頼すれば、メーカーとしては受けざるを得ないのである。
天川作戦で目撃され、情報収集もされた連合の力がなんであるかを学び、吸収し、生かすことは国防力の増強につながるのだから。
 折しも、2000年代の情報の上書きが発生したことにより、早くも不知火の後継機問題が起こったことになっている状態であったことが後押しした。
XFJ計画というのも進んでいることになってはいるが、やはりというか、それを企業連合とのモノにシフトしたいと考える人間がいたのだ。
こうして両者の納得と意志を得て、積極的な交流が開始することとなったのである。

 こまごましたものをも多いが、おおむねこのように開始された。
 煌武院家による越権行為と捉えるのは容易く、しかし、帝国民や将軍を信奉する派閥にとっては本懐ともいえる状況であったことをここに記す。

887: 弥次郎 :2022/02/10(木) 20:19:27 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

  • β世界 現地主観時間1999年10月2日 日本列島 帝都東京 煌武院家邸宅



 帝都東京にある煌武院の抱える邸宅。
 その一角で、世間の人々の話題と関心を半ば独り占めする将軍の煌武院悠陽は、一人の男を迎えていた。

「お久しぶりです、一目連殿」
「は、殿下もご健勝のようで何よりでございます」

 そう、一目連であった。
 つい先日、悠陽の、政威大将軍の剣術指南役に就任することとなった傭兵であった。
 正式な任官、あるいは指南役を拝命するのは少し先のことになるが、すでに決定事項となっている。
 外から迎え入れるという異例の事態。されども、それは認可されることとなったのだ。
何しろ、相手の家柄、能力、政治的背景、その他もろもろを合わせた評価がとびぬけていたのだから。
さらには帝国斯衛軍の紅蓮大将のお墨付きもあって、他の五摂家の反対も黙らされる形で決定した。

「しかし、些かお疲れと見受けますが、お体に差しさわりなどはございませんでしょうか?」

 一目連は、久方ぶりに見る将軍の顔に疲労があることを見抜いた。
 無理もない。凱旋をした悠陽は時の人として、普段以上に祭り上げられることになった。
 加えて、連合との折衝で精力的に活動し、武家のトップとして政府に働きかけるという仕事を続けていたのだ。
それこそ、外交官でもないのに大洋連合政府や企業連との間の交渉や折衝までもやることになったほどに。
無論のこと、本職の権限を侵すことがないようにとの配慮はされていたが、それでも仕事の重要度と量は途方もないもの。
 そんな激務が未だに少女の悠陽に被さったのは並々ならぬ負担であるといやでも理解できた。
 彼女に依存せざるを得ないほど、帝国は、そしてこの世界は危ういところがあるのだということでもある。
 茶と茶菓のもてなしを受けた一目連に、悠陽は憧れの色を込めた視線を送り、口火を切った。

「いえ、私のことは余り気になさらず。
 まずは、大洋連合の皆様にお礼を申し上げたいのです。仲介役を務めてくださった一目連殿にも」
「殿下、それは…」
「良いのです。これは、私の問題でもありますので」

 そう、これまで精力的に働けて成果を出せた背景には、大洋連合と企業連合の力が働いた事実がある。
 それが大洋連合を含む地球連合の戦略によるものだというのは言うまでもないこと。
 されども、それによって助かったことは事実だ。改めて、この場において真っ先に言わなくてはならないことだった。

「私だけではかなわぬことを為す助力を頂けた。それも、私への信頼と信用だけで。
 これがどれほどの温情であるかなど、言われるまでもなく、重く受け止めているのです」
「……はい」
「無論のこと、地球連合の国家戦力のためというのもあるでしょう。
 しかし、それが米国との関係が殆ど途切れて、さ迷うしかなかった我が国にとってどれほどありがたいことであったか。
 これを忘れてはならないと、私は常々思っているのです」

 実際のところは、思うというよりも、戒めているに近い。
 自ら最前線で共に戦ったからこそ、連合がいかに自分たちに配慮したのかを悠陽は敏感に感じ取っていたのだ。

888: 弥次郎 :2022/02/10(木) 20:20:07 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

 しかし、それは別段帝国だけの話ではない。一目連はそのように捉えていた。

「ですが、殿下が御自ら動いていただけたことは、我々地球連合にとっても天祐ともいうべきものでありました。
 我々の方針として、過度に現地の国家や勢力の意思を無視し力をふるうというのは望ましいものではないと定められておりましたので」

 そう。連合は侵略をするためにこの融合惑星に来たのではない。
 自らの安全保障のため、国家戦略のため、ひいては現地の勢力を侵略者から守るためだ。
 BETAとの戦いが避けえず、尚且つ戦力を投じなければ危うかったのは傍目にもわかっていた。
さりとて、そんな帝国に対して他国が過度に干渉をしてしまうのはよろしいとは言えない。
混乱しているかもしれないが、それでも誰かが意思を示し、協力し合えるようにならなくてはならなかったのだ。
その活路を開いたのがほかならぬ悠陽なのだ。連合としても礼を言わねばならなくなる。

「なるほど、そういう見方もありましたか。では、これはお相子、ということで」
「それがよろしいかと存じます」

 そうして、両者は屈託なく笑い合った。
 だが、それもわずかな間。すぐに表情を改めることとなる。
 こうして一目連を招いたのは、悠陽が改めて直接聞きたいことがあったためだ。
剣術指南役になった一目連との顔合わせという名目以上に、重要なことがあった。

「では、一目連殿……いえ、師父とお呼びいたします」
「はい」
「師父は、この私のどのような武を授けてくださるのか。それを端的にお聞きしたいのです」

 剣術指南役とは、単に剣術を教えるだけではない。
 剣術を通じ、精神を、肉体を、そして心を鍛える役目なのだ。
 ひいては帝王学であったり、武家の頂点に立つ者としての心構え、振る舞い、常識などを教えることも含まれている。
つまり、将軍が将軍として如何にふるまうのかをプロデュースする役目を背負っているといっても過言ではない。
将軍と言えども、基本は武家・武士である。故にこそ、実戦で使うかどうかはともかくとして極めて重視されるのである。

 そして、現状の所悠陽は一端の将軍としての役目をはたしている。
 つまり、一応はそれらの教育を受け終わった悠陽に指南をするというのは、一筋縄ではいかない。

(まあ、そう聞いてくるのも当然か)

 師父と仰ぐとしても、そこらの凡百では困る。連合からの使いというだけではいけない。そういうことだ。
紅蓮大将らの試しを超えてなお言ってくるというのは、おそらく個人として興味を持ち問いかけたいことということだろう。
単純な強さは理解している。その上で何を出せるかという、根本的な問いだ。

889: 弥次郎 :2022/02/10(木) 20:20:43 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

 しばし考えた一目連は、問いかけから始めることにした。

「では、殿下。武とは何でありましょう?」
「帝国の武家においては、民草を、国家を守る力です」
「なるほど。では、将軍という職は?」
「武家を束ね、率いて、武を指揮するものです」
「左様でございますか」

 つまるところ、歴史を経る中でアップデートされた、あるいは牙を抜かれ時代に適合した武家の価値観だ。
 為政者のようにふるまうこともあるが、その本質はあくまでも戦いを担うもの。それを超えないように管理し、統率することこそ肝要。
少なくとも悠陽は、そして悠陽を教育した人間はそのように捉えていたのであろう。
そんな彼女を政治の場に引っ張り込んだのは少々相手のスタンスに反するものだったかもしれないと、一目連は少しばかり罪悪感を覚えた。
 とまれ、そういう考えとわかったならば、自然と指南の方針も定まってくるというものだ。
 つまり、徒に力を求めるというよりも、統率者としての力を求める方向性となる。
 個人としての力を育てることは決定事項であるとしても、バランスが重要になるということか。

「然らば、殿下には鏡となっていただかなくてはなりませぬ」
「鏡、ですか?」

 それは、一目連の流派においては、為政者に学ばせる武として割とスタンダートなものであった。
 つまり徒に振るうことを良しとせず、しかし、一度害をなされれば容赦なく報復するという、ただ暴力的なモノよりよほどおっかない武である。
もっと端的に言ってしまうと「理由をこねくり回して害してくる敵を叩きのめす」という蛮族思想にもつながってしまうものでもある。
 それはともかく、である。

「つまり、将軍として、武家の筆頭として力をふるうというときは容赦なく。
 されども、悦楽や快楽を目的に力を使うことを良しとしない、率いる者としての武。
 味方を鼓舞して時には抑止し、敵には畏れと恐怖を。統率するものとしての気構えと使い方を。それこそが必要と存じます」
「……なるほど。敵も味方にも、その力の在り方を見せるものと、そういうことでありますか?」

 悠陽の言葉を一目連は肯定した。
 上に立つということは、ある種下の者たちにとっては頼もしくも恐ろしいものでなくてはならないのだ。
 良からぬことを考えればそっくりその悪意を跳ね返す。敬意と忠誠を示せばそのまま恩恵として返す。
一目連が鏡となってもらうといったのはそういう意味合いが込められていた。その力を身に着けることが、時には必要とされる。

「武家は支配者にあらず、守護者である。殿下がそうおっしゃるのであるならば、私はその力を学ぶ手助けをさせていただきます」
「相分かりました」

 一つ頷いた悠陽は、改めて姿勢を正し、

「師父として、私を導いていただけますでしょうか?」
「は」

 斯くして、師弟としての関係は結ばれることとなった。
 のちの帝国に、そしてβ世界にその影響を及ぼすこととなる、導き手と将軍の関係が始まったのだ。

890: 弥次郎 :2022/02/10(木) 20:21:23 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
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斯くして、縁は結ばれたのだ。

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最終更新:2022年02月18日 13:36