16: 弥次郎 :2022/02/12(土) 00:39:20 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

憂鬱SRW 融合惑星 マブラヴ世界編SS「醜貌割鏡/習貌歪鏡」4



  • C.E.世界 融合惑星 β世界 現地主観時間1999年9月22日 日本列島 AF「トヨアシハラ」病院 個室


 篁唯依の主観的な記憶は、富士防衛ラインから撤退する輸送機の中でいったん途絶えていた。
 そして目を覚ました時、目に入ったのは病院の個室の天井であった。目が覚めた直後に混乱の余り声を上げて看護師が駆けつけたのは記憶に新しい。
 それから1週間近くが経過し、身体からは徐々に疲労を抜き去られ、さらには色々なものが抜けていった。

「……」

 その反動か、唯衣は安堵感やら戦闘中に放出されていたアドレナリンが収まったこともあって、ぼんやりと過ごしていた。
生きる気力がない、というわけではない。ただ、積極的に動こうという気が沸いてこないのだ。
幸いにして、かつての京都防衛線直後のような怪我や精神的な負傷はなく、ただ疲労さえ抜けばよいというのでかなり楽な部類でもあった。
 だが、ケアを受けなくてよいというわけでもない。何せ、指向性蛋白を抜いた影響で自意識に不安定さが生じているのだから。
必要なのは時間。精神的な疲労も大きいということもあって、そのケアは慎重にやることが求められた。
 そして彼女の個室には、適度な刺激をもたらすように情報源を設置、適宜刺激し、自然回復を待つ流れとなっていた。

『続報です。この度、対BETA戦線への親征をなさった政威大将軍煌武院悠陽殿下ですが---』
(殿下の……ご親征)

 ぼんやりと聞くラジオは、ここ最近、煌武院悠陽の親征の件で話題を占められていた。
 何しろ、最初に聞いた時は唯衣でさえも驚いた事案だったからだ。
 自分たちが回収された後、後方、帝都東京にいた政威大将軍が自ら出陣を決定。連合の戦力と共に京都解放と奪還を行った。
そしてしばしの視察や休養の後に凱旋する予定になっている。ここ最近嫌というほど聞いた話だ。
 逆に言えば、今の時点で明かされている、あるいは治療中の自分に聞かせられる情報はこれだけということでもある。
医者が言うところによれば、精神的肉体的な療養および休養のため、外部刺激を抑えているということ。
 しかし、刺激が弱いというのは、それだけ退屈ということでもあった。それを訴えても、受理されていないのだし。

(ホワイトファングスは……欠員も出たし……)

 最近あった刺激といえば麾下の部隊であるホワイトファングスのこと。
 中隊はさすがに無傷とはいえず、死者7名、重傷者3名を出した。戦術機も減っており、戦力的には大幅ダウンしている。
そして現状、その補充については手配を進めている、という段階で唯衣に届けられている情報はいったん途絶えている。
 むしろあの激戦で死傷者を抑えられたというのは奇跡的だったといえる。援軍が駆けつけるまで、あの新型BETAに対処しながらだったのだし。

(そう、援軍……)

 今でも思い出せる。
 あの人の形をした、圧倒的な力の権化を。
 地上を這いずりまわるBETAを蹂躙する、奇跡のような人の形を。
 目を閉じれば、あの光景が目に浮かんでくる。光を放ち、全てを焼き尽くす、翼の生えた存在を。

(アレについては……おじさまもあまり話してはくれない)

 地球連合軍に出向している企業の傭兵「タケミカヅチ」。直接聞いたそれだけは、今でも覚えている。
 だが、それ以上については見舞いに来た巌谷からは得られていない。気を使って、興奮がすぎないようにと情報を止めているのだろう。
元気そうでよかった、と言ってはくれたが、その後の自分の動き、斯衛軍の一因としての動きはどうなるかは語ってくれない。
 何もかもが、知らないこと、わからないことばかりだ。外と遮断され、真綿に包まれているような気がしてくる。
 いい加減、この病院生活も飽きてきた。唯衣が躊躇いなくそう思ったとき、壁につけられた通信機が音を立てた。

『篁唯依様、お客様が来ております。お会いになりますでしょうか?』
「えっ……」
『技術廠・第壱開発局副部長の巌谷榮二帝国陸軍中佐、およびムラクモ・ミレニアム所属タケミカヅチ少佐です』

 それは、長い休暇の終わりを告げる来訪だった。

17: 弥次郎 :2022/02/12(土) 00:40:22 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

「アラスカに、ですか?」

 命の恩人でもあるタケミカヅチとの再会は、唯衣にとっては大きな衝撃だった。
 慌てたりなんだりして、それからやっと落ち着いてから、巌谷は用件を切り出した。
 篁唯衣に下された次の命令は、なんと国外での任務なのだと。

「そうだ。多分、唯衣ちゃ……篁中尉も『知っている』ことだと思う。
 主観だと、この話をするのは二度目なんだがな」
「二回目……っ!?」

 その刹那、唯衣の頭の中に記憶が突如としてあふれ出す。
 そうだ、これは「二度目」だ。
 シミュレーターで99式試作電磁投射砲を用いた記憶。
 そして、帝国技術廠の戦術機技術研究所の地下ハンガーでの記憶。

「思い出したかい?」
「あっ……は、はい。これは、『二度目』です」

 フラッシュバックを超え、唯衣は言葉を紡ぐ。

「まあ、偉そうに言う俺はそこからの記憶が曖昧なんだけどな……」
「ま、まあ、私もそうですし……」

 しかし、そんな受信者同士の、気の置けない、それでいて特有の会話は第三者により中断させられる。

「巌谷中佐、先を進めましょう」

 タケミカヅチは、咳ばらいを一つして促した。
 ここに訪れたのは、彼らが受診した記憶とは違う現実が発生していることと、それに伴う仕事が発生したことを伝えるためだ。
 ついでに言えば、自分との顔合わせという面もある。その変化を迅速に伝えることも仕事の内だ。

「そうだったな……」

 巌谷が語ったのは、おおよそ唯衣が知ることと同じだった。
 現行の主力機を務める不知火の後継機問題。瑞鶴や激震といった戦術機の耐用年数の問題。
 あるいは企業における生産能力と新規開発能力のバランスの問題。そして何より、国産や外国産戦術機の問題。
それは即ちたどり着くところは技術とリソース、そして最終的には国力と世界情勢にまでたどり着く。
 だが、それは帝国内部の事情だ。それが唯衣の認識。つまり、外の勢力に漏らしてよいとは言い難いものだった。

「それについては、タケミカヅチ少佐も関係していることになる。
 記憶にあることがいつまでも正しく不変であるということはないのさ」
「そういうことになる。実際、XFJ計画に代わる、戦術機の開発計画が立ち上がりつつある」
「それに、タケミカヅチ少佐が?」
「話が速いな。つまり、連合からの協力者ということになる。実働も含めて、な」

 それは、本来ある歴史との乖離の始まり。
 新しい領域が開かれ、示されたのだ。
 そして、そこに飛び立つ準備もまた、着々と整いつつあったのだった。

18: 弥次郎 :2022/02/12(土) 00:41:09 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
唯衣姫の様子をちょっとばかし。
彼女の名誉のため、タケミカヅチと直接会った時のアレコレは伏せます(笑)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2022年02月18日 13:38