114: 弥次郎 :2022/02/22(火) 23:14:01 HOST:softbank060146116013.bbtec.net



憂鬱SRW 融合惑星編 マブラヴ世界SS「The Wild Arrows」1【改訂版】




 戦場に神はいない。
 BETAとの戦争以前から言われていたことらしい。祖父は「砲兵こそが戦場の女神」と信奉する生粋の砲兵だった。
 二度の大戦においてどちらも従軍し、生きて帰ってきたことを誇りとしていた。
 最も、その祖父が従軍した軍隊を抱えた祖国は、二度の大戦においてどちらも敗北したというのだから、女神だけではどうにもならないことがあるらしい。

 ついでに言えば、このBETAとの戦争も、やはり女神だけではどうにもならないことが多かった。
 BETAの武器は、圧倒的なまでの数、数、そして数。
 何を目的としているかもわからず、ただひたすらに破壊と殺戮を重ねる異性生命体。
 人類の必死の抵抗をいともたやすく蹂躙する暴力により、敗北を重ねていた。
 決死の反攻作戦であったネプトゥーン作戦もBETAの数を減らせても、失地奪還や戦線の押し返しなどができはしなかった。
艦艇300隻、戦術機500機、ヘリ400機、総員兵数30万人以上という大戦力でさえも、BETAの侵攻に対しては時間稼ぎにしかなり得なかったのだ。

 そう、まさしく戦場に神はいなかった。
 従軍神父は神が戦いを見ている、などと言ってはいた。
 だが、そんな都合の良いデウス・ウクス・マキーネ(機械仕掛けの神)など存在しない。
 そんなのがいるならば、このくそったれな状況は瞬き一つしている間に解決しているであろうに。
 あるいは、それこそ終幕の直前まで出てこない腹積もりだったのか。
 しかし、そんなものはネプトゥーン作戦中に搭乗していた戦術機が損傷し、戦車級に集られたその瞬間まで変わらなかった。

 だが、そんな主観1983年で終わるはずだった私の人生は、何の弾みか続くことになったのだ。
 客観1999年という、16年も後の時代に、いつのまにか戦術機ごと放り込まれる形で。
 これが神の悪戯などというものであるならば、これを恨むべきか、それとも感謝すべきか。

 ともあれ、そんな私を必要とする祖国も国もおり、私はまた衛士として動くことになった。
 とてつもなく奇妙で納得がいかない、そんな話だった。
 いや、それ以上か。ともかく、目が覚めた瞬間に、世界は文字通り一変していたのだ。
 だから、いくらとんでもないことが起こっても驚かない自身だけはあったのだ。


  • β世界時間 客観1999年8月15日 イギリス ブリテン島にて 元欧州連合軍衛士 カミラ・バーナー少尉 独白

115: 弥次郎 :2022/02/22(火) 23:14:34 HOST:softbank060146116013.bbtec.net


  • C.E.世界 融合惑星 β世界 客観1999年9月15日 欧州 旧フランス領アミアン



(ここは、アミアンなのね)

 カミラは、呆然とその事実を口にするしかなかった。
 配備された防衛ラインの一角、ダンケルクでの交戦が始まったのが一日前。
 そして、地球連合所属大西洋連邦軍との合同作戦により押し返しが始まったのが14時間前。
 旧フランス領アラスで方面軍ごとに分離して進撃を開始したのが2時間前のことだ。
 途中で休息を挟み、人類の防衛線は最初に策定された防衛ラインから見て100㎞近く南下するという大進撃を果たしていた。

 今のカミラは、搭乗機であるF-16 ファルコンの補給作業を受けている最中である。
 地球連合軍から提供された輸送機より輸送されてきた後方の人員---すなわちメカニック班や作業車両が忙しげに動き回っていた。
 このアミアンは、居座っていたBETA群を蹴散らした後、大西洋連邦軍により急速に拠点化がされた。
それこそ、数時間と経たないうちに、仮設とも思えない立派な基地が敷設され、砲陣地や滑走路まで用意されてしまった。
ここを経由して、次々と部隊が南進していく。その数はもう数え上げるのもおっくうなほどだ。
呆れかえるほどの物量。それこそ川が流れていくように、雪崩が崩れ落ちていくように、だった。

 カミラをして、いや、カミラだけではなく他の衛士や指揮官たちにとって初めての経験だった。
BETAとの戦いは基本的に劣勢。数で負け、勢いで負け、常に必死に相手の出血を多くするという防衛線が基本。
前線が後退することはあっても前進することはまれで、犠牲者は増えることはあっても減ることはほとんどない。
 それが常識となっていたところに、この大反攻作戦だ。参加している全員が現実感のなさに苛まれている。

(とんでもない相手が協力してくれているってことかしらね)

 差し入れされたドリンクを飲みながらも、カミラはそう思う。
 よくわからないが、世界の外側から来たというその地球連合なる組織。その組織は、常識外の戦力でBETAを駆逐してくれているのだ。
自分達もそれに負けじと戦ってはいるのだが、戦力の質も数も違いすぎた。BETAがそちらに吸引されていくので、自分たちはそれを叩くだけでよかったまである。

(光学兵器…明らかに既存のそれを超える実弾兵器、爆発兵器……極めつけはレーザーを弾く装甲)

 衛士のカミラでさえわかる。あれは異常だと。戦術機がまともに追従することさえ、いや視認さえも難しい動きで圧倒していったのだし。
まるで、BETAを駆逐するための、それこそデウス・ウクス・マキーネのようなご都合の塊だった。
あの力のすごさが、衛士だからこそ、直近で見ることができたからこそ、よくわかる。
同時に思うのだ、もっと早く彼らが協力してくれていたら、と。この状況下で協力してくれる時点でありがたいが、本音はそこにある。
多くの戦友を失ったネプトゥーン作戦、いやもっと言えばその前に来てくれれば。失ってきたからこそ、そう思うのだ。

『ティーガーリーダーより、ティーガー中隊各機に通達』

 その時、所属する中隊の中隊長機から通信が入る。

『今日は厄日だ。そう思わないか諸君?BETAは、こちらの反撃に新しいサービスを提供してくれたようだ』
「それって……」

 軽口を、しかし、すさまじく苦々しい口調で述べる中隊長の声とともに、映像が送られてきて網膜投影されてくる。

「これは……!」

 画面を占拠する、巨大な肉塊。まさしく塊というべきか。写っているのは要塞級をも超える大きさの蛇のような個体。
大きく開けられた口からは、その要塞級をはじめとしたBETAの個体が次々と外へと吐き出されている様子が見える。
しかも、その個体は地面からその姿を晒している。BETAの地下侵攻。しかも、とてつもない巨体を持つ種だ。

116: 弥次郎 :2022/02/22(火) 23:15:09 HOST:softbank060146116013.bbtec.net


『まったく、楽はさせてくれないものだ。
 2時間前、レンヌからナント方面に進出していた部隊が会敵した。緊急を要する情報で、すぐに共有することになった。
 BETAの新種ってやつだ』

 ざわりと、格納庫内の空気が騒めく。
 BETAの新種は久しく出てきていない。光線級や歩兵級の登場以降、陣容自体は何一つ変わっていなかった。
このタイミングで新種を繰り出してくるとは、BETAに何か動きがあったのだろうか?
 そんなことを考えている間にも、中隊長は続けていく。

『接敵した戦術機一個中隊が応戦したが、まるで攻撃が通用しなかった。逆にBETAの群れで包囲を食らったくらいでな。
 幸い、同行していた地球連合軍の戦力がこいつを叩き潰したことで対処は完了している。
 だが、その後各方面で次々と同型と思われるBETAの個体が多数確認されている』
『新種が、大量に?』
『どういった能力なのですか?』
『判明していることは、大量のBETAを内部に抱えて運搬すること。
 そして、戦術機の火力ではまるで打撃を与えられないほどに頑丈であることのみだ。
 現状、我々が対処するには荷が重いと判断された。よって、地球連合軍との歩調を合わせて行動するしかない』

 ふー、とため息を一つ。中隊長はニヒルな笑みを浮かべる。

『まだまだ楽しめる余地がありそうだな、うん?」

 それは、自前での対処ができないことの悔しさをにじませた、そんな軽口だった。
 そんなことなど、中隊の誰もが、反論できず、しかし受け入れがたいことだった。



  • C.E.世界 融合惑星 β世界 客観1999年9月22日 イギリス近海 アヴァロン級群体型AF「ラピュータ」



「……というのが、私の欧州本土での戦いね」
「その後は?」

 吐息を一つ、カミラはこぼして、同じ小隊に編成されたフランス人衛士のシャルル・フェネオンの問いかけに答えた。

「そこからは特に派手なところはないわ。アミアンを発して、先遣隊の制圧していたランスに到着。
 その後にディジョンまで進んで、あとはリヨンハイヴ攻略の手伝いをした程度ね。
 戦力がそろってハイヴを包囲できたところで、いざ突入するのか、と思ったら……」
「アレか」
「ええ……あのDinosaurierの集中砲撃よ。どっちかといえば動く要塞って感じかしらね?」

 まあ、四本足で歩くから同じかしら、と回顧する。
 彼女の言うところのDinosaurier。大西洋連邦軍の投入した大型MAである「グランディーネ」。
 複数機用意されたそれらは、包囲した状態からその主砲を一斉射。モニュメントはもちろん、地面もろともハイヴを蹂躙した。
その後には副砲による入念な制圧射撃を加え、とどめとばかりに砲撃型のMSによる集中砲火を加えたのだ。
その嵐の後にはハイヴだったものが残るばかりであり、ハイヴ内の大広間まで貫通した大穴が出来上がっていた。
後はもう流れ作業。ハイヴ内部に戦力が突入し、反応炉を丸ごと吹き飛ばしてしまったのだ。
 それによってBETAは一斉に東進、すなわち無事なハイヴめがけて離脱を開始。
 だが、包囲下に置かれていたために逃げ出したBETAのほぼすべてが吹き飛ばされることとなった。

「もう、あっけなかったわね…モニュメントが吹き飛んだ時点で大歓声だったけど、その後にダメ押しされたときはもう笑うしかなかった」
「あれはしょうがないですよ。僕でさえも…」

 シャルルも同じ光景を見ていたのか、遠い目をしている。
 あれは圧巻という言葉を通り越していた。蹂躙などという生易しいものではない。
 巨大な恐竜がたわむれに足元の虫を潰した、そんなレベルの話だった。

「ともあれ、私の話は以上ね。次、誰が話してくれるかしら?」

 ワイルド・アロー小隊の顔合わせということで顔を合わせての語り合い。
 自然と直近に行われた「オペレーション・アヴェンジ」に話題が流れ着くそれは、ちょうどよいアイスブレイクとなっていた。
 カミラの促しに、ではと手を挙げたのはシャルルだ。

「ちょうどいいので、僕が。バーナー少尉同様に僕もネプトゥーン作戦から飛ばされてきましたし」

 シャルル。シャルル・フェネオン少尉。欧州連合軍に属していたフランス人で、同じくネプトゥーン作戦の参加者だった。

「それに、かなり刺激的な光景も目にしましたしね」
「へぇ、ハイヴを吹っ飛ばした以上に?」
「はい」

 それは、まさしく目を疑う光景だった、とシャルルは言う。

「あの時驚き疲れたので、大抵のことには耐性が付いた気がします」

 そして、彼は語りだす。戦場で目撃した、戦場に似つかわしくない力の表れを。

117: 弥次郎 :2022/02/22(火) 23:15:40 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
あちらこちらの修正をしました。
特に日付の間違いは致命的過ぎた…

本日の投下はここまでとします。続きはまた明日…

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最終更新:2022年02月28日 11:18