199: 弥次郎 :2022/02/23(水) 18:53:26 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

憂鬱SRW 融合惑星編 マブラヴ世界SS「The Wild Arrows」2【改訂版】


  • C.E.世界 融合惑星 β世界 客観1999年9月14日 欧州 旧フランス領 ブレスト


 かつてはフランス海軍の拠点でもあってブレスト。
 BETAの侵攻により平らにならされたそこは、しかし、立地の観点からまだ上陸などがたやすいポイントと選ばれていた。
 加えて、最後の欧州の人類生存圏であるイギリス本島を堅守するためにも、ここからちょっと先には防衛戦が敷かれている。
その防衛線に展開する戦力などの輸送---自力飛行のできる戦術機以外の戦力や物資---のため、ここは集結地点の一つとなっていたのだ。

「なんだこれ……」

 光線級の攻撃を避けるためもあって戦術機輸送艦で戦術機ごとこのブレストに到着したシャルル・フェネオン少尉は、眼前の光景に言葉を失っていた。
言うまでもないことだが、BETA占拠下にある欧州大陸にまともな人工物はない。あっても悉くが破壊されるのだから。
勿論、適宜ドーバー海峡を飛び越えて間引き部隊が展開しているというのもあるので、完全に0というわけではない。
 だが、それを差し置いても、これはなんだ?

「巨大な……港?」

 戦術機の光学カメラは、その映像を望遠機能で正常に捉えていた。
 ブレストの沿岸に横付けされるかのように、巨大な人工物の塊が据えられているのだ。
それこそ巨大な港というレベルの規模と大きさを持った、とてつもないものが。
ビーチングなどもしやすいような広い砂浜のような場所に、大型の輸送艦も停泊できそうな護岸工事済みのエリア。
さらには複数立ち上がっているガントリークレーンの数々。大きさ的に、空母でもタンカーでも余裕で荷下ろしができそうだ。

「いや、いやいやいや……」
『どうした、フェネオン少尉?』

 同僚が通信を繋げてくる。どうやらシャルルの感じている違和感というか、驚愕にはまだ気が付いていないようだ。

「いや、冷静に考えてみれば、ちょっとありえなくないかな?」
『は?』
「僕が聞いた限りではさ?地球連合ってのがやってきたのは1か月くらい前って話じゃないか」

 そしてそれは、自分たちが気が付けばイギリスにいることに気が付いた時でもある。どたばた騒ぎがあったので、遠い日に思えるが。

『まあ、そうだな?』
「BETAの大規模侵攻が始まったのは今日…うん、報告としては今日だ。
 それで、何をどうやったら今日の内にこんな立派な軍港がブレストに出来上がっているんだい?」
『……えっ』

 その言葉を聞いたことで、ようやく同僚も異常に気が付いたようだ。いつ頃からこれの準備をしていたかは不明だ。
 けれど、普通なら数か月、場合によっては年単位をかけて整備されるのが港というものだ。海軍の軍人でなくとも、衛士でも知っている一般的な常識だ。
ましてや、これだけの規模となれば、かなりの時間と労力を要する必要がある。それが、一日と経たずに準備された?

『いやいやいや、まさかそんな』
「でも、今回ブレストに上陸するのが決まったのだって、今日だ。事前に僕たちが知らないところで動いていた可能性はある。
 それでも……いくら何でも早すぎる」
『…………』

 ようやく理解できたのだろう。あまりにも展開が速すぎる。拠点化も、だ。
 どこから持ってきて、いつの間に作り上げたというのだろうか?1日、いや、半日もかけずに用意できるわけがない。

200: 弥次郎 :2022/02/23(水) 18:54:27 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

 どういうことだ、とシャルルのほか、戦術機輸送艦に並ぶ中隊の面々が驚愕で固まる中、文字通り空からその答えは降ってきた。

『柱……?』

 その言葉通りのものが、上空から降ってきた。
 そして、緩やかに逆噴射で制動をかけると、仮設軍港からある程度離れた海上に着水、フロートの様なものを広げる。
幾筋もの光のラインが刻まれたその柱は多数振ってきていて、海上に突き刺さっているのはちょっと奇妙な光景であった。
見た目からして場違いな工芸品が海に浮かんでいるというのは、とてもではないが戦場らしからぬものであったのだ。
 そんなものがなぜここにあるのか?と誰もがそれに注目した時、現象が発生した。

『うっそ……』
『ジーザス……』

 そして、次の瞬間には巨大な艦艇が海上に浮かんでいた。
 丁度、柱を中心としたところに出現したのだ。1,2隻程度ではない、もはや船団というレベルで出現だ。

「な、何が起こったんだ……?」
『わかんない……あの柱が光ったと思ったら、次の瞬間に……』
『ワープ…?』

 一人が、ぼそりとつぶやいた。

『わ…なに?』
『アルフレッド・ベスターって作家の書いた作品に出てきた奴だ。ちょっと読んだきりなんだけど……あり得るなら……』
『どういうやつなんだい?』

 オホン、と一つ咳払いをして、その衛士は語る。

『わかりやすく言うと、とんでもない距離を一瞬で移動してしまう能力。
 原理はわからないけど……どこかに用意していた艦艇たちを、あの柱を目印にして瞬間的に移動させた……と思う』
『えっと、つまり?』
『どこかにいた艦隊が、一瞬でここまで飛ばされてきたってこと。普通の航行で何週間もかかるような距離だとしても、瞬きするまでにできる』
『そんなのが……』
『ありえないって思うけど……そうじゃなきゃ説明がつかない。
 それとも今見えている光景がまやかしだとか集団幻覚とか言える?』

 誰もが、否定できなかった。ワープなどと言うこと自体がすでに胡散臭いのは事実。
 だが、該当するような現象がそれしかないのだから、そうとしか言えない。

 そして、その推測は果たして正しかった。
 柱に見えたそれはテレポーテーションアンカーであり、彼らの遥か上空、衛星軌道上に展開した母艦からテレポートしてきたのだ。
嘗て侵略者たちが用いた戦力の展開手段を調べ、取り込み、使えるようにしたものこそが、この常識外の展開を可能としていたのだ。
ついでに言えば、わずか一日足らずで設営の完了した母港も、同じように衛星軌道から降ろされたものだ。
最も、数キロ単位の母港を文字通り落とす、などと言うのはさすがにβ世界の衛士たちの創造を飛び越えたものであったが。
 だが、実例として群体型AFであるアヴァロン級ラピュータがそれによってイギリスに展開していたので、連合にとってはそれの焼き直しにすぎなかった。
 未だに大気圏突入というものの常識がパラダイムシフトを起こしていないβ世界においては、むしろ想像できただけでもすごいというべきか。

「なんか、とんでもない国家に力を借りているんだな」

 しみじみとつぶやいたシャルルの言葉は、衛士たちの意思を代弁していた。

201: 弥次郎 :2022/02/23(水) 18:56:01 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

  • 融合惑星 β世界 客観1999年9月22日 イギリス近海 アヴァロン級群体型AF「ラピュータ」


「……といったところです」
「テレポート、か」
「後から聞いた話なんだけど、その時の船とかは全部衛星軌道上から降ろしたそうです」
「衛星軌道上から……?」

 呆然。しばし、ワイルド・アロー小隊の面々は言葉を失う。
 つまり、大気圏内で運用するようなものを宇宙に打ち上げ、下ろしたというのか?
 β世界においても補給物資などは衛星軌道から落とされてくることもあるので理解は追いつくが、あくまでそれは物資などに限られる。
それを生身の人間も含む艦艇を艦隊規模でやるなどと言うのは、誰ができるのだろうか?
 いや、そもそも艦艇などという超重量物を宇宙に打ち上げること自体がとんでもないことだ。
 いったいどれほどの大きさのロケットで打ち上げればいいのか、検討もつかない。

「とんでもないな……確かに、ハイヴを吹っ飛ばすだけよりもインパクトがある」

 小隊長であるイタリア人のヴィットーリオ・デッラ・カーザは何とか言葉を絞り出す。
 眉唾物ではあるにしても、そういうことができる技術というのはとんでもないことだと分かる。
自分達が空想として考えていることを本当に実現しているというだけでも、恐ろしいことであり頼もしいことなのだし。

「まあ、そこからはバーナー少尉とあまり変わらなかったです。
 大西洋連邦軍と一緒に南東方面に侵攻、パリに入城して、そこからリヨンへ。
 あとは迫ってくるBETAを適当に排除して包囲網を作ったら、バーナー少尉も言っていたようにモニュメントごと吹っ飛ばされて攻略完了です」

 結局、殆ど戦闘はありませんでしたよ、とシャルルは締めくくる。

「まあ、それでも大西洋連邦軍の戦術機……聞いた話だとモビルスーツっていうんですけど、それを見たのも大きかったですね」
「あれはな……」

 まさしく常識外か。
 ごく標準的な装備だというそれさえも、BETAの群れをあっけなく蹂躙してしまった。
それが複数機連携しながら攻撃しつつ前進していくのだから、それはまさしく破壊機構といった方が正しいものだった。

「あと聞いた話だと……戦術機の改良に大西洋連邦の企業が参加するってのがありますね」
「へぇ……」

 戦術機の能力が不足している、というのは今回の侵攻でも明らかになったことだ。
 より正確にはMSなどと比較して劣っており、尚且つ新種のBETAを排除する方法がないということでもある。
 なにより、MSのパイロットたちからあからさまに指摘を受けたのだ、動きが悪すぎるのではないか、と。

「こっちとして必死に動いたつもりだったんだけれども、そうではなかったみたいで……」
「だから、良い戦術機を作ろうってわけか」
「聞いたところによれば、最新鋭機のラファールやタイフーンさえもそうだったみたいだからな……。
 衛士として再度訓練をするついでに、戦術機のアップデートも行う予定とかなんとか」

 それは、控えめに言ってお客様扱いされてしまったことを国のトップも現場の人間も憂慮した、ということに他ならない。
こうして国家の垣根を超えて衛士たちが集められ、国連軍染みた外人部隊として編成されたのも、そういう都合が存在したためだろう。

「とりあえず、僕は以上ですね」
「となると、次は俺か?」

 次にと名乗りを上げたのはオランダ人衛士のアドリアヌス・デ・ブラーン少尉。
 主観では1981年の北欧戦線から飛ばされてきたという大柄な彼は、なんと所属していた中隊ごと飛ばされてきたという。
 そして、彼が急遽配備されることになったのも、同じく北欧だったのだ。

「ブラーン少尉は、確かまた北欧方面でしたか?」
「ああ。まあ、ちょうどいいから思い出話の一つでもしようか」

 フェアチャイルドのA-10AサンダーボルトⅡに乗っていたという彼は、遠くを見るような眼をしつつ、回顧し始めた。
 派手さという意味では劣るかもしれないにしても、それでも衝撃の伴った戦いだったことは言うまでもない。
殊更、防衛戦での迎撃を主眼としているサンダーボルトⅡに乗っているだけに、前衛となるMSの活躍を見ることになったのだから。
 ワイルド・アロー小隊の歓談は、まだまだ続きそうだった。

202: 弥次郎 :2022/02/23(水) 18:56:33 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
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最終更新:2022年02月28日 11:22