412: 弥次郎 :2022/02/20(日) 23:38:07 HOST:softbank060146116013.bbtec.net


艦これ×神崎島支援ネタSS「Desponsamus te, mare!」



  • 19XX年X月 神崎島 神崎鎮守府 執務室


 神崎島が現世に帰還してから、いくらかの時間が流れたその日。
 ヴィットリオ・ヴェネト級戦艦2番艦「イタリア」は休息時間中の提督の執務室を訪れ、こう言った。

「提督さん、今年も結婚式、やりましょう!現世に戻ってからの初めての結婚式ですよ!」

 その提案はこのところの忙しさ---大日本帝国との間で日神基本条規を結び、大日本帝国の制度上の地位を固めるなど---で疲弊していたイタリアらの我儘でもあった。
 現世への帰還とそれにともなって、現世の制度に合わせてその在り方を調整し変化させることだけでも一苦労であり、また、それに伴う義務は枚挙に暇がない。
それに狩り出されるのは妖精さんだけでなく、神崎島の艦娘たちもまた例外ないことであった。
ただ深海棲艦と戦うだけでなく、不特定多数の国家との付き合いを持つというのは劇的な環境の変化であり、少なからず艦娘たちのストレスとなっていた。
 加えて、高等弁務官の着任、第二の2.26事件、第二次上海事変やら英国への艦隊派遣など、忙しさは増すことはあっても緩むことは余りなかったのだ。

「結婚式、か……そういえば、良い季節になってきたな」

 だからこそ、イタリアを筆頭としたイタリアン艦娘一同はこれを具申するに至ったのだ。

「はい。大日本帝国の皆さんもお招きして、お祭りにしましょう。
 久しぶりにbucintoroを海に出したいと思います。それに、私たちのゴンドラもいつでも出せるように空いた時間で整備はしていますしね」
「君たちに時間をとってやれなくて済まない」
「いえ、いいんですよ。提督のお役に立つことが最優先ですから。
 それでも…少しは気にかけてくださると、うれしいです」

 そんな風に言われると、神崎としては断れないのだ。まったく、ずるいものだと苦笑さえしてしまう。
 ともあれ、それを実施する、神崎島の誇るbucintoroを繰り出しての観艦式と結婚式とまでなれば、準備は相応にかかることになるだろう。
忙しい中で艦娘たちに仕事割り振って、予行練習も行って、帝国にも一言伝えるなどとなればなおさら。

「となると……あちらこちらに連絡などをして盛大に行うことになりそうだな」
「はい!せっかくですから、お客さんも招いて、たくさんの人に見てもらいたいですね!」
「なら、招待状を送るかな……大淀、手配の余裕は?」
「そうですね……招待できる人数があまり多いとは言えないかもしれませんが、問題なく開催できるかと思われます。
 まあ、その分だけ提督には仕事の方を頑張って余裕を生んでもらわないとなりません」

 そんな大淀の言葉に、神崎としては苦笑するしかない。実際、やりたいのは山々だが、その分だけ予定が詰まるということになる。
無理なく余裕をもって開催の準備を行い、神崎島をあげて行う行事として恥ずかしくないレベルでやるには、相応の時間が必要だ。
そして、その時間を生み出すには、最高権力者兼最高責任者である神崎提督を筆頭に人員が仕事をハイペースでこなさなくてはならない。
 秘書艦として、あるいは艦娘たちを取り仕切る補佐をしている大淀としては、そこが気がかりであった。
 彼女もこういったイベントの重要性は理解しているが、かといってそれにかまけて本業がおろそかになっては元も子もないのだから。

「わかった。一先ず、関係各所に声をかけておいてくれ。
 具体的な計画を立てるにしても、これまでのように島の内側で完結したものとは程遠いものになるからな」
「はい、承知しております!吉報を待っていますね」

 斯くして、イタリアを筆頭としたイタリアン艦娘たちから提案された「海との結婚式」というイベントは承認を受けることとなったのだ。

413: 弥次郎 :2022/02/20(日) 23:38:37 HOST:softbank060146116013.bbtec.net


 海との結婚式。イタリア語での呼び名は「Festa della Sensa」。
 それは、イタリアにおいて復活祭の際に行われていた一つの行事だ。
 その始まりは十世紀、まだ一つの国ではなく、ヴェネツィア共和国として存在していたころにまで遡る。
当時の海運を悩ましていたのが海賊であり、アドリア海において多く活動をしていたのであった。
しかし、それを放置することはできず、当時のドージェ(国家元首)が西暦998年にイストリアとダルマツィアを支配下に置き、制海権を確固たるものとした。
これによって海賊の跋扈は大きく衰退を強いられることとなり、ヴェネツィア共和国は海運国家としての地位を固めた。
 そして、この記念に行われるようになったのが、「Festa della Sensa」というわけである。

 この祭りにおいては、ドージェは大型のガレー船(bucintoro:ブチェンタウロ)でもってアドリア海に出向するというパフォーマンスを行うのだ。
さらに、この際にはドージェはリド島の沖へ向かって「海よ、我は汝と結婚せり。永遠に汝が我とあるように」と言うのである。
これこそが海との結婚式と言われる所以であったりするのだ。
 ちなみにだが、この結婚式においては1177年から指輪を海に投げ入れる、という行程が加わっている。
 これは当時対立していた神聖ローマ皇帝フリードリヒ1世とローマ教皇アレクサンデル3世がヴェネツィアの調停を以て和解した時に始まった。
この和解を仲介したヴェネツィアに対し、教皇が指輪を送って感謝の意を示したという。これが取り込まれたというのが通説である。

 またこのガレー船というのは海軍の船を使っていたのであるが、1311年からは専用の船を建造して用いることとなった。
この船こそがブチェンタウロ(あるいはブチントーロ)と呼ばれるのである。
国家の代表的な行事に使われる、それこそ国家の元首の乗る船というだけあって、それの建造にはかなりの力がそそがれた。
浮かぶ宮殿と呼ばれるほどの豪華さと、他を圧倒するサイズを持つそのガレー船は、まさしくヴェネツィアを代表するといっても過言ではなかった。

 神崎島においても、特にイタリアン艦娘たちの合流後はこの祭りが開催されることとなった。
 神崎島鎮守府の役割は神崎島の守護および海洋の平和と安定にあり、時代と国を違えども同じ役割を追っているためであった。
 そして、長き戦いを終えて深海棲艦と和解し、そして現世に帰還したということは、まさしくそのシチュエーションにあっている、というわけである。

「しかし、イタリアでは一応続いている祭りだとしても、いきなり開催を宣言して理解してもらえるかな?」

 イタリアが退出していったあと、神崎はふと疑問に思う。
 祭りが大好きな日本人のことなので、訳は余りわからなくとも楽しんでくれるかもしれない。
 だが、たかが祭りと言えども神崎島や神崎鎮守府の役目と深くかかわるところであるので、そこらへんも知っておいてもらいたいところだ。
 端的に言えば、この時代の世界各国は余りにも外を知らなさすぎる。技術が未発達で、手段が限られることによる無知が原因だ。
しかし、調べたり学んだりする手段が皆無というわけではなく、知ろうと思えば労力こそいるが知ることはできる。
そして互いの国の文化や風習などを知ることを通じて、相互理解というものは進んでいくことになる。
 それは国家間だけでなく、神崎島という勢力と他国の間でも同じことが言えるわけだ。
極東の島の蛮族、などと侮られることなく、文化や風流を理解し、理性と感情を以て生きているのだと、世界に対して示していかなくてはならない。
そういう意味でも、この祭りというのはいい機会なのかもしれなかった。
 問われた先、大淀は少し考えてから返答した。

「そう、ですね……イタリアの一地方の祭りというのは、知名度は極めて低いでしょう。
 欧州ならばともかく、この日本においては知っている方がおかしいほどかもしれません」
「やはり、そうなるか……」
「イタリアという国の位置さえも曖昧にしか知らない人も多いでしょう。
 ですが、だからこそやる価値はあると思います」

 つまり、知る機会がない、知ることができないならば、こちらから誘いをかけて教えればいいというわけである。

414: 弥次郎 :2022/02/20(日) 23:39:17 HOST:softbank060146116013.bbtec.net

 大淀はメガネの位置を直してから続けた。

「なにしろ、本格的なブチェンタウロはナポレオンの遠征時に記念として破壊されてから、再建されていません。
 本場イタリアでさえもそれなのですから、神崎島で普段行っていた規模とスケジュールでやるのは本場を超えてしまうでしょう。
 なおのこと、各国はこの祭りに大きく注目することとなるでしょうね」
「挙って見学にくるかもしれない、か」
「特にイタリアはそうでしょう。そうでなくとも、神崎島に合法的に入りたがっている方々は多いですから」

 対処が大変です、と大淀はため息とともに付け加える。
 そうだな、とうなずく神崎であったが、はっきりという。

「だが、神崎島もいつまでも閉鎖的ではいられない。
 制度的には国と変わらない権限を持つとはいえ、外とのつながりも作っていかなければならない。
 現世に戻ってきた以上、それを避けて通ることはできないのだから」
「あえて内に入れる、ですか?」
「隠せばやましいところがあると疑いたくなるものだよ。
 ただでさえ、この島と鎮守府はあらゆる方面から目を向けられているのだし。
 疑いだせばきりがない。それに対抗するならば、門戸を開くというのも一つの手だ」

 大日本帝国に対して行ったようにね、と神崎は告げた。

「そして、それが争いの結果ではなく、祭りのような相互に楽しめるものであればなおのこと良いと思う。
 少なくとも、武器を突き付け合って、疑心暗鬼のままに付き合うよりはいくらかましだろう」
「……そう、でしょうか?」
「あれこれ感が過ぎても、事態は変わらない。
 ならば、まずは一石を投じてみるのがよほど建設的だ」

 とまれ、と椅子から身を起こした神崎は大淀に命じた。

「海との結婚式は行うこととしよう。それも、島をあげてだけじゃなく、大日本帝国も、世界各国も巻き込んでね。
 関係各所に連絡とスケジュール調整の準備を行ように通達を頼むよ。当日までやることはたくさんありそうだ」
「わかりました。提督の衣装も引っ張り出さないといけませんね……痛んでいなければいいですが…いや、いっそ新調してしまうのも……?」

 真面目に考え始める大淀に、少し肩の力を抜くといい、とアドバイスしたのち、自らも執務机の上の電話を手に取る。
一先ずは実施を鎮守府、そして島内に通達することから始める必要がある。並行して、まずは帝国にもその祭りを伝えねばならない。
やることは多く、苦労も付きまとうだろう。だが、それを超えた先に待つ祭りというのは、苦労以上の喜びを生み出してくれるはずだ。

 それは、復活祭を控えたとある日の神崎島の光景。
 たまには多少の羽目を外して、純粋に楽しもうという、そんな心意気から祭りに向けた準備は始まったのだ。

415: 弥次郎 :2022/02/20(日) 23:40:38 HOST:softbank060146116013.bbtec.net
以上、wiki転載はご自由に。
AR○Aを読んだのでやりたくてたまらなかった……色々とあれですが、ご笑納くだされば。
またもや季節感0ですけど…やっと書きあがったので許してください

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最終更新:2023年11月15日 20:51